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第一章
第7話 方針決定
「落ち着いたか?」
「うん……」
「反省してるか?」
「ちょっと我を失ってた、ごめんなさい」
 リーゼは正座をしながら目の前のカイルに謝っていた。

 あの後カイルを絞め落とす寸前までいったリーゼをなんとか落ち着かせたのはかなり時間がたってからで、日もかなり傾いている。

「まあ誤解だと分かってくれて何よりだ……しかし何であんなに取り乱したんだ?」
 思い込みが強くたまに暴走する事があったが今回はかなり酷かったと思う。

 口を尖らせ少し涙目で指をいじりながらリーゼが言う。
「だ、だって…………カイル、あたしがいなきゃ何にもできないのにいつの間にか、他の誰かに知らないうちになんて……く、くやしいっていうか……」
 後半になればなるほど声が小さくなっていく。

(こいつこんなに嫉妬深かったっけなぁ……いや俺が気づいていなかっただけか)
 まあ元気なって、元通りになってよかったと思うことにしようとカイルは自分を納得させた。

 カイルはカイルで昨日から様子がおかしいリーゼを少し気にかけており、おそらく自分が原因だろうとわかっていたが正直それどころではなかったので放っておいたのだ。
 笑いながら肝臓を打ってくるのがいつものというのも悲しいが、とりあえず元に戻ったようだった。

「わかった、もう怒ってないから。元気出してくれ」
 軽くリーゼの頭をなでながらカイルが慰める。

 頭をなでられ少し顔を赤くするリーゼ。
「うん……考えてみればいざという時カイル度胸ないからそんなことできるはずないよね。冷静になれば分かったはずなんだよ、本当にごめんね」

「真摯に謝りながらも傷つけるな、おまえは」
「どういう意味?」
「いや、もういい……俺はもうちょっと訓練してから戻るから先に帰ってろ。ちょっと集中したいからな」
「わかった。晩御飯作って待ってるから」
「ああ……あそこの二人にも言っておいてくれ」
 いまだにこちらを伺っているレイラ、セラン親子のいる茂みを渋い顔で見ながらカイルは言った。

 リーゼが茂みに行くと、しばらくしてセランが笑顔で大きく手を振りながら去っていく。
 その笑顔にちょっとイラッとしながらもカイルは一度大きくため息をつき、気を取り直して訓練を再開する。
 次は魔法の訓練だった。



「【ストレンクス】【ヘイスト】!」
 カイルは筋力強化と加速の魔法を自分にかける。
 魔法剣士のもっとも基礎となる自己強化の魔法だ。

 すると身体中を魔力が駆け巡り飛躍的に身体能力の上がるいつもの感覚を感じる。
 がしかし

「どういうことだ? 効力が上がっているな」

 以前の感覚より身体に流れる魔力量が僅かだが多くなっているのだ。
 軽く動いてみると身体能力は落ちたはずなのに以前と同じ動きが出来る。

「【エンチャンテッド・ウェポン】!」
 次に武器に魔力を通し威力を強化する魔法を剣にかける。
 以前はほんのりと刀身が光る程度だったが、今は剣全体が輝いている。

「おいおい……」
 自分の魔法に少し呆れながらカイルはそのまま崩れた遺跡の一部、自分の二倍はあろうかという石材に斬りつける。
 すると練習用の、刃をつぶした剣でありながら石を何の抵抗も無く、まるでパンでも斬るかのように真っ二つに切り裂いた。

「やはり魔力が上がってるな……」
 音をたて崩れる石材を見ながら、以前とは違う感触を確かめたカイルは呟いた。



 カイルの使う古代語魔法を使用する際に大事なのは二つで魔力と魔法制御力だ。

 魔法力こと魔力は魔法の源と言うべきもので魔法を使うと消耗していき、魔力が大きければ魔法の威力や効力も底上げされる。
 また多く消費することで魔法そのものの威力や効力を上げたり、効果時間を延ばしたりもできる。

 魔法制御力は魔法の理論を理解しイメージする力で、これが高いと複数同時に使う多重魔法や、魔法を使うのに必要な詠唱や動作などを省略できる無詠唱魔法が使えるようになる。
 また攻撃魔法の場合、効果範囲の調整ができ広範囲に魔法を放ったり、逆に絞り込んだりもできた。
 更に消費の効率をあげることが出来るため、こちらをあげることでも魔法の使用回数を増やすことができる。

