埼玉で教師が保護者を訴えた異例の裁判 教師側の訴え棄却
再三のクレームで名誉を毀損(きそん)されたなどと、保護者を教師が訴えた異例の裁判、いわゆる「モンスターペアレント」をめぐる裁判が、埼玉・熊谷市のさいたま地裁熊谷支部で開かれ、28日、注目の判決が言い渡された。
午後4時半ごろ、教師に提訴された保護者は「わたしどもとしては、すりかえモンスター事件だと思ってるんですよ。教諭1人ではなく、校長も含めた、学校ぐるみの教育の問題だと思います」と話した。
教師が保護者を訴えるという、前代未聞の裁判。
再三にわたるクレームにより、名誉を毀損され、不眠症に陥ったとして、埼玉県内の公立小学校の40代の女性教師が、保護者に対し、500万円の慰謝料を求めていた。
訴状などによると、発端は2010年6月、3年生の担任だった女性教師が、子ども同士のけんかの仲裁をしたところ、一方の保護者から、「自分の娘は悪くないのに謝らせようとした」などとクレームが来るようになったという。
2011年、女性教師の弁護士は「名誉棄損の最たるものは連絡帳。教育委員会とか、ほかの教職員に回るもの」と話していた。
学校側に子どもの近況などを伝える連絡帳に、「最低の教師」などと書き続けたという児童の保護者。
一方、提訴された保護者によると、算数のテストをめぐっては「絶対、4が書いてあったのに、これが消えてて、「×」になってたって、(子どもが)泣いてたんですよ」というやり取りがあったという。
児童の書いた解答を消し、女性教師が×をつけたと主張。
さらに保護者は、児童にICレコーダーを持たせて録音したという、音声を公開した。
鉄棒の逆上がりの練習をさぼったと、クラスの全員の前で、子どもが教師に謝罪させられたという。
保護者が公開した音声には、女性教師が「うそはつかないでください、もう、これ以上。みんなの前で言えないって、どうして? うそついてごめんなさいって、先生に言ってください」との声が録音され、児童は「うそついて、ごめんなさい」と謝罪していた。
2011年、教師に提訴された保護者は「実際に500万円って金額を請求されてるわけですから、これについては、もう血圧が上がって、朝まで一睡もできなかったし、精神面であっちに負けないくらい不眠症ですよ」と話していた。
結局、裁判は和解することなく、泥沼化した。
女性教師側は「『モンスターペアレント』と呼ばれる行為をしている」と主張し、保護者側は「自分の子どものことを思って何が悪い。正当行為だ」と主張している。
教育現場で、保護者と教師の間に起きたトラブル。
前代未聞の裁判の判決。
裁判長は、「被告である保護者には、配慮に欠ける点などがあったとしたものの、保護者が連絡帳に書いた『最低の先生』などの表現は、教師の社会的評価を低下させるものにはあたらず、公の場で名誉を毀損したとはいえない」などと、教師の訴えを退けた。
教師側の弁護士は「(事実は)認めているわけですね、この判決文を見ると。あとは裁判所の評価の問題」などと話した。
一方、保護者側は、「学校全体で、『モンスターペアレント』と戦うぞということで、(裁判が)長くなるほど、子どもは、学年全体から無視されている状態」、「みなさんは『おめでとう』と言ってくださるが、素直に喜べる心境ではない」、「なんとか第3者機関を立ち上げ、駆け込み寺のようなものをつくってほしい」と語った。
今回の判決について、若狭 勝弁護士は「(保護者側に)配慮に欠ける面があったとしても、不法行為とまではいかないというのが、判決の理由。学校側の対応が、必ずしも十分になされていないのが、今回の事件の背景にはあると思います」と語った。