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第一章
第11話 ダンジョンアタック(物理)
「しかし人生なんてわからないもんだな。半月ほど前はこうして伝説の迷宮に挑むなんて夢にも思わなかったぜ」
 セランが頭に発光石をつけたバンドを巻き、目の前を照らしながら手にしたスコップで掘りつつ言う。

「俺も英雄になると誓って初めにやる事がトンネル掘りになるとは予想外だった」
 カイルも頭に発光石のバンドをつけ土をトロッコに乗せながら、首に巻いたタオルで汗を拭う。

「お前達、それを一番言いたいのは私なんだぞ!」
 二人の後ろでウルザがやはり頭につけた発光石で手元の地図を照らしながら二人に指示をしつつ、土の精霊ノームを操っている。

「まったく、何で私がこんなことを……あ、セランまだそこは掘るな! 周りの硬化が終わってない!カイルは土を外に運んだ後はすぐに【ディテクト・マジック】だ! またずれがでているかもしれないからな!」

「……一番頑張っている気がするんだが」
「根が真面目だからな、手を抜くのは嫌いなんだろ」

「無駄話をするな! さっさと動け!」
「「はい!」」
 逆らわないほうがいいと判断した二人の返事が重なった。



 小国にも匹敵すると言う面積を誇るサングルド山脈、その中でも人が訪れることがほとんど無い奥深い名もなき山の一つの中腹あたりにカイル達はいた。
 周りはまったく手のつけられていない原生林に覆われているが、その部分だけ少し開けた草原のようになっており、切り立った山の岩肌が露出した斜面に今はぽっかりと人が通れるくらいの穴が開いている。
 ここがカイル達のみつけた迷宮の裏側で、本来の入り口はこの山の真裏にありそこの大岩が隠された入り口にあたる。
 そしてこの場所が最深部の宝物庫に一番近く、掘り始めるのに丁度いい場所だった。

 掘る、と言っても完全な岩肌で手作業で少人数で掘るとなると、それこそ何年とかかる作業だろう。
 だがウルザが土の精霊ノームを使役し、岩を土状に代えることによって人力によるスコップで掘れるようになっていた。
 同時に落盤などの事故がないよう周りの岩を硬化し頑丈にしつつ掘り進め、奥のほうでの呼吸はやはりウルザの契約している風の精霊シルフィードの力で風を送り息が出来るようにしている。
 その為、非常に効率よく掘り進むことができていた。

 カイルは本来こういった作業を魔道具で代用するつもりで、魔道具の購入資金のために闘技場で戦うことも考えていたのだがウルザのおかげで必要なくなったのは本当にありがたかった。
 他にも人を雇うことや誰かに協力を求めることも考えたが、事が事だけにできる限り少人数で進めたかったので、初めはそれこそ自分とセランのみで掘り進めようと思っており、おそらく期間は何倍もかかっただろう。



「あ、三人ともお疲れ様~」
 今日一日の作業を終え、トンネルから出てきたカイル達をむかえたのは調理中のリーゼだった。
 そこはトンネルのすぐ側にあるカイル達のベースキャンプとしている場所で二つテントが張ってある。
 三人がトンネルを掘り、リーゼが炊事などの雑事をおこなうという生活も今日で五日目でだいぶ慣れてきたところだ。
「洗濯物も乾いてるし、そんな格好で食事はいやでしょうから三人とも早く着替えてね。ご飯はあとちょっとで出来るから。あ、脱いだのは洗濯するからまとめておいてね」
 テキパキと指示するリーゼに泥と土にまみれた三人は着替えにテントの中に入っていった。



「ふう疲れた~、もう動けねえ~」
 着替え終わったセランがぐったりとしている。
「もうちょっとしゃきっとしろ、あと少しなんだからな」
「一日中肉体労働やってるんだ、当然だろ。お前だって足が震えてるぞ」
 セランの指摘通り、平気そうにふるまいながらも膝が笑っているカイルだった。
「私は体は大丈夫だが、やはり精霊の使役は精神的に疲れたな」
 ウルザもため息をつき座り込んでいる。
 精霊を使役すると言うのは精霊魔法を使うのとは少し違い契約した精霊に直接命令して行動をとらせると言うものだ。
 例えば火の精霊サラマンダーに『この百本のロウソクに一つずつ火をつけろ』という命令もできる。
 精霊によっても出来る事、出来ない事もあり使い手の技量にもよってくるがかなり細かい命令もできるのでこれが精霊魔法がカイル達の使う古代語魔法に比べ汎用性が高く、便利と言われる一つだった。
「できたよ~」
 ぐてっとしていた三人の前にリーゼが料理を運んできた。

