社説:視点・日露フォーラム 太いパイプを築こう

毎日新聞 2013年03月03日 02時30分

 「日本・ロシアフォーラム」(毎日新聞社など主催)が2月28日に東京都内で開かれ、さまざまな分野の専門家が今後の日露協力の可能性を議論した。プーチン大統領と森喜朗元首相の会談を機に日露関係の新展開に期待が高まっている中で、参加者は500人を超え、関心の高さをうかがわせた。さまざまな分野で日露協力を前進させる弾みとなることを期待したい。

 フォーラムで講演した、プーチン大統領のロシア極東地域における全権代表であるイシャエフ極東発展相は、ロシアがアジア太平洋地域を「世界経済の新しいセンター」として重視していることを説明し、エネルギーはじめ多くの事業計画を挙げて日本の投資に期待を表明した。(1)資源開発(2)インフラ(3)宇宙・IT(情報技術)(4)文化・スポーツのテーマ別分科会では、各分野での日露協力の現状や新しい提案などが紹介された。

 ロシアの「東方重視」の根底にあるのは、欧州部に比べて発展の遅れた極東にアジア太平洋経済圏の活力を取り込んで産業やインフラを整備し、人口流出に歯止めをかけたいプーチン政権の国家戦略だ。日本に対しては自動車産業の進出や液化天然ガス(LNG)生産など技術協力への期待が高い。

 だが同じ隣国でありながら、中国や韓国との関係に比べ、日露間のパイプはきわめて細い。観光に限っても日本からロシアへの旅行者は年約8万人で、中国や韓国への40分の1程度だ。国民レベルで関心を高め、交流拡大につなげるきっかけとして今回のフォーラムのようなイベントは意義があると考えたい。

 併せて日露間の懸案である北方領土問題解決への道を探る必要があるのは言うまでもない。日露間のパイプを太くし、相互理解と信頼関係を築いていく中で「双方に受け入れ可能な」解決策を模索したい。同時に、ロシアが国家戦略として投資を強化し、「ロシア化」が進む一方の北方四島の経済に、日本が関与する方法も探る必要があるのではないか。イシャエフ氏は毎日新聞との会見で、日本企業の投資と共同開発を呼びかけた。法的に多くの問題があるのは事実だが知恵を絞りたい。

 ロシアが対日関係強化を探る背景の一つに、台頭する中国の存在もある。だが、日露が手を組んで中国に対抗するシナリオは非現実的だ。日露間の協力を拡大し、そこに中国や韓国をも引き込むことこそが、東アジアの平和と安定に向けて日本が取るべき戦略だろう。そのためにも日露間のパイプを強化するさまざまな可能性を探りたい。(論説委員・大木俊治)

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