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請求項の中には発明の対象である「X」に長い修飾語句「〜」が付いてから「comprising A, B and C」と記載する場合に、意味上の主語「X」を追加して、「an X 〜, the X comprising A, B and C」や「an X 〜, said X comprising A, B and C」と記載する場合があります。 例えば、次のような前書き部分で特許を取得している発明が実際にあります。 A jet nozzle connected to a distal end of a wash fluid passage in a narrow and elongated endoscopic insertion instrument for spurting a wash fluid toward and on an observation window of an optical image pickup system fitted in a rigid tip end section of said insertion instrument, said jet nozzle comprising: このような表現にはどのような問題があるのかを考えてみましょう。 模式的な文で請求項の全体を表せば次のようになります。 (A) What is claimed is an X 〜, the X comprising A, B and C. この文は、次の二つの文から成っていると考えることができます。 (A-1) What is claimed is an X 〜. (A-2) The X comprises A, B and C. 最初の文(A-1)は、これを次のように二通りに分析することができます。 (イ) ((What is claimed) is ((an X)〜)). (ロ) ((What is claimed) is (an (X 〜))). (イ)は、任意の「X」が要件「〜」をたまたま有しているものについて権利を請求していることを最初の文(A-1)が表していると解釈しています。 ところで、(イ)では任意に選んだここにあるこの「X」が実際には要件「〜」を必ず有していなければならないのですから、要件「〜」を備えた特定の「X」を任意の「X」として「X」の集合の中から選択していることになります。 したがって、修飾語句「〜」は任意に選んだここにあるこの「X」がどのようなものであるのかという「X」の叙述をしていることになります。冠詞と修飾語句によるこの用法を「叙述用法(narrative usage)」とここでは言うことにします。 (イ)の解釈は、修飾語句が関係詞に導かれる節の場合に適用されます。関係詞は、先ず先行詞を立て、次にその先行詞がどのようなものであるのかという先行詞の叙述をしています。(イ)の解釈は関係詞を含む節の総てに適用されます。 (ロ)は、「〜」である「X」のどれでも良いから一つについて権利を請求していることを最初の文(A-1)が表していると解釈しています。 (ロ)では、「X」の集合の中で要件「〜」を有している「X」であれば、どの「X」でも構わないのです。(ロ)では(A-1)の「an X 〜」は(イ)のようにここにあるこの「X」を指していると言うよりも、むしろ要件「〜」を有している「X」の集合を暗に示していると考えられます。このような用途の冠詞が付いている単数名詞を「代表単数」と言います。冠詞と修飾語句によるこの用法を「代表用法(representative usage)」とここでは言うことにします。 (ロ)の解釈は、修飾語句が句の場合に適用されます。冒頭に示した「jet nozzle」の例では修飾語句は句ですから、(ロ)の解釈が適用されます。以下では、(ロ)の解釈を採用して文(A)の説明をします。 次の文(A-2)は、(A-1)で選んだその「X」が「AとBとCから成る」ことを表しています。 ところで、ここでは最初の文(A-1)に(ロ)の解釈を適用するのですから、最初の文(A-1)は「〜」である「X」の内のどれでも良いことを表していることになります。 しかし、次の文(A-2)によれば(A-1)で任意に選んだその「X」が「AとBとC」から成っていなければならないのですから、任意の「X」は実際には「〜」であると共に「AとBとCから成る」特定の「X」でなければならないことになります。 すなわち、(A-1)と(A-2)とを合わせれば、「AとBとCから成る」特定の「X」を任意の「X」として選んでいることになります。 したがって、この二つの文は特定の「X」を提示して、その特定の「X」の叙述をしていることになります。特定の「X」の提示と叙述をする用法を先にも指摘したように「叙述用法(narrative usage)」と言います。 さて、(A-1)と(A-2)の二つの文を結合して一つの文にしたものが(A)の文ですから、(A)は特定の「X」について権利を請求していることになります。すなわち、ここにあるこのものである特定の「X」だけについて権利を請求しているのが(A)の表現なのです。 したがって、構成要件が全く同じ「X」がそこやあそこにあったとしても(A)の表現ではそこにあるその「X」やあそこにあるあの「X」は権利範囲には含まれません。 請求項に広く用いられている「What is claimed is an X 〜, the X comprising A, B and C.」と言う表現には実はこのような大問題が隠れているのです。 この問題を避けるにはどうしたら良いのでしょうか。「an X 〜, the X comprising A, B and C」を「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C」のように書き直せば良いのです。模式的な文で表せば(A)の文を次のように表現し直すことになります。 (B) What is claimed is an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C. (B)として示したこの文がどのような意味を表しているのかを次に考えてみましょう。(A)の場合とは違って(B)の解釈には大きく分けて二つの立場があります。これからそれぞれの立場に立って(B)の表現を検討するのですが、その前に一般には見慣れない用語「wherein」が問題です。 先ずは用語「wherein」から調べてみましょう。 日本の英和辞典では用語「wherein」は一般に「副詞」と出ています。用語「wherein」を接続詞として示している辞典は見あたりません。しかし、最近出た「Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English」第7版には次に示すように「adv(副詞)」として載っているだけでなく「conj(接続詞)」としても載っています。 