漠下商業が私の存在を否定してくれれば、皆が私を騙しているのだと理解できたのだけれども、驚くほどすんなりと学校は私の存在を認めた。ゲタ箱も教室も机も椅子も全て漠下商業に通う須田コトネの物が既に用意されており、私はそれに従ってここの生徒として使わなければならなかった。
もちろん教室に入っても知らない人ばかりで、英久高校とは違う頭の弱そうな生徒ばかりが目に付いた。男子は不良のように伸ばした髪を茶色や金色に染めており制服はだらしなく着崩している。教科書どころか雑誌や漫画を読んで笑い声を教室に響かせている。女子もアクセサリーを身にまとい、化粧や携帯をチェックしており、皆勉強のためというより暇つぶしのために学校に来ている様だった。私一人だけやけに浮いている気がしてならない。
「オッス!コトネー!遅かったじゃん、また誰かと夜遊びでもしてたのかよぉ!?」
隣の席から声を掛けられ顔を向けると、長い髪を赤茶に染め顔は素顔が化粧によって分からないほどメイクされた女子生徒が笑いながら頬杖をついていた。
「いや、あの……別に……」
「なんだ、元気無いじゃん……でも本当にコトネって黙っていればどこぞの優等生かと思うよね!勉強なんて私より出来ない癖に並んで歩けば絶対にコトネの方が賢く見えるよねぇ!」
「あ、あなたより私の方が頭がいいに決まっているじゃないですかっ!!」
突然見下されたセリフを言われたのでカッとなって大声を上げた。
「何怒ってんだよ……いつものネタじゃん!それに何だよその口調……何かあったのかよ?」
私はこれ以上この質の悪い生徒たちに絡むのはよそうと決めて、何度か隣の女性から声を掛けられたが私はシカトを決め込み、そのうちに彼女は気を悪くして何か汚い言葉を掛けたきり話しかけてこなくなった。大体、何故かこんなところにいるけれども、本来私とあなた達は同じ場所にいるべきではないというのに、気安く声を掛けないでほしい……。
しばらくしてホームルームが始まり見知らぬ担任が出席を取る。もちろん私の名前も呼ばれた。クラスは常に落ち着きがなく喋り声が何処からか響いている。これではまるで幼稚園だ。担任もそれに慣れているのか黙々と出席を取り連絡事項を伝えるとそそくさと教室から出て行ってしまった。
ざわつくムードの中、一限目の授業が始まる。どうやら英語の様だ。教科書を見るとあまりのレベルの低さに驚いた、これでは中学生レベルではないか。担当教師の号令と共に授業が始まり私は一応ノートをとる事にした。
「………………あれ?」
ノートにペンを走らそうとしたところで手が止まった。「H」の小文字って一体どういう風に書けばいいんだっけ?そもそも「H」ってどういう風に発音すればいいんだっけ……?あれ?何かおかしい……おかしい……。
「えっ!?……うそっ!!あれっ!?」
「b」と「d」の違いが分からない……「B」と「V」の使い分けが分からない……英語が読めない……。必死で教科書をめくり記憶から呼び起こそうとするけど、靄が掛かってしまった様に覚えた単語もスペルも思い出せない。手に汗が滲む。不安と恐怖で息が荒くなる。目の焦点が定まらない。
急いで鞄から英語以外の教科書を引っ張り出す。数学もやはり中学生レベルなのに公式が全く思い出せない……。答えを導き出そうとしてもまず始めに何を書けばいいのかすら分からない。記憶障害にでもなったのだろうか?昨日まで思い出さなくても覚えていた事を忘れてしまっている……。
他の教科書をめくっても同じだった。原子記号も漢字も歴史の年号も有名の本の内容も作者も分からない……。この中学生レベルの問題でも理解する事が出来なくなっている……。文字もいくつか書いてみたけれども、いつもとは違う書き慣れていない様な下手な字になってしまう。
発狂したい気持ちを抑え、頭を抱えながら英語の授業は終わった。授業が終わると隣の席にいた赤毛のギャルが話しかけてきた。
「どうしたのコトネ?やっぱ変だよ、授業中はやけに集中して教科書を見たかと思えば急に頭を抱えだしてさぁ、どっか調子でも悪いの……?」
「……話しかけないで……」
「ちょっとマジでやばいの!?保健室に行く?」
「お願い……少し放っておいて……」
普通ではない私の様子を始めは彼女も心配していたが、私が会話を拒否し続けると別の女友達の方に行ってしまった。教科書をめくっても何も分からなかったが、これだけは理解できた。私の学力が落ちている……いや、学力が無くなってしまっている……このバカ商レベルにまで。きっと今A高の授業に参加しても理解する自信が無い。でも、それなら何故こんな現象が起きてしまったのだろうか?一体私の学力はどの程度まで低下してしまったのだろうか?