 付け加えると他の神聖魔法と精霊魔法も魔力についてはほぼ同じ扱いで魔法制御力はそれぞれ信仰の力、精霊との親和の力と言われている。

 この魔力と魔法制御力の二つが魔法を使う上でもっとも大事な基礎になり、これが一定のランクに達しないと上の級の魔法が使えない。

 魔力が足りない場合はその魔法を『使えない』、魔法制御力が足りない場合は『使いこなせない』ということになる。
 魔力が足りない失敗は発動しないのでまだいいが、魔法制御の未熟による失敗は暴走ということになり 炎の魔法なら全身火ダルマ、氷の魔法なら冷凍人間になってしまう事もある。

 魔力も魔法制御力も訓練等で伸ばすことはできるが魔力の方が先天的なものが大きく伸ばしづらく、カイルの場合は魔法制御力のほうは最上級、魔力は精々上級魔法を使えるぐらいだった。

「けど今なら最上級魔法も使えそうだな」

 今までの戦いでは魔法はあくまで補助で、能力強化や相手の弱体化くらいしか使わずあくまでメインは剣だった。
 下手に攻撃魔法を使うより身体強化して斬ったほうが遥かに強かったためだが、魔力が上がったなら魔法を主体とした戦いも出来るかもしれない。

「原因はわからないが……とりあえず戦いの幅が広がったと思おう」
 剣を収めながらカイルは前向きに考えることにした。



「いつつ……これだけでもダメか」
 カイルが腕を押さえる。
 軽い一撃だったのだが魔法の強化に耐えられず少し筋を痛めたようだ。

「魔力は上がったが、今の体じゃそれに振り回されそうだな。少しずつでも慣らしていくしかないか」

 肉体が弱まったのはやはり大きなマイナスで剣の方にも魔法の方にもついていけていない。
 とにかく肉体も技術も魔法もアンバランスなのだ。

 だがただ弱くなったわけではなく魔力が上がった分、逆に伸びしろは増えた。
 このまま鍛えればかならず前の全盛期、つまり三日前よりも遥かに強くなれると確信できた。

「あの時より強くか……」

 あの全てを失った『大侵攻』からの一年はまさに死に物狂いだった。
 戦わねば死ぬ、勝たねば死ぬというなか、ただひたすらに生き延びるために戦い続け、復讐のためにあらゆる手段で強くなり続け、気づけば人族で最強の魔法戦士といわれるようになっていたのだ。

 だがその代償は大きかった。

 使ってはいけないと言われる強化魔法や秘薬を使い、無茶な強化を繰り返した結果はボロボロの身体。
 恐らくどんなに安静にしても十年と持たなかっただろう。

「強くなりつつ健康で……幸せな老後をおくってやる!」
 カイルの人生の最終目標が決まった。



 その日の夕食はリーゼのお詫びも兼ねてか豪華だった。
 手間のかかる油を使った揚げ物や、川で取れた小魚をすりつぶしたダンゴのスープ、ウサギ肉を柔らかく煮込んだものや、デザートには蜂蜜を使ったケーキも用意されていた。

「うんうん、いいタイミングで帰ってきたね」
「いやまったく」
「何で二人がいるんだよ」
 レイラとセランの親子にカイルが文句を言う。さすがに昼の件で色々言いたいことがあるのだ。

「いいじゃねえかよ、そのウサギこの間俺が獲ってきたやつだぜ」
「せっかく久しぶりに帰ってきたんだから美味しいのが食べたいじゃないか。家でこいつだけと顔つき合わせて味気ない食事なんてやってらんないわよ」
「カイルちゃん、食事は大勢で食べたほうが美味しいのよ」
 カイルは小さくため息をつくが、確かに大勢の食事というのはこの一年飢えていたので大人しくする。

