第二章 傾国の宴 腹黒王女編
百七十一日目~百八十日目
“百七十一日目”
外は強い風もなく、深々と白雪が降り積もる闇夜が広がっている。
日付が変わったのは一、二時間ほど前で、陽が昇るまであと数時間といった頃合だが、こんな時間から今日も元気に王城で暗躍する事とした。
今回も前回と同じく、団員の中でも小柄で隠密行動に優れた下忍コボルドと同年代ゴブリン達が王城の物陰や夜闇に紛れ、警邏中の兵士に紛れた【貴族派】に与する私兵のみを徐々に削っていくだけの簡単なお仕事だ。
勿論そんな面倒で迂遠な事をせず、この秘密の地下室にて分体を量産したり、延々と消耗品扱いできる駒――ブラックスケルトンやブラックオーガといった存在を生成し続ければ、その圧倒的な数で大孫達を圧殺する事は容易だろう。
俺は【魔力吸収】によって闇などから魔力を補給できるので体内魔力が枯渇する事はよっぽど無茶をしない限り無いだろうし、そもそも自前の体内魔力だけでブラックスケルトンなら約五千体用意できるのは実証済みだ。
分体も水は簡単に確保できるので材料に困る事がない。
それに【中位アンデッド生成】を持つカナ美ちゃんの協力や、個体を喰った事で制限が解除されて生成する事が可能となったブラックスケルトンの上位種であるブラックスケルトン・コマンダーを数体生成しておけば、それなりの時間は必要になるが一人でやるよりも早く、総合で万を越える兵数を用意する事は十分可能だ。
不安要素としてコマンダーが生成したブラックスケルトンは俺が生成した個体と比べて全体的に劣化した能力値になる事と、万の兵数を用意できても大半がアンデッド族なので太陽が昇れば儚く消滅してしまう存在だという事が挙げられる。
ただそれでも使い捨てとしては十分基準を満たした戦力になるし、アンデッド族の大敵である太陽が昇るまではあと数時間もあるのでそこまで気を付ける必要もないだろう。
それだけあれば、圧倒的物量で敵を磨り潰す事は非常に容易い。
ただし【炎熱】や【聖光】、鈍器による【打撃】など、スケルトン種特有の弱点は広く知られているので即座に対応されるだろうが、数はそのまま力になる。
敵に対抗処置を採られたとて、ブラックスケルトン級のモンスターが万単位で内部から奇襲すれば、陥落しない要塞などそうは無い。
だから敵の中核である大孫や蛇爺達が一カ所に集っている今、襲撃する絶好の好機であるのは間違いない。
ここにはミノ吉くんやスペ星さん、アス江ちゃんやグル腐ちゃんなどといった主力組の殆どが居ないとは言え、一定以上の戦力はある。生成による戦力の量産・補給もできる。
という訳で、ほぼ確実に勝てる状況と術が揃っているのだが、しかし俺が選んだのはゆっくりと内部から浸食するような作戦。
それを選択した最たる原因は、雇い主であるお転婆姫にあった。
曰く――
『城の被害はできるだけ抑えて欲しいのじゃ。あれでも王国の象徴であってな、血で穢れて、お主の馬鹿げた力で壊されてしまうのは、出来るだけ避けたい。それにここまで来ると大孫達だけを暗殺してハイ終わり、とはいかんでな。きちっと正面から、でなくともよいが、とにかく、我が彼奴等を叩き潰したと内外に知らしめる必要があるのじゃ』
――だそうだ。
こちらとしては面倒だが、確かに、その言い分は分かる。
お転婆姫にも、王国の頂点に立つ血族としての面子がある。
このまま舐められたままで居られるはずもないし、反逆した貴族を捩じ伏せるだけの武力を持っているのだと、広く見せつける必要があるのだろう。
王族のほぼ全員と王城を抑えられた状態で、クーデターを起こした【貴族派】のトップを俺達が暗殺しました、だけでは後々の王国運営にも影響があるし、残りがまだ諦めずに暴走する可能性が高い。
そうなれば面倒になるのは必至だ。
一度は叩き潰してハッキリと勝敗を決しないと、内戦が終わって俺達が去った後、貴族の力が今よりも大きくなって再度クーデターが発生する可能性が高い。
それになにより、暴走の影響で王国の領土が荒れに荒れ、盗賊や蛮族の類が発生あるいは他国から流入し、挙句の果てに混乱の制定とか同盟国だからだとか、色んな理由を捏ねて帝国など周辺国やらが王国を分割統治するかもしれない。
それは王国の頂点に君臨しようと目論む、可愛い顔して色々企んでいる幼い腹黒姫にとって、それは回避したい事だろう。
そう言った雇い主の意向ならば仕方ない。という事で、相手の士気を適度に奪う為に今回の選択をした訳だ。
外部からはお転婆姫が囲い込んだ精強として知られる公爵家の軍――最も数の多い【歩兵】や軍馬といった騎獣に搭乗している【騎兵】など、兵種は様々だがその数は全て合わせて五千ほど――という脅威がプレッシャーをかけ、内部からは俺達が疑心暗鬼の誘発と戦力削減に勤しみ、引っかき回す。
これを続けて士気が落ちないというのなら驚愕ものだ。そうなったら素直に大孫達の統率力を認めるしかないだろう。
まあ、現状は問題無く事が進んでいるから、何も失敗しないとは思うのだが。
現在、王城に詰める大孫の手勢は多くても三千ほどしかいない。貴族達の領地にはまだまだ予備戦力が待機しているが、王城に居るのはこれくらいだ。
その中で大孫や蛇爺といった【貴族派】の重要人物の周囲を常に警備している精鋭、と呼べる者達は三百程度だろうか。
この三百は個々が最低でも三つ以上の戦闘系【職業】を持ち、総合的な戦闘能力がかなり高い。最低でも俺達の故郷の大森林で部隊を率いていた鈍鉄騎士達と同等か、鈍鉄騎士よりも強い実力者ばかりだ。
こいつ等は【亜神】の【加護】を持っている者も多く、数は少ないが【神】の【加護】持ちもいる。
良く言えばもう少しで【勇者】や【英雄】に成るかもしれない【英勇の卵】達、悪く言えば【勇者】や【英雄】に選ばれるほど優れた能力や【神】に好かれる人格、強靭な精神力を持たなかった成り損ない達である。
そんな人材の集団が日頃の訓練の賜物により、一糸乱れぬ連携のとれた動きで一個の巨大な群れとなるのだから、手強いのは必至だろう。
こいつ等はブラックスケルトンよりも強い団員達が相手しなくては、殺せない可能性が高すぎる。
連携を取る間もなく攻め立て、個人個人に百や千など圧倒的物量を仕向ければ押し潰せない事は無いだろうが、力押しだけでは無駄に被害が拡大しそうなので注意が必要になる。
まあ、大孫達からそこまで離れないだろうから、動きが読み易いというのはありがたいのだが。
残りの約二千七百は常日頃の訓練によって一定以上の水準に達しているが、そこまでの強さは無いようだ。
ブラックスケルトンを二体以上纏めて仕向ければコチラの被害を少なくしつつ、簡単に殺せる程度の強さしかない。
コチラは無駄に策など弄さず、真正面から物量差で押し切ってしまえばいい。
もちろん敵の武装や連携、地形や相性によって苦戦する可能性は無くもないが、よほどの事が無いと脅威にはならない存在だと判断して問題無いだろう。
それにもしブラックスケルトン達で殺せなくても、王城の被害を度外視した最終手段として人間、あるいはヒト型モンスターを爆弾に変えてしまうアビリティ【人間爆弾】を併用すれば、そこで勝負は決められる。
直径数メートル内の人間を高確率で爆殺できる【人間爆弾】によって動く爆弾となったブラックスケルトンの群れなど、相手の立場になって考えるとゾッとする。
敵からすればブラックスケルトンだけでも厄介なのに、倒したと思えば唐突に発生する爆発を防ぐ事は困難を極めるだろう。しかも爆砕時に周囲に飛び散った黒骨が加わるとなると、その被害は決して侮れるものではないだろう。
爆散した黒骨はしばらくすると霧散してしまうが、それは被害者の傷を塞いでいる物が無くなるという事であり、迅速に手当てしないと失血死する可能性を高めるだけで、決して気休めになるものではない。
自分がする事なのに悲惨だ、としか思えない結果が出せそうだ。
勿論、爆発は条件を満たしておけば任意で行えるので、リスクとリターンを考えればやる時は躊躇なくやらせてもらうのだが。
そんな訳で、敵戦力で最も警戒する必要があるのは精鋭の三百、では勿論ない。
最も警戒すべきは、それぞれの理由から【貴族派】に力を貸している二人の【勇者】と、その九人の【仲間/副要人物】達だ。
個人的には亡き大臣に受けた恩を返す為、という理由で力を貸している幾多の戦場を生き抜いた歴戦の【勇者】である岩勇が最も厄介――俺が大臣を殺した犯人的な意味で――なのだが、全体的に見れば人質にされてしまった家族の為に戦っている水勇の存在は非常に危うい。
というか、ヤバい。
水勇は復讐者と同じく農民出身なのだが、耕す土地が悪かったらしく、作物が育ち難かった。その為家には余裕がなく、幼少の頃からかなり貧しい生活をしていたらしいが、それでも隣人や家族と助け合い、何とか暮らせていた。