「しかしリーゼは本当に料理が上手だな。私も旅は長いが、街中以外での食事は味気ないものがほとんどだというのに……」
 感心しながらウルザは目の前の料理を見ていた。
 肉や野菜を煮込んだスープや鶏肉を焼いたもの、どこからか採ってきたのか果物もあるし、山菜も豊富にある。どれも味もよく、毎回の食事が楽しみになってきていた。
 ウルザも料理ができないわけでないが、こういった野営では保存食をかじる程度だ。

「鶏肉は良い感じに太った山鳥がいたから丁度よかったわ」
「ふむ……おや?こっちの肉は違うのか?」
「あ、それ熊肉。それもさっきしとめたばかりだから新鮮だよ」
「いつの間に……」
 ただ比較的ウルザは味わって食べていたのだが、男二人は疲れと空腹のためか黙ってひたすらに食べていた。
 慣れているのかリーゼも何も言わずおかわりをよそってあげていた。



「それであとどれくらいで掘り終わりそうなの?」
「そうだな……あの反応なら明日か明後日には終わると思う」
 カイルが食後のお茶を飲みながら答える。
 掘りながらときどき【ディテクト・マジック】という魔力を感知する魔法で目的地の宝物庫の反応を調べ、方向の調節と距離を測っていた。
 初めは本当に微かにしか感じなかった魔力の反応だが、掘り進めれば進むほどそれは強くなっていった。
「そっか、じゃあ食べたらお風呂にして早めに休んで明日に備えましょう」



 キャンプ場から少しはなれたところにある岩場では湯けむりがもうもうと立ち込めており、数人は同時に入れるだろう温泉があった。
 その温泉は初めからあったわけではなくウルザが土の精霊ノームの力でくぼみを作り、水の精霊ウンディーネによって水を張りそこに火で焼いた焼け石を放り込んだ即席の温泉だった。

「それにしてもこんな山奥で毎日お風呂に入れるとは思わなかったわ。以前山篭りしたときは体を拭くくらいしかできなかったからいいね~」
 リーゼは湯の中に裸身を仰向けに横たえながら思い切り伸びをする。
 その身体は鍛えているだけあって無駄な贅肉が一切無く引き締まったラインをしており、特に腰のくびれなどは見事の一言に尽きる。
 手足には筋肉がうっすらと乗っているが決して筋肉質ではなく年頃の女の子らしい丸みも帯びており、少し日焼けした肌も相まって健康美あふれるといった様相だ。
 くるりと身体をまわしうつ伏せになると立派としか言えない大き目のお尻が湯に浮かび健康的ながらも色気を感じさせている。

「私も旅が長いからな。こういった工夫も必要になってくる」
 エルフは種族的に華奢な者が多いがウルザは例外と言える。
 彼女は所謂着やせするタイプで、今の一糸まとわぬ姿となると非常にバランスのとれた良いスタイルをしてるのがよくわかる。
 巨乳とまではいかないが美しい形をしており、いやらしさや下品さなどは感じさせずそのまま彫像となったら芸術品として王宮にでも飾られそうな美しさだ。
 それでも、そんな高貴さを持ちつつも湯船の縁に腰掛けながら長い金髪をまとめてあげ、抜けるような白い肌のうなじがほんのりと朱に染まるその姿は妖しい魅力も放っていた。

「いいなあ……」
 リーゼが自分の年頃としてはややささやかな胸と、並よりは大きめなウルザの胸を見比べてため息をつきながら言う。
「そうか? 私の育った村ではリーゼのような腰つきのほうが好まれたぞ?」
「そ、そう?」
 リーゼが自分の、胸とは反対にかなり育っている自分の腰を見る。
「ああ、たくさん健康な子を産めるだろうからな」
「……うちの街でもおばあちゃん達によく言われた。でもあたしはウルザさんくらいの方が……あ、ハート」
 ウルザの抜けるようような白い肌の中、少し色素の濃いハートの形をした痣のようなものをお尻の部分に見つける。
「い、言わないでくれ。私も気にしてるんだ……」
 ウルザが隠すように湯に身を沈めながら、恥ずかしそうに言う。
 湯と羞恥でほんのりと朱に染まった顔を見てリーゼは遥かに年上のはずなのに可愛いと思ってしまった。

