鋼の錬金術師
FULLMETAL ALCHEMIST
＜第１話 二人の錬金術師＞
痛みを伴わない教訓には意義がない
人は何かの犠牲なしに何も得る事などできないのだから
町民
「いやぁ、あんたが噂の天才錬金術師！！」
「なるほど！こんな鎧を着てるからふたつ名が“鋼”なのか！」
アルフォンス
「あの、ボクじゃなくて」
町民
「へ？あっちのちっこいの？」
エドワード
「誰が豆つぶドちびか―――ッ！！！（￣Д￣#）」
町民
「そこまで言ってねぇー！！（￣□￣；）」
アルフォンス
「ボクは弟のアルフォンス・エルリックでーす」
エドワード
「オレが！“鋼の錬金術師”！！エドワード・エルリック！！！」
エドワード
「錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神様とかあいまいなものは信じちゃいないのさ」
「この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし真理を追い求める…」
「神様を信じないオレ達科学者がある意味神に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」
ロゼ
「高慢ですね。ご自分が神と同列とでも？」
エドワード
「――そういやどっかの神話にあったっけな」
「『太陽 に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ地に墜とされる』…ってな」
アルフォンス
「質量が一の物からは同じく一の物しか、水が性質の物からは同じく水属性の物しか錬成できないってこと」
エドワード
「つまり錬金術の基本は『等価交換』！！何かを得ようとするならそれと同等の代価が必要って事だ」
―――アルフォンスが着てた全身鎧の中身が空洞だと気付き―――
ロゼ
「なっ…中身が無い…空っぽ…！？」
アルフォンス
「これはね、人として侵してはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罪とかいうやつさ」
「ボクも、兄さんもね」
エドワード
「ロゼ。真実を見る勇気はあるかい？」
エドワード
「ロゼ、よく見ておけ。これが人体錬成を…神様とやらの領域を侵した咎人の姿だ！！」
コーネロ教主
「………鋼の義肢“機械鎧 ”…」
「ああ、そうか……鋼の錬金術師！！」
エドワード
「降りて来いよド三流。格の違いってやつを見せてやる！！」
＜第２話 命の代価＞
コーネロ教主
「…なるほど。そうか貴様…」
「なぜこんなガキが“鋼”なんぞという厳い称号を掲げているのか不思議でならなかったが…そういう訳か…」
「ロゼ、この者達はな。錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている『人体錬成』を…」
「最大の禁忌を犯しおったのよ！！」
エドワード
「へっ…二人がかりで一人の人間を甦らせようとしてこのザマだ…」
「ロゼ、人を甦らせるってことはこういうことだ。その覚悟があるのか？あんたには！」
ロゼ
「さっきの話だけどまだ信じられない。そうまでしないと錬成できないなんて…」
アルフォンス
「言ったろ。錬金術の基本は『等価交換』って」
「何かを得ようとするならそれなりの代価を払わなければいけない」
「兄さんも『天才』だなんて言われてるけど『努力』という代価を払ったからこそ今の兄さんがあるんだ」
ロゼ
「でもそこまでの犠牲を払ったからにはお母さんはちゃんと…」
アルフォンス
「人の形をしていなかった」
アルフォンス
「人体錬成はあきらめたけど、それでも兄さんはボクの身体だけでも元に戻そうとしてくれてる」
「ボクだって兄さんを元に戻してやりたい」
「でもそのリスクが大きいのはさっき話した通り…報いを受け命を落とすかもしれない」
「ボク達が選んだのはそういう業の道だ」
「だからロゼ。君はこっちに来ちゃいけない」
ロゼ
「そんな…うそよ…だって…生き返るって言ったもの…」
エドワード
「あきらめなロゼ。元から――」
ロゼ
「…なんて事してくれたのよ…これからあたしは！何にすがって生きていけばいいのよ！！」
「教えてよ！！ねえ！！」
エドワード
「そんな事自分で考えろ」
「立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか」
＜第３話 炭鉱の街＞
ホーリング
「『錬金術師よ大衆のためにあれ』。術師の常識でありプライドだ」
「数々の特権と引き換えとはいえ軍事国家に魂売るような奴ぁ俺は許す事ができん」
エドワード
「国家錬金術師になるって決めた時からある程度の非難は覚悟してたけどよ」
「ここまで嫌われちまうってのも…」
アルフォンス
「…………ボクも国家錬金術師の資格とろうかな」
エドワード
「やめとけやめとけ！針のムシロに座るのはオレ一人で充分だ！」
「軍の犬になり下がり―――か。返す言葉もないけどな」
エドワード
「納税の義務をおこたっておきながら権利ばかり主張するという訳ですね」
ヨキ中尉
「その通り。おおエドワード殿は話が分かるお方だ」
エドワード
「この世の理は全て錬金術の基本である『等価交換』であらわす事ができますからね」
「『義務』あっての『権利』でしょう」
カヤル
