セランと近衛騎士達が対峙している。
近衛騎士で立っているのは八人、すでに合計で二十人以上がセランに斬り伏せられている。
最初の奇襲はともかくそのあとの戦闘は明らかな実力差が見て取れた。
セランの振るう剣は剛剣、その見た目には一般人と大差ない体つきから想像もできないほどの膂力で繰り出される斬撃は受けた剣だろうが、身を守る鎧だろうが全てを断ち切った。
そんな斬撃を鋭く正確に急所に打ち込んでくるので、これを防ぐにはよけるか、相当の技術をもっていなすしかなかった。
近衛騎士達とセラン、その実力差は猫と虎ほどにあった。
だがセランの方もさすがに無傷ではない、身体のところどころ負傷はしているし多少息も乱れてきている。
どれほど強くてもこの国最高の騎士達を三十人相手にしているのだ、最初にペースを掴み有利にすすめてきたが精神を立て直されると騎士達も連携を組み、数の優位を最大限に生かし戦い続けている。
(さすがに近衛騎士だな、ねばりやがる。まだ目も生きてるが……)
そこまで考えたあとため息をつく。そして
「面倒だ」
と、力を抜いてそう言い放つセラン。
「ここらで終わりにしよう」
「何だと……?」
生き残った騎士の一人が怪訝そうに言う。
「初めに言っただろ俺の役目は足止めだ。お前達を皆殺しにするのが目的ではない。馬も無くなり時間もたった、今から王女に追いつく方法は無い……つまり俺にはもう戦う理由はないのさ」
そこまで言うとセランは剣を鞘に収め、くるりと騎士達に背をむけた。
これに驚いたのは騎士達で、本来なら絶好の攻撃の好機のはずなのだがどうしても斬り殺せるイメージがわかず、逆に振り向きざまに斬り捨てられる自分の姿だけが鮮明に浮かんだ。
「勿論そっちがまだやると言うなら話は別だが、俺の実力はわかったはずだ。去るのなら追わない」
騎士達は任務の為の死は恐れない、だが無駄死にするわけにもいかない。
すでにセランの言うとおりほぼ任務は失敗だろう、このまま死んだとしても意味は無い。
「決断するなら早いほうがいいぞ。そこの副隊長はまだかろうじて生きているし急げば他にも助かる奴はいる。治癒の魔法薬はあるがそれを分けてやる義理はさすがに無いからな」
距離をとったセランが脇の森の木に背を預け、寄りかかり治癒の魔法薬を取り出し飲み出す。
そこで決断したのだろう、騎士達が顔を見合わせ行動する。
二人が脇から副隊長を肩で担ぎ、その他にもかろうじて息がありそうな者を担ぎ上げる。
その間も騎士達は油断無くセランを見ていたが、まったく追う様子が無いのを見るとその場から離れた。
かなり離れ、騎士達全員が背を向けアーケンに向け走り出した瞬間――セランは音もなく走りだし、残っていた最後の魔石を背後から投げつけた。
爆発により吹き飛ぶ騎士達、その爆煙が収まる前にセランは走りよりまだ息のある者に手際よく止めをさしていく。
「すまんな、本当は初めから一人も逃すつもりは無かったんだ。そろそろ一人二人くらいなら恐怖や命惜しさに逃げ出しそうな奴がいたから一芝居うったんだよ」
そうなったら追うのは面倒だからな、と最後の一人、このために瀕死ながら生かしておいた副隊長に止めを刺しながらセランが言う。
「お前らサングルドの財宝の事知っちまったからな。あの財宝はカイルの大事な生命線の一つだろうから、万一にも外に洩らす訳にはいかないんだよ」
この場にリーゼあたりがいたら「いやお前から喋ったろう」と突っ込みをいれただろうが、セランはいたって真面目だった。
わずかの油断を引き出すために財宝の事を話すのと、それを聞かれたからには口封じをするというのはセランにとって必然であり当然の事だった。
「ふ~~……疲れた」
周りに自分以外生きている人間がいないこと念入りに確認するとセランは座り込んだ。
セランにとっても近衛騎士三十人を一人で相手取るのは命がけだったし、魔法薬で体力や怪我は回復しても精神的には疲労困憊と言っていい。
「こっちは何とかしたぞ、そっちもしくじるなよ」
アーケンの街の方を見ながらセランは呟いた。
アーケンでの宿の一室、ゼントスは定期連絡が途絶えたカードをじっと見ていた。
例え副隊長に何かあったとしてもそれに代わる者はいる、なのに連絡が途絶えたと言うことは誰も代わりがいなくなったと言うことだろう。
その顔は変わらず無表情のままだが握り締めた拳が震えていた。
部屋を出ると残っていた部下の近衛騎士達に命令をする。
「お前たちは殿下をお守りしろ、私が戻るまで誰も通すな」
それだけ言うと反論を与える間もあたえず、ゼントスは愛馬に騎乗しアーケンを出た。
カイル達はもうすぐ大森林の出口と言うところまで来ていた。
そこを抜ければ本街道と合流でそこからアーケンは目と鼻の先、視界に入るくらいだ。
あと少し、だからこそ気を抜かないようにと思っているとシルドニアから報告がはいる。
『おいカイル、騎士がこっちに向かってきておるぞ』
「何人だ?」
『いや一人だけで……おお!?』
シルドニアが驚きの声をあげる。
「どうした?」
『う~む、距離をとっていたのじゃが【エネルギー・ボルト】で攻撃された。あの遠距離で正確さと威力を保つとは大したものじゃな』
【エネルギー・ボルト】は魔力を矢とし敵を攻撃する威力の低い下級攻撃魔法だが、燃費や射程などの使い勝手の良さから攻撃魔法の基本として使われる魔法だ。