 あははと軽く笑いながらリーゼはこの即席温泉を改めて褒めた。
「それにしてもやっぱり魔法って便利だね。あたしは魔法をつかえないから羨ましいよ」
「いやあの熊を一人で素手で倒すのも充分凄いと思うが」
 先ほどちらりと見た解体された熊はざっと大人二人分はあった。

「まあ私も今心身共に鍛えなおしている最中だからね、あれぐらいはできないと」
「それはやはり……カイルのためなのか?」
「え? あ、うーん……まあね、あたしって取り柄これくらいしかないから」
 少し照れたように頬を掻きながらリーゼが言う。
 その後少し姿勢をただし、まじめな顔でウルザに話しかけた。

「あのさあウルザさん、あたしが言っても説得力ないかもしれないけど……そんなに心配することはないよ」
「心配?」
「カイルが何かを隠してるのはあたしも解ってるし、それがウルザさんの真名にかかわる事だと言うことも……」
「…………」
 ウルザの顔が険しくなる。ウルザがここにいる理由は真名を、自分にとっては命にも等しいものを知られているからだ。
「ただ言えるのは、あいつはあたし達を怒らせることはしょっちゅうするけど、泣かせる様なことはしないの。だからウルザさんが傷つくようなことは無いだろうし、あたしはあいつが話してくれるのを待つつもりなの」
 その心から信頼しているだろうリーゼの笑顔を見ると、何となく毒気を抜かれられた気になり肩の力が抜けてしまう。
(まあ単に惚気られて呆れてるだけかも知れんがな……)

「とは言え、やっぱり目を離すのは不安だからこうして無理やりついてきたんだけどね。あ、だから安心して、もし万が一あいつがウルザさんによからぬこと考えてもあたしが責任もって……」
 拳を握り締めながら言うリーゼにウルザは軽く笑いながら言った。
「ウルザでいい」
「え?」
「さんづけはもういいと言ったんだ」
「……わかったウルザ」
 二人は笑いあった。



 女性二人が心の距離を近づけている中一方では

「離せぇ! 俺は覗きに行くんだあ!」
「やめんか! みっともない」
 必死に覗きに行こうとするセランをカイルが羽交い絞めにしていた。
「露天だぞ、露天風呂だぞ! 覗くだろ! 普通!?」
 セランの魂の叫びだった。
「お前は見たくないのかよ!?」
「見たいに決まってるだろ!」
 カイルもまた心からの叫びだった。
「だが貴様に二人の裸を見せるわけにはいかん! あれは俺だけの……!」
「お前今二人って言ったな! リーゼだけじゃなくてウルザちゃんもかよ!?」
「…………」
「何で黙る!?」
「ええいやかましい! 明日に差し支える! さっさと寝ろ!」
「明日なんてどうでもいい! 俺は今に生きるんだ!」

 男二人は少し友情にひびをいれていた。



「うう、ちくしょう。今日もダメだったか……」
「む、無駄な体力使わせやがって……」
「何やってんのよあんた達、せっかく洗濯したのにこんなに汚して!」
 風呂から出てきてみると、二人が泥だらけになった姿で肩で息をしてへばっているのを見て、洗濯物が増えたと怒り説教をするリーゼだった。



 翌日の昼頃、昼食を終え休憩を取り終わったカイルが穴掘りを再開してると背後のウルザが話しかけてくる。
「しかし伝説の迷宮をこんな形で攻略するとはな……今更ながら本当にこれでいいのかと思わないでもないが……」
「仕方ないだろ、正面から行けば間違いなく全滅していたからこの手しかないさ」
 実際にこの迷宮に正面から入ったときの事を思い出しながらカイルは言う。

