「とは言ったもののどうしたものかな」
あの決意の夕暮れの丘から翌々のまだ日も明けきらない早朝、カイルは机に向かいながら昨日からほとんど徹夜で考え込んでいた。
あれだけ決意したものの具体的な方法が思い浮かばないでいたのだ。
正確には浮かんではボツになっていくというべきか。
まず真っ先に考えたのは事実を全て話すということだ。
自分は四年後から来て三年後には魔族が総攻撃をかけてくるぞと声を大にして周りに言う、ということなのだが
「当然ながら信じてもらるわけないな。俺だってこうして体験しなきゃ鼻で笑ったろうな」
常識から考えればそんな事がおきるはずがない。
四年後ならば『人族最後の希望』と持ち上げられたものだが今のカイルはただの一般人、発言に何の力もない。
それに信じてもらえないだけならまだしも狂人として隔離でもされたらたまったものではない。
それどころか人族を混乱させようとしていると、魔族側への裏切り者扱いされたら捕らえられ処刑だろう。
唯一の証拠ともいうべき『神竜の心臓』これを見せれば多少は説得力がでるかもしれない。
見るものが見れば伝説の宝物とすぐわかるからだが、それには危険も伴う。
これほどのものになれば当然価値も凄まじいものになるし、そうなるとよからぬ者の目を引くものだ。
それに例え個人的に信頼され信じてもらっても、少人数にとどまるだろう。
それでは駄目だ。人族全体に信じてもらってこそ意味があるのだ
そもそも何故あそこまで、滅亡寸前まで人族が追い込まれたのか、理由は明白だった。
「……初めの対応が最悪だった。完全に油断していたし、協力体制もまるでなってなかった」
これはあの戦いの一年間でカイルが一番思い悔いていたことだった。
戦力的に言うならば人族全体の力をあわせることが出来れば勝てる、とはいかないまでも間違いなく互角までは持っていける。
事前に守りを固め、大侵攻に備えることができたら大きな被害なく退けられただろう。
だが人族全体が協力する、言葉にすれば簡単だが現状では到底無理だ。
まず最大数を誇る人間が一番まとまっていない。
各国間での争いは領土問題、経済格差、宗教問題等々……あげていけばキリがない。
小競り合いも頻繁に起きており、それこそ魔族という共通の敵がいなければとっくに大戦争がおこっていただろう。
他の人族、一般に亜人と言われるエルフやドワーフ達にも根強い種族間の諍いもある。
ちょっと考えただけでもいくらでも浮かぶ問題にカイルは頭を抱えた。
「いっその事、今のような小康状態でなく頻繁に攻めてきてほしかったぜ。そうすりゃもうちょっと危機感があったろうに」
人族間で争っている場合じゃないと、無理やりにでもまとまっていただろう。
だが三百年の仮初の平和はやはり長かった。
千年は生きると言われているエルフならともかく人間なら三百年もたてば何世代も代わる。
いくら何千年にもわたる宿敵がいたとしても実際にその脅威にさらされなければ警戒感は薄れるというものだ。
魔族領に近いこのリマーゼの街ではさすがに警戒しており、高い壁で街を囲み、兵士が見回りを行っているがそれでも危機意識が高いとはいえない。
カイル自身も含めあの大侵攻まではまさか自分たちの街が一日で滅びるなんてほとんどの人が思っていなかったはずだ。
魔族領に近い住人ですらこうなのだから他の人間、人族は言うまでもない。
次の案として考えたのは今から魔族領に乗り込んで魔王を、正確には三年後に即位する次期魔王を討つというものだ。
大侵攻はあの魔王の手によって推し進められたものだから、確かにこれができればおそらく大侵攻そのものがおこらない。
「問題は間違いなく不可能だということだな」
前提として魔王のことがほとんどわかってないのが問題だ。
かろうじて解るのはその直接対峙したからわかる容姿だけでその他は名前すら知らないのだ。
それだけで敵地の広大な魔族領の中から見つけ出すのは不可能だ。
そもそも魔族側の情報が人族に伝わることはほとんどなく魔族領で起きていることに干渉する方法は無い。
例え幸運に幸運が重なって見つけたとしても討ち取れるかどうかはまた別問題になる。
四年後より、戦った時より強いという事はないだろうがそれに近いものとして考えておいたほうがいい。