「……親父が錬金術をやってたのはこの街を救いたかったからなんだ」
「なぁエド。あんた黄金を錬成できる程の実力者なんだろ？ぱっと錬成して親父…街を救ってくれよ…！」
エドワード
「だめだ」
カヤル
「そんな…いいじゃないか減るもんじゃなし！」
エドワード
「錬金術の基本は『等価交換』！あんたらに金をくれてやる義理も義務もオレにはない」
カヤル
「てめえ………てめえ、それでも錬金術師か！！」
エドワード
「『錬金術師よ大衆のためにあれ』……か？」
「ここでオレが金を出したとしても、どうせすぐ税金にもっていかれ終わりだ」
「あんたらのその場しのぎに使われちゃこっちもたまったもんじゃねー」
「そんなに困ってるならこの街出てちがう職さがせよ」
ホーリング
「小僧。おまえにゃわからんだろうがな」
「炭鉱 が俺達の家で棺桶よ」
カヤル
「親父…エドは魂まで売っちゃいなかったよ」
ホーリング
「ああ、そうだな」
＜第４話 車上の戦い＞
乗客
「まだ10人も！？どうするんだ。仲間がやられたとわかったら奴ら報復に来るんじゃ…」
アルフォンス
「誰かさんが大人しくしてれば穏便にすんだかもしれないのにねぇ」
エドワード
「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ、弟よ！！（￣Д￣；）」
バルド
「ど畜生め…てめえ何者だ！！」
マスタング大佐
「ロイ・マスタング、地位は大佐だ。そしてもうひとつ」
「『焔の錬金術師』だ。覚えておきたまえ」
＜第５話 錬金術師の苦悩＞
エドワード
「タッカーさん。人語を理解する合成獣 の研究が認められて資格とったのいつだっけ？」
タッカー
「ええと…２年前だね」
エドワード
「奥さんがいなくなったのは？」
タッカー
「………２年前だね」
エドワード
「もひとつ質問いいかな。ニーナとアレキサンダー、どこに行った？」
タッカー
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
タッカー
「は…何を怒る事がある？」
「医学に代表されるように人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう？君も科学者なら…」
エドワード
「ふざけんな！！」
「こんな事が許されると思ってるのか！？こんな…人の命をもてあそぶような事が！！」
タッカー
「人の命！？はは！！そう人の命ね！鋼の錬金術師！！君のその手足と弟！！」
「それも君が言う“人の命をもてあそんだ”結果だろう！？」
アルフォンス
「兄さん。それ以上やったら死んでしまう」
タッカー
「はは…きれいごとだけでやっていけるかよ…」
アルフォンス
「タッカーさん。それ以上喋ったら今度はボクがブチ切れる」
ホークアイ中尉
「もしも“悪魔の所業”というものがこの世にあるなら今回の件はまさにそれですね」
マスタング大佐
「悪魔か…身もフタもない言い方をするならば我々国家錬金術師は軍属の人間兵器だ」
「一度、事が起これば召集され命令があれば手を汚す事も辞さず――――」
「人の命をどうこうするという点ではタッカー氏の行為も我々の立場もたいした差は無いという事だ」
ホークアイ中尉
「それは大人の理屈です。大人ぶってはいてもあの子はまだ子供ですよ」
マスタング大佐
「だが彼の選んだ道の先にはおそらく今日以上の苦難と苦悩が待ちかまえているだろう」
「むりやり納得してでも進むしかないのさ。そうだろう、鋼の」
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
エドワード
「……うるさいよ」
マスタング大佐
「軍の狗よ悪魔よとののしられてもその特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ」
「これしきの事で立ち止まってるヒマがあるのか？」
エドワード
「『これしき』……かよ」
「ああそうだ。狗だ悪魔だとののしられてもアルと二人、元の身体に戻ってやるさ」
「だけどな、オレ達は悪魔でもましてや神でもない」
「人間なんだよ。たった一人の女の子さえ助けてやれない」
「ちっぽけな人間だ………！！」
マスタング大佐
「…………カゼをひく。帰って休みなさい」
＜第６話 破壊の右手＞
コーネロ教主
「まったくもって単純だよ人間ってやつらは」
「流血は流血を。憎悪は憎悪をよび。ふくれ上がった強大なエネルギーはこの地に根を下ろし血の紋を刻む…」
ラスト
「何度くり返しても学ぶ事を知らない。人間は愚かで悲しい生き物だわ」
エドワード
「……昨日の夜からオレ達の信じる錬金術ってなんだろう…ってずっと考えてた」
アルフォンス
「…『錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り、分解し再構築する事』」
エドワード
「『この世界も法則に従って流れ循環している。人が死ぬのもその流れのうち』」
「『流れを受け入れろ』。師匠 にくどいくらい言われたっけな」
「わかってるつもりだった。でもわかってなかったからあの時……母さんを…」
「そして今もどうにもならない事をどうにかできないかと考えている」
「オレはバカだ。あの時から少しも成長しちゃいない」
「外に出れば雨と一緒に心の中のもやもやした物も少しは流れるかなと思ったけど」