 地図はあったが例え事前に罠の種類がわかったとしても簡単に抜けられるものでもないし、描かれていない罠も沢山あった。
 しかも嫌らしい罠として、地図そのものも罠の一つだった。
 この地図には魔法的な仕掛けが施してあり、途中までは実に正確に書かれているのだが後少し、最深部の宝物庫まであと少しというところになると余白の部分に更に階層が追加されるのだ。
 無論そこを通らねば宝物庫まで行けず、そしてそこに描かれてるのはさらに凶悪な罠や仕掛けの数々……
あ の時の絶望ぶりはなかった、今思い出しても寒気がくるくらいだったとカイルは回想する。
(性格が悪いというか捻くれてるというか……)
 地図の隅に書かれているこの迷宮と地図を作った人物のサインを見る。
 そこには古代文字でこう書かれている『シルドニア・ザーレス』と。
 とにかく二度とこの迷宮には入りたくない、しかしこの中の財宝は惜しい。そんな考えから浮かんだのがこのトンネル掘りだった。

「ところでセランだがまだ戻らないのか?」
 セランは昼食をとった後、一休みすると言って出て行って戻ってきてないのだ。
「あいつはなんだかんだでサボったりいなくなる事があっていかんな……そういえば『遠距離からでも大丈夫な場所を見つけてやる!』とも言っていたが何のことだろう?」
「いや気にしなくていい……後でしめるから」
「ところでだカイル。聞きたいことがあるんだが」
 セランがいないのは丁度いいとばかりにウルザは言う。

「私は回りくどいことは嫌いだから直接聞く。あの二人はお前の事を昔から知っていて信頼しているから深くは聞いていないようだが私は違う……カイル、お前は何故英雄を目指そうとしているのだ?」

 ここにくる途中、カイルの目的が英雄になることだと聞いたとき誇大妄想の持ち主か何かか、と初めは思ったものだ。
 だが話を聞いているうちに自分の今やれること、やらねばならないことを冷静に見極め確固たる意思を持って突き進み、努力もまったく怠ってはいない。

「その指輪も鍛錬の一つなのだろう?」
「ああ気づいていたか。確かに【グラビティ】のかかった指輪だ」
 カイルの左手にはめられたシンプルな指輪を見る。

 【グラビティ】は重力操作の魔法で対象の重さを操ることができ、主に魔獣を生け捕りにする時など捕らえる事を目的とした時に目標を消耗させるのに使われる魔法だ。
 この【グラビディ】がこめられた魔道具の場合は戦争での捕虜や犯罪者を無力化させる場合等に使われ、『拘束の指輪』とも言われている。

「勿論すぐに解除できるようにしている。急な戦闘でも問題ない」
 その気になれば一瞬で解除できるようにしてあるので完全な奇襲でもない限り戦いには問題ない。
「その指輪なら今は体重が二、三割増しというところか?」
「そんなところだ。師匠の案でな、日常的に負荷をかけることで身体能力をあげるのに良いそうだ」
 これは単純だがその分効果があり、以前はよくつけていた。
 とにかく今は基礎体力を上げたいのでこの穴掘りとあわせ一石二鳥だったのだ。

「初めはその指輪も含めて自虐の趣味があるのではないかと思っていたが……」
「おい?」
「そのなんだ……お前にそういった性癖があり、リーゼとの日ごろの……その、じゃれ合いも……プ、プレイ? の一環だと……」
「なんとゆう誤解をしてくれてるんだ!?」
「いや、セランがそう言っていたので……『あいつらのじゃれ合いは高度なプレイの一環だから気にしないほうが良い』と」
「ほんとあいつ碌な事言わないな……」
「初めに聞いたときは難儀な性癖だと思い、お前の事を蔑んだ目で見つつ人間の業の深さを哀れんだものだが……間違いだったようだな、すまない」
「いやいい……気にしないでくれ」
 ちょっと泣きたくなったカイルだった。

「それで改めて聞きたい、何故お前は英雄を目指す?」
「それは……」
 カイルが何かを口にしようとした時、ガチンという音とともに手にしたスコップに手ごたえを感じた。
「これは……金属?よし、ついたぞ!」
 手で触ると冷たく硬い感触、【ディテクト・マジック】の反応も最大となっている。
「最後の仕上げだ、リーゼとセランにも伝えないと」
 カイルは外に出ようとするが、その際ウルザにすまなそうな、そしてどこか悲しそうな顔で言う。

「すまん、今は言えない。だがいずれ……リーゼ達も含めて必ず話す」
 そう言って外に出るカイルの背中を見て、ウルザはため息をつきつつも追求しない自分に気づき
「どうもこいつらに付き合ってると調子が狂うな……」と一人呟いた。

前回の更新から五日たってしまいました。
展開が遅い分もう少し早く更新できると良いのですが。


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