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第一章
第8話 英雄になるには
 英雄になると方針を決めた翌日、カイルはまたも部屋で悩んでいた。
 無論どうやって英雄になるかをだ。

 英雄にならなければならない。
 それも国王だろうが亜人だろうが無視できない、大英雄にだ。
 だが当然ながらなろうと思って簡単になれるものでもなく、明確な資格があるものでもない。

 つい一週間前まではカイルは人族最強の魔法剣士と言われていて、まさに英雄で希望だった。
 だがそれも危機的状況、滅びかかっていたという特殊な状況だったからであり、あまり参考にはならない。
 それに過去に英雄と呼ばれている人の多くは魔族との戦いでその名声を高めており、魔族との戦いのために英雄になろうとしているカイルには意味が無かった。

 かりそめとはいえこの平穏な現状で効率よく英雄になる方法を必死に考えていたのだ。



「お~う、ちょっといいか?」
 ノックもせずにセランが入ってくる。

「おお、何か凄いな」
 部屋の様子を見てセランが驚いた。

 カイルの向かっている机には山のように本を積み上げているし、机の周りも同様だ。
 全てセライア自慢の書庫から持ってきたものだ。
 本の種類は多岐に渡り、各地の風土や神話、英雄の伝承、魔法の知識から魔獣の生態、魔族との歴史など様々だ。

「今日ほど我が母の本道楽をありがたく思ったことは無いな。必要な知識がすぐに手に入るから」
 カイルは読んでいた本を閉じた。

「で何か用か?」
「ああ、お前ほんとに英雄になるつもりか?」
 セランがベッドに座りながら尋ねる。

「ああ、無論だ。それも出来るだけ早くな」
 その為の計画を練っているんだ、と机に向かいながらカイルが言う。

「でもよ、英雄なんてなろうと思ってなれるものでもないだろ」
「だから頭を捻ってるんだよ……何かいいアイデアないか?」
 半ばわらにもすがる思いでセランに訊く。

「う~ん……軍に所属するのは? 手柄たてやすいし、評価もされるぞ」
「ふむ……いやだめだ、自由が大幅に制限されるし、なれるとしても時間がかかりすぎる」
「ならおふくろみたいに剣闘士はどうだ。あれ有名になれるだろ?」
「確かに知名度はあがるだろうがあれは正直敵も作りやすい。師匠もそれが原因でこの田舎に引っ込んだんだろ?」

「他には……手っ取り早く魔王でも倒すか?」
「……それができりゃ苦労しないよ」
 カイルは大きくため息をつく。

「ただな、英雄になる方法じゃなくて英雄に必要なものは分かってきた……セラン、英雄に必要なものはなんだと思う?」
「そりゃ……やっぱり強さだろ?」
 過去に英雄と呼ばれた者たちは皆その様々な強さを称えられていた。

「いや、それは当たり前の前提すぎて意味が無い。俺が考えるに大事なのは金と人脈と運だ」
「妙に生々しいな。だが何となく説得力があるのはわかる」
「まず金、これは英雄は見返りを求めてはならないという理想をかなえるために必要だ」
「ほうほう」

「解りやすい例としてとある田舎の村がある。そこが魔獣の被害にあったとして退治しなければ、という時に偶然村に立ち寄ったとしよう。お前ならどうする?」
「初めて行った村なら何はともあれ可愛い子をさがすけど?」
「根本からずれてるな……とにかくだ、その魔獣を倒すとしてだその際報酬を貰うのは別におかしくない」
 その場合村人も対価を払っているのだからあくまで立場は対等。感謝はされるだろうがそれだけだ。

「だが報酬を受け取らなかったら? 更には退治した後被害あった分を施し『困っている人がいたら助けるのは当たり前です』と笑顔で立ち去っていったら?」
「感極まるな、そりゃ。その村じゃ代々語り継がれてもいいくらいだ」

「見返りを求めない善なる行動、正に英雄にふさわしくないか? そしてこれは金が有り余ってなきゃできないことだ」
「それで金か」
 なるほどね、とセランがうなずいた。

 無報酬の人助けだが、これは金だけでもダメだろう。
 例えば豪商や貴族が時折する慈善事業、これはこれで非常に感謝されるが同時に金余りの道楽、偽善者という陰口も伴うものだ。
 自分でも動き、危険に身をさらしてから更に身銭を切っての救済。
 無論それでも妬みはあるだろうが金だけよりは随分マシだろう。

「これが手っ取りばやく名声を得る方法でもある。ただ派手にやると敵を作りかねないが」
「敵?」
「ああ、冒険者あたりのな」

 冒険者、いわゆる何でも屋だ。
 荷物運びや、薬草探しといった簡単なものから隊商の護衛や魔族退治など危険な仕事もこなす。
 こういった害を成す魔獣の退治は冒険者の専門と言ってもいい。
 その際報酬を受け取るのは当然の事で正当な権利だが他に報酬を貰わず退治する者がいたらどうなるだろう?
 当たり前が当たり前でなくなり、報酬を払うのも貰うのにも支障が出る。