しかし水勇が十歳になった頃、土地を治める領主が税を普通よりも多く徴収し、私腹を肥やす悪辣な輩に変わってしまった事によって貧困が加速した。
ただでさえ貧乏だった水勇は、その家族は、協力し合いながら暮らしていた村人達は、その日食う物にも困るような有様で、最も酷い時には枯れた草の根を齧っていた時代もあるそうだ。
だがある日【神の加護】を授かって、復讐者と同じように王都の学校に通う事となった時を境に生活は改善されていった。
家族を養う為という目標を掲げて日々邁進した結果、かなり好成績で卒業。その後は軍に入り、それからしばらくして正式に【水震の勇者】となった時には、その権力を使って自分達を苦しめた領主を自らの手で殺害している。
その際には領主に少しでも自分達が味わった苦しみを刻むように、手足を先端からジワジワと斬り落とし、食糧も水も最低限度しか与えず、生かさず殺さずタップリ拷問したそうだ。
つまり平凡な顔に似合わず、水勇はかなり過激な性格をしている。
繰り返すが、水勇が国に仕えているのは家族を養う為だ。
だから国や王族に対して心の底からの忠誠心は無く、むしろ嫌悪している感じですらあり、ゆえに王族殺しも厭わない。
それが仕事なら何でもするそうで、影から邪魔者を消すのが闇勇なら、水勇は正面から王国の邪魔者を排除する役目を担っているという。
そんな水勇の性格的に、大切な家族を助ける為に死に物狂いでこっちを、特にお転婆姫を殺しにくるのは想像し難い事ではないだろう。
勝利条件の一つがお転婆姫の殺害だからだ。
ちなみに水勇は水の振動を介した広範囲攻撃を得意としているので、下手にブラックスケルトン達が固まっている所で暴れられれば、一掃されてしまうに違いない。
一応アビリティの出し惜しみをしないのなら、俺とカナ美ちゃんのペアで二組の【勇者】パーティと同時に戦っても叩き伏せる自信はあるが、そうなると戦いはどうしても長引いてしまうだろうし、そもそも戦場では何が起こるか分からない。
思わぬ出来事で足元を掬われては面白い筈もない。
とりあえずこいつ等を二人で抑える事だけは確定なので対応は臨機応変として、一先ずこの問題は横に放置する。
【勇者】以外にもきっとあるだろう大孫達の奥の手、は今の所確認できていないので何とも言えない。
何となくあるとは思うのだが、【勇者】だけで普通なら十分と言えば十分なので、そんなものは無い可能性も高い。
とんでもないジョーカーが出なければ概ね予定通りに進行するとは思うが、さてはてどうなる事か。
大抵の奥の手なら圧倒的物量でどうにでも出来るとは思うが、警戒しておいて損にはならないだろう。
何も無いのが一番いいのだが、そう安易に進まないだろうな。
とまあ、判明している敵の戦力と現状はこんな感じになっている。
それでお仕事だが、一応、大孫達もこのまま兵士や貴族が暗殺され続ければ士気に関わると理解しているので、色々な対策を採り始めていた。
前回の教訓によってか、夜に王城を巡回している兵士は三人一組で固まっている。小心者な貴族が混じっていると五人、十人と群れて一緒に回っている大所帯なのもちらほらと存在するが、基本的には三人一組だ。
それに前回までの彼等の防具は厳重な警備が敷かれている王城だからこそ華美な見た目重視の観賞用に近い布系装備だったのだが、それではなくなり、金属製の胴鎧や手甲具足などにグレードが上がっている。
時間が時間なので流石に重く、動くだけで五月蠅い金属製の全身鎧を装備する者こそ居ないが、指輪やイヤリングなどの装飾品は防御力アップ系の能力を持つマジックアイテムに入れ替えているようだ。
兵士の腰には長剣や短剣が吊り下げられ、片手には光を発するランタンと動体センサーのような役割を果たすコンパスが融合したような形状のマジックアイテムが握られている。
マジックアイテムは少年騎士によると“ビーコンパス”というらしく、結構高額な品だが性能は折り紙付き。
特徴としてビーコンパスは動く物だけでなく、効果は前方百八十度に限定される――これは持ち主やその後ろに居るだろう者達を索敵対象から除外する為――が、生物の生命力といったモノにも反応するらしい。
なので、隠れる事は困難を極めるという。
ただ、そんなに充実した装備に身を包んでいるのにビーコンパスの針が僅かにでも動く度に針先を血走った眼で睨み、それが風に揺れただけの木の葉だと理解するや否やホッと息を吐き出す。しかし常に柄には手が添えられ、恐怖からか微かに震えている。
という様は、彼等が狩られる立場の存在にしか見えないし、事実その通りになった。
自分自身の感覚ではなく、マジックアイテムによる索敵に頼ってしまっている時点で、彼等は決定的な隙を生んでしまっていたからだ。
こちらは敵の平均的な三人一組の倍になる六体一組で行動させた。
ビーコンパスは動いている物や生命力を感知する優れモノではあるが、その構造からして針は上下に動き難い。普通なら水平の動きだけで事足りるからだ。
だから通路の高い天井の片隅に生じた薄影の中に、丈夫な布とブラックスケルトン三体分の黒骨を【骨結合】でつなぎ合わせて造った外装鎧【動く黒骨の鎧】の背中に生えた蜘蛛のような八本脚を使って張り付いてジッとしていると、その反応はかなり微弱なモノになる。
弱点さえ知っていれば奇襲によって物音一つ立てる事なく狩るのは容易な事だった。
とはいえ、このやり方も兵士が自分の感覚で索敵していれば、ゴブリン達の吐息や骨鎧が動いて擦れる僅かな音を聞く事ができたに違いない。
しかしだからこそ、マジックアイテムに頼るばかりで索敵能力が低く、全く上に意識が向いていない人間を相手するには十分過ぎたようである。
ただ六体一組とした分だけ前と同じ時間で狩れる数は減っているが、こちらの正体をまだ見られる訳にはいかないので仕方ない。
そんな訳で今回の仕事により、王城から私兵が三十六人ほどひっそりと姿を消してこの世からも居なくなり、王都に私邸を持つ貴族が六名ほど、私邸の自室にて亡き大臣達と同じように毒殺体となった。
毒殺された貴族は以前と同じく大孫といった主要な人物ではなく、情勢を読んで身を寄せた者、【貴族派】に属する宗家の命によって加わった者、あるいは馴染みの誘いなどによって仕方なく入った者など、様々な事情によって末席に加わった者達だ。
ちなみに貴族の死体が転がっていた絨毯の敷かれた床や、着ている豪奢な衣服、あるいはもたれ掛かっていた為に血の跡がある壁には、貴族の血と特殊な素材を混ぜた赤黒い塗料によって『次の毒袋は一体誰か?』と次の殺人予告が書かれている。
予告状は混ぜられた特殊な素材によって暗くとも怪しく光るだけでなく、時間が経って血が滴り落ちた跡などにより、より一層猟奇的な雰囲気が出ている。
それを見てしまったメイドや執事達が悲鳴を上げる、という場面もあったくらいだ。
書かせた犯人としては、怖がってくれると、気分もいい。
そして夜は明け、陽が昇った。
今日は陽が昇る少し前から、王城と貴族街が活発に動き始めていた。
王城内を慌ただしく行き交う騎士や主に付き従う近衛兵達の足音、部下に指示を出す武官達の野太く重低音な声、主の朝食を運ぶメイド達が食器で響かす僅かな音色、多数の馬車や兵士が物資を運ぶ作業音。
そのどれもこれもが、迫るお転婆姫軍に対する準備に関係しているモノだった。
といっても昨日の内に大方の手配が済んでいた為、ある程度は予定通りに大孫達の準備は進んでいるようだ。
上から下に出された命令は順調に消化され、混乱も少ない。
これはクーデター直後で戦の準備が殆ど終わっていたからこその準備速度だとも言える。普段ならもう少し手間取っていたに違いない。
ちなみに昨夜の内に大孫達によって貴族達が領地に残していた戦力も、飼い慣らされた“鷲獅子”や“翼亜竜”を用いた飛行便によって指令書が届けられ、準備させている為、かなりの数の戦力が短期間で整う事になる。
そして準備が終われば兵数だけでお転婆姫軍を軽く越え、さらに二名の【勇者】が味方している連合貴族軍が完成する。
闇勇は第一王妃と共に何処かに行ってしまったし、樹勇は此度のクーデターに関しては静観する様子。
だから暗殺に対する恐怖はあれど、我等が勝てない道理が存在しない、という雰囲気が敵側に満たされそうになっていた。
そんな所に、再び貴族が暗殺される、という情報が広がった。
俺としては真っ先に報告が届いた大孫と蛇爺が士気低下を防ぐ為に箝口令でも敷くかと期待していたのだが、それをせずにそのまま真実を広めたので、情報の広がりは早かった。
ここにきて更なる貴族暗殺の情報を秘匿するのは下策と判断したらしい。ただ血の予告状に関しては曖昧に流す程度に抑えられていた。完全に隠していないし、調べれば分かる事だが、知らないままでいる者もそれなりに居る、という絶妙な調整がなされている。
士気を落とし過ぎず、かつ情報を秘匿していない。