「顔にあたる一粒すらも今はうっとうしいや」
アルフォンス
「でも…肉体が無いボクには雨が肌を打つ感覚も無い。それはやっぱりさびしいし、つらい」
「兄さんボクはやっぱり元の身体に…人間に戻りたい」
「たとえそれが世の流れに逆らうどうにもならない事だとしても」
エドワード
「あんた何者だ。なんでオレたちをねらう？」
傷の男
「貴様ら『創る者』がいれば『壊す者』もいるという事だ」
＜第７話 雨の後＞
エドワード
「あんたが狙ってるのはオレだけか？弟…アルも殺す気か？」
傷の男
「邪魔する者があれば排除するが、今 用があるのは鋼の錬金術師…貴様だけだ」
エドワード
「そうか、じゃあ約束しろ。弟には手を出さないと」
アルフォンス
「兄……」
傷の男
「約束は守ろう」
アルフォンス
「何言ってんだよ……兄さん何してる！逃げろよ！！立って逃げるんだよ。やめろ…やめてくれ」
「やめろおおおおおおおおお」
アームストロング少佐
「ふぅ――む。我輩の一撃をかわすとは、やりおるやりおる」
「国家に仇なす不届き者よ。この場の全員、滅ぼす…と言ったな」
「笑止！！ならばまず！！この我輩を倒してみせよ！！」
「この『豪腕の錬金術師』…アレックス・ルイ・アームストロングをな！！」
アームストロング少佐
「破壊の裏に創造あり！創造の裏に破壊あり！破壊と創造は表裏一体！！」
「壊して創る！！これすなわち大宇宙の法則なり！！」
ヒューズ中佐
「お？終わったか？」
アームストロング少佐
「ヒューズ中佐…今までどこに」
ヒューズ中佐
「物陰にかくれてた！（ ´_ゝ`）b 」
マスタング大佐
「おまえなぁ援護とかしろよ！」
ヒューズ中佐
「うるせぇ！！俺みたいな一般人をおまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ！！」
マスタング大佐
「デタ…（゜Д゜ #）」
アルフォンス
「…この…バカ兄！！なんでボクが逃げろって言った時に逃げなかったんだよ！！」
エドワード
「だからアルを置いて逃げる訳に…」
アルフォンス
「それがバカだって言うんだ――っ！！」
エドワード
「なんでだよ！オレだけ逃げたら、おまえ殺されたかもしれないじゃんか！！」
アルフォンス
「殺されなかったかもしれないだろ！！」
「生きのびる可能性があるのにあえて死ぬ方を選ぶなんてバカのする事だ！！」
エドワード
「あ…兄貴に向かってあんまりバカバカ言うな――っ！！」
アルフォンス
「何度でも言ってやるさ！！」
「生きて生きて生きのびてもっと錬金術を研究すればボク達が元の身体に戻る方法も…」
「ニーナみたいな不幸な娘 を救う方法もみつかるかもしれないのに！！」
「それなのにその可能性を投げ捨てて死ぬ方を選ぶなんて、そんなマネは絶対に許さない！！」
「あ。ああっ。右手もげちゃったじゃないか、兄さんのバカたれ！！」
エドワード
「はは…ボロボロだなオレ達。カッコ悪いったらありゃしねぇ」
アルフォンス
「でも生きてる」
エドワード
「うん。生きてる」
エドワード
「アルの鎧と魂の定着方法を知ってんのはオレだけだから…まずはオレの腕を元に戻さないと」
ホークアイ中尉
「そうよねぇ…錬金術の使えないエドワード君なんて…」
ハボック少尉
「ただの口の悪いガキっすね」
ヒューズ中佐
「くそ生意気な豆だ」
マスタング大佐
「無能だな、無能！」
アルフォンス
「ごめん兄さん。フォローできないよ」
エドワード
「いじめだ――！！！。・゜・(ノД`)・゜・。」
＜第８話 希望の道＞
アームストロング少佐
「子供は大人の言う事をきくものだ！」
エドワード
「子供扱いするな！！この…アルも何か言ってやれ！」
アルフォンス
「兄さん！！ボク、この鎧の身体になってから初めて子供扱いされたよ！！（≧∇≦）」
マスタング大佐
「まだ駄々をこねると言うのなら命令違反という事で軍法会議にかけるがどうかね？」
エドワード
「うおお！！汚え！！�� (゜Д゜;）」
アームストロング少佐
「うむ、そうと決まれば早速荷作りだ」
―――そして木箱に梱包されるアルフォンス―――
「荷物扱いの方が旅費より安いからな！」
アルフォンス
（この身体になってから初めて荷物扱いされた…（゜д゜lll））
エドワード
「弟よ…＿|￣|○ il||li」
エドワード
「…本当、静かな所でさ。何も無いけど都会には無いものがいっぱいある」
「それがオレ達兄弟の故郷リゼンブール」
マルコー医
「本当にひどい戦いだった…無関係な人が死にすぎた…」
「私のした事はこの命をもってしてもつぐないきれるものではない」
「それでもできる限りの事をと…ここで医者をしているのだ」
マルコー医
「『哲学者の石』、『天上の石』、『大エリクシル』、『赤きティンクトゥラ』、『第五実体』」
「賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ」
マルコー医
「こんな子供まで…」
「潤沢な研究費をはじめとする数々の特権につられて資格を取ったのだろうが、なんと愚かな！！」
「あの内乱の後、人間兵器としての己の在り方に耐えられず資格を返上した術師が何人いた事か！！」
「それなのに君は……」
エドワード
「バカなマネだというのはわかってる！それでも！！」