確かに自分は魔王にとどめをさしたがそれは最後の仕上げをしただけとカイルは思っている。
それは他の誰かでもいいし、その為には多くの犠牲が必要になる。
魔王城に突入したとき仲間は総勢で百人はおり、誰もがここまで生き延びた人族の精鋭達だった。
だが魔王の間までたどり着けたのは十人足らず、そして最後まで立っていたのはカイルだけだ。
本当に運が良かったとしか思えない、もう一度やれと言われても絶対に無理というぎりぎりの勝利だった。
カイルは大きくため息をついた後机に突っ伏した。
「結局俺一人で大侵攻そのものを事前にふせぐってのは間違いなく不可能だな……となるとどうしたものか」
そこで少し考えを変えて現状で何が出来るかを考える。
カイルは机の上においてある冊子を手にとった。
「俺に有利な点は……まあこれだよな、記憶力が良いほうでよかったぜ」
やはり大きいのはこれから起こる事を知っていることだろう。
その冊子にはこれまでの四年間、つまりこれから起こる四年間の事を書いておいた。
無論詳細に記録していたわけではないが思い出せるだけでも結構あるものだ。
それを昨日丸一日かけ、何が何の役に立つかわからないのでとにかくひたすらに書き綴ったのだ。
それこそ各国の情勢や魔族の攻撃方法から天気、印象に残った料理まで思い出せることはとにかく全部だ。
これは有効に生かせば色々なことができるはずだ。だが
「問題はこいつを使って何をするかだよな」
煮詰まってきた脳を冷やすかのよう頭を振るが無論それだけで良い考えが浮かぶわけでもない。
他に役に立ちそうなのは自分の強さだ。
四年後には人族でも最高レベルの魔法剣士だったカイルだが、今の自分の幾分細くなった腕を見る。
「ちゃんと確かめてみないとな。体調のほうも気になるし……」
気分転換にもなるな、と壁に立てかけてある剣に目をやった時周りが明るくなっていることに気づいた。
いつの間にか日も昇り家の外でも色々な人が動いている気配がある。
そしていい匂いもしてきた。
「朝飯食ってくるか……」
空腹の腹をさすりながら階下へと向かった。
「あ、おはようカイル。起こさずに来るなんて偉いわね」
今日も食事をつくりに来てくれていたリーゼが挨拶してくる。
「ああ、おはよう」
「おふぁひょうふぁいるひゃん」
すでに食べ始めていたセライアもカイルに笑顔で言う。
「おはよう母さん、食べながら喋るのはやめたほうがいいよ」
あと口の周りにジャムもついてるからね、と付け加える。
「ほら、冷めちゃうから早く食べて」
リーゼが椅子を引いてカイルを座らせる。
「ありがとう……ってリーゼ、何か昨日から妙に優しくないか?」
カイルは昨日一日部屋にいたのだが喉は渇いてないか、何か用事はないかと色々と理由をつけては声をかけてくるのだ。
それだけならいいのだが、普通の優しさではなく労わるというか気遣うというか、まるでお年寄りや子供、病人に対するような優しさだったのが気になったが。
「そんなことないわよ。あ、そのパン少し硬いし大きいから切るわね」
喉に詰まらせたら大変だわ、と切り分けるリーゼの姿を見てまるで介護のようだな、と思ったのは気のせいだろうか。
やはりあの決意の後急に意識を失ったのを気にしているのかもしれない。
意識を失ったカイルが目を覚ますと心配そうな顔をしたリーゼに急いで大地母神の教会に連れて行かれ癒しの魔法をかけてもらったものだ。
「ところでカイルちゃん、今日も部屋に閉じ篭るの?健康に悪いわよ?」
「いやこの後出かける、ちょっと剣の練習をしたい」
母さんに言われたらお終いな気がする、とはさすがに口に出さなかった。
「あら、カイルちゃんが剣を振るなんて久しぶりじゃない」
「そうね自分からなんて珍しいわね、何かあったの?」
二人は不思議そうな顔でカイルを見る。
「ちょっとした気分転換ってやつだよ」
パンをかじりながらそういやこの時期剣の練習さぼってたな、と思い出していた。
どうも展開が遅いのでこれからは更新スピードを速めていきたいと思います。
目標は二日に一回くらいですがあくまで目標です……
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