8回表1死満塁、阿部は勝ち越しにつながるニゴロを放つ=ヤフオクドームで(浅井慶撮影)
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◇WBC ブラジル戦 日本5-3ブラジル
一振りで決めた。8回だ。同点に追い付いた直後の1死満塁。右膝痛でスタメンを外れていた阿部が代打で登場した。
「監督が最高の場面で使ってくれた。打てる球は全部打とうと思っていた」
初球を狙う。痛烈な打球が二塁手のグラブをはじく。記録は二ゴロ。しかし、紛れもない決勝打だ。
お立ち台で慎之助節を響かせる。「ホント、初戦って難しいんスよ、みんな硬くなるんで」。立浪打撃コーチは試合前、「出さなくていい展開が良いんだけど」と阿部の完全休養を望んでいた。しかし、侍ジャパンは土俵際に追い込まれ、最後は手負いの主将に助けられた。
打つだけではない。二進後、試合前に「盗塁もできるよ」と予告した通り、坂本の打席で三盗も試みた。ファウルだったものの、タイミングはセーフ。8回裏からはマスクもかぶった。打つ、走る、守る。「(右膝は)カンペキです!」。すべてが本来の阿部の姿だった。
梨田野手総合コーチの口から漏れたのは、感謝の言葉だ。「代打の準備をしてくれていただけでなく『代走でも出る。守ることもできる』と言ってくれた。三盗はビックリしたけど、やっぱり盛り上がった」
首脳陣の称賛にも、阿部が気持ちを緩めることはない。「自分の不注意でこういう出場の形になった。本当に申し訳ない気持ち」。だからこそ、劣勢のベンチでも「焦らず、焦らず」と声をかけ続けた。主将、主砲、正捕手。指揮官から課されたその責務を途中出場でも完遂してみせた。(井上学)
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