「…それでも目的を果たすまでは針のムシロだろうが座り続けなきゃならないんだ…！！」
マルコー医
「そうか…禁忌をおかしたか…」
「おどろいたよ。特定人物の魂の錬成をなしとげるとは…」
「君なら完全な賢者の石を作りだす事ができるかもしれん」
エドワード
「じゃあ……！」
マルコー医
「資料を見せる事はできん！」
エドワード
「そんな…！！」
マルコー医
「話は終わりだ、帰ってくれ。元の身体に戻るだなどと…それしきの事のために石を欲してはいかん」
エドワード
「それしきの事だと！？」
アームストロング少佐
「ドクター、それではあんまりな！」
マルコー医
「あれは見ない方がいいのだ。あれは悪魔の研究だ」
「知れば地獄を見る事になる」
エドワード
「地獄ならとうに見た！」
エドワード
「そう言う少佐もよかったのかよ。マルコーさんの事を中央 に報告しなくてさ」
アームストロング少佐
「我輩が今日会ったのはマウロという、ただの町医者だ」
エドワード
「あーあ、また振り出しかぁ。道は長いよ、まったく」
マルコー医
「……私の研究資料が隠してある場所だ。真実を知っても後悔しないと言うならこれを見なさい」
「そして君ならば真実の奥の更なる真実に――――」
エドワード
「『国立中央図書館 第一分館 ティム・マルコー』…」
アームストロング少佐
「なるほど『木を隠すには森』か…あそこの蔵書量は半端ではないからな」
エドワード
「ここに石の手掛かりがある…！！」
アルフォンス
「兄さん。道は続いている！」
エドワード
「――ああ！」
＜第９話 家族の待つ家＞
ピナコばっちゃん
「足の方は元 があるからいいとして、腕は一から作り直さなきゃならんから…」
エドワード
「ええ？一週間くらいかかるかな」
ピナコばっちゃん
「なめんじゃないよ。三日だ」
ウィンリィ
「削り出しから組み立て、微調整、接続、仕上げと…うわ、カンペキ徹夜だわ」
エドワード
「悪いな、無理言って」
ウィンリィ
「一日でも早く中央 に行きたいんでしょ？だったら無理してやろうじゃないのさ」
ピナコばっちゃん
「少佐…あの子らは毎日平穏無事に過ごしているだろうか」
「なんせこんな田舎だ」
「都会の情報はあまり入ってこないし、あの子らもあの子らで手紙のひとつもよこさないからあたしゃ心配でね」
アームストロング少佐
「“エルリック兄弟”……とりわけ兄の“鋼の錬金術師”と言えば中央 でも名が通っておりましてな」
「もっともそれゆえ、トラブルにも巻き込まれるようですが…大丈夫ですよ。あの兄弟は強い」
ピナコばっちゃん
「あんな小さい身体のどこにあれほどの強さがあるのかと思ったよ」
「そしてそこまで強いからこそ、どこかで何かの拍子にくじけてしまった時 立ち直れるだろうかと心配になる」
アームストロング少佐
「ピナコ殿にとっては孫みたいなものですか」
ピナコばっちゃん
「ああ。あの二人が生まれた時からずっと成長を見てきたよ」
アームストロング少佐
「………ひどい……戦いでした」
ピナコばっちゃん
「ああ、ひどい戦いだった。だが、その戦いで手足を失った人があたしら義肢装具師を必要としてくれている」
「皮肉なものさ。戦で家族を失ったあたしらが、その戦のおかげで飯にありついているのだからね」
アームストロング少佐
「泊まる所が無いとは…兄弟の故郷と言うなら彼らの家があるのでは？」
ピナコばっちゃん
「無いよ。あの子らには帰る家が無い」
「エドが国家資格を取って旅立つ日にあの子。自分の家を跡形もなく焼いてしまった」
「あたしには錬金術はよくわからんが、あの子らのやろうとしている事が生半な事でないというのはわかる」
「あの子らは帰る家を失くす事で自分達の道を後戻り出来んようにしたんだろうよ」
ピナコばっちゃん
「残念だねぇ。せっかくの金ヅルが」
ウィンリィ
「そうよ。無理して元に戻る事ないわよ。かっこいいじゃない機械鎧 ！」
「オイルの臭い、きしむ人工筋肉、うなるベアリング…」
「そして人体工学に基づいて設計されたごつくも美しいフォルム……」
「ああっ。なんてすばらしいのかしら機械鎧 ！！」
エドワード
「機械オタクめ（￣□￣；）」
ウィンリィ
「うるさい。錬金術オタク（゜Д゜ ）」
エドワード
「オレ達の師匠が『精神を鍛えるにはまず肉体を鍛えよ』ってんでさ」
「こうやって日頃から鍛えておかないとならない訳よ」
ピナコばっちゃん
「そうだね…帰る家の大切さや無くなるつらさはおまえ達は身に染みてるもんねぇ」
アルフォンス
「うん。だからいつも本当の家族みたいに迎えてくれるばっちゃんとウィンリィには感謝してる」
「口に出さないけど兄さんもね」
「それでもやっぱり生まれ育った家が無いっていうのが現実なんだ」
「ボク達、家を焼いた事は後悔してないけど時々無性に泣きたくなる事があるよ」
「いっそ一度思いきって泣いちゃえばふっきれるかもしれないけど。この身体じゃ泣くに泣けない」
ウィンリィ
「泣ける身体があるのに泣かないバカもいるしね」
「ほんと。強がっちゃってさ、このバカは…」
アームストロング少佐
「迎えてくれる家族…帰るべき場所があるというのは幸せな事だな」
＜第10話 賢者の石＞
シェスカ
「本にのめりこむ事しかできないダメ人間な私が人の役に立てたのが嬉しかったんです」
「ありがとう」
アルフォンス
「ダメ人間じゃないよ。何かに一生懸命になれるって事はそれ自体が才能だと思うし」
