《テストでカンニングしてたぞ》《ゲーム屋でソフトを万引きするのを見た》
東京都内のカラオケ店でアルバイトをする男性(21)は4年前、中高生らの間で広まっている携帯電話の学校裏サイトに、実名でこんな根も葉もない話を書かれた。
愛知県立高校3年だった春のことだ。サッカーが得意で、成績もクラスで上位。早稲田大進学をめざしていた。
不安に襲われ、周りの生徒に言った。「あれ、うそだよ」。「信じてないから、気にするなよ」と慰められた。
だが、授業中も書き込みは止まらない。《うそじゃないし》。住所や携帯の番号までさらされた。
こいつも書いているかも……。皆が敵に見え、不登校になった。先生には「体調不良」、親には「他にやりたいことがある」と言い訳した。
自室でカーテンも開けず、ネットゲームに明け暮れる日々。体重も12キロ減った。
夏ごろ、ネットで見つけた「全国Webカウンセリング協議会」(東京)にメールで相談した。「君はたまたまターゲットになっただけ」という返信に、少し気が楽になった。高校は卒業したが、大学受験に挑む気力はなかった。携帯の番号を変え、東京で独り暮らしを始めた。すべてリセットしたかった。
《きもい。ウザイ。この世から一片の細胞残さず消え失(う)せろ》
九州の県立高校に通っていた女性(18)は、高校2年の秋、五つの学校裏サイトでこう中傷された。帰宅する時の様子まで詳しくさらされた。
「あの子だ」。同じ部活で、一緒に下校していた女子生徒としか思えなかった。
翌日から欠席した。夜も眠れず、急性ストレス障害と診断された。母親(47)と相談し、県外へ転校した。
「書き込みをした理由が知りたい」。女性の母親は、生徒2人と会った。
同じ部活だった女子生徒は、泣いて謝罪した。「彼女はいつも上から目線。好きだったけど、悔しかった」
もう1人は高校1年までいじめられていた男子生徒。「次々と反応が返ってきて、人気者になった気がした」
被害から1年半。女性は今年、大学に進んだ。「私の現在地は、あの子たちに絶対に知られたくない」。携帯メールのアドレス交換さえ、今もためらってしまう。
「相手をもやもやさせられて、自分はすっきりする」
東京都昭島市の高校3年の男子生徒(17)は、書き込む理由をそう表現した。
小学5年からネットを始め、中学時代は携帯を3台、プロフと呼ばれる自己紹介サイトなどを六つ持っていた。
中学2年のある夜、寝る前にある女子生徒の顔が浮かんだ。「ムカつく」。別の男子生徒になりすまして書いた。《援交してんじゃん、お前》。小遣い稼ぎの売春をにおわせる、面白半分のうそだった。
《してるわけないじゃん》。女子生徒がムキになるのがおもしろかった。暇さえあれば、他人のプロフに書き込むようになり、そのたびに爽快(そうかい)感にひたった。教師に呼び出されたが、しらを切った。
1年後。突然、出会い系サイトの請求の電話がかかってきた。身に覚えがなかった。見たことがない番号からの着信が1日数十件続いた。
たまりかねて電話に出たら知らない女性の声がした。
「ネットの掲示板に携帯の番号書かれてるよ」
サイトを見ると、自分についての書き込みがあふれていた。《うざい》《死ね》《ここに電話しまくってくれ》
気味が悪くなって携帯の番号を変え、書き込みもしなくなった。
男子生徒は携帯の画面に視線を落としながらつぶやいた。「ネットってそういうもの。興味がなくなっただけ」