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【東日本大震災】

93歳漁師に生きる糧 三重から「絆」の船届く

 津波で船を失った岩手県宮古市の田老町漁業協同組合の最高齢漁師、松本永次郎さん(93)のもとに、三重県から中古の船が届いた。田老港の修復はまだ手付かずのままで、漁に出られる見通しは立っていないが、「生きてる限り稼がななんねえ」と感謝の気持ちを抱きつつ、再び海に出る日を待ちわびる。 (並木智子)

 松本さんは、八歳から漁を始め、田老地区でコンブ養殖を初めて手掛けるなど地元漁業を引っ張ってきた。

 三月十一日は港の近くで翌日の漁の準備中、地震に遭った。一九三三年の昭和三陸地震を経験している松本さんは「きっと今回も津波がくる」と、一キロほど内陸の自宅に避難。自宅は津波の被害こそ免れたものの、火事で全焼。二隻あった船もどこかに流されてしまった。

 「現役バリバリ」の漁師だが、長い避難所生活が体をむしばんだ。漁にも出られず、意気消沈していった。そんな松本さんを励まそうと、近くに住む孫の龍児さん(37)が、松本さんに船を贈ることを思いついた。ボランティアを通じ、インターネットなどで支援を呼び掛けたところ、三重県の水産団体でつくる三重水産協議会が協力を申し出て、三隻の船が届けられた。

 船体の中央には大きく「絆」と記されている。六月下旬から仮設住宅に住む松本さんは、「ありがたいこと。お世話になった人たちに恩返しがしたい」と喜んだ。

 地震で田老港は地盤沈下し、港までの道路や橋も津波で流された。道路の整備は徐々に進み、ようやく港までは行けるようになったが、港がいつ使えるようになるかはまだわからない。

 それでも、松本さんは「診療所で百歳まで生きられると言われた。まだまだ海に出る」と、気力をみなぎらせる。

 

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