「それにすごい記憶力あるし自信持っていいよ」
エドワード
「『何かに一生懸命になれるって事はそれ自体が才能』か。言うねぇ弟よ」
アルフォンス
「どっかの誰かさんを見てるとね。心の底から思うよ」
エドワード
「へへっ。そんじゃそのどっかの誰かさんは引き続き一生懸命やるとしますよ」
エドワード
「『悪魔の研究』とはよく言ったもんだ。恨むぜ、マルコーさんよ……！」
ブロッシュ軍曹
「……いったい何が？」
エドワード
「賢者の石の材料は…生きた人間だ！！」
＜第11話 二人の守護者＞
それは苦難に歓喜を 戦いに勝利を 暗黒に光を
死者に生を約束する血のごとき紅き石
人はそれを敬意を持って呼ぶ 『賢者の石』と
エドワード
「なんかこう……手の届く所に来たなと思ったら逃げられて。それのくり返しで」
「やっとの思いでつかんだら今度はつかんだそいつに蹴落とされてさ…」
「はは…神サマは禁忌を犯した人間をとことん嫌うらしい」
「オレ達。一生このままかな」
「――なぁアル。オレさ…ずっとおまえに言おうと思ってたけど怖くて言えなかった事があるんだ…」
アームストロング少佐
「真実は時として残酷なものよ」
エドワード
「真実…？」
アルフォンス
「どうしたの、兄さん」
エドワード
「マルコーさんの言葉覚えてるか？」
アルフォンス
「え？」
エドワード
「ほら駅で言ってただろ。『真実の奥の更なる真実』…………」
エドワード
「オレ達がこんな身体になっちまったのもオレ達自身のせいだ」
「だからオレ達の責任で元の身体に戻る方法を見つけなきゃならねーよ」
＜第12話 「人間」の定義＞
バリー
「ところでおめぇ、兄貴を信頼してるか？」
アルフォンス
「当たり前だよ。命がけでボクの魂を錬成してくれたんだもん」
バリー
「おうおう。兄弟愛ってのは美しいねぇ。たとえ偽りの愛情だとしても」
アルフォンス
「…どういう意味？」
バリー
「おめぇら本当に兄弟なのか。って事よ」
アルフォンス
「そりゃ性格が違いすぎるとか、弟のボクの方が身長高いとか言われるけどさ…」
バリー
「いやいや、そういう意味じゃなくて……おめぇよ……」
「その人格も記憶も兄貴の手によって人工的に作られた物だとしたらどうする？」
エドワード
「……人殺しはかんべんしろ」
スライサー
「ふん、甘ったるい事を。こんな身体の我々が人と呼べる代物か？殺すのではない、破壊しろと言っておるのだ」
エドワード
「あんたらの事を人間じゃないと認めちまったら」
「オレはオレの弟をも人間じゃないと認める事になる」
スライサー
（弟…）
エドワード
「オレの弟は人間だし、あんたらも人間だ。殺しはいやだ」
スライサー
「我ら兄弟、物心ついた時から盗み、壊し、殺し。人非人よ鬼畜よとさげすまれ生きてきた」
「人としての心どころか身体までも捨てた今になって初めて人間扱いされるとは…ふははは、面白い！」
＜第13話 鋼のからだ＞
ラスト
「いいこと、坊や。あなたは“生かされてる”って事を忘れるんじゃないわよ」
エドワード
「もう少しで真実とやらがつかめそうだったのに…入院なんてしてる場合じゃないよなぁ」
ロス少尉
「鋼の錬金術師殿！」
ブロッシュ軍曹
「先に無礼を詫びておきます！」
エドワード
「へ？」
―――ロス少尉、エドに強烈な平手打ちを喰らわせ―――
ロス少尉
「あれほどアームストロング少佐が勝手な行動をするなと言ったのに、それをあなた達は！！」
「今回の件はあなた達に危険だと判断したから宿で大人しくしていろと言ったのに！！」
「少佐の好意を無視した上に下手したら命を落とすところだったのよ！？」
「まず自分はまだ子供なんだって事を認識しなさい！」
「そしてなんでも自分達だけでやろうとしないで周りを頼りなさい……もっと大人を信用してくれてもいいじゃない」
「以上！下官にあるまじき暴力と暴言、お許し下さい！！」
エドワード
「……あ…いや……オレの方が……悪かった………です」
ロス少尉
「…ビンタのおとがめは？」
エドワード
「そんなもん無い無い！なんでそんなに気ィつかうんだよ」
ロス少尉
「一般軍人でないとは言え、国家錬金術師は少佐相当官の地位を持っていますからね」
「あなたの一言で我々の首が飛ぶ事もあるんですよ」
エドワード
「そんなにピリピリする事ないよ。オレは軍の地位が欲しくて国家資格を取った訳じゃないし」
＜第14話 ひとりっ子の気持ち＞
ウィンリィ
「でもいいんですか？私なんかが娘さんの誕生日におよばれして」
ヒューズ中佐
「祝い事はみんなで分け合った方が楽しいだろ？」
ヒューズ中佐
「あいつの整備師やってるって？」
ウィンリィ
「ええ、同じリゼンブールの生まれで家が近かったっていうのもあって」
「小さい頃からいつも一緒できょうだいみたいなものですよ」
ヒューズ中佐
「あんなだから手間かかるだろ」
ウィンリィ
「手間がかかるって言うか、心配ばっかり。たまに帰ってきたと思ったらおもいっきり腕壊してるし」
「今日も呼び出されてみればエドは大ケガで入院してるし、アルは何か悩んでるみたいだし」
「…エドの機械鎧 …半月位前に新しいのをつけてやったのに今日見たらもう傷だらけでした」
「おまけに身体も傷だらけで…いったいどんな生活してるんだろう」
「だけど何があったかなんてあいつら絶対言わないんですよ」