これでは後で予告状を知っても情報収集しなかった者の能力不足という事になり、士気はどちらにしろ落ちるだろうが最初から全員が全て知るよりかはまだマシ、という事になりそうだ。
箝口令が敷かれたら、その場合は俺が頃合を見て情報を流布しようとしていたので狙いは外れてしまった形になる。
だが、一応目的通りに【貴族派】に流れる空気が重くなっているので良いとしておこう。
本当なら致命的な時期に内乱へと持ち込みたかったのだが、アチラが多少なりとも疑心暗鬼になれば十分だ。
流石に大孫達もそれを分かっているから何かしら対策を講じるだろうが、分体による情報収集能力があるのでその都度裏をかけばいい。
準備は今日にも終わりそうだ。
大孫達は俺達を警戒してお転婆姫軍を城壁で覆われた王都で迎え撃つのではなく、王都とお転婆姫軍の丁度中間に当たる場所に広がる平原にて、正面から叩き潰す事にしたらしい。
策を弄さぬ、純粋な力技だ。
なので、そうなればお転婆姫軍はほぼ確実に負けてしまう。
兵数だけでなく質も【勇者】という存在によって大幅に向上されている【貴族派】に正面から衝突しては、とてもではないが勝てる要素があまりに少ない。
戦略や戦術を駆使してても、軍勢を突っ切っていくだろう【勇者】――この場合は水勇パーティの事――の前ではどうなるか分からない。
なんとか負けないようにはできるかもしれないが、あまり期待しない方がいいだろう。
そもそも俺達は王城奪還を第一に考えればいいので、どうなろうが興味は薄い
まあ、お転婆姫軍にも保険は掛けているから大丈夫だろう。
全滅する事はあっても、壊滅する事はない。
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第六節【這終の城】の隠し条件≪恐怖の城夜≫≪這い寄る悪意≫がクリアされました】
“百七十二日目”
どうやら天は大孫達に味方していないらしい。
上空は分厚い黒曇によって覆われ、太陽が隠れているので昼間でも薄暗く、立っていても転びそうな程強い白雪混じりの風。朝の時点で積雪は三十センチを超え、時間経過と共にその高さは増していた。
とてもではないが行軍できる状況ではない。
何かしらの【魔法】を駆使すれば行軍は出来ない事も無いだろうが、凍傷などによって無用な犠牲が出るだろうし、全体の士気低下は免れない。
恐らく明日か明後日にはこの吹雪も止むだろうから、それまで大孫達は行軍を延期したようだ。
ちなみに公爵率いるお転婆姫軍もそれは同じだが、俺が予め仕込んでいた貴族――“草”の一部が領地の町に匿っているので、吹雪の中でテントを張って野宿する、といった事にはなっていない。
お転婆姫軍にはできるだけ損耗の無い状態で貴族軍と衝突してもらいたいから、最低限の援助と言えるだろう。
余談にはなるが、こんな天気はこの季節だと昔から稀にあるという。
なんでも上空を【知恵ある蛇/竜・龍】が住む空飛ぶ大陸が通過する際、空飛ぶ大陸を支える積帝雲――この世界独特のモノで、積乱雲よりも規模が大きいようだ――が原因で今日のような天候となるらしい。
ただ空飛ぶ大陸は決まった日に来る訳ではないし、その予兆も無いので予想し難い。
なので今日この時に来たのは、大孫達からしたら運が無い出来事だった。
この絶好の機会を逃す手は無い。
都合良く分厚い雲と雪によって陽光が遮られているので、ゴーストといった最下級のアンデッドでも自然浄化されない環境が整っている。
お転婆姫の意向で『城を出来るだけ破壊しない』という制限があるから、俺は地下室で【幽霊】とゴーストの強化版である【黒幽霊】を大量に生成した。
ゴースト系はゴースト自体が純粋な物理攻撃ができない代わりに、魔力を纏わない物理攻撃は全て透過して無効化するから、城を壊す事がないので最適だ。
ゴーストとブラックゴースト達の顔は死んだ貴族や私兵達のモノに似せ、それを合計で四千体ほど生成する。
そんな俺の傍らで、カナ美ちゃんも【中位アンデッド生成】を使って幽霊の強化版【紫幽霊】を二千体ほど生成していた。
普通のゴーストは半透明なのに、俺達が生成すると黒や紫などの色が付与されるのは、加護神によって付与される能力の方向性が変わるからだろう。ちなみに黒と紫なら、黒の方が強い。が、【中位アンデッド生成】という一つ高位の能力による補正からか能力値的にはあまり大差が無いようだ。
それで生成した六千の内、普通のゴーストである二千体を除いた黒と紫の四千体を、【魂魄喰い】を使用してチュルチュルと麺類のように啜り喰ってみた。
【能力名【未練の掌】のラーニング完了】
【能力名【未練の黒掌】のラーニング完了】
【能力名【未練の紫掌】のラーニング完了】
【能力名【幽霊の叫び】のラーニング完了】
流石に総合で四千体も喰えばラーニングはできたが、今の状態だと一つラーニングするのに約千体は喰わねばならない、という事になるのだろう。
量と質、両方兼ね揃えた良い獲物は無いだろうか、と思案してみる。
それと喰った事で条件を満たしたからか、カナ美ちゃんが生成していたパープルゴーストは俺も生成可能となっている。
まあ、態々黒に劣る紫を生成する事は今後ないと思うのであまり意味はなさそうだが。
といった事がありつつ、喰わずに残したゴースト二千体は、王城に全て放ってみた。
するとどうなったか。
阿鼻叫喚である。
背後の壁をすり抜けたゴースト達による接触攻撃【未練の掌】――触れた者に【倦怠】や【陰鬱】など低位の状態異常を付与する。肉体的なダメージはほぼ無いが、精神的には高ダメージを与える場合も有る――によって、兵士が体調不良を訴えて医務室に運ばれたり。
頬は痩せこけ眼が落ちくぼみ、ゾッとするほど蒼褪めた大臣や貴族の顔を持つゴーストを運悪く目撃してしまったメイドや貴婦人達が悲鳴を上げて失神したり。
ケタケタキャハキャハと甲高い【幽霊の叫び】は何処から聞こえるのか分からぬまま王城内部で響き続け、聞いた者の精神をガリガリと削ったり。
鉄砲水とでも表現するようなゴーストの大群に呑まれ、あまりに多すぎるバッドステータスによって精神力の限界を突破したのか、ブクブクと泡を噴き出して意識を失う者が続発したり。
といった具合に、実に様々な事が起こった。
ゴーストは黒でも魔力を纏った攻撃によってサクッと殺されてしまうくらいに弱いのだが、数が数だけに全てを駆除されるまでには時間がかかった。
全てが駆除されるまでに大体一時間程度が経過していただろうか。
思った以上に効果があるようだったので、今日は八回ほど生成してはゴースト達に大孫達を襲わせる、という事をやってみた。
やればやるほど相手の対応は早くなっていたが、相手が気を休める暇を与えない、という成果は出しているので十分だろう。夜中もゴースト達の笑い声が響いていたので、明日か明後日の行軍は結構酷い有様になりそうだ。
それに引き替えこっちは生成して、魔力補充して、ゴーストが全滅する前まで休んで、また生成して、と疲れもあまり無い。
実に楽なものである。
本日の合成結果。
【未練の掌】+【未練の黒掌】+【未練の紫掌】=【幽鬼の呪掌】
“百七十三日目”
今日も吹雪くかと期待していたが、そう都合よくはいかないようだ。
気温は上昇し、昨日の豪雪が嘘のような蒼穹が広がっている。遮るモノがないのでそのまま降り注ぐ陽光は、七十センチ程に達した積雪に覆われた地表で反射し、光り輝いている。
外に出ると眩し過ぎて眼が悪くなりそうだ。
そんな中を、大孫は二千の兵と水勇パーティを率い、迫るお転婆姫軍に向けて行軍を開始した。
行軍の障害になる積雪は飼い慣らされたボルフォル数頭の頭部に“く”の字型の鉄板――エンチャントによって熱を発する――を装着し、力尽くで除雪するようだ。
ボルフォルの巨躯ならば、除雪機のように勢いよく除雪される事だろう。
まあ、【魔法】の類の様に体内魔力を消費しないので兵士の消耗も少ないし、安上がりで手っ取り早い手段だろうな、と思う。
そして縦列となって行軍する大孫達は、途中途中にある貴族の領地から兵を吸収しながら進み、最終的に兵数は総合で九千に達する予定だ。
行軍の速度から大孫達とお転婆姫軍、その二つが衝突するのは二日後くらいだろうか。
まあ、王都を出て行った勢力は既にどうでもいいので置いといて。
王都に残ったのは一般兵と千の私兵と岩勇パーティ、それから蛇爺など【貴族派】の重鎮の半分以上になる。
重鎮が残っているのはクーデターなどによって滞っていた業務を消化するためであり、岩勇パーティが残っているのは姿を眩ませて嫌がらせを続けている俺達を警戒した結果である。
その為現在、岩勇は王族が閉じ込められている尖塔の入り口の前に陣地を構え、愛用の武器である破城槌≪イスンバルの鉄槌≫を横に置いて警戒中だったりする。
その周囲には彼の【仲間/副要人物】である四名が、それぞれ暇潰しとして何かしらをやりながら談笑していた。
