特集ワイド:集団的自衛権行使 本当に国益にかなうのか 首相が意欲、憲法解釈の見直し
毎日新聞 2013年01月23日 東京夕刊
孫崎さんによると、北朝鮮のミサイルを破壊する唯一の機会は発射直前の先制攻撃だ。「米国に発射することが事前に分かったとしても、それを攻撃すれば、200〜300発配備されているといわれるノドンを日本に向けて撃ってくる恐れがある。米国を守るために日本への攻撃を呼び込むことが国益にかなうのか」。日本の国防戦略の基本である「専守防衛」に反することは言うまでもない。
「公海上での米艦船護衛」はどうか。「自衛艦と米艦船が並走して航行中に攻撃されれば、自国への攻撃とみなせるので、個別的自衛権で対応できる。そもそも戦後世界において米国に攻撃を加えた主権国家があるのか。議論の前提が間違っています」。こう批判するのは「集団的自衛権とは何か」の著書がある豊下楢彦・関西学院大学教授(国際政治論)だ。
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集団的自衛権行使を巡る議論の核には「国連憲章で認められている権利を日本が行使できないのはおかしい」との主張がある。これも「憲章が定める意味とは全く異なる乱暴な議論だ」と孫崎さんは言う。「日本の集団的自衛権行使のパートナーである米国は『国際的な安全保障関係の改善』のためなら先に行動することも辞さない戦略をとってきた。フセインは悪い人間で大量破壊兵器を使う危険性があるから、それを使う前に排除する、というのがイラク戦争でした。武力攻撃を受けた場合に限って集団的自衛権を認める国連憲章の理念とはかけ離れてしまっているのです。その米国に追随すれば、国民に説明できない大義なき戦争に自衛隊が巻き込まれることになりかねません」
豊下教授は、行使容認へと動いていた第1次安倍政権当時の米国の外交戦略をこう解説する。「北朝鮮を日米共通の敵と位置づけ、集団的自衛権を対等に行使できるようにしたいとの考えが安倍政権の根底にあった。ところがブッシュ政権は秘密裏に対北交渉を始め、事実上、北朝鮮をテロ支援国家から外すと決定し日本側に伝えてきた。安倍首相の辞任はその直後です。米国は今も北朝鮮、中国に対して硬軟両面の戦略を持っている。日中関係より米中関係の方が緊密な今、日本が尖閣諸島問題で過熱していると、また米国にハシゴを外される可能性があります」。一方で対決姿勢を示しつつ、他方では国際社会秩序に組み込むために交渉を行うのが米国外交のしたたかさ。日中対立に巻き込まれて中国と衝突するのはごめんだというのが米国の本音、と豊下教授はみる。
孫崎さんも「アフガニスタンやイラクからの撤退を進めているオバマ大統領が対日関係で集団的自衛権問題を重視する可能性は低い。日本が行使容認に転じても対等な日米関係につながるとは考えにくい」と話す。