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第1章 子どもとテレビゲームの現状 第2節 テレビゲームが子どもに与える影響

第2節 テレビゲームが子どもに与える影響

 テレビゲームが子どもに様々な影響を与えていることについては、その有用性から悪影響まで、様々な指摘がなされているところであり、これまでも、心理学、社会学、生理学など幅広い観点から、その影響について研究が行われてきているところである。
 本節では、テレビゲームが子どもに与える影響について研究してきた本協力者会議の3委員(坂元委員、佐々木委員及び橋元委員)が、これまでの研究の事例を紹介する。


1  「子どもとテレビゲーム」に係る問題性【坂元委員】

 テレビゲームが子どもの発達に悪影響を及ぼすのではないかという可能性は、テレビゲームの問題性として、かつてからしばしば指摘されてきた。特に暴力性、社会的不適応、学力や知的能力、視力、体力などに対する悪影響が心配されている。本稿では、こうしたテレビゲーム悪影響論の経緯について触れた上で、悪影響論に関して行われてきた学術研究の動向について紹介する。そして、最後にテレビゲームの有用性についても触れる。

(1)  悪影響論の経緯
 テレビゲーム悪影響論は、5年程度のサイクルで繰り返し盛んに出されてきた。悪影響論の最初のピークは昭和63年の前後と見られる。昭和58年にファミコンが発売され、日本の家庭にテレビゲームが普及するきっかけとなったが、しばらくは、その悪影響が懸念されることもなかった。しかし、その後、ファミコンが爆発的に普及するに伴って悪影響論が徐々に見られるようになり、昭和63年の「ドラクエ事件」のときに、子どもたちのテレビゲームに対する熱狂がピークに達するとともに、悪影響論も最初のピークを迎えた。
 次のピークは、5年後の平成5年である。これは、平成4年末に、イギリスの14歳の少年が、テレビゲーム遊びの最中に、てんかん発作を起して死亡したという事件に端を発している。日本でも、その事件は大きく報道され、そうした中で、テレビゲームは、てんかんに悪影響を与えるというだけでなく、さまざまな身体的側面さらに心理的側面にも悪影響を与えるのではないかという懸念が、ジャーナリズムなどにおいて盛んに出された。
 第3のピークは、平成9年~平成10年であり、当時の少年犯罪の頻発をきっかけとしている。平成9年5月、神戸において、14歳の少年が6年生の児童を残忍な手口で殺害した「小学生連続殺傷事件」が発生し、また、平成10年1月~3月には、学校の中で、ナイフで教師や友人を刺し殺す事件が多発した。これらはセンセーションを巻き起こし、少年犯罪の原因についての議論が盛んになった。そして、その原因の1つとしてテレビゲーム遊びの存在が指摘された。
 第4のピークは最近である。平成14年7月、テレビゲーム遊びが、人間の脳において高度な情報処理を司る前頭前野の発達を阻害するとする「ゲーム脳」の議論が出された。それをきっかけとして、テレビゲーム遊びがキレやすい子どもを生み出すなど、テレビゲーム悪影響論が注目を浴びている。
 このようにテレビゲーム悪影響論はしばしば繰り返され、司法、行政、そしてテレビゲーム業界などを含め、少なからず社会的影響力を持ってきた。

(2)  悪影響論に関する実証研究
 テレビゲーム悪影響論は直観的な見方から出されている場合が少なくないと思われるが、実際のところ、これらの真偽を実証研究によって調べていくことは必要であろう。正確な事実が把握できなければ、対処の仕方も適切なものとならないからである。
 実際に、テレビゲーム悪影響論に関する実証研究は、これまで米国や日本などで行われてきた。ただし、テレビに関する研究領域などと比べ、全般的に研究量は少なく、強い結論は導きにくい状況にある。最近では、領域によっては研究量がかなり増加しており、それなりの研究知見の蓄積を見せている領域もあるが、それでも、研究領域が成熟しているとは言えず、諸般があいまいな状況が続いている。
 以下では、とくに悪影響が注目されている、暴力性、社会的不適応、学力や知的能力、視力、体力について、現在までの研究動向を紹介する。

1 暴力性
 暴力シーンを含むテレビゲームが子どもの暴力性を高めるという懸念はしばしば見られてきた。テレビゲームは、子どもに対して、1)暴力が問題解決の手段として有効であるという見方や暴力の手段を学習させること、また、2)暴力をふるうことに慣れさせ、その回路を開かせることによって、テレビゲームの中だけでなく、現実場面においても暴力をふるわせやすくしてしまうことが心配されている。また、テレビゲームの中で展開されている世界は、現実の世界と類似しており、テレビゲームの中で学習された見方や開かれた回路がそれだけ現実場面でも機能しやすいと考えられることも心配を強めている。
 従来、悪影響を支持する研究結果は、あったとしても、年少の子どもに関する短期的な影響を検討した実験研究などに限定されており、テレビゲームが暴力性に及ぼす影響はあまり深刻には捉えられていなかったと見られる。しかし、近年になって、悪影響を検出する研究がしばしば出されるようになり、研究者の見方は、悪影響を支持する方向に動いているように思われる。
 最近になって、悪影響を検出した研究が増えていることについては、近年の立体映像技術などの進歩によって、表現の現実性が大いに高まっており、そのため、テレビゲームの影響力が強まっているからではないかと解釈されている。この解釈も、現在ではテレビゲームが子どもの暴力性に対するリスク要因になっているという見方を強めさせているように思われる。