ちなみに四名について簡単に説明すると――
薄い金色の髪と瞳で、銀縁の眼鏡を装着し、紫色の外套の内側に錆びた釘や鋸にバールのようなものを隠し持つ、軽装鎧を着た鬼畜系優男が【拷問官】イコイ・トーチャー。
まるで剣山のように無数の釘が取り付けられた攻撃的過ぎる金属製のバレルシールドを二枚装備し、大鬼に匹敵する程の巨漢で、全体的に丸い形状の全身鎧を装備したまるで動く大樽のように見えるのが【大樽番頭】グラッシャー・パイ。
青藍色の髪と瞳に、精悍で誠実そうな顔付き、頭部防具だけが無い藍色――深い青緑――の金属鎧で首から下を覆い、紺色のマントを羽織るというありふれた騎士の格好をした好青年が【青藍騎士】クリストファー・ベイル・アズライト。
弓と山刀を武器に持ち、獣の毛皮で造られた露出が多い民族衣装で身を包む、黒い長髪と灰色の瞳をした豊満な胸部と褐色の肌が眩しい泣き虫女蛮族が【女蛮啼】ヤントゥナ・ナ。
――となっている。
外見的にも中身的にも、典型的な貴族の騎士である【青藍騎士】以外はなかなか濃いメンバーだなー、と思いつつ。
俺達は岩勇パーティに気取られないよう、ゆっくりひっそりと内部から侵略した。
と言っても王都に残った私兵千の内、俺が予め“草”として使える貴族とその手勢を二百程紛れ込ませていたので、実質敵は八百程度しかいない。気を付けるべき精鋭も百だけしか残っていない。
それに私兵以外で王都の守りを担当していた一般兵――【貴族派】には所属していないが、逆らえば殺されるのでこれまで通りに従っている者達――は昨日の内にコチラへと引き入れ済みだ。
元々状況に流されて仕方なかった事に加え、ゴースト騒動によって精神的にも参っていたので非常に簡単だった。
そして蛇爺などだが、これは分体を接近させ、そのまま【寄生】から【隷属化】という定番の流れで簡単に無力化していく。
これで何も知らない八百の兵は自由に操れるようになったので、これでほぼ決着はついたと言ってもいいだろう。実に呆気ない。
簡単過ぎて、むしろ蛇爺達の奥の手すら拝めないのが残念なくらいである。被害が無いのは良い事だけども。
それで残る脅威である岩勇パーティだが、こいつ等は少々面倒である。
分体では下手に近づくと感知されそうだし、一定以上の存在になると【寄生】する事が難しくなってくるからだ。
【寄生】は非常に使い勝手がいいアビリティだが、本体と比べてかなり劣化している分体では、【勇者】や【英雄】といった存在相手に【寄生】できる確率はかなり低い。
これは闘技場で瞬殺した事もあるジャダルワイバーン種で実験し、分かった事だ。
恐らく【寄生】しようと体内に入っても、相手が強すぎる場合は寄生対象の免疫力に分体が負けてしまうからに違いない。
蛇爺などには余裕で出来るが、岩勇パーティレベルの存在では同意が無いと難しそうだ。
だから明日、岩勇パーティに関しては、お転婆姫が直々に説得を試みるらしいのでそれに任せる事にした。
説き伏せて、自分に対する忠誠を獲得したいのだろう。
それでもできない時は、実力行使になる。
ただし俺が岩勇パーティを殺害する事はお転婆姫に固く禁じられているので、できれば戦いたくは無い。無駄に食欲だけが刺激されるとか、嫌なもんだ。
“百七十四日目”
今日も岩勇パーティは尖塔の前で待機中だ。
ちなみに岩勇は【岩鉄の神の加護】持ちだからか、昨日から食事や排泄などを除いた時間は岩のようにほぼ動いていない。仲間達との会話には参加しているようだが、大きな動きは見られない。
胡坐をかき、腕を足に乗せた自然体で居る姿はどこか大仏のような雰囲気すら漂っている。
コチラとしては動かないのならば都合がいいので、先に蛇爺達を操って私兵全員に指示を出し、それぞれ特定の場所に移動させていく。
非武装にさせるのは不自然なので最低限の装備は持たせたままだが、既に動かした場所には寝返った一般兵や解放した各王族の衛兵達と団員の一部が待機しているので、準備が整い次第、あっと言う間に制圧していく。
分体を使って騒音が漏れないようにしているので、外は静かなものだ。
それで精鋭など手強い者達が集まっている所には俺やカナ美ちゃんが出向いているので、それほど時間を置く事なく王城内の私兵は全て捕縛する事に成功。
ついでに【貴族派】の貴族達の身柄も確保していく。
後で刑に処すので眠らせてから牢屋にぶち込み、あらかた掃除が終わったのは作戦開始から僅か三十分弱。
王城は【貴族派】の手から、再び王族であるお転婆姫の手に舞い戻った形になった。
そうして内部の掃除を済ませてから、腰に儀式剣を下げて正装したお転婆姫は岩勇パーティがいる尖塔に赴いた。
岩勇パーティの反応は、お転婆姫を見てまず驚き、本物か偽物か見極める為に目を細め、本物だと判断して更に訝む。
だが訝しんだのも僅かな時間だけで、岩勇は立ち上がりながら横に置いている破城槌≪イスンバルの鉄槌≫を手に取った。
それだけで周囲の空気がギシリと重く軋んだ。
立ち上がった岩勇とそれに追随する仲間の四人が、ゆっくりとお転婆姫に近づいていく。
岩勇は少しも表情を変化させずにジッとお転婆姫の姿を見つめるだけで、それは背後に控える仲間も同じだ。
唾を飲み込む音すら誰かに聞こえてきそうな程の、奇妙な静寂が場に満ちていく。
岩勇の最大の特徴は、純粋なまでの物理攻撃力にある。
屈強な岩鉄の如き肉体が発揮する巨人族に匹敵する膂力、長年の戦いの中で自然と磨かれた肉体操作法、【勇者】特有の強力無比な戦技などにより、長柄の先端にねじれ双五角錐状の巨大な鉄塊を取り付けたような破城槌≪イスンバルの鉄槌≫が最大加速した後に巻き起こす破壊は、かつて王都を襲った【知恵ある蛇/竜・龍】の一種である【宝玉竜】の横っ面に炸裂し、堅牢な竜鱗を砕き、非常に硬い竜の角に傷を付けたという。
多分、純粋な一撃の威力だけなら、今のミノ吉くんよりも強い、かもしれない。
そんな岩勇を前に、幼いお転婆姫は何を思うのか。
一応お転婆姫の横には少年騎士が控えているが、少年騎士では岩勇の四人の仲間で最弱の【青藍騎士】にすら勝てない。
戦力差は絶望的である。岩勇の一撃を受ければ、原型を留めない赤い肉片しか残らないだろう。
だが対峙するお転婆姫の顔に畏怖などの感情は見られず、ただ堂々とした立ち姿には貫禄があり、岩勇を見据えるその双眸には力強い意思が宿っている。
やがて岩勇が手を伸ばせばお転婆姫に届く程の距離となり、そこでお転婆姫が腰の儀式剣を抜いた。
儀式剣は普通のモノと違って切っ先が丸く、幼いお転婆姫が扱いやすい程度の長さしかないが、その剣身に宿る輝きは一点の曇りもない。
お転婆姫が抜いたのは“クルタナ”という種類の剣であり、二つの能力――【慈悲】と【断罪】――を持つ【遺物】級のマジックアイテムである。
クルタナを抜いたお転婆姫と、岩勇が言葉を交わす。
二人の会話の内容は長くなるので要約すると、岩勇は無抵抗でお転婆姫の攻撃を一度受ける事になった。
何故そうなったのか、ざっと説明すると以下の様になる。
岩勇としては忠誠を誓うべき王族に反逆する意思は無かったので、本来なら【貴族派】に与する予定ではなかった。
だが大臣が殺された事で、まだ返せていない、とある戦場で命を救ってもらった恩義に報いる為に、協力する事にした。
もしお転婆姫が隠れたままなら探し出し、殺害していた可能性が高い。
しかしこうして堂々と正面から対峙したその姿に胸打たれ、クルタナで斬られる、という選択肢を採った。
何これ面倒臭い。
と思わなくもないが、岩勇がそう判断したんだからそれでいいんだろう。
クソ真面目というか、愚直馬鹿というか、岩勇は本当に色々と固い輩だった。
そしてそんな流れで、お転婆姫はクルタナで岩勇を斬った。
見事な首断ちの一撃である。こんな所で訓練した成果が出た、と思うくらいに左から右へと綺麗に振り抜かれた。普通なら間違いなく致命的であり、切り離された頭部が地面に転がっているはずだった。
だが、岩勇はその身から血一つ流していない。首は頭部と胴体を繋げたままだ。
それはクルタナの【慈悲】が正常に作用した結果である。
【慈悲】は使用者が斬る対象を心の底から憐れみ、許した時、何も斬る事が無い。
不殺による救済の能力だと思えばいいだろう。
だがもし少しでも許さない心があった場合は、岩勇は首をスパッと切られていた。岩勇の防御力でもってしても、生物限定にはなるが防御力を無視する【断罪】の前には意味が無いからだ。
岩勇はそれを知っていて、斬られる事を受け入れたのだから、よくやるよと思わざるを得ない。
多分斬られたら、完全に死ぬ直前にお転婆姫を道連れにするつもりだったのだろう。
しかしお転婆姫は、岩勇を許した。
クルタナで斬った事で、今回のクーデターに参加した事を心から許すと証明した。
そしてお転婆姫は岩勇だけでなく、仲間の四人もクルタナでサササッと斬り、四人とも許してみせた。
