2013年03月03日
■ 「ぜんぶで」メモ2
本記事の趣旨
文章題の「ぜんぶで」のところだけ見て,たし算の式にするような指導には,1年であっても,賛同できません.
「ぜんぶで」メモ
上記に補足をする必要があると感じ,本記事を書きました.
補足は2点からなります.まず,1年のうちは,「ぜんぶで」はたし算の式にするための重要な要素となります.
そして,1年の段階で,「全体と部分の関係」を理解することを望みます.その理解は,逆思考(加法逆の減法,減法逆の加法)を含む,2年以上の学習にもつながります.
しかしながら上記引用そのものについては撤回しません.先生が「『ぜんぶで』とあるから,たし算だよ」と言うのは基本的に反対,子どもが「『ぜんぶで』とあるから,たし算になるのでは」と考えるのは基本的に賛成です.
前提となる関連情報
以下で,この関連情報を参照しているところもありますが,どちらかというと,それ以降に知った情報を紹介しながら,加法・減法の意味理解を見ていきます.
1年と2年の違い
加法・減法に関して,1年と2年との違いには,次の3つがあります.
- たし算・ひき算をする数の範囲.
- 1年では「加法や減法が用いられる場合」を学習すること.
- 2年では「加法と減法の相互関係」を学習すること.
「加法と減法の相互関係」については,小学校学習指導要領解説 算数編 p.96をご覧ください.その次のページには「逆思考になるような問題」という表記があり,pp.96-98で問題を例示するとともに考え方や指導の仕方を概説しています.
ということで,それらに配慮された教科書や指導方法のもとで,学習がなされていると推測できます.なお,学習指導要領データベースインデックスによると,「加法と減法の相互関係」は昭和43年告示,昭和46年施行の小学校学習指導要領からです.
逆思考の問題―日本(1)
『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』のpp.44-47は「たし算になるのかな,ひき算になるのかな」と題して,2年向けの授業例を示しています.アイディアシート(p.45)の主要部は次のとおりです.
書き起こしておきます.
①既習の問題
くりのけえきが3こあります。いちごのけえきが4こあります。けえきはぜんぶでなんこありますか。【1年】
②既習の意味
・合併や増加の場面はたし算になる。
・求残や求補,求差の場面はひき算になる。
③STEP1 「あれ?」を生む問題
みかんが15こあります。何こか買ってきたので,ぜんぶで32こになりました。買ってきたみかんは何こですか。
④意味が欠落した手続き
問題文に「ぜんぶで」「あわせて」という言葉があったら“たし算”になる。
(略)
「なるほど! テープ図に表すとわかりやすい。わからないものが何か考えると,何算かわかるね」
テープ図については,上でリンクした小学校学習指導要領解説 算数編 p.96にもありますし,他にはテープ図と線分図|算数用語集で見ることができます.
テープ図は,「全体と部分の関係」を視覚化できるツールとなります.この関係については,4. コンセンサスはで見てきたとおりです.なお,Greerの分類の中にも「全体と部分の関係」があり,そこの問題もテープ図で表せます.これについては,まず加減算で表される「全体と部分の関係」を学習してから,乗除算で表される「全体と部分の関係」を学習する,と考えればよさそうです.
逆思考の問題―日本(2)
『算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集』p.65の問題にも,「ぜんぶで」が入っています.他の出題や授業と異なるのは,問題文と3つの選択肢を提示している点です.
問題24
「いもが12こあります。いくつかもらったので,ぜんぶで28こになりました。」
このお話をあらわしている図は,どれでしょうか。
授業の流れ
(1) 問題文を板書し,ア,イ,ウの図を提示する。児童にも図をプリントしたものを配付する。
そして
(4) 問題文の通りに図をかきながら,イが正解であることを確認し,式をつくらせる。
①「いもが12こあります。」
②「いくつかもらったので,」
③「28こになりました。」
④28こから12こをひけばいくつもらったかわかる。→ 28−12=16
逆思考の問題―米国
「ぜんぶで」メモで書いたとおり,Common Core State Standards for Mathematicsのもとでは,「8+?=11」「5=□−3」,そしてそれらの式になるような文章題は,1年で学習することになります.
以前にも取り上げた文献の中から,図を取り出し,思考過程をテキスト化しました.
- Moser, J.M.*1: "Arithmetic Operations on Whole Numbers: Addition and Subtraction". asin:0205110762 pp.111-145.
FIGURE 5-14: A sequence of steps in writing and solving a number sentence
- I have a sack with same marbles in it. You have to figure out how many! : □
- I am going to take some out of the sack. : □−
- I took out 3 marbles. : □−3
- I can see that there are 4 marbles left. : □−3=4
- How many marbles were in the sack to start with? : 7−3=4
(図5-14: 文章題を書いて解く手順
場面としては「求残」です.実際,「7−3=4」を見れば,「袋の中に7個のおはじきがあって,3個を取り出したら,袋に入っているのは4個です」と説明することができます.
上のステップに基づくと,□−3=4という式を立ててから,□に入る数は7と計算し,それによって「最初,袋の中にあったおはじきの数」は7個と答えられるわけです.
日本では,例えば「4+3=7」*2というたし算によって答えを求めます.このあたりは文化の違いといいますか,それぞれの算数の考え方の違いと思っておけばいいのでしょう.