2 社会的不適応
 テレビゲームに没頭していると、対面での生身の人間関係を持たなくなる結果、生身の人間関係の中で育成されるべき技能が身につかず、また、煩わしい生身の人間関係に向かっていこうという意欲も失い、ひきこもりや不登校のような社会的不適応の状態になるのではないかと心配されている。
 しかし、これまでの研究では、テレビゲームが子どもの社会的不適応をもたらすことを示した結果は乏しく、むしろ、もともと社会的不適応の傾向のある人が、テレビゲームで遊ぶようになるという逆方向の因果関係がたびたび示されている。
 テレビゲームが社会的不適応に悪影響を及ぼさないことに関する1つの説明としては、仮に、テレビゲームが子どもから生身の人間関係を断ち切り、人間関係に関する技能や意欲を失わせる過程があるとしても、一方で、テレビゲームが友だちとの話題になったり、ゲームソフトの貸し借りをしたりするなどして人間関係の円滑化をもたらす過程もあり、それらが互いを相殺していることが考えられている。
 もともと社会的不適応の問題は、インターネットで心配されており、インターネットに没入し、中毒的になった結果、ひきこもりなどの社会的不適応の状態になる事例が見られている。最近では、オンラインゲーム、すなわち、インターネットを利用したテレビゲームが普及しつつあり、これについては、社会的不適応の問題が生じる可能性が考えられる。

3 知的能力と学力
 テレビゲームは映像メディアであることから、それに接触していると、従来の文字メディアの場合とは異なる影響を、人間の知的能力ないし認知能力に与える可能性が指摘されている。実際に、テレビゲーム使用によって、人間の空間知覚能力などの視覚的能力が向上することはしばしば示されてきた。テレビゲームは、視覚的能力については、それを訓練する機能があると考えられる。
 また、子どもの日常的なテレビゲーム使用によって、勉強や読書などの知的活動の時間が失われ、その結果、さまざまな側面の知的能力や学力に悪影響が出るのではないかという懸念が出されている。この問題については、論理力などに対する悪影響を示した研究もあるが、現在のところ研究が少なく、全体として知見はあいまいであると言える。研究が少ないことに加えて、知的能力や学力に対する影響は、ゲームソフトの内容によって大きく左右されると考えられ、それもこの問題を単純化できないものとしている。実際に、教育的な内容を持つテレビゲームが知的能力や学力を伸ばすことはしばしば示されてきた。
 最近では、知的能力に関連する話題として、「ゲーム脳」問題が注目されている。これは、テレビゲームで遊んでいると、大脳の前頭前野の活動が低下し、その状況が続くと前頭前野が活動しない人間になってしまうという問題である。前頭前野は、人間の創造性や社会性を支えるような高度な情報処理を行う部位であり、ゲーム脳とは、テレビゲームによってそうした前頭前野が活動しなくなった脳のことである。ゲーム脳問題については、まだ研究が不十分であり、現在のところ仮説的な段階にあると捉えられる。今後の研究が重要であり、とくに、現在、観察されている前頭前野の活動低下は本当に知的能力の低下に対応するのか、また、テレビゲーム使用のときに前頭前野の活動が低下するとしても、それが本当に子どもの発達に影響するのかなどが検討される必要がある。

4 視力
 テレビゲームでは、モニター画面すなわちVDT(Visual Display Terminal)を通じて情報が提供される。それを長時間、近距離から見た利用者は、眼精疲労や視力の低下など、眼に強い悪影響を受けるのではないかと心配されている。
 もともと電子メディアと視力に関する研究は、子どもの問題としてだけでなく、成人の職場におけるコンピュータやワープロの利用の問題として関心を持たれ、VDT障害の研究として内外で多く行われてきた。これまでの研究は一般に、VDT作業がまず短期的な近視や眼精疲労を生じさせ、接触が長期間になると視力の低下を招くことを示している。子どものテレビゲーム接触を扱った研究にも、それとの接触によって、実際に調整機能や眼圧などに異常が生じ、視力の低下がもたらされることを報告したものが見られる。

5 体力
 テレビゲームは室内遊びであるため、外遊びを減らすと考えられる。外遊びが減れば、運動する機会が失われ、その結果、骨格や筋肉、さらには運動感覚が発達せず、身体能力の減退や肥満が生じるとともに、ケガや病気をしやすい体になると考えられる。このことから、テレビゲームが外遊びを減少させ、それによって、子どもの体力低下が生じているのではないかとする懸念が出されている。実際には、これまでのところ、テレビゲームと体力の低下について、その影響関係をしっかり特定できる形で行われた研究は乏しい。しかしながら、この影響関係はそのもっともらしさから、一般だけでなく、研究者の間でも、かなり濃厚であると捉えられているように見える。

6 今後の研究
 先述したように、テレビゲームの影響に関する研究は、最近、領域によってはかなり増えてきているものの、全体としては少ない。もっと多くの研究が出されて、諸般がより確かになっていくことが重要である。とくに、知的能力や学力、さらに、体力に関する研究は進んでおらず、研究知見の蓄積が必要である。
 また、悪影響に対する対処方法について考えたときに、どのような条件で悪影響が強く、どのような条件では悪影響が小さいのかという、影響力を規定する条件を特定していく研究が重要である。条件が特定されれば、悪影響が小さい条件を選択していく対処が可能となり、ガイドラインの策定にも寄与する。テレビに関する研究では、こうした条件を特定する水準にまで研究は進んでいるが、テレビゲームについては、現在でも、悪影響があるかどうかを検討している段階であり、条件を特定していく水準には達していない。