二時限目が始まり、若い男性教師が入ってきた。科目は数学だ、だけど今の私では授業についていくことが出来ない。分かるのは数字と文字だけで中身を全く理解出来ない。内容は一次関数だが中学の時に勉強した記憶はあるが、それが一体何を意味しているのか分からなかった。必死に思い出そうと授業に集中するが、生徒の喋り声で気が散りなかなか頭に入ってこない。把握しようとするのだが、頭が上手く回らない。まるで勉強の仕方も忘れてしまったみたいだ。夜にあまり寝られなかったせいか眠気も襲ってくる。それどころか。
ジュワァッ
股間が急に疼きだす。いきなり湧き上がる欲求に身を震わせた。何故こんな時に切なくなってくるのか自分でも分からない。しかし体は快感を求めようとヒクヒクし始めている。昨晩の時の様に、体の節々が敏感になっている。制服の上から胸に触れるだけで声が漏れそうになる。授業に集中したいのに体がそれを邪魔してくる。右手をスカートの中に入れたくて仕方がない。バカ商の、しかもこんな授業中にそんな破廉恥で淫乱な事なんてしたくないのに太ももをすり合わせるだけでショーツがどんどんと湿ってくる。
「ではこの問題を……今日は須田!前に出て解きなさい!」
「ふぇっ!?」
授業を全く聞いておらず、淫らな気分になっていた時に男性教師に名前を呼ばれたので思わず変な声が出てしまった。しかしこれで少しは気がまぎれると少し安堵し、黒板の前に立つのだが。
「………………」
チョークを持つ手が震える。こんな中学生でも分かる様な問題を解くことが出来ない自分が情けなく目に涙が浮かんでくる。それどころか黒板の前に立ち、皆が見ているという事を意識するとまた股間が疼き始めた。視線の一つ一つが私の性感帯を刺激する。もう黒板の文字さえ読むことが出来ない。
「どうした須田?こんな問題も分からないのかぁ?」
男性教師が呆れた口調でぼやくとクラスからクスクスと笑い声が漏れた。すると男性教師がいきなり私のチョークを持っている手を掴むと、そのまま黒板に答えを書き始めた。
「えっ!?あっ……ちょっ……」
「ここがこうなるから、答えを出すには……」
男性教師の行動はエスカレートしていき、皆には見えない位置で私のお尻を撫でて来る。体をピッタリと密着させてそのまま太ももに手は移動してくる。
「ふぁっ……んっ……」
どうやらバカ商は教師のレベルも低いらしい。普段ならセクハラでビンタの一つでもするところなのだが、欲求が高まっているこの状態でこんな行為をされて思わず甘い声が漏れてしまう。膝がガクガクと震え、体中の神経が敏感に反応する。ショーツから愛液がツ―っと内またに垂れてくるのを感じる。理性が少しでも切れれば、今すぐこの名前も知らない男性教師の口を奪って舌を絡めていたかもしれない。
「これで、答えはこうなる訳だ、分かったか?」
「あっ……あ、はぃ……」
高揚した表情で答えると、もうまともに授業を受ける気にはなれなかった。
「あの……その……お、お手洗いに行ってきていいですか…………?」
「お、そうか、それならサッサと行ってこい。だがそういうのは授業の前に済ませておけ、小学生じゃないんだからな」
「ご、ごめんなさい……」
頭を下げると、スグに廊下に出てトイレへと向かった。女子トイレは思っていたより清潔だったが、何処かから煙草の残り香が漂っていたり、化粧品が鏡の前に投げ出されていたりとやはりA高とはどこか違っていた。幸い誰も使用しておらず、個室に駆け込むとショーツを降ろしグッショリと濡れた秘部を摘まむ様に愛撫した。気持ちよさが全身を襲い、呼吸のリズムが定まらない。絶頂を迎え軽い痙攣を起こして余韻に浸った後、私は個室の中で静かに泣いた。