 賑やかな食事がしばらく進んだ後、カイルが少しあらたまって皆に訊いた。
「母さんに師匠、その他二名に聞きたい事があるんだが」

「ふぃふぃふぁいふぉふぉ?」

「母さんは食べ終わった後でいいから」
 今朝に続きカイルが注意する。

「人選に多少不安はあるが今のところ他に聞ける人もいないので四人に聞きたい」
「人に聞く態度じゃないが飯に免じて聞いてやる、言って見ろ」
 セランも偉そうに言う。

「人族で国家に、それも一つの国ではなく多国間に渡って意見を言え、影響を及ぼすことが出来る人物ってどういうのがいるかな?」



 カイルが今日確信したのは以前よりももっと強くなれるということだが、同時に限界もわかった。

 いくら強くなったとしてもそれだけではあの滅びへの流れは変えられない。
 流れを変えるとしたら、それこそ地平線を埋め尽くすかのような大軍を一人で全滅させるような力が必要になるが、それはさすがに無理だ。

 なので現実的な方法は事前に戦争の準備をして、各国各種族の協力体制を明確にし攻められたときに迅速に対応する。
 これがもっとも人族の生き残る確率が高いはずだ。

 それには人族全体をそう誘導をできる立場になるしかない。

「国に意見できるねえ」
 レイラが腕を組んで考える。

「単純に他国に影響を及ぼすという事ならやっぱり大国の王よね」
 今だったらガルガン帝国の皇帝かしら、とセライアが言う。

「ああ、あれね……」
 ガルガン帝国は拡張を続ける軍国主義の国。
 プライドが高くその矜持の為に死んでいった若き皇帝をカイルは思い出した。

「何か直接知ってるかのような口ぶりだな」
「噂で知っているだけさ……他には思い当たらない?」

「そうねえ……大地母神カイリスの最高司祭なら大分影響力が大きいわね」
 人間にもっとも信仰されている主神の名を上げる。

「他にはちょいと弱いが商人ギルドや魔法学院の長あたりかな。あいつらの人脈はすごいからな」
 昔は世話になったなとレイラが思い出しながら言った。
「その他になると……さすがに浮かばないな」

「あ、もし今もいたらランドルフ様がそれにあたるんじゃない?」
 リーゼが三百年前の、最後の魔族との大戦争の際活躍し当時の魔王を討ち取った大英雄の名を上げる。

「ああ、確かに今いたら人間どころかドワーフやエルフ達も言うこと聞くだろうな」
 セランも同意する。

「ふむ、英雄か……」
 確かに英雄は人々をひきつけるものも、力強さもある。

 あと三年……いや準備や余裕を考えるのなら二年と半年ぐらいしか時間は無い。
 それまでには皇帝にも最高司祭にもなれそうも無い。
 それならば可能性のあるのは一つしかない。

「それなら、なるしかないか……英雄ってやつに」

 世界を救って英雄になるのではなく、世界を救う為に英雄になる。
 順序が逆だが仕方ない。

「英雄になる。それしかないな」

 カイルは力強く立ち上がり――おかわりをよそりはじめた。



 妙に気迫のこもったカイルの後姿を見ながら四人はヒソヒソ話を始める。
「なあ、やっぱりあたしが旅してる間何かあったんじゃないか?」
「でも思い当たらないんです。治癒師にも見てもらったし念のため癒しの魔法もかけてもらったんだけど異常はないって」
「う~ん……そういえば何年か前カイルちゃんもセランちゃんも自分達は特別だ、とか天に選ばれた戦士だと言ってなかった?あれが再発したんじゃない?」
「ああ、言ってた言ってた。あの時は周りの友達全員ドン引きだったよ。ほんと酷かったね」
「剣や魔法でちょっと強くなり始めた時期で調子に乗り始めたときだね。独自の魔法や剣技を作り出してたとか言って……あたしとセライアで臨死体験十回ほどあじあわせてやったら大人しくなったけ」
「いやな事思い出させないでくれ。しかしあれが再発したとなると……俺としては今回は見守ってやりたいんだが。どうせ後で死ぬほど後悔するだろうし」
「そうね……一応前向きにやる気になってるようだからまだいいけど」
「カイルちゃんなら大丈夫よ」
「あんたの大丈夫は昔から根拠無いんだけど……仕方ない今回は大人しく見守ってやるか」

 おかわりをよそっているカイルを四人は暖かい目で見ることにした。
魔法の説明ですがマイフェイバリット漫画〇イの大冒険で例えるなら

魔法制御力が高い場合、ギ〇で花びらの一部だけを焼く
魔力が高い場合「今のはメ〇ゾーマでは無い、メ〇だ」

ができるようになります。



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