とはいうものの日本でも,「あとでシールを7まいもらったので,合わせて16枚になりました。はじめに何枚もっていたでしょう。」という出題に対し「9+7=16 答え9枚」とする児童がいることは,その対応を含めてここで示されています.
「部分-全体のスキーマ」にたどり着くまでに
- 作者: 吉田甫,多鹿秀継
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この本は,『子どもは数をどのように理解しているのか―数えることから分数まで (子どものこころ)』とともに,最近入手しました.低学年の数概念や加減算そして文章題について,興味深い内容が記されています.ただしかけ算については控えめなようにも見えます.
4章(低学年の文章題)に記された「ライリーら*3の段階的モデル」が興味深かったので,書き出しました.
第1段階
文章理解:初めの2つの集合の基数が,文章題に明記されている文章関係のみ理解できる。
数概念:具体的な物を操作する範囲で数を理解できる。ここでは特に,基数性の理解,すなわち,最後にかぞえた数詞がその集合の基数を示すということの理解が重要とされている。
第2段階
文章理解:初めの2つの集合の1つが未知数でも文章関係を把握できる。
数概念:いくつかの数のスキーマを獲得しているために,未知数を既知数との関連により表象することができる。これらの数のスキーマには,集合の要因の移動のスキーマや簡単な部分-全体のスキーマが含まれる。
第3段階
文章理解:第2段階とほぼ同じで,初めの2つの集合の1つが未知数でも文章関係を把握できる。
第2段階の知識に加え,完成された部分-全体のスキーマを利用し未知数を既知数との関連により表象することができる。
(pp.86-87)
「基数」という表現に抵抗がありましたが,p.87には「りんごが6こあります」という文に対して「対象物がりんご」「その基数は6」とあり,単純に言えば純粋な数のことなんだなと理解できました.
p.85ではライリーらが調査に用いた,たし算やひき算の文章題が,またp.89には各問について就学前児童・1年生・2年生・3年生ごとに正しく解いた子どもの割合が表になっています.この表をもとに著者はいろいろと書いているし,自分としてもあれこれ読み取れるなあと感じたのですが,1点思ったことを挙げておくと,「発達段階」がそこに効いてくるのかいな,でした.
「ぜんぶで」の構造
「a個あります.いくつかもらったので,ぜんぶでb個になりました.いくつもらったでしょう」という問題に対し,解き方を次のように整理することができます.
- a+bというたし算は不正解
- a+?=bというたし算の式を立て,この式から?を求めるのがアメリカ式
- a+□=bの関係をテープ図で表し,ひき算と判断してb−aを求めるのが日本式
それで「ぜんぶで」は何なのか
それで,@temmusu_nさんの発言や情報を読んでいったのですが,「『ぜんぶで』を加法(たし算)の根拠とする」を推奨する指導がどこにも見当たりません.@temmusu_nさんもどうやら,それが存在することを主張されたいわけではなさそうなので,これは自分の問題意識なのですが…
近そうなのが2つあります.一つは
星2の金魚の場面をノートに図でまとめさせる。このとき「はじめに」「ふえると」「ぜんぶで」の言葉を書かせ、数の関係をとらえやすくしておく。
図に対応して式を書き、このような、増えた数を求める場面を「たし算」ということを知らせる。
指導書における合併と増加:教育出版、日本文教出版、啓林館、大日本図書
のところです.ですがこれも,「ぜんぶで」(少し上の記述だと「みんなで」)を根拠としているわけではなく,子どもが金魚の場面を図にしてから,「ぜんぶで」などを添え,これがたし算なのだとして,「加法が用いられる場合(の1事例)」を学習することになりそうです.
もう一つ,中でリンクされている【資料置き場】です.学校図書の教科書のいくつかの文章題に,「ぜんぶで」が入っているとのこと.
しかしここには「「ぜんぶで」の言葉だけでなく自動車が増えていくことを,ブロックの動きを入れながら,説明させたい。」とも書かれており,「ぜんぶで」を演算決定の根拠に使えというのは否定的です.
そこで,次のような問題設定をしてみます.学校の先生は,「ぜんぶで」をたし算の根拠にせよと教えなくても,1年生の児童は,文章題を解いていったり,自分のノートに書いていったりしながら,「ぜんぶで」とあればたし算だと,理解するようになるのではないでしょうか.
この問いの答えを得るのは,技術的には難しくありません.児童を無作為抽出して,インタビューすればいいのです.
しかしそうして,何割の児童が実際そう理解していると判明したからといって,算数教育にどのように役立つのでしょうか.「逆思考」や「加法と減法の相互関係」や,「『ぜんぶで』とあるからといって,たし算で求めるとは限らない」という知識は,2年で学習するのでもいいのではないか,そのように学年ごとに学習事項を分ければいいのでは,といった反論もできそうです.
それでも…もしそういう考え方をしてそうな1年生の児童がいれば,「アメリカではね,1年生の子どもたちはこんな問題も解くんだよ.できるかな?」と言って,袋に入ったおはじきの話を言い,考えさせるのは,良さそうに思います.
どんなタイプの問題が易しいか難しいか,どんな考え方・解き方をいつ学習するのかについて,これからも集約を試み,社会や教育情勢がどう変わっていくか,そしてそのもとで,子どもたち---自分の子を含め---に何を身に付けてもらえばいいか,引き続き見ていくことにします.
(最終更新:2013-03-03 朝)
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