荒磯に舞う波の花 千田 一路(俳人)
「波の花」は、荒磯の冬を彩る日本海沿岸特有の風物詩。岸へ押し寄せる怒涛が、西高東低の気圧配置による季節風を受けて発生する。つまり、岩礁に繰り返し打ち砕ける波の渦が、低温と海水中に浮遊するプランクトンの粘性によって、白い泡状に湧き立つ現象である。なかでも能登の外浦や越前、越後海岸などが顕著な見どころだろう。
時化が続くとその白いせっけん状の泡が次第に増え、1mにも膨れて海岸一帯を埋め尽くすことがある。この状態でも見事な景観だ。それが折からの突風や強風に煽られると真綿のように吹きちぎれ、ほの暗い空中に淒じく乱舞する。白い群鳥に見えたり花吹雪に似たりして形や大きさもさまざま。屹立する黒褐色の断崖に映えて壮観である。
科学的に呼称すると白い「海水泡沫」となるようだが、これでは詩歌の世界に馴染みそうもない。にしても「波の花」とは、何びとが何時の頃から言い初めたのだろう。地元先人たちの自然鑽仰からか、それとも旅びとたちの風雅な発想からか。あるいは歌びとたちの中世的美意識が育んできた妙なる詩語なのかもしれない。
松葉ちる嵐や磯は波の花 支考
芭蕉の高弟である美濃俳人の各務支考が越前海岸で詠んだ句である。元禄の頃なので1700年前後の作となろう。句意は明瞭で説明の要はない。松葉を吹き散らす嵐の模様と、白い波の花に覆われた海岸の美しさが、容易に想像できるはずだ。
波の花ぶつかり合ひて松が枝に 一路
昭和56年に筆者が珠洲の真浦海岸で詠んだ凡作である。こうして、時には頭上の松の高枝へ舞い上がって止まり、時には足元に束ごと纏いつく。当然ながら美しさばかりが特性とは言えない。各種の塩害は別としても、セーターなどに付着して黄ばみ、染み痕を残すこともある。美観からの代償として許容できなければ、注意して接するべきか。1、2月が発生のピークである。