adv. conj. (formal) in which place, situation or thing; in what way: wherein lies the differences between conservatism and liberalism? 副詞、接続詞、(文語) どの場所または状況または事情で、どの点で(その場所または状況または事情で、その点で): 保守主義と自由主義との違いはどの点にあるのか? 因みに、アメリカの法律辞典「BLACK'S LAW DICTIONARY Seventh Edition」では、接続詞として語彙と例が示されています。副詞の語彙や用例は一切示されていません。副詞としても使用できることが示されているだけです。用語「wherein」は法律では専ら接続詞として使用されるということです。 用語「wherein」を「副詞」と見る立場では、疑問文を作る疑問副詞と名詞を修飾する形容詞節を導く関係副詞の二つの用法があると解釈しています。 「副詞」と「接続詞」の両者を品詞として立てる立場では、疑問文に用いる場合が「副詞」であり、名詞の修飾に使用する場合が「従位接続詞(Subordinate Conjunction)」になります。 「従位接続詞」としての用法が「関係副詞」としての用法と同じになります。 研究社の中辞典で用語「wherein」を調べてみると次のような用例が出ています。 the room wherein he sat 彼が座っていた部屋 この用例では「wherein 節」が名詞「room」を修飾しています。名詞を修飾するのは形容詞です。したがって、「wherein 節」は形容詞節です。 ところで、名詞「room」を修飾している「wherein 節」の中は「he sat」で終わっているので、「何処」に座っているのかが気になります。 「wherein」は「where + in」です。そして、「wherein」の「where」が「room」を指しています。したがって、「wherein」は「in the room」になります。 「where」が「room」を指すと言うこの機能により「wherein」は「the room」と「he sat」とを接続しています。これが「wherein」を接続詞と言う所以です。 ところで、「wherein 節」は「where」が「room」を指しているのですから、「wherein 節」を文に戻せば「he sat in the room」になります。「in the room」が動詞「sat」を修飾しています。動詞を修飾するのは副詞です。三つの語がひとまとまりになって副詞の働きをしています。しかも、場所を表しています。したがって、「in the room」は場所を表す副詞句です。 「wherein he sat」は副詞句の部分「wherein (=in the room)」を利用して「the room」と「he sat」とを結び付け、さらに「he sat」で「room」を修飾しているのです。これが名詞を修飾する形容詞節を導く「関係副詞」と「wherein」を言う理由です。「関係」とは「接続」という意味です。 ところで、次に示す二つの文はどちらも「彼が座っていた部屋」と言う意味ですが、両者に何か違いがあるのでしょうか。 (ア) the room where he sat (イ) the room wherein he sat 意味の構造を調べると次のようになります。 (ア) ((the room) where he sat) (イ) ((the room) wherein he sat) (ア)も(イ)も特定の部屋があってその部屋に彼が座っていたことを表しています。この例では違いは認められません。 しかし、(B)の文のように修飾部分が二つあり、しかもどちらの修飾部分も句や節のいずれかである場合には、「where」と「wherein」との間には違いが出てきます。 (B) What is claimed is an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C. 上に再び示した(B)の文で修飾する部分をそれぞれA、Bとし、修飾される部分をXとすると修飾構造を次のように表すことができます。 (b-ア) What is claimed is an X A, where B. (b-イ) What is claimed is an X A, wherein B. (b-ア)と(b-イ)のどちらの解釈にも大きく分けて二つの立場があります。最初の立場は「where」や「wherein」が名詞「X」を指していて、「X」を修飾する形容詞節を導く関係副詞と解釈するものです。もう一つの立場は「where」や「wherein」が主節と従節とを接続する接続詞と解釈するものです。 「where」や「wherein」が「X」を指していると解釈する最初の立場では主節の冠詞「an」や修飾語句「A」を代表用法で使用しても、「A」の要件を有する集合の中から任意に選んだその「X」を従節の「where」や「wherein」が指して、従節内の「B」でその叙述をすることになりますから、結局は特定の「X」の叙述をする叙述用法になってしまいます。請求項には相応しくありません。 それでは、「where」や「wherein」が主節と従節とを接続していると解釈する第二の立場はどうでしょうか。 この場合、(b-ア)では「where B」は次の例のように条件を表していると解釈することができます。 He is a good psychologist where women are concerned. 女性にかけては心理を読むのが上手だ。 すなわち、従節の下で主節が成り立つと(b-ア)を解釈するのです。したがって、「B」という条件の下で要件「A」を有する集合の中から任意に選んだ「X」について権利を請求していると(b-ア)を解釈することになります。 これに対して(b-イ)では、接続詞でも「wherein」は「in which situation」の意味であり、「which」が主節全体を指していると解釈できますから、次のように変更することができます。 What is claimed is an X A, wherein B. What is claimed is an X A, in which situation B. B in such a situation that what is claimed is an X A 変更により最終的に得られた文は、Aである任意のXについて請求することを条件にBであるという意味になりますから、主節「What is claimed is an X A」が条件を示していて、主節に示されている条件の下で従節の「B」が成り立つと第二の立場では(b-イ)を解釈することになります。 すなわち、要件「A」を有する「X」の集合の中から任意に選んだ一つの「X」について権利を請求することを条件として「B」が成り立つことを主張していると(b-イ)を解釈することになります。 したがって、「What is claimed is an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C.」