勝てば、領土は広がり富を得る。

負ければ、国はなくなり富を奪われる。

世は、そんなふたつだけの理から成り立っている。

シロエにも、そんなことはわかっていた。わかって、この豪奢な檻のような後宮に入ったのだ・・・。

 

広大なオアシスと水源を有するここ、ノア帝国を治めるのは若き皇帝、キース・アニアン。

十代で女帝から皇位を引き継いだキースは、先代からの意志をも引継ぎ、次々に周辺国家を攻略していった。そうしてノア帝国の版図は広げられ、各地からは、ノアへの恭順の意として位高き姫が貢がれた。後宮には、そんな姫たちが溢れかえっている。

ノア帝国では、一夫多妻制が認められており、キースには300人以上の妃がいた。・・・キースが実際に顔と名前を一致させているのは、10人にも満たなかったが。

貢がれる『姫』は女とは限らない。

後宮での『妃』とは、皇帝の夜を慰めるもの。それには、女である必要はない。『妃』には当然、美しい少年も存在していた。

 

シロエも、そんな貢がれた『姫』のひとりだった。

シロエの故郷であるエネルゲイアも、ノア帝国に滅ぼされた。かろうじて自治は認められたものの、強者は弱者へ恭順の意を求めた。そうして、シロエの両親である国王と王妃は、泣く泣く世継ぎの君であるシロエを手放したのだ。

『あなたを犠牲にしてまで、得たい平穏などないのよ・・・!』

泣いて、縋ってくれた母王妃を思い出し、シロエは胸が痛くなった。

『お前だけに辛い思いをさせてすまない・・・」

そう言って抱きしめてくれた父国王を思い出し、シロエは自分の体を抱きしめた。

ここは、後宮。

シロエは選んだのだ。故郷の人々を守るために、自らの身を犠牲にすることを。皇帝は飽きっぽいという話を聞いていた。同じ『妃』を二度抱くことはまれだと。だとすれば、シロエはたった一晩、我慢をすればいいのだ。たった一晩、シロエが我慢をするだけで、故郷の人々は平穏を得ることができるのだ。シロエは二度と、故郷に帰ることができなくても。

そうして選んだからには、シロエにはこの場所以外に生きていく場所などないのだ。

 

「今度は、14歳?キースって、本当に色キチガイ?」

夕食を共にしたノア帝国を最強と言わしめる軍を統括する将軍、ジョミー・マーキス・シンは呆れたような声でキースをなじる。

「仕方ないだろう。これも、政策だ」

「とか言っちゃって、本当は楽しんでるんじゃないの?」

まばゆい金の髪、新緑の色を宿した瞳。『輝ける旭将軍』と呼ばれるジョミーは、キースの腹心であり、幼馴染でもある。

「14歳かぁ・・・。今度の『姫』は男の子なんでしょ?可哀想に・・・、30過ぎのおっさんに、ぱっくり食われちゃうんだー」

さして同情しているとも言いがたいからかうような表情でジョミーはキースを見つめ、葡萄酒を煽った。

「人聞きの悪いことを言うな。もうほとんど慣習になってしまってるんだ。これを変えるほうが面倒だ」

『人質』というのは、何かを諦めさせるためには有効な手段なのだ。『大切なあの子を人質に取られているから』と、反抗の動きを抑制できる。そして、その間に流れる時間と距離は、人質への愛すら平穏が塗りつぶすのだ。キースにしてみれば、その間に国民の満足のいくような施政を行えば、それでいい。下手に刺激をして内紛を呼ぶよりはよほど効率のいい方法だった。

「セキ・レイ・シロエ、だったっけ・・・。僕は、小さい頃の彼に一度会ったことがあるよ。大きな紫色とも青ともつかない綺麗な瞳の、綺麗な子供だった。頭も良い子でね。先が楽しみだと思っていたのに・・・」

「・・・人を加害者のように言うな。私だって、14の子供では愉しめない」

ぶすり、と少し拗ねたような低い声でキースがごちる。

「うっわー。『愉しむ』、だって!スケベオヤジみたいな発言っ!!」

「・・・・・・お前だって、私と同い年だろう・・・・・・」

キースは疲れたようにため息をついた。

 