「なるほど、上空の怪しい動きをする鳥に気づき躊躇無く攻撃を仕掛ける。遠距離で魔法制御力が高く、そいつが一人で来るか……あいつしかいないな」
やっぱり来たか、とカイルは大きくため息をつく。
「このまま来なければいい、と心の底から思っていたがそうもいかないものだ」
戦いたくはない、だが会わなければならないと覚悟を決める。
カイルはスレイプニールを止め、皆に指示をする。
「皆は少し後退して待機していてくれ。僅かでも異常を感じたら更に街道を引き返してセランと合流してくれ」
「でも……カイルは大丈夫なの?」
カイルの言葉の端に、今までにない緊張を感じ取ったリーゼが心配そうに言う。
「……確実に言えるのは、あのヒドラや近衛騎士三十人を相手にする方が気が楽って事だな」
「ゼントスが来ているのですね」
それだけで察したのだろう、ミレーナが厳しい顔になる。
「彼はこのジルグスで最高の騎士です。その彼に一人で立ち向かうというのですか?」
それはカイルもよくわかっていた。
卑怯だろうがなんだろうが、ゼントス相手にはできればセランと二人がかりで戦いたかったくらいだ。
「俺もそれは避けたかったのですが、この場で他にとれる手段はありません。なに、無理はしませんよ」
ご安心を、とだけ言うと皆を残しカイルは再び歩きはじめた。
リーゼ達と距離を取ったあと、カイルが道の真ん中で仁王立ちで待っていると騎馬が一騎、猛烈な速さで駆けてきた。
向こうもカイルに気づき、罠の可能性を考慮しこのまま騎乗したまま近づくのは危険と判断したのか馬を止め下馬する。
下馬したゼントスが近づき、おそらくあと一歩でも踏み込めば戦闘開始となるだろうぎりぎりの距離に来ると、カイルは話しかける。
「安心しろ、罠はないしここに居るのは俺一人だけだ」
「お前がミレーナ王女を手助けしている旅の者か?……なるほど、腕が立つようだな」
あと一歩、という自分の間合いを正確に見切ったカイルに対し警戒を強めるゼントス。
「まあそこそこにはな……しかし何故一人なんだ? そっちはまだ十人くらい騎士が残っているはずだろう?」
「これ以上こんな事で部下を失いたくは無い。私がお前達全員を斬ればいいだけのことだ」
全員を一人で斬ると言いきるゼントスにはそれだけの実力と自信があった。
「そうか、すまないが追っ手に出した騎士達はほとんど壊滅状態だ。その上でこんな事を言うのもなんだが……できれば降伏してくれないか? 俺はお前を死なせたくはないし、殺したくない」
「……なんだと?」
ゼントスが眉をよせる。
まさかこんなにストレートに、それも自分より十以上は若そうな男からこうも上からの目線で降伏を勧められるとは思わなかったのだ。
「確かにお前の罪状では死罪は免れないかもしれないが、ミレーナ王女は報償を約束してくれたのでその代わりにお前の助命を願い出てもいい。何なら他に条件を付けてもらってもだ」
カイルの言葉にゼントスがますます怪訝そうな顔になる。
カイルが本気だと言うことがわかったからだ。
本気で助けようとしている、王女殺しの濡れ衣をきせ殺そうとしている自分をだ。
「理由が解らんな、何故私を助けたがる?」
「ゼントス・オルディはここで死ぬには惜しい、そう心から思っているだけだ」
「……評価してくれるのは嬉しいが、今更やめる訳にもいくまい」
「そうだな、当然そう言うと思っていた」
カイルはため息をつくが、言わずにはいられなかったのだ。
「あと一つ聞きたい、何故王女暗殺という愚行に走った? 少なくとも金だとか、地位なんかのためじゃないだろ? しかもあのカレナスの為ときている、あれにそんな価値ないだろ?」
「こっちに詳しいようだな……それとも王女の入れ知恵か? とりあえず私にも色々ある、とだけ言っておこう」
これも予想できた答えだ。
「……それにしても結構穴だらけの計画じゃないか? こうして破綻寸前だし、はっきり言ってずさんだな」
「お前達の口を封じれば、これからどうにでも修正できる」
「いくらなんでも強引過ぎるだろ? 不審に思う奴はいると思うぞ」
「今から死ぬ、お前の心配することではない」
これ以上の話は無用とばかりに剣を抜くゼントス。
「これ以上時間稼ぎをされる訳にもいかないのでな。早くお前を倒し王女を追わなければ」
「……まあ気づいて当然か」
ここらが限界か、とカイルも剣を抜く。
実際カイルは時間稼ぎをしていた。
ゼントス相手でも、第五隊が来るまで時間が稼げれば数にまかせての生け捕りが可能かもしれないと思っていたからだ。
今のままでは殺すか殺されるかしかない。
だがそれもここまで、とカイルは魔法の詠唱に入る。
そしてゼントスもまた魔法を詠唱する。
「【ヘイスト】【ストレンクス】!」
「【ヘイスト】【ストレンクス】!」
二人ほぼ同時に素早さと筋力の自己強化魔法の行使が終わる。
カイルにとっては魔法剣士としての戦い方の見本であり、ある意味師匠でもあったゼントスとの戦いが始まった。
短めです、今までで一番短いかも。
セランが強かったのは感想でもありましたが賛否が別れたようでした。
否定的な意見があったということは私としましてもそれを受け止め、考えていきたいと思います。
過去の話を修正したりこれからの話を大きく変えていく訳にもいきませんが、少しでも面白い作品にしていくためにご意見ご感想を参考にさせて頂きます。
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