「元の身体に戻る旅に出る時もあいつら二人だけで決めちゃって相談もされなかったし」
「本当のきょうだいなら。旅に出る事も今日のケガの事もきちんと話してくれたのかな」
ヒューズ中佐
「相談しなかったんじゃなくて、相談する必要がなかったんだろ」
「ウィンリィちゃんなら言わなくてもわかってくるって思ったんだよ、あいつらは」
ウィンリィ
「………言葉で示してくれなきゃわからない事もあります」
ヒューズ中佐
「しょーがねえよなぁ。男ってのは言葉よりも行動で示す生き物だから」
「苦しい事はなるべくなら自分以外の人に背負わせたくない。心配もかけたくない。だから言わない」
「それでもあの兄弟が弱音を吐いたら――」
「そん時はきっちり受け止めてやる。それでいいんじゃないか？」
＜第15話 鋼のこころ＞
アルフォンス
「……好きで…こんな身体になったんじゃない……」
エドワード
「あ……悪かったよ……そうだよな、こうなったのもオレのせいだもんな…」
「だから一日でも早くアルを元に戻してやりたいよ」
アルフォンス
「本当に元の身体に戻れるって保証は？」
エドワード
「絶対に戻してやるからオレを信じろよ！」
アルフォンス
「『信じろ』って！！この空っぽの身体で何を信じろって言うんだ……！！」
「錬金術において人間は肉体と精神と霊魂の三つから成ると言うけど！」
「それを実験で証明した人がいたかい！？」
「『記憶』だって突き詰めればただの『情報』でしかない…人工的に構築する事も可能なはずだ」
エドワード
「おまえ、何言って…」
アルフォンス
「…兄さん、前にボクには怖くて言えない事があるって言ったよね」
「それはもしかしてボクの魂も記憶も本当は全部でっちあげた偽物だったって事じゃないのかい？」
「ねぇ兄さん。アルフォンス・エルリックという人間が本当に存在したって証明はどうやって！？」
「そうだよ…ウィンリィもばっちゃんも皆でボクをだましてるって事もあり得るじゃないか！！」
「どうなんだよ、兄さん！！」
―――エド、両拳をテーブルに叩きつけて派手な音をさせ―――
エドワード
「――ずっと。それを溜め込んでたのか？言いたい事はそれで全部か」
「―――そうか」
;ウィンリィ
「アルのバカちん！！エドの気持ちも知らないで！！」
「エドが怖くて言えなかった事ってのはね……アルがエドを恨んでるんじゃないかって事よ！！」
―――回想開始―――
幼少エドワード
「…アルがあんな身体になったのはオレのせいだ…」
「あいつ、食べる事も、寝る事も、痛みを感じる事もできないんだ…」
「…………あいつ、きっとオレを恨んでる………！」
幼少ウィンリィ
「そんな事ない！」
ピナコばっちゃん
「アルはおまえを恨むような子じゃないよ。訊いてみればわかるだろ」
幼少エドワード
「怖いんだ…怖くて訊けないんだ…」
「だから一日でも早くオレが元に戻してやらなきゃ…」
―――回想終了―――
ウィンリィ
「機械鎧 手術の痛みと熱にうなされながら、あいつ毎晩泣いてたんだよ」
「それを…それなのにあんたはっ…」
「自分の命を捨てる覚悟で偽者の弟を作るバカがどこの世界にいるってのよ！！」
「あんた達、たった二人の兄弟じゃないの」
―――エドとアル、幼少の頃の記憶を語り合い―――
エドワード
「――全部、うその記憶だって言うのかよ」
アルフォンス
「………ごめん」
エドワード
「イーストシティでお前言ったよな。『どんな事しても元の身体に戻りたい』って」
「あの気持ちも作り物だったって言うのか？」
アルフォンス
「…………作り物じゃない」
エドワード
「そうだ。絶対に二人で元に戻るって決めたんだ。これしきの事で揺らぐようなぬるい心でいられっかよ」
「オレは！ケンカも心ももっと強くなるぞ！…牛乳も…なるべく飲むぞ」
アルフォンス
「はは。うん、もっともっと強くなろう」
ウィンリィ
「ヒューズさん。やっぱり口で言わなきゃ伝わらない事もありますよね」
ヒューズ中佐
「そうだな」
＜第16話 それぞれの行く先＞
ウィンリィ
「なんでまた急に師匠 の所へ行こうなんて思ったの？」
エドワード
「理由はふたつ。ここ最近、どうにも負けっぱなしでよ。とにかく強くなりたいと思ったのがひとつ」
ウィンリィ
「はぁ？ケンカに強くなりたくて行くの？あんたらケンカ馬鹿？」
エドワード
「ばっきゃろー！そんな単純なもんじゃねぇや！！」
「なんて言うか、こう……ケンカだけじゃなくて中身もって言うか……なあ！」
アルフォンス
「そうそう！」
エドワード
「オレはもっともっと強くなりたい！」
アルフォンス
「うん！とにかく師匠 の所に行けば何か強くなる気がする！」
ウィンリィ
「ヒューズさんも奥さんもエリシアちゃんも。すごくいい人だった」
エドワード
「ヒューズ中佐って親バカで世話焼きでうっとーしいんだよなー」
アルフォンス
「いっつも病室に兄さんをからかいに来てたよね」
エドワード
「ほんとに…………『毎日仕事で忙しい』って言いながらしょっちゅう見舞いに来やがんの」
「――今度、中央 に行ったら何か礼しなきゃな…」
マスタング大佐
「殉職で二階級特進…ヒューズ准将か…」
「私の下について助力すると言っていた奴が私より上に行ってどうするんだ。馬鹿者が」
マスタング大佐
「…まったく錬金術師というのはいやな生き物だな、中尉」