(3)  問題性と有用性
 以上のように、テレビゲームにはいくつかの問題性が懸念されており、それに関する研究動向について述べてきたが、テレビゲームには、さまざまな有効性が考えられることも忘れてはならない。
 例えば、テレビゲームには、教育における有用性が期待されている。教科学習については、とくに動機づけが低い学業不振児において、教育を目的としたテレビゲームは強い効果を発揮することが指摘されている。実際に、学業不振児に関する研究は、教育テレビゲームの使用によって、算数や数学、語彙、読みなどの学習内容についてテストの得点が上昇する、ないしは、学習に対する動機づけが高まることを示してきた。また、先述したように、テレビゲームには、知覚的能力を訓練する機能があり、地図の読みや車椅子の運転などの実際的な技能も伸ばしうることが示されてきた。
 テレビゲームは心理臨床にも有用である。テレビゲームは近年、社会的不適応とくに不登校の子どもの適応を促すために利用されている。不登校で児童相談所や教育相談所などを訪れる子どもは、強い対人不安や恐怖を感じており、相談員が子どもにカウンセリングを施そうとしても、両者が直接に対面した状況では、子どもに心を開かせたり、十分な話をさせたりすることが難しい場合がある。そうしたとき、子どもとテレビゲームをしたり、あるいは、それを話題にしたりすることによって、カウンセリングがうまく進むことがある。テレビゲームが子どもと相談員の関係におけるクッションとなり、子どもの緊張を緩和するのである。
 また、テレビゲームは、それで気を紛らわせ、子どもの心理臨床的な問題を取り除くために用いられることもある。例えば、ガンや腫瘍の治療のために化学療法を受けている子どもの苦痛と不安や、副作用に対する心配を減らすために、テレビゲームはしばしば利用され、実際にその効果が示されてきた。また、脅迫的で自己破壊的な行為を解消するのにテレビゲームが利用され、成果が挙がった例もある。
 テレビゲームについて悪影響が懸念されるということで、単純にそこから遠ざかるのは、その有用性も放棄することである。テレビゲームから遠ざかるのではなく、それと最適な形で付き合うにはどうすればよいかという視点に立つことも可能であり、そのためには、問題性と有用性の両面からテレビゲームを捉え、テレビゲームに関する取り組みや研究を進めていくことが重要になると考えられる。


2  「子どもとテレビゲーム」-教育的対応の必要性-【佐々木委員】

(1)  背景
 問題の背景では、最初に、筆者(佐々木委員)が関わった総務庁の報告書を引用しながら、テレビゲームと暴力性の関係を述べ、次に、何故そのような関係があるのかについての説明を行う。さらに、テレビゲームは悪い影響ばかりではなく、良い影響を与えることもできることについて述べたい。

1 予想以上に強かったテレビゲームと暴力性との関係
 当時の正直な感想であるが、調査結果を見てこれほど明確に、テレビゲームと暴力性の関係が見られるとは予想していなかった。平成11年の秋に発行された、総務庁青少年対策本部による「青少年とテレビ・ゲーム等に係る暴力性に関する調査研究報告書」では、テレビ視聴及びテレビゲームと暴力性の関係などが調べられた。データを分析してみると、テレビと暴力性の関係はそれほど見られなかったが、テレビゲームと暴力性の関係はかなりはっきりした形で現れた。従って、報告書のタイトルも、そのような結果を反映し、テレビゲームを前面に出したという経緯があるほどであった。
 この調査対象者は、5府県(茨城、埼玉、愛知、京都、兵庫)の小学6年生1,542名、中学2年生1,700名、合計3,242名を対象にしているので、得られた結果は安定的な傾向であると考えられる。
 調査においては、全般的な「テレビゲーム遊び」の場合もたずねたが、ゲームの内容も重要な要因であると考え、ソフトの内容が相手を倒すことを中心としている、いわゆる「格闘ゲーム遊び」についてもたずねている。そして、これら2つをゲームセンターで遊ぶ場合と、家庭で遊ぶ場合についてたずねている。つまり、以下のような4つの組み合わせを分析している。
 1) ゲームセンターでのテレビゲーム遊び×暴力経験
2) ゲームセンターでの格闘ゲーム遊び×暴力経験
3) 家庭でのテレビゲーム遊び×暴力経験
4) 家庭での格闘ゲーム遊び×暴力経験
 結果としては、何れの場合も暴力経験との関係が見られた。もちろん、この分析結果は関係性を表すものであるから、テレビゲームが原因で、その結果としての暴力経験があるということを示すものではないが、両者間には関係があると言える。
 また、この研究では変数の統制を行うことも試みている。例えば、男女に分けてみても、テレビゲームと暴力経験の関係は見られた。また、「学校や家庭での満足度」の程度に応じて分けてみても、テレビゲームと暴力経験の関係は見られた。具体的に言うと、学校や家庭に不満を抱いている群、平均的な群、そして満足している群の3つに分けて、テレビゲームと暴力経験の関係を見ているが、どの群においても両者の関係性が見られるのである。従って、この調査から、テレビゲーム、または格闘ゲームを多く経験している者は暴力経験が多いと言うことができる。