僅かにでも許さない気持ちがあれば確実に命を断つ斬撃が五回――全て首断ちの軌道――も繰り返されて、流血が全く無いというのはお転婆姫の本心が明確に示された事になる。
流石の岩勇パーティにしても、それは驚くべき事だったのだろう。
呆気にとられた様子で首が繋がっている事を確認し、ホッと安堵している風である。
そしてその隙を逃さずに繰り広げられた、お転婆姫によるマシンガン洗脳トーク。遠くから見ていて思ったが、心を読めるというのは本当にエゲツナイ。
対象が何を考え、何を欲し、何に困惑しているのかなどを逐一把握できるというのは、最近腹黒さを隠さなくなってきたお転婆姫にぴったりだ。いや、ぴったり過ぎるて呆れるくらいだ。
お転婆姫の掌の上で弄ばれる人形のように、岩勇パーティの心が掌握されていくのが良く分かった。
お転婆姫の能力は本当にごく一部の者しか知らないので、岩勇ですら手玉に取られているように見えた。
とりあえず今回はクルタナの【慈悲】によって許す事を証明しているので、話がサクサクと進んでいく。
最終的に岩勇の願いで今回のクーデターが大孫達の敗退で終結しても、主犯格の一人である大孫は処刑されず、幽閉する事で命まではとらない事で決着した。
これが大臣に対してせめてもの恩返し、という訳だ。
そして参加する理由がなくなったので、これで岩勇は此度の戦いから退場する事となる。
後は成り行きを見守るのだという。
岩勇パーティを洗脳し終えたお転婆姫は清々しくも何処か黒い笑みを浮かべながら額の汗を拭い、離れた場所で銀腕を狙撃銃に、朱槍を弾丸に見立てて伏射姿勢をとっていた俺を見た。
作戦成功じゃ、とでも言いたげな満面の笑みと共に親指を立てたその姿は、つい先ほど五人を洗脳してみせた王女様にはとても見えなかった。
“百七十五日目”
今日は王都で事後処理をするだけだったので、軍がどうなったのかについて簡単に語る事とする。
今日の昼頃、お転婆姫軍と大孫達が衝突した。
予定通り平原にて開始された戦争は、最初の方は予想通りに大孫達が優勢だった。
兵数差もそうだが、水勇の存在が大きな要因となっていたのは言うまでもないだろう。
戦争が開始されて早々、水勇が五人の仲間と共にお転婆姫軍を率いる公爵家当主の下へ真っすぐ突き進んでいった。
当然それを阻む為に立ちはだかる兵士は水勇によって大量に生み出された水球や、水球が弾けた時に発生する衝撃波などによって呆気なく薙ぎ払われてしまう。
だが薙ぎ払われながらも決死の覚悟で挑む兵士は水勇の足止めに成功し、その間に軍隊としての攻防が繰り広げられた。
だが全体の攻防など無視して、遂には水勇が公爵の下へ辿り着く。
一応公爵も個人としてかなり戦えるのだが、流石に【勇者】相手では二合が限界で、水勇によって剣は弾き飛ばされた。
そして水勇の愛剣である両手長剣≪流水の蒼剣≫が体勢を崩した公爵の首に迫り、あわやそこで決着か、となったがそこに介入した者がいた。
一角の銀鬼の顔を模した【怒鬼の仮面】を装着する事で正体を隠し、右手には【陽光之魂剣】を持ち、銀鋼の軽装鎧とパラベラムの紋様が刻まれた外套を羽織った青年――つまりは復讐者である。
水勇と同じく【勇者】に選ばれている復讐者は、水勇の一撃をその場から一歩も動かずに防いで見せた。追撃として発生した肉体を内部から破壊する水の衝撃波も、ヒスペリオールが纏う高熱によって水そのものが蒸発して意味を成さない。
それは予想していなかったのか、復讐者は一体何者なんだと一瞬だけ膠着した直後、水勇の死角から迫った蒼炎槍が着弾した。効率良く酸素と反応して燃え盛る高熱の槍撃に秘められた破壊が、穂先という一点から一瞬で解放され、指向性を持つ轟爆が生じた。
水勇は周囲に水の膜のような防御を布いていたので肉体に直撃こそしなかったようだが、ダメージを完全には消せず、数メートルほど錐揉みしながら吹き飛んだ。
水勇を吹き飛ばした蒼炎槍は、復讐者の背後に控えていたスペ星さんが放った魔術である。
そして水勇パーティと対峙した二人の傍らには、他の団員も居たりする。復讐者と同じく仮面装備の鈍鉄騎士、ブラ里さん、グル腐ちゃん、スカーフェイス、五鬼戦隊などである。
俺達とは別行動させていた復讐者達を事前に戦場となる平原付近に配置していたので公爵は救えた訳だが、コチラの構成もゴブリンやホブゴブリンの数が多い。
普通なら有用な戦力には成り難いのだが、そこは拠点で開発した三つの新装備を全員に支給しているので、雑兵相手ならば十分戦える戦力となっている。
まあ、新装備云々はともかくとして。
復讐者に率いられた団員達が水勇パーティと対峙した。
水勇と同等の存在である復讐者や、それに迫る実力者であるブラ里さんがいた事もあって、重軽症者は多数だが、予想よりも死者は少ない。
流石に【勇者】相手に損害無しで切り抜けられるとは思っていないので、これくらいの被害ならば良しとしておくしかない。
しかし、復讐者達は傷つきながらも時間稼ぎという役目を全うしてくれた。
と言うのも、アチラ側に属す水勇パーティが直接公爵を狙ったように、コチラ側はミノ吉くんが大孫を直接狙ったからだ。
水勇と違って正面ではなく側面からの突撃だったので敵兵の密度はやや薄く、油断もあってか簡単に大孫近くにまで喰い込めた。
九メートル級の“鋼鎧大熊”にランクアップした騎獣を従えたミノ吉くんの周囲には、それぞれの騎獣に搭乗しているアス江ちゃんや雷竜人の爺さん、蟷螂型の甲蟲人や首なし騎士といった団員の中でも強い者達が固まっていた事も理由として大きいだろう。
つまり水勇がお転婆姫軍にやったように、大孫達はミノ吉くん達によって蹂躙されていった。
ただし被害の規模はお転婆姫軍の方が遥かに軽いだろう。ミノ吉くんの広範囲を薙ぎ払う斧撃と雷炎は強力で、何より大きさが違っていたからだ。
結果として、大孫達は平原から退却していく事となる。
水勇が狙った公爵は確かにお転婆姫軍を率いてはいるが、あくまでも代理だ。お転婆姫が殺されない限りは、壊滅でもさせないと勝った事にはならない。
しかし【貴族派】のトップはあくまでも大孫であり、公爵を討ち取ったとしても大孫を殺されれば意味が無くなる。
次は誰が代表になるかで少なくない時間が浪費され、結束が緩んでしまえばお転婆姫軍に蹂躙されるのは目に見えている。
それを回避する為に撤退を選んだ、という訳だ。
それくらいミノ吉くん達が暴れたという事でもある。
そんな訳で逃げる大孫達を適度に追撃をした結果、撤退した敵は平原から近かった大孫の領地にある≪セングレイ≫という名の都市へと帰還して体制を立て直し中、という流れになっている。
≪セングレイ≫には王都から数時間程度で行けるので、お転婆姫が出向いて指揮をとり、攻め落とす予定である。
なので、準備を終えるとさっさと寝た。
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物】であるスペ星が存在進化しました】
【条件“1”【存在進化】クリアに伴い、称号【崩星導師】が贈られます】
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]【副要人物】であるブラ里が存在進化しました】
【条件“1”【存在進化】クリアに伴い、称号【剣嚇錆焙】が贈られます】
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第七節【戦火の弾】の隠し条件≪新機軸≫≪偽火器≫がクリアされました】
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第八節【闘避の馬】の隠し条件≪畏怖値突破≫≪戦意値突破≫がクリアされました】
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第九節【斧滅の蹄】の隠し条件≪斧帝の狂争≫≪縦軍破竹≫がクリアされました】
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第十節【勇戦の儀】の隠し条件≪両勇未勝≫≪助太刀無≫がクリアされました】
寝る前にズラッと情報が並んだが、とりあえず寝た。
“百七十六日目”
昨日の戦争で得た経験値によって、存在進化した者――“半氷凍鬼”、“半鍛冶鬼”、“猿鬼”、“半魚鬼”など――も大勢出た。
今回は個性豊かな新しい種族が増えたのが、一々誰がどうなったのか言うと数が数だけに長くなるので省略するとして、今回は【加護】を得た者達について語る事にする。
まず、【半魔導鬼】だったスペ星さんは【魔導鬼・亜種】になった。
【魔術の神】と【杖の亜神】から【加護】を受けた事により、魔術の威力、構築速度、体内魔力量などが普通の魔導鬼とはケタ違いの能力値を誇っている。
