『いいか、スザク。絶対にひとりで外を出歩いては駄目だ』

スザクは叔父であるルルーシュに出かける際には、しつこいほどに念を押される。

ようやく14になったばかりの姪を心配する叔父にしてはいささか度が過ぎるのではないかとスザクは思っていたが、ルルーシュにしてみれば本当のところ、屋敷からスザクを出したくない気持ちをようやく押さえているのだ。

ここ神聖ブリタニア帝国はブリタニア人以外の民族に対して被差別政策を取っていた。植民エリアの人々をナンバーズと呼び、就職や結婚、日常生活のありとあらゆる事柄においての差別はもとより、ナンバーズが住む地域も『ゲットー』と呼ばれる貧しく衛生にも著しい問題がある地区に限定されていた。いわゆる『囲い込み』政策である。

さらに、ここ1年で苛烈さを増したブリタニアの被差別政策は『民族浄化』を訴え、ナンバーズを殲滅せんがため各地に強制収容所を作り、捕らえたナンバーズに過酷な強制労働を強い、非人道的な人体実験すら行っていた。

しかし、強制収容所の意義は労働力の確保でも、科学の躍進でもない。穢れたナンバーズをこの世界から殲滅することによる世界の浄化。強制収容所は絶滅収容所なのだ。

 

そんな時勢であることから、ルルーシュはスザクを酷く心配していた。

何故なら、スザクはルルーシュの妹であるナナリーが産んだ子であり、スザクの父は日本人の血を半分だけ引いている混血児だったのだ。従って、スザクは4分の1だけ日本人の血をを引いているのだ。

日本国は7年前にブリタニアの11番目の植民エリアとして、その国の名を奪われ、『エリア11』と呼ばれている。そして、かつては日本人と呼ばれた人々は、『イレブン』という数字で呼ばれ蔑まれている。

栗色の髪に翡翠の瞳を持つスザクは、一見でイレブンと思われる外見ではない。しかし、スザクの滑らかな象牙のような肌や、ブリタニア人とは明らかに異なるその華奢な骨格は、スザクを純粋なブリタニア人ではないことを言外に語る。

色眼鏡なしでスザクを見れば、日本人とブリタニア人の優れた部分が調和したコスモポリタンな美しさを持つスザクは、紛れもない美少女だ。平時であれば称賛に値するその優れた容姿ですら、ルルーシュにとっては不安の種であった。

現在、ブリタニアが定めているナンバーズの基準は、父方・母方双方の祖父母のうち、2人以上が純潔のナンバーズであることである。スザクの場合、父方の祖母が日本人であるため、『イレブン』と呼ばれずに済んでいる。

しかし、時は動いており、時代も変動している。苛烈さを増す、イレブンへの差別政策は、ルルーシュを不安にさせるのに充分すぎるほどだった。

 

「携帯は持ったな?ちゃんと定時連絡を忘れるなよ?」

学校へ行こうと玄関で制服をチェックしていたスザクに、ルルーシュが声をかける。

「はいはい。ちゃんと持ったよ。連絡もちゃんと入れるから、心配しないで。リヴァルが迎えに来てくれたから行くね?」

スザクは軽く伸び上がって、ルルーシュの頬に『行って来ます』と音を立ててキスをすると、鞄を引っつかんで学校へ向かった。

ばたん、と閉められたドアを見つめ、ルルーシュが大きなため息をついた。

「・・・もう少しだ・・・」

ルルーシュは、スザクを連れてEUへ亡命する手筈を整えていた。

もう、この地は安息の地ではないのだ。いとおしい妹が残した忘れ形見の少女が、いつ恐ろしい強制収容所に連行されても不思議ではないのだ。

「もう少しで、お前が安心して暮らせる国へ、連れて行ってやる・・・!」

ルルーシュは自らに言い聞かせるように呟いて、自室へと踵を返した。

 

 

 

 

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