2 なぜ、そのような関係が見られたか?
 上記の研究では、テレビゲームと暴力経験の関係が明確に見られたが、なぜそのような結果が得られたのかを考えてみたい。
 一つは、テレビゲームの相互作用性(インタラクティブ性)であろう。テレビゲームは、テレビの場合と異なり、画面をただ見ている訳ではない。遊戯者(プレイヤー)は、相手を倒したりして、スコアを上げるために、相手や対象物を意識しながら積極的に働きかけていくのである。現実世界では、相手を倒すというのは反社会的な行為であるので、何らかの罰があるが、テレビゲームの世界では、罰せられることは無く、むしろ得点が高くなるという報酬があるので、ためらうことなく相手を倒していく。このプロセスにおいて、暴力的な考えが助長されたり、具体的な暴力行為の練習効果が生じたりする可能性がある。このことは、車や飛行機の操縦技術を向上させるためのシミュレーション・ゲームに当てはめて考えると分かり易いだろう。そのようなシミュレーション・ゲームで練習しない人よりは練習した人の方がうまくなる可能性は高いと言える。(もちろん、ゲームの質によるが。)同様の練習効果が、格闘ゲームにおいても生じている可能性は十分考えられるであろう。
 二つ目は、もともと暴力性の高い人が暴力的なゲームを好んで遊ぶという可能性である。先ほども述べたが、相関研究では、どちらが原因でどちらが結果であるかを示すことはできない。したがって、もともと暴力的な人が暴力的なゲームを選んでいるために、関連性が示された可能性も十分考えられる。しかし、その場合においても大きな問題がある。それは、行動が「強化(reinforcement)」されているのではないかという問題である。マスコミ研究において、人々は自分がもともと持っている傾向(=先有傾向)に合致したメッセージを選んで接触(=選択的接触)すると言われている。そして、先有傾向を強化することは比較的容易であるといわれている。そこで、暴力的な人が暴力的なゲームを選んでいると仮定した場合、頻繁に暴力的なゲームで遊ぶ過程において、ますます暴力的になっている(=暴力的傾向が強化されている)可能性が考えられる。

3 テレビゲームでは「悪い影響」と「良い影響」の両方が予想される
 前項ではテレビゲームの悪影響の側面を検討したが、もちろんテレビゲームが与える良い影響もあり、例えば以下の点が挙げられる。
 1) 娯楽提供
2) 友だちなどと一緒に遊んだ場合のチームワークを促す
3) 機器に慣れ親しむことができる(特に女の子)
4) ゲームをクリアした時に自分に自信を持つことができる
5) 読書、算数、問題解決のスキルを養うことができる
(Media Awareness Network:http://www.media-awareness.caより引用)
 テレビゲームは利用者の注意をひきつける技術に優れているので、良い内容を提示すれば、利用者は良い影響を受けるであろう。さらに、テレビゲームは満足度が大きいために、子どもは次もまた同様のゲームで遊ぶことが予想され、図1のような循環パターンが形成される。
 b>図1には悪循環と好循環の両方が示されているが、もし子どもが好循環の中に組み込まれた場合は、有益な知識を得たり問題解決能力が向上したりするどの望ましい効果が得られる。ところが、悪循環の中に組み込まれた場合は、反社会的な行動の是認や模倣などの悪影響の可能性が大きくなる。そして、子どもをこれら2つのどちらの循環パターンに向かわせるかについては大人の責任が大きいと考えられる。

図1 テレビゲーム効果の循環パターン
図1 テレビゲーム効果の循環パターン

(2)  教育的対応(=制作者側&利用者側の同時的・多角的な教育的対応が必要)
 以上のような状況において、子どもを悪循環から遠ざけるために、大人による教育的対応が必要となる。このような議論に対して、テレビゲームが子どもに悪影響を及ぼしているかどうかの客観的な研究結果を待つべきだという意見もあるが、その必要は無いだろう。もちろんそのような研究はとても重要なので継続的に進めるべきだが、教育的な視点においては、保護者や教育者が持っている「子どもをどう育てたいか」という考えに基づいて対応していくべきである。そのためには、以下のような、制作者側の協力と、利用者側の努力が必要だと考えられる。

1 制作者側
 テレビゲームは様々な工夫が為され、特に子どもの注意を引くという側面で大変優れているので、提示される内容が良いものであればこれほど素晴らしいものは無いが、提示される内容が反社会的な行動を含む場合は、図1で示した「悪循環」効果を生む可能性がある。したがって、制作者側においては、例えば以下のような協力が必要だと考えられる。
 1) 暴力、性、刺激色など、悪影響が予想されるものを最小限に留める
2) 利用者がソフトを容易に選別できるよう、格付け(レーティング)の基準と表示の充実
3) ゲームソフト販売時にレーティングが機能する仕組み作り
(特に、大人向けのソフトが子どもに販売されないような仕組み作り)
4) 教育的なソフトの開発と普及
5) 広告への配慮、など

2 利用者側-家庭&学校を取り込んだメディア・リテラシー教育-
1)  情報の収集・蓄積と提供
 利用者の中心は子どもであるが、前述のようにテレビゲームは魅力の度合いが高いので、子ども自らが自制的に遊戯することは難しいと考えられる。もちろん、子どもをそのように育てるのがメディア・リテラシー教育の大きな目的であるが、そのためには保護者や教員などの大人の支援が必要である。したがって、利用者側におけるカギとなる人物は、子どもの教育に関わる保護者や教員ということになる。
 しかしながら、日々進化していくメディアに関しては、大人よりも子どもの方が情報をたくさんもっているのが現状である。したがって、ゲーム機器やゲームソフトの購入に関しても子どもがリーダーシップを取る可能性が高いと考えられるが、それではメディア・リテラシー教育などはとうていおぼつかない。そこで、テレビゲームに関する基本的なことから、家庭や学校におけるメディア・リテラシー教育法などの応用的な情報までを一括して1箇所に集め、それを必要とする大人に効率的に提供する仕組みを作る必要があるだろう。