それに身体能力も鬼人としては僅かではあるが伸びているので、これまでのように強力な固定砲台としてだけでなく、ちょこまかと動き回る移動砲台としても活躍してくれそうだ。
ちなみに外見に大きな変化は見られない。
ついで、【半血剣鬼】だったブラ里さんは【血剣鬼・亜種】になった。
【血の神】と【剣の亜神】から【加護】を受けた事により、血剣鬼という種族特有の能力と剣を用いた接近戦闘能力が飛躍的に向上している。
ただ【血の神の加護】の影響からか、戦闘時に見られる性格の変化がより大きくなっている感があるものの、これまで以上に頼りにできそうだ。
スペ星さんと違って外見は変わっている。といっても全身の筋肉がより発達し、身長が十センチほど伸びた位だが、それによって半鬼人よりも優れた鬼人の平均的な肉体能力を大きく上回っている。
それから、戦争には参加していなかったが赤髪ショートが【戦獣の亜神の加護】を得た。
最近はモンスターも生でバリバリ喰う事で野性味を帯びてきたというか、狼系犬っ子キャラが定着しつつある赤髪ショートにはお似合いだと思う。
肉体が強化された事によって動きがより俊敏になったので、鈍鉄騎士にも勝てるようになったかもしれない。
師匠であるはずの鈍鉄騎士を思えば、何となく不憫に感じられた。いや、鈍鉄騎士には豊富な戦闘経験があるのだから大丈夫だろう、多分。
その他にはセイ冶くんが【慈愛の亜神の加護】を、ドド芽ちゃんが【観測の亜神の加護】を、グル腐ちゃんが【腐食の神の加護】を、五鬼戦隊にいたっては【色彩の亜神の加護】によってそれぞれ【赤】【青】【黄】【緑】【灰】とそれぞれ象徴色――決められた色の装備を着用する事で能力値大幅上昇、特殊能力使用可能――を貰っていたりする。
この中で何気にグル腐ちゃんが【神の加護】持ちなのは、きっと触れてはならない事だろう。普段の行いから、気に入られてしまったに違いない。何がとは言わないが。
一先ずはこんなものだろうか。
やっぱり戦争などの大規模戦闘は経験値取得効率がいいので満足である。
それで今日は骸骨百足に搭乗し、専用の戦衣に着替えたお転婆姫を肩に乗せ、総数八百の軍を率いて大孫達が引きこもっている城を目指す。
王都では既に尖塔から解放された影の薄い王様が後処理を行っているので、心おきなく大孫達と戦う事が可能だ。
早朝に王都から行軍を開始し、昼頃には無事に大孫達が引きこもっている都市≪セングレイ≫に到着した。
≪セングレイ≫の周囲には既にお転婆姫軍が攻撃を繰り返していたが、それは遠くから【魔法】かあるいは矢などを打ち込むだけに留まり、有効的な戦果は挙げられていない。
しかしそれは仕方のない事だ。
この世界の城壁は基本的に敵側の【魔法】を防ぐ事を想定されているので下手な魔術で切り崩せるはずもなく、非常に堅牢である。それに近づいた敵兵の頭上から岩や熱湯を浴びせる、あるいは棘付きの鉄板を落す防衛機構が多数組み込まれているのだから尚更だ。
攻城戦ではただでさえ防衛側よりも多くの兵数を必要とするのに、そもそもの人数が少ないお転婆姫軍が正面からぶつかって落せるはずがない。
が、こうして予定通りにお転婆姫も現地に到着したので、公爵などに軽く挨拶をした後、攻城戦などで非常に有用な新装備を使ってささっと終わらせる事にした。
使用した新装備を簡単に言うと、八十二ミリメートル口径の迫撃砲だ。
ミスラルと鋼鉄と黒骨を材料として使用し、分体を砲身の底に仕込んで砲弾を圧縮空気で射出するという機構なので、少々独特な射出音がする。
使用する迫撃砲弾は【炸裂の火実】を更に改造した代物だ。爆発力の向上は当然だが、砲弾一発につきバーストシードが十個ほど内蔵されているのでバラければ広範囲を薙ぎ払う事ができる。
それが現在完成しているだけで、二十門ある。
持ってきているのは半分の十門だけだが、これをポンポン撃ちまくればあっという間だった。
空から降り注ぐ初めて味わうだろう攻撃に、城壁で矢や魔法を使っていた敵兵が一瞬で吹き飛んでいく。砲弾は魔法と違って小さく、なにより地味なので、気づかれて迎撃される事が少ない。
砲撃は城壁を崩すまではいかないが、城壁の上に居る兵士は爆散して肉片となって果てた。
後はほぼ無人となってしまった城門に対し、ミノ吉くんを先頭にした突撃部隊を差し向ける。
ミノ吉くんの斧によって崩れかけの城門は一撃で木端に破砕され、俺達は都市内部に流入していく。
もちろん相手も黙ってはいないのだが、決死の抵抗を無理やり薙ぎ払って大孫達の下へと出向くその途中、俺の肩に乗ったままのお転婆姫が【読心】によって得た膨大な情報を束ね、理解し、【通信鬼】となった分体を介して全部隊をリアルタイムで動かしていく。
後は挟撃、奇襲、罠、戦力分断、正面突破などによってどんどん逃げ場もないくらいに追い込まれていく敵兵は諦めて降伏するか、自棄になって戦い、そして死んでいった。
道中の掃除をしながら進み、遂には大孫達【貴族派】の中核が集まる堅牢な屋敷の前に到着して、そこで俺達は戦意を漲らす水勇と遭遇した。
その傍らには五人の仲間が控え、俺を、いや肩に座っているお転婆姫を見据えている。手にはそれぞれの得物を持ち、戦う意思に満ち満ちている。
俺はお転婆姫を下ろして少年騎士に預け、カナ美ちゃんと共に一歩前に出た。
それを切っ掛けにして、水勇が愛剣に水を纏わせて向かってきた。
驚くほどの速度は無いが、流れる水のような独特の動きで軌道が読み難い走法だ。
【夜天童子の【異教天罰】が発動しました】
【これにより夜天童子は“敵対行動/侵攻開始”を行った【異教徒/詩篇覚醒者】に対して【終末論・征服戦争】の開戦を宣言しました】
【両者の戦いが決着するまで、夜天童子の全能力は【三〇〇%】上昇します】
【共闘補正【弐神級】により、月蝕神醒の全能力は【二一〇%】上昇します】
【特殊能力【異教天罰】は決着がつき次第解除されます】
――そして復讐者の時と同様に、唐突に脳内でアナウンスが流れた。
水勇にも同様のアナウンスが流れたのだろう。驚く顔を一瞬だけ見せ、しかし即座に犬歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべて襲いかかってくる。
コチラも水勇に笑い返して、朱槍を片手に咆哮を上げた。
戦い始めて、十数分近い時間が過ぎただろうか。
周囲の建造物の多くは戦いの余波だけで瓦解し、地面には亀裂が無数に走っている。
そしてそれなりに怪我をして血を流す俺とカナ美ちゃんの足元には、血を流して地面に転がる水勇パーティが居る。
五人の仲間は既に意識を失っているが、唯一倒れた状態で憎悪の瞳を向けてくる水勇が鬱陶しいので、朱槍の石突きで殴って意識を刈り取った。
それと同時に、再びアナウンスが脳内で流れた。
【決着がつきました】
【特殊能力【異教天罰】は解除されます】
【夜天童子は【異教徒/詩篇覚醒者】との【終末論・征服戦争】に勝利した為、報酬が与えられます】
【夜天童子は【水震之魂剣】を手に入れた!!】
【夜天童子及び月蝕神醒による【異教徒/詩篇覚醒者】の【共闘者/副要人物】の全撃破を確認しました】
【成功ボーナス報酬として【ランダム宝箱[最上級]】が贈られます】
そして復讐者戦後と同様に、俺は新しい戦利品を手に入れた。
金銀で彩られた縦横高さが二十センチ程の宝箱が二つと、明らかに復讐者を倒して手に入れ、今は復讐者に貸し出している陽光之魂剣と同等の剣が一振。
青い剣身は一見すると水のようだが、一定の形は維持され、何より硬い。水の様な特性を持つ金属、と言えばいいのだろうか。
とりあえず噛む。
駄目だった、僅かに欠ける事すらない。
今なら喰えそうな気がしたのだが、どうやら気のせいだったらしい。
本当に、なんで喰えないんだと疑問は尽きない。
いつになればこのレベルの品を喰えるのだろうか。
気を取り直して、【水震之魂剣】の情報を読み取ってみる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名称:【水震之魂剣】
分類:【■■/刀剣】
等級:【■■■■】級
能力:【水震之魂剣】【異教天罰】
【水震爆発】【水精の卵】
【震水浸透】【能力増設】
【未解放】【未解放】
【未解放】【未解放】
備考:夜天童子が【異教徒/詩篇覚醒者/主要人物】との【終末論・征服戦争】に勝利して得た■■■■級の■剣。
世界に存在する神々がとる三形態≪■■/■■/■■≫の一つである■■であり、その刃は清水をそのまま鍛えた様に透き通り、常に揺れ動いている。
これに触れる事ができるのは夜天童子本人か夜天童子の許しを得た者のみであり、許しなく触れた者には想像を絶する災いが降りかかる事だろう。
■■である為、破壊は例外を除き、絶対に不可能。
さらに情報を閲覧しますか?
