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1.運命が変わった日
「やばい!遅れちゃうよ!美穂も待ってるのに!」
「文、受験票はちゃんと持った?」
「大丈夫!じゃあ行くね。結果分かったら連絡するから。」
女子中学生の目崎文は少し寝坊してしまい、友達の神原美穂との約束の時間に遅れそうになっていた。今日は文が受験した鳴浜高校普通科の合格発表の日だった。偏差値は県内でそこそこ高め、文の成績からしてみればなんてことのない楽な試験で合格は約束されていたようなものだった。文は制服に着替え、手早く朝食をすませるとすぐに家を飛び出して行った。

「遅いよ文!早く!」
「ごめん美穂!」
美穂とは、鳴浜高校の近くの公園で待ち合わせていた。美穂と待ち合わせして一緒に合格発表を見に行く予定だったのだ。しかし、文の遅刻によりすでに合格発表の時間の10分前となっていた。
「ったく。いいよね、文は。成績からして余裕だし。私なんか緊張して昨日の夜も寝れなかったのに。」
「別に余裕じゃないよ。文だってそれなりに緊張してるんだから。」
「それなりに、でしょ?いいよね〜私にも睡眠時間分けてよ。」
「もう。でもきっと大丈夫だよ。あんなに勉強したんだから。きっと同じ高校に入れるよ。そしたら今まで以上によろしくね。」
そんな他愛のないやり取りをしてるうちに、二人は目的地の鳴浜高校へと到着した。するとそこは2人が予想していた以上に大勢の人で溢れかえっていた。
「うわ〜こんなに受験者っていたんだ!?」
「文!もう発表されてるみたいだよ。前の方に行こう!」
美穂の言ったとおりすでに合格は発表されていた。色んな人の喜びの声や落胆の様子がうかがえる。その雰囲気を感じると、美穂の緊張はいよいよ最高潮に達した。対して文は、内心では少し緊張していたものの、相変わらずいつも通りの感じだった。

合格発表の場所まで辿りついた。早速二人は普通科の発表欄を見つけそこで自分の番号があるかどうかを確認した。文の番号は「324」だった。
(え〜と、324、324・・・)
すると300番台の番号が書いているところを発見した。文はそこの番号を一つずつチェックし始めた。
(306、307、309・・・)
文は1つずつ目で追っていった。しかし、そこには余裕さえも感じることが出来た。
(314、315、318・・・・・)
しかし・・・

(322、323、・・・

・・・・・・325)

え?

文は我が目を疑った。そこには文の受験番号はなかった。文はもう1度数え直し始めた。しかし、そこには324という数字は並んでいなかった。
「文!私合格したよ!文はもちろん合格したでしょ!?」
「・・・・・・」
「文?・・・・まさか・・・・」
「文・・・・落ちた・・みたい・・・」
文の頭の中は真っ白になった。喜びの落胆の声が飛び交う中、何の感情も表せないままただ呆然と立ち尽くしていた。


家についた後も文はただ自分の部屋で沈み込んでいた。文は併願受験をしていなかったのだ。全ての高校の試験が終わった今、文が行く高校はなかったのである。
(文・・・これからどうすればいいんだろ・・・・)
先の見えない不安感、そしてそれ以上にただ深い絶望だけが文の心を侵食していった。
そんな時だった。
コンコン
「はい・・・」
ガチャッ
「文、鳴浜高校の方から電話みたい。何か大事な話があるみたいよ。」
「・・大事な・・話?」
部屋に入ってきた母親からコードレス電話の受話器を受け取り、文は電話に出た。電話の向こうからは若い男性職員の声が聞こえてきた。
「もしもし、目崎文さんでしょうか?この度は普通科の合格ならず残念でした。心中お察し申し上げます。」
「いえ、文の勉強が足りなかっただけですから・・。」
「実は、そのことで今回文さんにお話があって電話させていただきました。」
「そのことで?」
「はい。実は今回の文さんの点数は合格基準にあと1点届かなかったぐらいのきわめて惜しいものだったのです。そこで、定員の関係から普通科に入学なさることは出来ないのですが、工業科の方に入学して頂くことは出来るのではないかと思ったのです。」
「工業科?」
工業科は、文も聞いたことがあった。県内の偏差値が60の普通科に対して、工業科の偏差値は40に届かないぐらいで、校舎内や生徒の雰囲気も大きく違う。正直、学業・風紀面などにおいてはあまり評判のよくない学科だった。
「実は今回、当校の工業科が定員割れを起こしておりまして、定員未達成分の枠を成績のいい方から順にこうしてお電話をかけてお勧めさせて頂いているのです。先ほどお母様にお聞きしたところ、文さんは併願受験をされていないということですので、出過ぎたことを申すようですがご入学していただくことは文さんにとってもいいのではないか、と思うのです。」
確かに文にとっては願ってもない話だった。しかし、いかんせん工業科はあまり評判がよくない。そのため、文も前向きな返事を出すのには躊躇せざるをえなかった。
「お気持ちは分かります。ご希望の学科よりも偏差値でいうと20も下の学科に入ることにどうしても抵抗感があるのは仕方がないことだと思います。しかし、このままでいくとそれこそどこにも行くところがなく、将来への道は閉ざされてしまいます。偏差値が低くても頑張る生徒は努力して、良い大学へいったり就職している人も少なくありません。工業科で頑張ってみるおつもりはありませんか?」
文の心は揺らいでいた。確かに工業科は評判はよくないのだが、行先のなくなった文にとっては将来への指針がどんな形にしろ示されたことに変わりはない。光明は見えた。文は決心した。
「もちろん、すぐにお返事を頂かなくても結構ですが」
「いえ、工業科へ入学させて下さい。」
「本当ですか?まだしばらく猶予がありますが」
「いえ、決心しました。どの道このままでは行くところもないので、行くと決めた以上は早いうちにお返事しておいた方がいいと思うので。よろしくお願いします。」
「そうですか、分かりました。それでは追って、工業科入学手続きの書類等を送付致します。こちらこそ、これからよろしくお願いします。それでは。」
ガチャッ
文は工業科へ入学することになった。予想外の展開と、未知の領域。文の不安をかきたてる要素は色々あったが、しかし前に進むしかないのと同時に、少し楽しみでもあった。

しかし、これが後々の文にとって大きな転機となるのであった。

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