2)  大人と子どものコミュニケーションを促進する
 関連情報を1箇所に集めることができたら、次のステップとして、それらを子どもたちに効果的に伝える必要がある。そのためには効果が期待されるカリキュラム作りと同時に、大人と子どものコミュニケーションを図る必要があると考えられる。ここでは大人と子どものコミュニケーションに焦点を当てるが、現代において学校・家族・地域社会が子どもたちに対して十分な影響力やコミュニケーションを持つかは疑問である。
 子どもに大きな影響力を持つのは一緒にいる時間が長い保護者や教員であるが、それと同じ位、あるいはそれ以上に影響力を持つのが、子どもの仲間集団、そしてメディア情報だと考えられる。従来は、家に帰れば親とのコミュニケーションが自然に増え、子どもに対する影響力を保つことが可能であったが、現代社会では家に帰っても子どもたちは、テレビを始めとして、テレビゲーム、携帯メール、パソコンなどに接する時間が多く、親の影響力が及びにくくなっているのが現状ではないだろうか。さらには、携帯電話の普及によって、常に仲間集団と関わることができる状況にある。このように考えると、子どもに影響を与える源として、学校、家族、地域社会の他に、仲間集団とメディア情報を付け加えることができ、学校、家族、そして地域社会よりも大きな影響力を持ちつつあるのではないだろうか。この関係は図2のように表すことができ、線の太さが、コミュニケーション量と影響力の大きさを表している。
 以上のことから、メディア・リテラシー教育を効果的に行うために、関連情報を1箇所に集め、それらを効率的に提供する仕組みを作ったり、メディア・リテラシー教育カリキュラムを開発したりすることが重要であるが、その前提として、子どもたちとのコミュニケーションをどのようにして図り、学校や地域や家庭の影響力を取り戻していくかという大きな課題がある。
 とりわけ、テレビゲームに関するメディア・リテラシー教育を行う場合、子どもが楽しく遊んでいる中に介入していく訳であるから、コミュニケーションが取れていない場合、子どもにとってはうるさい大人としてしか映らないかもしれない。このように考えると、メディア・リテラシー教育の実現には、多方面からの甚大な努力が必要であることが分かる。

図2 影響源の五角形(コミュニケーション量と影響力の偏り) (佐々木(2001)、36ページ)
図2 影響源の五角形(コミュニケーション量と影響力の偏り)

参考資料】
佐々木輝美(2001) 「携帯電話の所有と青少年のコミュニケーション行動」、『青少年問題』、第48巻4号、30‐36頁.
総務庁青少年対策本部(1999) 「青少年とテレビ・ゲーム等に係る暴力性に関する調査研究報告書』

3  ゲーマーの特性【橋元委員】

(1) はじめに
 橋元らが平成13年に実施した全国調査によれば、テレビゲームの自宅所有率は10代で90.2パーセント、20代で75.8パーセントに及ぶ。また総務庁調査によれば、「ふだん学校のある日にどれくらいテレビゲームで遊ぶか」という質問に対し、2時間以上と答えた比率が小学生男子の43.3パーセント、中学生男子の38.1パーセントにも達する(総務庁(1999))。今や日本の児童・青少年、とくに男子にとってテレビゲームは遊びの世界の中心に位置している。
 テレビゲームの影響については様々な角度から議論されているが、ここでは比較的研究事例の少ないと思われる「友人との交友スタンス」「コミュニケーション関連心理特性」との関連で、携帯電話利用者と対比させて調査した結果を報告する。(※)
(※)  調査自体は総務庁青少年対策本部「第3回情報化社会と青少年に関する調査」として、平成8年に実施された(筆者も調査企画委員の一人)。それ以後、テレビゲームの世界でも次々と新しいゲーム機、ゲームソフトが登場し、テレビゲームの影響を探るデータとして「時代遅れ」の感がなきにしもあらずではあるが、調査が実施された平成8年はテレビゲーム機の年間国内出荷台数が初めて1000万台を突破し(総計1,214台)、ゲーム人口において大きなピークを迎えた年である。また、同年は携帯電話の世帯普及率が25パーセントに達し、いわゆる「普及の臨界点(critical mass)」を突破した年でもある。調査結果からは、「ゲーマー」と「携帯電話利用者(当時においては「イノベーター」とみなしうる)」との顕著な相違が示されており、「過去の研究事例の一つ」として紹介することにする。

(2)  調査当時におけるテレビゲームと他のメディア利用の概観
 総務庁調査の概要は以下のとおりである。
   調査対象 全国 12歳~29歳
  有効回収数 N=3803(抽出標本=6000)
  調査実施 平成8年6月20日~7月7日 個別面接聴取法
当時の調査対象青少年のメディア環境は図3に示したとおりであり(平成3年調査との比較も示した)、12歳から29歳の平均で、テレビゲームの所有率は67パーセント、携帯電話の所有率は28.1パーセントとなっている。また、調査当時の男女別/年層別(中学高校相当)のテレビゲームの遊戯頻度を図4に示した。現在と同様、女子より男子、とくに中学生相当年層の児童がかなり高頻度でテレビゲームを利用していることが見てとれる。
  図5では、テレビ視聴時間別(表側)に、テレビゲームの遊戯頻度を示した。この図から、テレビ視聴時間とテレビゲーム遊戯頻度は正の相関関係にあり、テレビをたくさんみる青少年ほど、テレビゲームの遊戯頻度が高いことが示されている。
  図6は電話(固定電話及び携帯電話)の利用頻度(表側)別にテレビゲームの利用頻度を見たものであるが、テレビとは逆に、電話頻度とテレビゲーム利用頻度とは負の相関関係が見られ、電話を多くかける青少年ほど、テレビゲームで遊ぶ頻度が低い傾向がみられる。