≪YES≫ ≪NO≫
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大部分はヒスペリオールと同じような説明文だが、細部に変化はある。能力に違いはあれど、有用なのには変わりない。
ただ俺は剣よりも朱槍のような長物が好きなので、しばらくはアイテムボックスの肥やしになるだろう。下手に誰かに渡すのも気が引けるレベルの品である事も大きい。
宝箱は、また後で中身を確認する事にする。
水勇は復讐者のように詩篇に取り込む訳にはいかないのでこのまま放置するとして、後は屋敷に乗り込んでサクサク進んでいく。
それで大孫達を屋敷の奥にまで追い詰めた訳だが、やっぱり【勇者】以外の奥の手を隠していたらしく、最後の抵抗をしてきた。
まあ、ジャダルワイバーンなどを使ったキメラだったのでそこまで苦戦するものでもなかったのだが、それはさて置き。
キメラは竜肉団子とでも表現するのが適切な造形をしていた。
竜肉を固めたような丸く巨大な胴体には竜鱗が何重にも重なるように縫い付けられ、八の竜頭からは苦悶と竜毒が吐息に混じって噴き出し、魔法金属で加工された十四翼と長い爪牙は下手な刀剣とは比べ物にならないくらいに鋭く太い。
結構グロテスクな外見なのだが、非常に美味かったのでこんなサプライズを用意してくれていた大孫達にはむしろ感謝してもいいくらいだろう。
丸焼きにして、皆で美味しく頂いた。
ついでに最後まで抵抗してきたので殺害した精鋭も何人か一緒に喰ってみる。
【能力名【混沌の亡者】のラーニング完了】
【能力名【肉亜竜の慟哭】のラーニング完了】
【能力名【舞踏の亜神の加護】のラーニング完了】
【能力名【造形の亜神の加護】のラーニング完了】
さて、今回の仕事はこれで大方終了だ。
首謀者である大孫達は全員捕まり、クーデターに参加した者達はその殆どが捕縛された。彼らの処遇がどうなるかはお転婆姫達が決める事で、俺達には関係ないし興味もない。
まあ、どうなるかは大方決まったようなもんだろう。
全てが終わった時には既に暗く、今から王都に戻るのも面倒だ、と言う事でここ≪セングレイ≫にて一泊する事となった。
動員した団員の数が数だけに全員を引き連れて王都に戻る訳にもいかないので、それは丁度良かった。
それなりの疲れもあって、色々やってからベッドに寝転がると、途端に睡魔が襲ってきた。
今日はグッスリと寝られそうだ。
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の第十一節【哭滅の鬼】の隠し条件≪敵勇撃破≫≪不殺全倒≫≪暴食蹂躙≫がクリアされました】
順調に隠し条件がクリアされている訳だが、これ、本当に隠し条件なのだろうか、と寝る寸前に疑問に思った。
“百七十七日目”
早朝、奇妙な寒気がして意識が覚醒した。
寝たままの状態で【早期索敵警戒網】を使うと、何故か誰も使っていない隣の部屋に、行方不明なはずの第一王妃と闇勇の反応がある。
更に詳しく気配を窺い、隣室でもぞもぞと何をしているのか探ってみると、どうやら闇勇の力を使って俺達の部屋を覗き見しているようだ。
そしてその視線の先にはベッドに寝転んだ俺が居る。
俺の隣でまだ寝ているカナ美ちゃんや赤髪ショートについては意識すら向けず、ただ俺だけを両者は見つめている。
それに薄ら寒いモノを感じた。
何やら艶めかしく、興奮状態で鼻息を荒げる第一王妃。
普段通り動きは少なく、しかし王妃と似たような雰囲気を纏う闇勇。
小言で何かを囁き合っているようだが、それは流石の俺でも聞く事が出来ない。闇勇が能力で隠蔽している事と、両者が壁で仕切られた隣の部屋に居るからだ。
だが、良い事では無いだろう。少なくとも、俺にとって。
その確信は、時が経つにつれて増大していく寒気が証明している。
とりあえず、俺は身を起こした。寝起きですよ、という演技と共に。
何故かそれだけで隣室の二人の興奮度が増している。寒気も増大する。
ブルリと小さく身体が震えたので、愛用のパラベラム製ポンチョを羽織った。するとやけに残念そうな気配に変わる。
うん、とりあえず今日は、朝風呂は止めておく事にした。昨日の夜に流した汗などで湿った身体はやや不快だが、何となく入らない方がいいだろう、精神衛生的に。
といった感じの事が発生した今日、俺達は王都に帰還する。
ただし今後の王都で働いてもらう予定の団員以外のほぼ全員は王都には行かず、ここで拠点へと帰還する事になっている。
これは王都ではこれだけの団員を一度に入れるとなるといささか面倒だからというのもあるが、大森林以外の世界をまだ見ていない者が居るので、見識を広めるのに丁度いいと思ったからだ。
ただ尾行されて拠点が知られても面白くないので、ミノ吉くんやブラ里さんなどをリーダーにした十のグループに振り分けて様々な地点を経由させる事にした。
一グループの人数は総数が総数だけに数十と多いが、まあ、集団での行軍訓練にもなるのでこれも丁度いい。それに運搬力に関しても骸骨百足は既に団員全員を運べる数が確保されているので、特に問題も無い。
ちなみに通るルートは戦いの戦果によって組み分けられ、戦果をより多く挙げた者は温泉や観光地など特典が多いルートを。
戦果の少ないあまり活躍できなかった者には地力を上げる為にやや厳しく危険なルートを、という具合にしている。
差をつける事でやる気になるだろう。
ならないのなら、そいつが損をするだけなので問題なし。
王都に帰ってからはお転婆姫から報酬を受け取った。
衛兵達の鍛錬指導による報酬額もそれなりに多いが、戦争に参加した事による報酬額は桁が違う。
今回のクーデターに立ち向かうお転婆姫の手駒として重要な要因を担っているのだから、妥当な金額ではあるだろう。
ただ後々の事を考えて、金貨や金板といった金銭だけでなく、王都内の土地やちょっとした権利などを特例で貰う事になった。
そして今日は報酬の一つとして貰った、クーデターに参加した事で処刑が決まったとある貴族の屋敷で寛ぐ事にした。
この屋敷は城下街と貴族街が交わる一画にあって、どちらにも行きやすいと色々と都合のいい立地条件をしている。ここに住んでいた貴族は金持ちだったので敷地は広く、屋敷の一部に小さいが店舗として使われていた場所もあるので俺の目的に即していたので貰った訳だ。
一応貴族が雇っていたメイドや執事などがそのままいるので、このまま働きたいと言う者には俺が引き継いで雇い、辞める者はお転婆姫に仕事先を紹介してもらった。
この屋敷は今後やろうと思っている事業の拠点として活用する予定なので、色々と改築しようと思っているが、まあ、改築などはまた後日する事にしよう。
とりあえず今日は屋敷にあるモノを必要なモノと不要なモノに仕分け、それが終われば隠し財産などを子供達と一緒に発掘して過ごした。
“百七十八日目”
今日は朝から王都の裏街道や地下で生きる、日々の飯に困り飢えている子供――孤児を男女や健康不健康関係なく適当に拉致って行く。
前世でも国や地域によっては当たり前だったように、貧しさから親に捨てられた、戦争によって両親を失った、身体的な欠陥があるので捨てられたなど、理由は様々だが保護者のいない子供なんてのは数えきれないほど存在している。
一応、王国の【異界の賢者】が救済処置として自腹を切って孤児院を幾つか造っているのだが、貴族の利権や費用問題などの理由で孤児院の数は少なく、肝心の孤児が多い事もあって、そこからあぶれた子供はそれなりの数が存在する。
それでも一定以上の成果は上げているのだから十分と言えば十分だろう。異世界の知識を持ち、豊富な体内魔力を保有している【異界の賢者】といえどもそれが個人の限界だ。
それであぶれた孤児の多くは飢えや寒さなどによって死んでいくのだが、しぶとく生き残る孤児もいる。
そしてそんな孤児が生きる為に徒党を組み、食う為に盗みを働く事は別に珍しい事ではない。
実にありふれた光景だ。一ヶ月か二ヶ月も街で暮らしていれば、盗みの現場を見る事も少なくない。
そして盗みを働いた孤児が大人達に捕まり、殴られたり蹴られたりしてボロボロの状態で路地裏に放置される事も多い。運が悪ければそのまま死んでいく者も居る。
旅人の道案内や靴磨きなどで小銭を稼ぐ孤児ならばともかく、盗みなど悪事を働く孤児は住民から疎まれている。
住民も自分達の生活がかかっているので、完全に悪いとも言い難いのだが、それは置いといて。
だからそんな孤児がいつの間にか消えても、住民はあまり気にしない。
厄介者が死んだか、あるいは誰かに連れ去られたか、とにかく消えて良かった、と思うくらいだろう。
だから、俺からすれば丁度いい対象だった。
今回は戦争の報酬の一つとして、お転婆姫を通した王様から直々に許可を貰っているので、問答無用で屋敷に集めていく。
そうして昼頃には拉致った子供が五十名にもなり、俺の前で整列している。
孤児の多くは同年代の平均よりも細く弱く、全体的に汚れて表現し難い臭いを放ち、病気で弱っている者も居る。しかし目にだけは生きたいという強い意思が宿っていた。
孤児の大半は俺が目の前に立てば自然と視線を地面に向けるが、中には睨み返してくる根性のある者も居た。
最年長の少年なので、とりあえずガキ大将としよう。
幼い孤児を守ろうとするガキ大将は俺に色々と質問を浴びせてきたが、とりあえず、全員に食べ物を振る舞う事から始めた。
迷宮都市で手に入れたマジックアイテムの中に、食材を入れると自動的に料理を作る大鍋が幾つかある。
今回は数を用意する必要があったので、それ等を有効活用して五十人分の料理を揃えた。
大鍋にホーンラビットやタートルスネークなどの肉を入れ、王都の市場で買った野菜をタップリと注ぎ込み、牛乳やチーズなどを放り込んだりして、出来上がったのはクリームシチューのような何かだった。