「今…頭の中で人体錬成の理論を必死になって組み立てている自分がいるんだよ」
「あの子らが母親を錬成しようとした気持ちが今ならわかる気がするよ」
ホークアイ中尉
「………大丈夫ですか？」
マスタング大佐
「大丈夫だ―――いかん。雨が降ってきたな」
ホークアイ中尉
「雨なんて降って…」
マスタング大佐
「いや。雨だよ」
―――空を見上げてる大佐の頬に一筋の涙が流れ―――
ホークアイ中尉
「………そうですね。戻りましょう。ここは……冷えます」
ホークアイ中尉
「公私混同とは貴方らしくないですね」
マスタング大佐
「『公』も『私』もあるものか」
「大総統の地位をもらうのもヒューズの仇を討つのも全て私一個人の意思だ！」
「上層部に喰らい付くぞ。付いて来るか？」
ホークアイ中尉
「何を今更」
傷の男
「……少年よ。己 れの右腕は付いているか」
イシュヴァールゆかりの少年
「右腕？ああ、ひどいケガだけど両手両足ちゃんと付いてるよ」
「でもすげぇなぁ、おっさんの右腕。入れ墨？」
傷の男
「――ああ。家族にもらった大切な――――」
＜第17話 にわか景気の谷＞
ウィンリィ
「さっすが聖地 とよばれる街ね！みんな研究熱心だわ！」
エドワード
「だからってなんでオレが公衆の面前でパンツ一丁にされなきゃなんねーんだよ！！！」
アルフォンス
「あっはっは。大通りでパンツ一丁になった国家錬金術師なんてそうそういないよ、兄さん！」
エドワード
「ああ、そうですね。フンドシ一丁のアルフォンス君！（#´_ゝ`）」
アルフォンス
「フンドシとちがうやーい。・゜・(ノД`)・゜・。」
＜第18話 誠意の価値＞
リドル
「あと半月程で生まれるんだよ」
サテラ
「さすがに重くてしんどいわねぇ」
エドワード
「触ってみてもいいかな！？」
サテラ
「ふふ、どうぞ」
エドワード
「お〜〜〜すげ〜〜〜なんかよくわかんないけど、すげ〜〜〜」
「妊婦さんのお腹に触るの初めてだ」
サテラ
「『元気に生まれて来てね』って願いながら触ってあげてね」
アルフォンス
「…そっかぁ。ボク達もこんな風に母さんのお腹の中に入ってたのかぁ…」
エドワード
「なんだか不思議だな！」
サテラ
「そうね。私も自分の中にもうひとつの命があるのって、とても不思議に思うわ」
リドル
「赤ちゃんは母親の中で280日過ごして生まれてくるんだって」
サテラ
「本当に不思議ね。誰も教えないのにきっかり280日たつと出て来ちゃうのよ」
「小さくてもちゃんと意思を持った命なのね」
ウィンリィ
「ねえ。パニーニャはどうして機械鎧 に？」
パニーニャ
「列車事故に巻き込まれて…」
「身寄りも無い上に歩けなくなったら、もう気分は『この世の終わり』って感じよね」
「地べたをはいずりまわって生きた月日はそんなに長くなかったけど」
「あたしをどん底に突き落とすには充分な時間だった」
「死人の目…そう…あの時のあたしはきっとひどい顔をしてたんだろうなぁ」
―――回想開始―――
幼少パニーニャ
「……何見てんのさ」
ドミニク
「…………『自分がこの世で一番不幸だ』って顔しやがって、こんガキが」
「てめぇみてーのが一番、腹立つわ」
幼少パニーニャ
「え…何を…はなせ！はなせー！！」
ドミニク
「うるせい」
―――回想終了―――
パニーニャ
「結局、訳わかんないまま機械鎧 つけられちゃってさ」
「手術は痛いわ、リハビリはしんどいわで最悪だったね！」
「でも…また両足で立てた時は嬉しかったなぁ…お日様があたたかくてやけに近く感じたよ」
「この足は生きる希望をくれた。立って歩いてどこにでも行けるって可能性をくれた」
「だからあたし、ドミニクさんが大好き。もちろんリドルさんもウィンリィも機械鎧 に携わる人みんな大好き！」
パニーニャ
「手術してくれた医者が後からドミニクさんの機械鎧 の市場流通価格を教えてくれたんだけど、おったまげたねー」
リドル
「それでそのおったまげた代金を分割で払いに毎度ここに来てるって訳か」
パニーニャ
「うん。でも絶対に受け取ってくれないんだよね、ドミニクさん」
「受け取らない上になにかにつけ『メンテナンスだ』って足の調子を見てくれるしさ。申し訳無くて涙出ちゃうよ」
ウィンリィ
「…あのね。本当にドミニクさんに感謝してるんならスリなんてやめなさい！」
パニーニャ
「え〜〜…でもスリ稼業でもやらなきゃ払いきれないし…」
ウィンリィ
「ドミニクさんが誠意でくれた両足よ。あんたも誠意で応えなきゃダメ！」
「高い安いの問題じゃないのよ。スリは犯罪なの！」
「ドミニクさんは死人みたいだったあんたを、こんなに元気にしてくれたんだもの」
「たとえ一生かかっても、こつこつ真面目に返済する価値あるじゃない！」
「エド ならきっとこう言うわね。『等価交換だ』って！」
パニーニャ
「……そっかぁ。そうだよね。こつこつ真面目に、か…」
「よし！スリはやめる！地道に働いて返そう！うん！そうしよう！」
エドワード
「…なにが国家錬金術師だ。なにが人間兵器だ…また肝心な時に…オレは無力だ…！！」
＜第19話 あんた達のかわりに＞
エドワード
「情け無い事に今……心底『怖い』と思ってる…」
アルフォンス
「ボクもだよ。こういう時はアレだね。『神サマに祈る』」
エドワード
「〜〜情け無 ぇ…」
エドワード
「すげー。本当に生まれたよ！すげーすげー！！」
ウィンリィ
