私の住む更科町には二つの高校が存在する。一つは県内でもトップクラスの進学校である私立英久高校、もう一つは県内で入れる高校が無かった底辺が集まる県立漠下商業高校。二つの高校は略称でA高、バカ商と呼ばれている。私が通っているのはもちろん前者のA高。A高は制服を着ているだけで一目置かれ、バカ商は制服を着ているだけで関わり合いを避けられる程偏差値には天と地ほどの差がある。

 私、つまり須田コトネはそのA高でも成績上位、テスト順位では常に十位以内をキープしているし、さらに才子佳人、品行方正、模範生徒として紹介されるような真善美な存在。

 部屋の鏡で自分の姿を見ても、スレンダーで美しいプロポーションに滑らかな黒髪、眼鏡と胸が然程成長していないのはコンプレックスだけれども決して地味ではなく、知性的かつ嫣然とした、自身に満ちている私の表情が映しだされている。

 ピンポーン

 チャイムが鳴り急いで玄関のドアを開けるとそこには同い年ぐらいの女性が立っていた。

「あ、どうも初めましてぇ、隣に引っ越してきました薄手アスナと申しますぅ」

 明るい茶色の髪は軽くパーマが当てられており、爪やピアス、付けまつげ等から軽い雰囲気が漂ってくる。顔は可愛らしいのに全体から遊び人の様なオーラをまとっている。私の苦手なタイプだ。

「あ、これ引っ越し祝いなんですけどぉ、良かったらどうぞ」

―引っ越し祝いって……意味が違っているんだけどなぁ―

 彼女、薄手さんが紙袋から出してきたのは極々普通のタオルセット。

「どうもありがとうございます、これからはよろしくお願いしますね」

 ご近所に対しても優等生で通っている私はこういう時にも嫌な顔一つせず、満面の笑みで受け取る。

「あ、そうそう、それでぇ、引っ越しする時に隣の家にサインを頂かないといけないらしいんですよぉ、お願いできますかぁ?」

―隣の家のサイン……?そんなの必要だったかしら……?―

 不審に思いながらも書類に目を通すと、枠の中に書かれていたのは隣に引っ越してきた時のトラブルについてだったり、騒音や生活の妨げになる行為は互いに注意する権利があったり等の所謂注意事項についてだった。とくに不審な点も無さそうなのでサインをして返してあげた。

「わぁ、ありがとうございますぅ、これからよろしくお願いしますねぇ!」

隣に越してきた薄手さんは何故か笑顔で書類を受けり帰って行った。悪い人じゃなさそうだけど、何ていうか頭が足りて無さそうな人ねぇ……。

 

 そして次の日、私がいつものように高校に向かおうと玄関を出ると丁度、挨拶をした薄手アスナさんが家から出て来るところだった。私が一応声を掛けておくかと思った時、彼女の着ている制服を見て上げようとしていた手が止まる。

「あ、おはようございますぅ」

 動きが止まったところを先に薄手さんに見つかってしまった。

「お、おはようございます……薄手さん、その制服ってもしかして漠下商業の制服ですか?」

「あ、そうなんですよぉ、良く知っていますねぇ」

―知っているも何も、この辺りじゃバカ商の制服は有名なのよ……?―

「え、ええ、たまたま知っていただけよ、それじゃあ私は急ぐから、さようなら!」

 私は彼女との会話を早々に切り上げると自転車に乗って逃げだした。頭が悪そうだとは感じていたけどまさかバカ商の生徒だったなんて……これからはお隣さんとはいえ近所付き合いも考えなくちゃね……。

 その時、急いで逃げ出した私の姿を薄手さんが、笑顔を解いて睨みつけるように見つめていた事を私は気付いていなかった。

 

 その日の高校生活は至って普通だった。数学の多項定理も英語の名詞構文問題も物理の力学についても私とっては既に予習済みの退屈な授業。家で受験勉強をしていた方がましに思えるわ。けれども私はそれを鼻に掛けない、調子に乗らない。常に優等生であるが故に、豊かな知性を持った者として誰にでも優しく平等に接することにしている。

「コトネちゃぁん、ここ教えて!」

 甘い声で近寄ってきたのは坂本小春、頭の回転は遅いみたいだけれどここに通える程度には勉強は出来る。明るく元気な彼女は私の友達でもある、A高に通っている以上付き合っていて損は無い人たちが殆どだ。

「あぁ、ここはドップラー効果の公式を使って観測者を……」

 出来るだけ分かりやすく丁寧に授業の内容を教えるのも私の仕事みたいなものだ。何分か掛けてようやく理解できた小春は流石コトネちゃんと賞賛の声を上げて自分の席へと戻って行った。

 変化が起きたのは学校から帰った後、自宅でお風呂に入っていた時だった。

 急に鼓動が高鳴り、頭痛がしたかと思うと、目眩のせいか世界が歪み始めた。湯に浸かったまま頭を押さえていると段々と症状は軽くなり頭も楽になって行った。

「今のは一体何だったのかしら……変な病気じゃないといいけれども……」

 一応浴槽にある鏡で確認をしてみたけれど、特に変わりなくて一安心したその時。

 ジュクッ

 突然坐骨の辺りが熱くなったかと思うと、股間がジンジンと疼きだした。私は気付かないふりをして湯に浸かりなおしたけれども落ち着くどころか、股間はどんどんと刺激を求めだし、何もしていないのに呼吸が速くなっていくのが分かった。

今までに感じたことのない程の欲求が体の中を駆け巡り、乳首に触れただけでまるでピリッと電流が走るかのような快感が全身を襲う。我慢しなくちゃとギュッと体に力を入れただけで愛液が溢れだす。気付いた時には私は浴槽内で一人自分を慰めていた。感度が段違いに変わってしまったのかのようだ、足の指先から舌や髪まで体の全てが性感帯と化して少しの刺激で声が漏れるほどの快楽が全身に走る。

 長風呂と自慰ですっかり上せてしまった私は水分補給をして倒れるようにベッドへと倒れこんだ。いつもだったら予習復習をした後、眠くなるまで読書をするのだが今日は体力を使い果たしてしまったので、まだ早いがそのまま眠る事にした。

 

                                               つづき