香る匂いは濃厚で、食欲が刺激される。味見してみると美味く、あんなに適当な方法でこれだけの味を出せるとは驚きだ。
そんな感じに出来上がったクリームシチューのような何かを大皿に注ぎ、孤児達に配給した訳だが、スプーンを使わず手でガツガツと一心不乱に料理を口に運び、血走った目で一滴残らず嚥下する様は鬼気迫るものがある。
孤児達の飢えは、俺の予想以上だったらしい。
追加で新しいのを作ったので問題にはならなかったが、孤児達は飯を喰い終えた後は不思議そうにコチラを見てくる。
小首を傾げて『なんで僕達/私達にこんなに美味しいモノをくれたの?』と言いたげだ。
それに応えず、次は全員を風呂に入れさせた。
流石は貴族の中でも金持だった者が建てた屋敷だけあって、中には数十人が一度に入れる程巨大な浴室がある。
そこで数は少なくなったがまだ残っているメイド達に、孤児達の身体を洗うように指示を出す。
浴室には大森林で採取できる素材を使用した石鹸があるので、孤児達の溜まりに溜まった垢や汚れはこそぎ落された。
今回の入浴で浴室がかなり汚くなっていたが、孤児の汚れや体臭が正常になったので良しとしておく。
浴室はまた掃除すればいいだけだ。
それが終わると、今度は病気持ちの子供を治していく。
傷口が膿んでいようが、破傷風になりかけていようが、寄生虫がいようが、重度の火傷で片腕片足が動き難くなっていようが、回復技能と【秘薬の血潮】を併用すれば治すのは簡単だ。
流石に眼球や指などを失っている孤児を完璧に治す事はまだできないが、痛みを和らげてやる事はできたので我慢してもらう。
そうして食事と風呂と治療が終わり、再び俺の前に整列させた時にはそれぞれに心境の変化があるようだった
幼い孤児の警戒心はかなり薄れ、俺に好意的な視線を向けてくる。
それなりの時間を過酷な世界で生きてきた少年少女達は警戒心を緩めてはいないが、なぜこんなに良くしてくれているのか、と疑問の答えが出ていないので困惑している。
それを見つつ、話す為の準備も終わったので、俺が何故孤児達を拉致ったのか説明した。
慈善事業の一環で、孤児達に飯を食わせて風呂に入れて治療する為、である訳が無い。
俺の狙いは単純明快で、未来の為の戦力を育てよう、と言う事だ。
そりゃゴブリンなど繁殖力旺盛で、使い方次第で重要な戦力になる存在は他に大勢いる。【職業】を得た人間よりも強い人外など、それこそ数えきれないほどだ。
だけど人間には他にはない可能性があり、面白い成長を遂げる者も出てくるだろう。
多様性、という点で人間は非常に優秀だ。
これからの事を考えれば、幼い頃から鍛えた人間の団員というのも必要になってくる。だが、普通の人間は成長が遅い。赤ん坊から育てるとしたら、十数年も月日が必要になってしまう。
団員内で人間の子供も確かに産まれているが、それではあまりに遅すぎる。
と言う訳で、手っ取り早い手段としてある程度の年齢に達している子供達を拉致った、と言う訳だ。
これはどちらにとっても、決して悪い話ではない。
突然居なくなっても特に問題にならない孤児達を拾って、一人でも生きていけるくらいには鍛えて、最低限死なない程度には食わせてやるというのだから。
まあ、そんな訳で、遠からず死んでいただろう孤児五十名は、今日この日をもって新しい団員に加わる事になった。
そうだな、ガキ大将を一先ずのトップに置いて、育て方や新兵器の運用について実験する為の部隊として扱う事にしよう。
年少実験部隊≪ソルチュード≫の新設である。
“百七十九日目”
朝から≪ソルチュード≫の元孤児達を鍛えている――身体が貧弱過ぎて今はまだ本格的にできないが、ドーピングって凄いよな――と、昼頃にお転婆姫が屋敷にやって来た。
お転婆姫の傍らにいつも控えている少年騎士はともかくとして、何故か第一王妃と闇勇も一緒にやって来ているのはどういう事だろうか。
お転婆姫の二、三歩後ろに佇む第一王妃と闇勇の視線に再び表現し難い感情を抱きつつ、下手に触れては駄目な予感がしたので、お転婆姫にエルフから貰った紅茶を出す。
ホッと一息入れて、どこの紅茶なのか世間話を交わしつつ、今回の訪問の理由を訊いた。
話は簡単で、継続的にお転婆姫の私兵として働いて欲しい、と言う事だ。
契約内容は、基本的な契約金が一ヶ月につき金板二枚=二百万ゴルド――約二千万。年間で金板二十四枚だから、二億四千万になる。
そして何かしらの働きがあれば相応の追加金が支払われ、任務遂行にて生じた治療費や武器購入費などの経費は認められればお転婆姫が全額負担してくれる。
その他には王国内に限定されるが、色々と融通して貰えるなどの特典が多数付属する。
もちろん相応の危険が伴う訳だが、下級貴族や中級貴族を上回る程の年収であり、これ以上ないほどの好条件だ。
だが断った。
その時のお転婆姫達王国側と、相席していた赤髪ショートの呆気に捕らわれた顔は爆笑モノだった。
カナ美ちゃんだけはニコニコと微笑んでいたが、多分皆の反応を楽しんでいたのだろう。嗜虐的な所があるから仕方ない。
契約を断ったのもそれなりに事情がある。
この世界をもっと知る為には、自由に動ける傭兵という立場は使い勝手がいい。
これからは【勇者】や【英雄】達だけでなく、恐らくは専用の詩篇があるのだろう【魔王】や【魔帝】、【獣王】や【獣帝】といった存在やそれ等が収める国と戦うには、この契約は足枷になる可能性が高い。
王族の、それも恐らくは女王になる可能性の高いお転婆姫の私兵とか、精神的な面倒事が多すぎる。物理的な面倒事なら歓迎だが、鬱陶しい粘着質な嫌がらせとか、あえて仕掛けられたいとは思わない。
などなど。
そう言った事も説明したのだが、お転婆姫があまりにも必死に説得してくるので、とある契約を交わした。
契約内容は月に金板一枚=百万ゴルド――約一千万を俺に支払い、王国内で少々優遇してもらう事を対価に、『お転婆姫に対して敵対するような依頼を受けない』となっている。
要するに、『敵にすると恐いから敵対だけは止めてね、対価を支払うから』と言う事だ。
ま、これくらいなら良いだろう。
という訳でお転婆姫の話はこれで終わった。
のだが、その後の第一王妃と闇勇によって色々とあった。
あまりの威圧感と熱気に負けたが、詳しくは語るまい。
色々ありながら四人は夕方になると帰ったが、その時の俺は疲れ果てていた。
教訓。熱狂的過ぎる宗教の信者って怖い。
疲れた精神を癒す為、夜は温かく柔らかいベッドで寝た訳だが、その直前に表示されたそれを見て俺は驚いた。
【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第四章【王国革命のススメ】の最終節【統率の姫】の隠し条件≪束縛の拒絶≫がクリアされました】
【隠し条件≪交わされぬ契約≫は残念ながらクリアされませんでした】
【成功報酬【グレート宝箱[最上級]】が贈られます】
【成功報酬【鬼種限定・潜在能力上昇薬】が贈られます】
【成功報酬【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】が贈られます】
【成功報酬【鬼酒・銘[鬼酔殺・無尽]】が贈られます】
【成功報酬【指し示す古代の石版】が贈られます】
【成功報酬【■■■■】は条件未達成の為、贈られませんでした】
なん……だと。
最後の契約は、失敗だったかもしれないと思いつつ、これはもう仕方ないと諦めて寝た。
最後のは非常に気になるが、酒があるので大丈夫。
“百八十日目”
今日は≪ソルチュード≫の訓練を三人――赤髪ショート、オーロ、アルジェント――に任せ、俺は新型のイヤーカフスを製作する事にした。
ちなみにカナ美ちゃんは俺の隣でお転婆姫から貰った小説を読みつつ紅茶を嗜んだりと、優雅に過ごしている。
それで製作だが、最初のイヤーカフスには三つの能力――【持続再生】、【下級筋力増大】、【下級俊敏力増大】――がエンチャントされていた。
前作が肉体性能の向上を目的としているので、新作のイヤーカフスには【隠蔽率増大】、【下級精神防御】、【下級属性防御】の三つがエンチャントされている。
これで精神的な攻撃に対して、ある程度は対抗できるだろう。
ちなみに最初のイヤーカフスに追加でエンチャントしないのは、これ以上は成功する確率が低い、だから面倒、ならば二個目を付ければいいだけだ、という訳だ。
二個目には分体は付いていないのでよりシンプルに仕上がっているが、団員全員に支給するとなると一苦労なので、正直手抜きで十分だ。
性能は保障するので、外見が気に入らなければ各自で何かしら装飾するだろう。
夕方には何とか団員全員に支給できる数が仕上がった。以前よりもレベルが上がっているので、エンチャントする速度が上昇していたのは大きい。
【職業】系のアビリティも、多くが高レベルになってきているので満足である。
そして夜、拠点に残っている鍛冶師さん達から、ゴブ爺が死んだ、と報告が入った。
死因は病気や外部的要因ではなく、老衰だそうだ。
確かに、その予兆はあった。
そもそもゴブリンとしての寿命の限界近くに達していたし、最近では特に身体の動きが悪くなり、日々寝る時間が増えていた。以前なら元気に色々とハッスルしていたが、それも無くなっていたのでそろそろだろうとは思っていたので、衝撃は少ない。
だがこうしてゴブ爺が死んで、思う事は……エロ爺だった、と言う事だろうか。
世話にはなった。この世界について色々と教えてもらった。感謝している。だがエロ爺だったのは間違いない。多分俺が産まれてから、一番子供を孕ませたのがゴブ爺だろう。
全くエロ爺め、と苦笑を洩らしつつ、俺はゴブ爺の冥福を祈った。
今日の夜空は、やけに星が輝いている。
第二章 傾国の宴 腹黒王女編 終了。
閑話の後、
第三章 迷宮商売 海の幸を求めて編 に続く。
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