は、要件「〜」を有する任意の「X」について権利を請求している状態の下で改善点が「A、B、C」であると(b-イ)の立場では(B)の文を解釈していることになります。 (b-ア)では従節の条件の下に主節が成り立ち、(b-イ)では主節の条件の下に従節が成り立つのです。(b-ア)では主節が強調され、(b-イ)では従節が強調されます。 請求項は、「前書き部分」と「移行部分」と「特徴部分」でできています。「前書き部分」でどのようなものについて特許を請求するのかの大枠を明らかにして、これに続く「移行部分」と「特徴部分」で発明の徴表を明らかにして大枠の中の特定のものに請求対象を限定しています。これが請求項の機能です。 したがって、請求項のこの機能に相応しい解釈を第二の立場が提示しているかどうかが次の問題になります。 (B)は「What is claimed is an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C.」ですから、「What is claimed is」が「特許請求の範囲の表題」、「an X 〜,」が「前書き部分」、「wherein」が「移行部分」、「the improvement comprises A, B and C.」が「特徴部分」 になります。 「前書き部分」である「an X 〜,」は、「〜」である「X」ならばどれでも良いことを表しているのですから、どのようなものについて特許を請求するのかの大枠を明らかにしています。 「移行部分」である「wherein」は「〜」である任意の「X」を選んで権利を請求する際に条件のあることを表していて、「特徴部分」である「the improvement comprises A, B and C.」で発明の特徴的要件を条件として提示しているのですから、「移行部分」と「特徴部分」で発明の徴表である特徴的要件を明らかにして大枠の中の特定のものに請求対象を限定していることになります。 このように「What is claimed is an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C.」は、英語の構造や意味の構造を深く検討した上で請求項の機能に相応しくなるように作り出された表現なのです。 ところで、「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C」という表現について次のように主張してこの表現の使用に反対する人々がいます。 ヨーロッパ型のtow-partの形式で、「この技術部分に新規性noveltyがありますということを示す」表現をとると、もし特許後に、「新規性」部分に先行技術prior artが発見されたとき、フロードfraudの問題を含め、不利益となる度合いが大きくなる云々。 ここで、「ヨーロッパ型のtow-partの形式」とは、「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C.」のことです。「フロードfraud」とは「詐欺」のことです。 この反対理由は根拠が薄弱であるように思われます。米国特許法施行規則第1.75条第(e)項には、きちんと次のように規定されているからです。 §1.75 Claim(s). (e) Where the nature of the case admits, as in the case of an improvement, any independent claim should contain in the following order: (1) A preamble comprising a general description of all the elements or steps of the claimed combination which are conventional or known, (2) A phrase such as “wherein the improvement comprises,” and (3) Those elements, steps, and/or relationships which constitute that portion of the claimed combination which the applicant considers as the new or improved portion. 米国特許法施行規則第1.75条 (e) 改良発明の事件のように事件の性質が許す場合は、独立のクレームは、次の順序に諸事項を含むべきである。 (1) クレームされた結合の際、在来または既知のものである原理または段階のすべての一般的説明よりなる前文、 (2) “ここで改良は…から成る”というような表現、 (3) 出願人が新規または改良部分であると考えるクレームされた結合のその部分を構成する要素、階段および/または関係。 この和訳は、米国特許研究会の編集による「米国特許実務用語辞典」(AIPPI JAPAN発行)に拠ります。 米国特許法施行規則第1.75条第(e)項第(3)号には「which the applicant considers as the new or improved portion」と明記されています。用語「considers」が用いられているのですから、構成が新規であるかどうかは出願人の主観的な判断で構わないのです。客観性は要求されていません。特許庁による実体審査で客観性が確保されるのです。情報開示供述書を提出するなどして誠実に出願手続をしていれば詐欺の問題など生じることはないはずです。 技術の進んだ現在では発明はその殆どが改良発明です。発明者であれば、従来の技術にどのような問題があってその問題を解決するためにどのように改良してどのような構成にしたのかを知っているはずです。 自分の開発した技術的構成はこれこれですと明らかにし、従来の構成とは明確に相違する新規な構成を有する特定のものについてのみ権利を主張するのが請求項です。したがって、本来的には表現「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C」を使用するべきなのです。 何処に特徴があるのかが直ぐには分からないように新規な技術的構成を従来の技術的構成と綯い交ぜにして恰も先駆的な発明であるかのように請求項を装う行為こそ不誠実きわまりない詐欺的所行と言うべきなのではないでしょうか。 表現「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C」の使用に反対する人達は実は日米を問わず特許に関する法律や請求項の本質をきちんと理解できていないだけでなく英語も満足に理解できていないのです。 いずれにしても、請求項には「an X 〜, wherein the improvement comprises A, B and C」を使うようにしましょう。 |
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