図3 平成8年当時の青少年のメディア環境(所有率)
図3 平成8年当時の青少年のメディア環境(所有率)

図4 テレビゲームで遊ぶ頻度(平成8年)
図4 テレビゲームで遊ぶ頻度(平成8年)

図5 テレビ視聴時間とテレビゲームの遊技頻度
図5 テレビ視聴時間とテレビゲームの遊技頻度

図6 電話頻度とテレビゲームの遊技頻度

図6 電話頻度とテレビゲームの遊技頻度

  図7表12はテレビゲームの利用とパソコン(ワープロも含む。)利用経験、利用時間との関係を示したものである。表12に示されるとおり、平成8年当時では、テレビゲーム利用者の方がパソコンの利用者が多い。しかし、パソコンの利用者を母数とした場合、パソコンの利用時間(週あたり)との関連では、テレビゲーム利用者の方が、利用時間は少ないという関係が読みとれる。すなわち、平成8年当時、テレビゲームで遊ぶ青少年は情報メディア環境的に比較的豊かであり、パソコン/ワープロを利用している比率が高かったが、パソコンの利用者の中では、テレビゲーム利用者の方がパソコン利用時間は短い。また、パソコンでゲームソフトを利用している人は、パソコンを利用しながらゲームソフトを利用しない人より、パソコン全般の利用頻度自体がやや小さい傾向にある。さらに、パソコンでゲームを利用している人ほどテレビゲームの利用頻度も高い(相関係数0.36、p<.001)。ちなみに、パソコンでワープロソフトをよく利用している人ほどテレビゲームの利用頻度は低い(-0.13、p<.001)。

図7 テレビゲームの利用とパソコンの週あたり利用時間 (平成8年)
図7 テレビゲームの利用とパソコンの週あたり利用時間 (平成8年)

表12 テレビゲームの利用とパソコンの利用経験(平成8年)
  現在使っている 現在は使っていない 1回も使ったことがない
TVゲームで遊んでいる 47.8パーセント 35.6パーセント 16.6パーセント
遊んでいない 39.7パーセント 40パーセント 20.7パーセント
χ2:p<.001

(3)  テレビゲームの利用と友人との交友スタンス、コミュニケーション関連心理尺度
 ここでは、テレビゲーム利用と、友人関係やコミュニケーション関連心理との関係を、携帯電話利用など他のパーソナル・メディア利用との比較で見ていくことにする。
 「交友スタンス」であるが、調査では、「同性の一番の親友とは何も言わないでもわかりあえる」「同性の一番の親友であってもあまり深刻な相談をしない」等、いくつか友人とのつきあいのスタンスを尋ねた。この一連の設問から、「友人関係の深さスケール」を構成し(表13下注参照)、メディア利用との関連をみた。まず、テレビゲームで遊ぶ人と遊ばない人の平均スケール値を比較した結果、テレビゲームで遊ぶ人ほど「浅いつきあいを好む」という傾向が見られた。ちなみに、パソコンの利用について分析した場合、テレビゲームとは逆に、ふだん利用する人ほど深いつきあいを好む傾向にあるが、さらに利用目的別にみた場合、パソコンソフトでゲームをする人は、パソコン利用者の一般的傾向とは逆で、テレビゲーム遊技者と同様に、浅いつきあいを好む傾向にあった。一方、携帯電話は、それぞれふだん利用する人ほど、深いつきあいを好む傾向が見られた。

表13 「友人関係の深さスケール」の平均値の比較  
テレビゲーム*** 携帯電話***
遊ぶ 0.64 ふだん利用 1.33
遊ばない 0.91 利用しない 0.71
***:p<.001 スケールの値は大きいほど深いつきあいを好む傾向を示す
(注)「友人関係の深さスケール」はサンプルごとに以下の得点を合計したものである。
以下の質問に該当すると答えた場合「+1」
 「同性の一番の親友とは何も言わないでもわかりあえる」
 「同性の一番の親友とはお互いの裏の裏まで知り合っている」
 「親しい友人グループの中では悩みごとの相談をする」
 「親しい友人グループの中ではお互いに悪いところは悪いと言いあえる」
以下の質問に該当すると答えた場合「-1」
 「同性の一番の親友であってもあまり深刻な相談はしない」
 「同性の一番の親友であっても自分のすべてをさらけ出すわけではない」
 「親しい友人グループの中でもみんなにけっこう気を使っている」
以下の質問に該当すると答えた場合「-3」
 「同性で親友といえる人はいない」
 「親しい友人グループはいない」
 

表 14 パーソナル・メディアの利用と心理傾向  
  テレビゲーム 携帯電話 パソコン
共感性 低*** 高**
コミュニケーション耐性 低** 低+
直接対面忌避傾向 忌避+
批判受容耐性 低*** 高*** 高**
現実体験の軽視 軽視** 尊重+ 尊重**
感覚志向 大*** 小*
***:p<.001
**:p<.01
*:p<.05
+:p<.1 -:n.s.
(注) コミュニケーション行動関連の心理尺度に対応する質問文は以下のとおりである。
共感性 :友人が悩みごとを話し始めると話をそらしたくなる
コミュニケーション耐性 :相手の答えが遅いといらいらする
批判受容耐性 :傷つきたくないから本気で議論するのは避ける
直接対面忌避 :面と向かって話すより電話の方が話しやすい
現実体験の軽視 :体験がなくても情報として知っていれば十分だ
感覚志向 :言葉よりも絵や音楽の方が自分の気持ちをうまく表現でる
 