「すげーすげーって、そんな子供みたいな感想を………」
エドワード
「だって、おめー。生命の誕生だぞ！？」
「錬金術師が何百年もかけて未だ成し得てない『人間が人間を創る』っていう事をだな！」
「女の人はたった280日でやっちゃうんだぜ！？」
ウィンリィ
「生命の神秘を科学と一緒にするなんてロマンが無い！」
エドワード
「う！！しょーがねぇだろ、職業柄よぉ…………うん。でもやっぱりすげーよ。人間ってすげー」
ウィンリィ
「………あのね」
エドワード
「あ？」
ウィンリィ
「銀時計の中身ね、見ちゃった」
―――エド、おんぶしていたウィンリィを突然落とし―――
「いった〜〜〜」
エドワード
「おまえな……無理矢理開けたのか……」
ウィンリィ
「ごめんね」
「ごめんなさい」
エドワード
「……バカヤロ…………アルにも見せた事ねーんだぞ」
ウィンリィ
「どうして」
エドワード
「自分への戒めと覚悟を。こうやって形にして持ってなきゃいけないなんて。我ながら女々しいよ」
「なんでおまえが泣くんだよ」
ウィンリィ
「あんた達兄弟が泣かないから、かわりに泣くの」
エドワード
「…………バカヤロ」
「――おまえ、やっぱり田舎に戻れよ」
「あれを見たなら家がある事の幸せってものがわかっただろ」
「ばっちゃん一人じゃ寂しいだろうしさ。帰って安心させてやれよ」
ウィンリィ
「ちがうよ。見たからこそ余計に帰っちゃダメだと思ったの」
「あれが家を焼いた時のエドの覚悟を刻んだ物だってわかって、あたしもハンパな覚悟じゃダメなんだと思った」
「エドが安心して旅を続けられるように。力になれるように」
「あたし。もっと腕をみがいて少しでもいい機械鎧 を付けてあげたい」
「だからもう一回、ドミニクさんに弟子入りをたのんでみる」
エドワード
「…そっか。がんばれ」
＜第20話 師匠 の恐怖＞
アルフォンス
「生きてたんだ……」
イズミ師匠
「知り合いか？」
アルフォンス
「……父親です。ボク達の……」
イズミ師匠
「あの昔、出てったっていうおまえ達の父親？丁度いいじゃないか。まだ中央 にいるかも…」
エドワード
「あんな奴！！あんな奴に頼るのだけはゴメンだ…！！」
メイスン
「しかし、殺伐とした旅をしてるねぇ」
アルフォンス
「そんなひどい出来事ばかりじゃないですよ」
エドワード
「ラッシュバレーで出産に立ち会ったもんな！」
アルフォンス
「師匠 ！ボク達、赤ん坊をとりあげるの手伝ったんですよ！」
エドワード
「バッカおめー！手伝ったって言えるのかよ、あれで！オレ達、うろたえてただけじゃん」
アルフォンス
「あはは！『案ずるより産むが易し』ってあの事だよね」
「家族が協力して。母親も命をかけて。みんなに祝福されて人間は産まれて来るんですね」
イズミ師匠
「そうだよ。おまえ達もそうやって生を受けた。自分の命に誇りを持ちなさい」
イズミ師匠
「そうか、生命 が生まれるのを見たんだ。いい経験をしたね、あの子達は」
イズミ師匠
「なんでも錬金術に頼らないの。自分の手で直せる物は直す！」
イズミ師匠
「メニィ。命は物とちがうし、私は神サマじゃない」
「チコもメニィも同じ『命』。チコは命が止まってしまってもう戻らない」
メニィ
「………わかんないよ。だって…きのうまで………」
イズミ師匠
「チコの命は作ってあげられないけど。お墓は作ってあげられる。ね？」
イズミ師匠
「生きていればいつか命は尽きて肉体は土に還り、その上に草花を咲かせる」
「魂は『想い』という糧になり周りの人々の心に生き続ける」
「世のあらゆる物は流れ、循環している。人の命もまたしかり」
「…自分ではこんなにもわかりきっているのにな。未だに子供に死を納得させるのはむずかしい」
エドワード
「…師匠 は命を……死んだ人を生き返らせたいと思った事はありますか？」
イズミ師匠
「あるよ」
「エド。おまえは軍の狗でいて良かったと思った事はあるか？」
エドワード
「………いつ。いつ人間兵器として召集されて人の命を奪う事になるかわからなくて…こわいです」
イズミ師匠
「それでもその特権を利用して成し遂げたい事があると？」
エドワード
「成し遂げなければならない事があります」
イズミ師匠
「アル、その鎧の中…空っぽだな」
アルフォンス
「！！」
イズミ師匠
「エドも機械鎧 だろう」
アルフォンス
「どっ…」
イズミ師匠
「どうしてわかったって？さっきおまえを投げ飛ばした時！左右でちがう足音！」
「気付かないと思ったか。私をなめるな、バカ者。何があった」
「全て話せ」
＜第21話 二人だけのひみつ＞
―――エドとアルの幼年編・回想開始―――
幼少エドワード
「おばさん！オレ達を弟子にしてよ！」
イズミ
「おばさん、ちょーーっと耳が遠くて聞こえなかったなァ。も一回言ってくれるゥ？（゜Д゜ #）」
幼少エドワード
「訂正です(((( ；゜Д゜)))」
幼少アルフォンス
「弟子にしてください、おねえさん(((( ；゜Д゜)))」
シグ
「弟子はとらない主義じゃなかったのか？」
イズミ
「ん――……生きてたらこれくらいの歳かなって思ったら情が……ね」
「それに錬金術を学びたいって訴えるこの子達の目は真剣だった」
「その学びたい気持ちの裏に何か人には言えない理由がありそうだけど」
「間違った道を選ぼうとしているならその道を正してやるのも『師匠』の仕事でしょう？」