2009年06月27日

大魔王作戦

[題名]:大魔王作戦
[作者]:ポール・アンダースン


 SFというジャンルは空想的要素を含むため、元々ファンタジーとの親和性が高いようです。剣と魔法の世界を描くヒロイック・ファンタジーは双方のテイストを併せ持った作品群ですし、宇宙を股にかけるスペース・オペラはその荒唐無稽さからしばしば「SFではなくファンタジー」と揶揄されることもあります(^^;)
 一方、単に両者の境界というだけに留まらず、科学と魔法を積極的に混ぜ合わせたものが存在します。これがサイエンス・ファンタジーと呼ばれるグループです。
 本作『大魔王作戦』(原題:"Operation Chaos")はSF作家アンダースン氏による、科学的魔法世界を描いたユーモア溢れるサイエンス・ファンタジーです。二十世紀でありながら魔法やドラゴンが当たり前のように存在する、奇妙で楽しい冒険物語ですね。

 第二次大戦末期、スティーヴン・マチュチェック大尉(スティーヴ)はヴァンブラ将軍に出頭を命じられます。テントへ赴くと、そこには先客として白いあごひげの男性と、目の覚める程美しい赤毛の女性がいました。
 第十四師団のハリガン少佐とヴァージニア・グレイロック大尉(ジニー)を簡単に紹介した後、将軍はスティーヴに戦況を伝えます。トロールバーグ奪回という重要な作戦を控えたこの時、敵の守備軍が魔神(アフリート)を擁していることが判明したのです。魔神は強力ですが扱い辛い相手であり、仮に自由の身になれば両軍問わずどれほどの破壊をもたらすか分かりません。
 この危機的状況に当たって、スティーヴとジニーはたった二人で教主軍の陣地へ乗り込み、魔神を無力化するという困難な任務が与えられます。スティーヴは業界指折りの狼男で、ジニーは天才的な魔女だった為です。
 使い魔の黒猫スヴァルターフが操る高馬力のキャデラック(空飛ぶ箒(^^;))にまたがり、二人は哨戒線を突破して敵陣へと乗り込みます――恐るべき魔神ラシードを封じる為に。

 本作の注目ガジェットは、科学化された魔法世界です。
 作中世界は我々の知る世界とはパラレルワールドの関係にあり、明らかな差異が生まれるのは二十世紀からのようです。従って、作中世界の過去の歴史は私達が知るものと基本的に同一です(元々物理法則が違うのかどうかは不明)。
 スティーヴの綴る地の文では、鉄には魔法に対する破壊的作用があり、これに対する消磁方法が発見されたことで魔法技術時代が始まったとされています。身近にある鉄が魔法を打ち消してしまう為、私達の世界には魔法が存在しないのだということですね。:-)
 この発見により、我々の身の回りにある科学技術を魔法技術で置き換えたような世界が誕生したようです。人々が移動に使うのは自動車や飛行機ではなく空飛ぶ箒や絨毯、テレビや電話の代わりに水晶球が使われ、自動皿洗い機は汚れた皿が宙を飛んで自分から石鹸水の中に飛び込みます(笑) 扱いはファンタジー的というよりテクノロジー的で、特権的な魔法使いのみが術を使うのではなく、一般大衆の生活を便利にする為に活用されています。
 この科学と魔法の融合は表面的な部分に留まらず、ストーリーの展開にも大きく関ってきます。例えば、あらすじにある魔神ラシードとの対決にあたって、ジニーは心理学的手法を駆使して魔神のトラウマをほじくり返し、精神的に追いつめる、といったように(^^;)

 本書は元々四つの中短編として発表された連作を一つにまとめた物語です。

・"Operation Afreet"
 (第二次大戦中、魔神と戦うエピソード)
・"Operation Salamander"
 (戦後、大学に戻った二人がサラマンダー事件に対処するエピソード)
・"Operation Incubus"
 (結婚した二人が新婚旅行先でインキュバスと出くわすエピソード)
・"Operation Changeling"
 (二人の間に生まれた子供がさらわれてしまうエピソード)

 この四編のお話に繋ぎの部分を加え、長編化されています。
 スティーヴとジニーの二人は、戦争中の特殊任務で行動を共にしたことで親しくなり、やがて結婚することになるわけですが、やたら面倒事に巻き込まれてしまいます(^^;) その理由が繋ぎで語られており、かつ作品自体の意味付けが行われているのも面白い点ですね。
posted by Manuke at 00:06| Comment(2) | TrackBack(1) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ポール・アンダーソン!なつかしい名前に逢えました。
彼の作品は、「タイムパトロール」もそうですが、短篇を連結したものが多いですね。雑誌連載?

魔法ものは、ご都合主義の流れになりやすいのですが、これは良い作品ですね。
あと、ランドル・ギャレットの「魔術師が多すぎる」も好きです。
Posted by nyam at 2009年06月28日 17:03
初出はF&SF誌だそうです。
アメリカの作家さんは、いきなり単行本というケースは少ないとどこかで読んだ覚えがあります。雑誌に掲載するとなると、ある程度区切りの良い中短編が好まれたりするのかも。

『魔術師が多すぎる』は未読ですが、確か推理要素をファンタジーに取り込んだ作品でしたよね。題名はしばしば目にするのですけど、入手は困難そう……。機会があったら読んでみたいと思ってます。
Posted by Manuke at 2009年06月30日 00:38
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