 また、総務庁調査では、コミュニケーション行動と関連の深い心理尺度についてもいくつか質問している(それぞれの質問項目は表14下注参照)。表14は、テレビゲーム、携帯電話、パソコンについて、利用者と非利用者を比較したものである(それぞれの尺度の平均値の分散分析で有意差のあったものについて、いずれも「利用者」の傾向を示す)。
 ここでもテレビゲームと携帯電話は、非常に対照的な結果を示している。すなわち、テレビゲームの利用者は、共感性、コミュニケーション耐性、批判受容耐性が低く、現実体験を軽視し、感覚志向が大きいのに対し、携帯電話やポケベルの利用者は、共感性、批判受容耐性が高く、感覚志向が小さい。
 以上の分析から、テレビゲーム、携帯電話の利用は「友人関係の深さ」及び一部のコミュニケーション関連心理尺度と関連をもつことが示唆された。しかし、「友人関係の深さ」は性別、年齢とも強い相関をもち(女性、上の年齢層、において深いつきあいを好む)、心理尺度も年齢や性別と大きな相関をもつ。一方で、テレビゲームは女性より男性、年齢が低い方が利用頻度が高い。携帯電話の利用も性別、年齢と大きな関連をもっている。先ほどのメディアと、友人とのつきあいのスタンス、心理尺度との関連は、性や年齢を介した擬似相関の可能性がある。そこで、「友人関係の深さ」や諸心理尺度を目的変数とし、性、年齢、テレビゲーム・携帯電話の利用を説明変数として多変量解析を試みた結果、「友人関係の深さ」に最も関係するのが性別(女性の方が深い)であり、以下、携帯電話の利用(利用者の方が深い)、年齢(高い年層の方が深い)と続き、テレビゲームの利用との相関は消えてしまった。すなわち、確かに携帯電話やポケベルの利用者ほど、友人と深いつきあいは好むが、テレビゲームと友人関係の深さは直接の関連がみられなかった。
 しかし、心理尺度については、多変量解析の結果でも、いくつかの項目でテレビゲームと心理傾向との相関が示された(表15参照。表は10パーセント以下の水準で有意差のあった変数を、回帰係数の大きいものから順に整理したもの)。つまり、性別や年齢を含み入れても、やはりテレビゲームでよく遊ぶ人は共感性、コミュニケーション耐性、批判受容耐性が低く、感覚志向であり、携帯電話をよく利用する人は共感性や批判受容耐性が高い一方で、コミュニケーション耐性が低い。なお、この多変量解析とは別に、メディアの利用と上記の諸尺度を男女/年齢層ごとに分けて分析した場合でも関連は消えず、とくに15-19歳の年齢層でメディア利用との関連が大きかった。

表15 心理尺度と関連要因(重回帰分析結果)
共感性あり 性(女)***> 年齢(高)***> テレビゲーム(-)*>携帯電話+
コミュニケーション耐性あり 性(女)***> テレビゲーム(-)*>  携帯電話(-)+ >年齢(高)+
直接対面忌避傾向 年齢(低)**
批判受容耐性あり 年齢(高)***>テレビゲーム(-)***> 携帯電話***
現実体験の軽視 年齢(低)***
感覚志向 年齢(低)***>テレビゲーム*

 しかし、上記のメディアと心理尺度との関係は、たとえば「テレビゲーム」で遊んだから一連の心理傾向が生じる、といった方向性より、むしろある心理傾向をもった人が、ある社会風土において、高い頻度でゲームで遊ぶ、という方向性の方が強いだろう。橋元らは、平成9年に日韓大学生のメディア利用・意識に関する比較調査を実施した。もし、テレビゲームをすること自体が、様々な心理傾向に影響をもたらすのであれば、テレビゲームの利用頻度とある特定の心理傾向に日韓で同じ相関関係が見られるはずである。しかし、調査結果からはテレビゲームの利用頻度と関連ある心理傾向は日韓で相違していた。すなわち、テレビゲームの影響は、文化や集合的メンタリティ、社会的な情報環境によっても相違するのである。

(4)  メディア利用タイプによる類型と「ゲーマー」の特性
 ある一人の青少年をとってみた場合、その人がテレビゲームで高頻度で遊びつつ、携帯電話もよく利用する、というようなパターンも考えられる。一つの人格においては、個々のメディア利用以上に、トータルな情報行動パターンが重要な意味を持つ。そのパターンと友人関係におけるスタンス、心理傾向とはどのような関係にあるのだろうか。それを明らかにするために、総務庁のデータから現代の青少年の情報行動パターンを分類し、それぞれの傾向を見た(なお、12-14歳の中学生段階では、メディア利用に極端な偏りがあるため、この分析では15歳以上のデータに限定した)。
 「メディア利用行動類型」の分析方法は下記のとおりである。
第1ステップとして、表16の13の情報機器の個人利用率(「あなたがふだんよく使っているもの」)を因子分析(主成分法)した。

表16 15-29歳の情報機器個人利用率
ビデオデッキ 63.8 衛星放送受信装置 12.6 電子手帳 5.1
ヘッドホンステレオ 31.8 携帯電話・PHS 12.5 ファクシミリ 4.2
テレビゲーム 25.0 ワープロ 12.0 携帯用テレビゲーム 3.8
ポケベル 18.7 パソコン 11.1      
携帯用CDプレーヤー 12.7 ケーブルテレビ 9.7      