「・・・え・・・?」

シロエは、その頃後宮の一室でふたりの近習に詰め寄られていた。

「ですので、皇帝陛下の閨をお慰めする準備をいたしましょう」

ふたりの若い男が、シロエを囲んだ。

ひとりは、浅黒い肌に勝気そうな茶の瞳のセルジュ。

もうひとりは、抜けるような白い肌に、薄茶の瞳のマツカ。

「湯浴みはもうお済みですね。では・・・・・・」

薄い絹の夜着の腰紐を解かれ、シロエは咄嗟に衣をかき合わせた。

「やだ・・・っ!」

華奢な肢体は、少女とも少年ともつかぬ、過渡期の美しさを孕む。

「聞き分けてください。あなたも、痛い思いはしたくないでしょう?」

セルジュが少しいらいらしたように、語気を荒げる。しかし、シロエは涙をいっぱいに浮かべた瞳で、頭をいやいやと振って後ずさる。

「大丈夫です。繋がる部分に、痛くないように薬を塗るだけですから・・・」

マツカはそう言って、手に持っていた小さな壷を傾け、手のひらにどろりとした液体を受けた。

シロエは身を翻して、逃げようとする。しかし、後ろからセルジュに羽交い絞めにされて引き戻される。

「嫌・・・!嫌だっ!!そんなの・・・っ!!」

ばたばたと暴れるシロエを強引に抱きすくめ、セルジュはそのほっそりした足を両側に開いた。

「いやーーーーーっ!!」

シロエはまるで、この世の終わりでも来るかのような悲鳴を上げる。これまでも、何人もの『姫』の準備をおおせつかってきたセルジュとマツカだが、男の『姫』でもここまで嫌がった『姫』は初めてだった。いぶかしげに思いながらも、セルジュはマツカに目配せをして、薬を塗りこむよう示唆した。

「・・・大丈夫ですよ・・・。すぐに済みますから・・・」

マツカは泣きじゃくるシロエに、優しく微笑み、震える華奢な足にそっと触れ、未開の花を覗き込む。

「・・・や・・・っ、嫌・・・!見ないで・・・っ・・・・」

ふるふる、と頭を振り、泣いて強張るシロエの後蕾にマツカは繊細に触れた。

ひく・・・っ、とシロエは敏感に反応する。

ゆっくりと後蕾の周りを薬の乗った指でほぐし、やがてマツカは薬指を狭い未開の地へと差し入れた。

「・・・あ・・・っ、・・・・あ・・・っ・・・・」

「・・・狭い・・・ですね・・・」

どこもかしこもが小さく、幼い。マツカの男性にしては細い指すら、満足に受け入れることができないシロエの幼さに、マツカは危惧を抱いた。本当に、この幼い体で、あの皇帝陛下を受け入れることができるのだろうか?

マツカは、目の前の小さな少年に同情していた。この幼い体では、辛い思いをするだろう。少しでも、その辛さを軽減してやるために、マツカは催淫効果もある薬をたっぷりと細い未開の花へと塗りこんでいった。

「・・・や・・・っ、いやぁ・・・っ!もう・・・、やめて・・・っ・・・!」

ぼろぼろと大きな菫色の瞳から涙を零し、体の強張りが解けないシロエの蕾をマツカはじっくりと解していった。

 

「・・・あ・・・っ、や・・・ぁ・・・・ん・・・!」

やがて、たっぷりと塗りこまれた薬の効果が現れ始めたのだろう。シロエの声に艶が混じり始めた。少年の証も、ふるふると震え、可愛らしく先走りを滲ませている。マツカは何気なく、その薄桃色の少年の証を手に取った。

「・・・え・・・?」

マツカの戸惑ったような声を聞いた途端、シロエの体が大きく震えた。

「・・・いや・・・!!」

少年の証の下には、まるで隠れるように、もうひとつの花が咲いていた。薬を塗りこんだ後蕾の少し手前。こちらも誰の手も許していないだろう、まるで手付かずの、幼い花。強制的に追い上げられている熱に煽られ、その秘花もとろりと透明な蜜を零していた。

「・・・あなたは・・・、ミュウ、なのですか・・・?」

「なんだって?」

呆然と呟いたマツカの言葉に、セルジュが驚いたように問い返した。

「嫌だ・・・!もう、いや・・・っ!触らないで・・・っ、見ないで・・・!!」

泣きじゃくるシロエに、マツカは心から同情した。

シロエがあんなにも抵抗したのは、このためなのだ。シロエにしてみれば、一晩、暗い部屋で皇帝に抱かれればそれで事は終わると考えていたのだ。よほど入念に見ない限り、シロエは少年にしか見えないのだから。まさか、ミュウであるなどと気付かれるはずもないと思っていたのだ。

ミュウとは、10万人にひとりとも言われる希少の存在。

幼少時代にはその身にふたつの性を併せ持つ。そして、その性を決定するのは、性行為。愛されたものは、女へ。愛したものは、男へ。それぞれ分化していくのだ。しかし、ただ性行為を行っただけでは性は分化しない。ミュウは、愛によって性が決定するのだ。

古代の血を色濃く受け継ぐミュウは、特殊能力を持つものも多い。性が分化すれば、その能力は消える場合が多いのだが。

「・・・見ないで・・・!!」

血を吐くような悲痛な声で、シロエは叫んだ。

 

 

 

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