国民らに個人番号を付けるマイナンバー法案が、閣議決定された。納税実績や年金情報などを一元管理する共通番号制だ。個人情報の流出や、なりすまし犯罪などが懸念され、問題点が多すぎる。
赤ちゃんからお年寄りまで、全国民にマイナンバーは付く。中長期在留の外国人や法人にも番号が付けられる。この番号をキーにして、納税額や年金・介護の保険料納付状況などの個人データを引き出し、照合するのが、共通番号制の仕組みだ。
一番の目的は、行政事務の効率化だ。確定申告や年金受給などの手続きが簡単になる利便性もうたわれる。税務面では、扶養控除の申告などで不適切な案件があぶり出せる利点がある。
社会保障面では介護や保育などにかかる費用を世帯ごとに把握でき、その負担に上限を設ける新制度が構築できるとされる。低所得者に還付金を出す給付付き税額控除にも使えると、説明される。
だが、行政実務の現場で苦労するのは、同一の世帯かどうかの判断だ。個人に番号を振っても、この問題はなくならない。「世帯ごとに把握できる」というのは誇大広告に等しい。
システム構築にも莫大(ばくだい)な費用がかかる。六千億円とされた初期費用は二千億円程度に圧縮できると見込んでいる。ランニングコストも毎年百億円単位でのしかかる。これを国民が新たに負担し続けるわけだ。費用対効果の面で疑問符が付く。とくに個人や法人のお金の出入りを照合するシステムではないので、大幅な税収増にはつながらない。
マイナンバーは住民基本台帳の住民票を基に個人情報を管理する。さまざまな理由で住民票の住所に住んでいない人、住民票さえない人々は、公的サービスから締め出されることになりかねない。弱者排除の面もあるわけだ。
サイバー犯罪などが絶えないネット時代には、個人情報の集約と集積は、かえってプライバシー保護の点から危険でもある。社会保障番号を使う米国では、なりすまし犯罪が絶えないことから、州法で利用を制限したり、国防総省では国防上の観点から職員や家族に独自の番号を採用している。ドイツでは税分野に限定することで、なりすまし犯罪に利用されることを防いでいる。世界の潮流は明らかに日本とは異なる。
二〇一六年から運用開始というが、本当に共通番号制が必要か。根本からの議論が足りない。
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