 因子分析の結果、「キーボード・OA系因子」(パソコン、ワープロ、ファクシミリで高因子負荷)、「テレビゲーム因子」(テレビゲーム、携帯用テレビゲームで高因子負荷)、「映像系因子」(衛星放送、ケーブルテレビ、ビデオで高因子負荷)、「ポケベル・ウォークマン系因子」(ポケベル、ヘッドホンステレオ、携帯用CDプレーヤーで高因子負荷)、「携帯電話・モバイル系因子」(携帯電話、電子手帳で高因子負荷)の5つの因子が抽出された。さらに標準化された因子得点に基づいてクラスター分析(最近隣重心ソート法)を行ったところ、「マジョリティ」「映像派」「マルチ派」「ゲーマー」「キーボード派」「ケータイ派」の6つのクラスターが得られた。各クラスターにおける因子得点の平均値および各クラスターの構成人数は表17のとおりである。また、各タイプの特徴は表18のとおりである。
 これらのタイプと友人関係の深さとの関連を見たのが表19である。数値は先述の「友人関係の深さスケール」の値で、数値が大きいほど、深いつきあいを好むことを示す。表に示されるとおり、「ケータイ派」「マルチ派」は友人との深いつきあいを好み、一方、「ゲーマー」は友人との浅いつきあいを好む傾向にあった。

表17 各クラスターの因子得点
  構成比(N) OA系因子 ゲーム系因子 映像系因子 ポケベル系因子 携帯系因子
1マジョリティ 56.3(1,599) -0.330 -0.191 -0.369 0.200 -0.324
2映像派 14.1( 400) -0.350 -0.010 1.659 -0.512 -0.586
3マルチ派 1.3(  36) 2.499 -0.231 2.219 1.706 1.698
4ゲーマー 3.6( 102) 0.054 3.628 -0.122 0.807 0.633
5キーボード派 12.2( 345) 1.891 -0.106 -0.338 -0.370 -0.371
6ケータイ派 12.5( 356) -0.194 -0.046 -0.068 -0.369 2.120

表18 各タイプの特徴
1マジョリティ 分析サンプルの過半数を占める。概してメディア利用行動は活発でない。やや女性が多い(57.5パーセント)。テレビ、新聞、ゲームはほどほど。パソコン利用率も低い(34パーセント)。
2映像派 映像系メディアの因子の数値のみが高い。男女ほぼ半々。15-19歳、在学者に多い。テレビをよく見る。あまり電話をかけない。パソコンはあまり利用しない。
3マルチ派 ゲーム因子以外、どのメディア利用の因子についても数値が高い。男女ほぼ半々。20-24歳、在学者(特に大学生)に多い。有職者では高学歴が多い。テレビをよく見、新聞もよく読み、電話もよくかける。8割がパソコンを現在利用。キーボードリテラシーも高い。
4ゲーマー テレビゲームをこよなく愛する。男性が多い(67.7パーセント)。15-19歳、在学者に特に多い。テレビもよく見る。新聞はあまり読まない。当然、全員がテレビゲームをよくする。あまり電話をかけない。半数がパソコンを現在利用しているが、キーボードリテラシーは最低。
5キーボード派 キーボード・OA系因子の数値のみが高い。やや女性(58.3パーセント)、有職者、20代に多い。事務職、技術職に多い。テレビはあまり見ない。新聞をよく読む。ほとんどがパソコンを現在利用。当然キーボードリテラシーが高い。
6ケータイ派 「携帯電話・モバイル系因子」の数値のみが高い。やや男性が多い(55.1パーセント)。大半が25-29歳、有職者。販売職、技能職(整備士等)に多い。テレビ視聴、新聞閲読は平均的。卓上電話の利用も多い。

表19 各タイプと「友人関係の深さ」
ケータイ派 マルチ派 キーボード派 映像派 マジョリティ ゲーマー
1.22a 1.17a 0.97ab 0.85ab 0.83ab 0.52b
分散分析でF:p<.01 数値右肩のa,bは同記号間ではp<.05の有意差がないことを示す。

 さらに、これらのタイプのうち主なものとコミュニケーション行動関連心理尺度との関連を見たのが図8である。図8は、それぞれの尺度について、マジョリティの数値を1とし、一般にコミュニケーション行動にとって協調的と思われる方向に数値を大きくするよう数値を変換して作成したレーザー図である。この図8に示されるとおり、「ゲーマー」はいずれの項目も「マジョリティ」に比べて低い数値となっている。一方、ケータイ派は、コミュニケーション耐性以外、マジョリティより高い数値を示し、マルチ派では、直接対面志向、批判受容耐性の値が特に高くなっている。もちろん、テレビゲームをよく利用する人がすべて「ゲーマー」に属する訳ではない。高頻度でテレビゲームで遊んでも、多くは「マジョリティ」やその他のクラスターに属する。ゲーマーとは基本的に情報行動の中でもテレビゲームとテレビ視聴だけに長時間を消費する人である。コミュニケーション行動という観点からみれば、彼らは平均的な人々とやや位相を異にしたスタンスをとっているといえる。

図8 主なクラスターと心理特性
図8 主なクラスターと心理特性
参考資料】
総務庁青少年対策本部(1997) 『情報化社会と青少年―第3回情報化社会と青少年に関する調査報告書』