東日本大震災2年 “賠償金長者”と言われても… 避難先「パチンコ店は満員だ」
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「原発事故は『東電(東京電力)の大罪』です。加害者として一生かけて償っていくしかない。定年になっても、心はここにあるというか、福島を向いて暮らしていきたい」
こう話す板岡伸幸さん(47)は福島県郡山市の東電補償相談センターで産業相談総括グループマネージャーを務めている。福島第1原発事故の1カ月後、賠償担当の辞令を受けた「最初の13人」の一人だ。ただ、他の12人と違うのは彼が、唯一自ら希望して、賠償業務に就いたことである。
事故後、賠償問題が浮上すると志願を決めた。妻が反対したのは当然だったかもしれない。「社員が何万人もいるのに、なぜあなたなの?」「部下をつらい最前線に出す方がつらい」。板岡さんは揺るがなかった。
彼は平成元年入社のいわゆる“バブル組”だ。当時の風潮だった「安定志向」も東電を選んだ動機の一つだった。新人時代は繁華街を抱え、激務で知られる新宿支社で過ごし、その後は送電線建設などの用地買収専門の部署に入った。泥臭く、地権者と粘り強く交渉する仕事だが、「相手の本音を聞けて、交渉の席では酒も飲める」。自分に合っていると思ったという。
後で聞くと、「最初の13人」はいずれも用地買収に携わった者ばかり。見えない絆を感じたという。
それでも、実際に福島に着任すると「えらいことになってしまった」との思いを消せなかった。コンビニに買い物に行っても、東電の責任を糾弾されないかとおどおどした。単身赴任で帰宅しても話し相手はいない。鏡の中の自分をみてホッとする状態だった。
実際の補償金支給の話し合いでは被災者から罵声を浴びせられた。「本当に反省してんのか」。机に額をすりつけ、謝罪と説明を繰り返すしかない。そんなとき、何度も読み返したのは、手帳の裏に記した言葉だった。「100回のため息で、101回は頑張れる」「戻れる場所があること、待っている人がいること」。少し元気になれた。
高校1年だった長女からのメールも心の支えだった。《事故はお父さんのせいではないよ(中略)帰ってこられる日が決まったら、早く連絡ください》。
◇
板岡さんは入社7年目から5年間、福島県南部の棚倉町に駐在して仕事をした経験がある。送電線建設の用地取得のためだ。
その頃、クリーニング店のおやじさんから「(東京電力のように)基本料金を取れる会社はつぶれないからな」と嫌みっぽく言われた。その言葉が今、改めて思い出される。黙っていても一定の収入があることへの安住。社内を覆う官僚主義。先の見えてこない原発事故賠償は、そんな東電の企業体質が変わるきっかけになるのだろうか。
× × ×
福島市森合町の東電の損害賠償相談窓口を訪れた窪田たい子さん(58)は、いらだちを募らせ、建物を後にした。全町避難の浪江町を離れて2年。母の介護と夫の看病をしながらの借り上げ住宅生活。もう限界だ。
農地への賠償金を生活再建資金にしたいという窪田さん。「田畑は荒れ放題で放射線量も高い。もう農業には戻れない。早く新居で生活を立て直したいのに、東電は『まだ決まっていない』の一点張り。あと何度足を運べばいいのか」
汚染農地など不動産の損害賠償では、昨年7月、国の指針に沿った賠償基準を公表したのにいまだに対象者に案内すら出せていない。「所有者問題を甘く見てしまった」と福島原子力補償相談室の小川敬雄室長は打ち明ける。
対象地の資産価値算定などに入る以前に問題があった。誰がその土地の所有者なのか。不動産登記を調べると、農地や家屋の名義が避難者本人ではなく、ずっと前に死亡した避難者の親や祖父という例が続出、本人と登記情報が一致しないものは7割近いという。
相続時に名義変更する相続登記には期限がない。実際に土地を売ったり、借金の担保にしたりしない限り大きなデメリットはない。農家には、農地は売買するものではなく、父祖から引き継ぎ守るものという考えが強く、相続登記が長年放置される例が多いという。
放置期間が長いと、その間に、死亡した名義人の孫が生まれるなどして相続対象者が増える。避難者への名義変更には相続対象となる親類などの承諾が必要だ。それが数十人に及ぶ例もあり、どのくらい時間がかかるか読めない。
東電は固定資産課税台帳を基に納税者を賠償対象者とする方法を探っている。
× × ×
「2年間」はさまざまな軋轢を生むのに十分な時間だ。補償を受けた人たちをめぐる摩擦も増えている。
避難・屋内退避が指示された地域の住民には1世帯100万円の仮払い補償金。避難生活を強いられる住民の精神的損害への賠償金は1人月額10万円。事故で仕事を失った人には震災前の給料補填。4人家族で世帯主の震災前の給料が30万円ならば世帯は毎月70万円を受け取る計算だ。
「俺は一人だけど、じいちゃん、ばあちゃんに孫が何人もいるという家は結構な額になる」。双葉町から避難した70代の男性の言葉だ。
いわき市四倉地区に住む70代の男性はいう。「カネがほしいわけではないが、不公平感はある」。仮払い補償金の対象は隣接の久之浜地区までで、四倉地区は対象ではない。「除染などで行政に不満を感じるたびに補償金の不公平感を思い出す。原発との距離は久之浜も四倉も変わらないのに」
被災者を抱える自治体住民の反発もある。昨年4月、渡辺敬夫いわき市長が記者団に語った言葉は象徴的だった。「東電から賠償金を受けた多くの人が働いていない。パチンコ店も全て満員だ」
人口約33万人のいわき市には双葉郡から2万人以上が避難してきた。道路渋滞が増えた、ゴミ出しのマナーが悪いなど市役所に寄せられる苦情は多い。最初は同情的でも、2年たつと徐々に別の感情がわいてくることを責められるだろうか。
広野町から避難している50代の無職男性は「賠償金で優雅に暮らしてると言われているのは知っている。俺がいわき市民でも、そう言うだろうね」と話す。「でも実際は優雅とはほど遠い。この年で仕事をなくし、そんなこと言われて。当事者しか分からないだろうけど」 (日出間和貴、吉村英輝、櫛田寿宏)
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