「なるほど、商売の邪魔になるな、そりゃ。恨みを買いかねないか」
「まあそこら辺は我慢してもらおう。何かをするのに犠牲はつきものだからな」
「おい、黒いぞ、英雄」
「とにかく英雄になるには金が要るということさ。それもあればあるだけいい」
「金ねえ……確かにあれば苦労はしないよな」

「で、次に人脈だが金にもあてはまるが英雄に限らず、何かしようとするなら人脈は役に立つ。これは相手が地位が高かったり有名だったりすればするほどいい」
「ああ、権力者が後ろ盾になるのは英雄の昔話でもよくあることだな」
「これは単純に貸し借りと言ってもいいな。理想的なのは一方的に貸しを作る、こちらに頭があがらないようにする。つまり弱みを握るということだな」
「なんか英雄から遠ざかってきてないか?」
「とにかく地位があったり有名な奴が特別扱いするなら自然と名声も高まるものさ」
 だんだんキナ臭くなってきたなおいとセラン。

「そして……さっきも言ったがこれに限らず金と人脈があれば大抵の事はできるし、なりたいものにもなれる。だがその中に英雄は入らない」
「最後の運が必要ってことか?」
「そうだ」
 これが一番厄介だなとカイルが言う。

「運ねえ、そりゃ努力してどうこうなるものでもないよな」
「それに運といってもただ幸運なだけではダメだ。英雄に必要な運は普通の幸運とは別物だ」

 英雄とは戦乱や混乱、人々の悲劇の中でこそ輝くのだ。
 そしてその不幸は大きければ大きいほど光は増す。

「つまり誰かの不幸に居合わせる幸運が必要になる。それを解決してこその英雄ってわけだ」

「おい、まさか……」
「安心しろ、さすがに悪事を働いてそれを自分で解決するなんて真似はしない。それにそんな事しなくてもこの世に完全な平和なんてありえない。必ずどこかしらで不幸なことは起きているはずだ」
「そりゃそうだろうが、偶然そんな場面に出くわすかどうかなんてまさに運だろ? これはどうしようもないんじゃないか?」
「それを可能にするのは……ま、奥の手があるから大丈夫だ」

 カイルは机の上においてある冊子を手に取り軽く叩く。
 これからの四年間が書き込んであり、それはある意味これから起こる様々な不幸と言ってもいい。

『大侵攻』のようなどうしようもないものはともかく、事前に知っていれば防げるものもある。
 だが全てにかかわっている時間はなく、そして手に届く範囲でも事前に防いでも意味はない。
 不幸な事が起こってから、颯爽と現れ解決するという英雄らしい行動をとらねばならない。
 そのために傷つく人が増えたとしてもそれがあの絶望の未来を変えると信じて。

「俺は……英雄になるためならどんな手も使う。たとえ卑怯卑劣な手段でもな!」
「本末転倒じゃないか? それ?」
「大丈夫、さすがにこんなこと言うのはお前の前でだけだ」

「そうか……で、肝心なこと聞きたいんだが、お前何で英雄になりたいんだ」
「やっぱり気になるか? それ?」

 セランは初めはいわゆる思春期の精神的なアレが再発したのかなと思った。
 それだったら優しい目で見守ろうと思っていたがどうも違うようだ。
 カイルから絶対になってやろうという確固たる意志を感じる。

「お前見てると本気だと言うこともわかるが、ただどうも英雄になるのが目的じゃなくて目的のために英雄になろうとしているっぽいんだよな」

 さすがに長い付き合いだけあるな、とカイルは関心していた。
 まさか気づかれるとも思っていなかったのだ。
 いずれ本当の事を、本当の目的を話す時がくるかもしれないが今はまだ早い。

「そうだな……理由はあるがそれを信じる信じないではなく、今は言わないほうがいいと判断したんだ。そこら辺は俺を信じてくれってやつだな、親友」

「そうか……ま、お前がそこまで言うならいいさ」
 今はこれ以上きいても無駄だなと判断したセランが腰を上げる。

「ま、頑張れ。心から応援だけはしてやるからよ」
 手をひらひらと振りながらセランは部屋を出て行った。



 出て行ったセランを見てカイルは不思議そうな顔をした。
「……あいつ何他人事みたいに言ってるんだ?」
 カイルは巻き込む気まんまんだった。



「まあいい……とにかく国の一つ、二つは救わなきゃな。あとわかり易い敵――悪を、それも巨悪を倒しておかなければな。金のほうはあれで何とでもなるだろうし、人脈を構築しつつ名声を広げていけば……」

 更には知名度、名声だけでもダメで実際の戦力も必要になる。
 軍隊とはいかないまでもそれに近い、自分の意思で自由に動かせる戦力だ。

「傭兵団でもつくるか? あるいは自立型魔道兵器を大量に用意するか……」

 やる事が山積みだ、と嘆く。

 いずれにせよ、この辺境の街でやれることはほとんど無い。
 そろそろ旅立たないとな、と窓の外を見ながらカイルは呟いた


やはり展開が遅いですね。
いまだにまともな戦闘すら起こってません。

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