◇WBC ブラジル戦 日本5-3ブラジル
8回表1死二塁、右前に同点打を放った代打井端(手前)と盛り上がる日本代表ナイン=ヤフオクドームで
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勝負の一手に迷いはなかった。8回、代打・井端を送り出した山本監督には根拠があった。「井端は少ない打席の中で、しっかり自分の打撃をやっていた」。強化試合のわずかな途中出場の時間で見極めた。井端は必ず仕事をしてくれる、と。
「いやあ、大したもんだ。あの場面で、しっかり自分のポイントで打ったんだから」
期待に応えて同点打を放った井端を手放しでほめた。これもある意味、指揮官の計算通りだった。1月の名古屋でのイベントで「井端はプレーヤーとして本当に頼りになる。終盤に1点を取りにいく場面や、守備でもいける」と、話していた。当初から、ここぞの懐刀に決めていたのだ。
信じた起用を貫いた。これが浩二流采配の根幹だ。試合前のミーティングでは選手、スタッフにこう語りかけた。「いよいよきょうから始まる。一緒にやってきていつも言っていることだが、自分のプレーを、普段のプレーをやってほしい」。普段の力を出せば、勝てる。選手たちの力量を信じるというメッセージ。そしてこう締めたそうだ。
「日本中のファンの声援があるし、裏方さん、関係者の皆さんも助けてくれる。それを背負ってグラウンドで発散してくれ。アメリカへ行こう、アメリカへ行こう!」
宮崎合宿中、最初の試合だった広島戦でいきなり0−7の完敗。チームの雰囲気に締まりがない。微妙な空気を山本監督は感じ取っていた。「のんびりしとるワケじゃあないけど、どうしても5人のことを考えるやろう。33人が28人になるのは決まっとることなんやからな」。当初の候補33人から、28人の最終メンバーに絞られる。
「やっぱり気を使っとるよ。自分さえよければ、というようなヤツは今のメンバーには1人もおらんのやから」
落選する5人のことを考え、自分が当落線上の選手ではなくても気を使っていた。選んだのは良くも悪くも、優しい33人。自己中心的に行動する選手がいない分、チームが戦闘モードにも入れない。山本監督はそれを分かった上で何も言わなかった。「変わってくるよ」。こいつらは必ず戦う集団になっていく。そう信じたからだ。信念の采配が劇的な一丸勝利を呼んだ。
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