コミックマヴォVol.5

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2008/05/27

今回の「サルまん」連載中止について

以下書くことはあくまで竹熊個人の意見であり、相原コージ氏や編集部の見解とは異なっていることをご注意ください。

まずは、主として俺のワガママで連載中断の事態に至ってしまったことを、ここまで愛読していただいた読者の皆様・連載関係者の皆様には深くお詫び申し上げます。「作者の都合で一方的に連載中止するなんて無責任だ」との批判があることは承知していますが、俺としては、もはや失敗作であることが自分には明らかとなった連載を、このまま続けることに意義が感じられず、そっちのほうが読者に失礼ではないかと思ったということです。

「そこをなんとかするのがプロだろう」と言われれば返す言葉がありません。しかし『サルまん』は相原君と俺の共同作品であることが大前提であり、にもかかわらず両者の作品に対する方向性に違いが生じて、もはや話し合いでどうにかなるレベルを超えてしまっていたということであります。批判は、甘んじて受けるしかありません。

要するに、二人で共同して魚屋を開いたはいいが、俺が「これからの魚屋は魚だけでは立ちゆかないから、野菜も売ろう」と言い出して、野菜を仕入れはじめたようなものです。

ここで俺がはっと我に帰って、野菜を売ることを断念して魚屋に専念すれば丸く収まったわけなんですが、改めて魚専門で続けようにも俺にはビジョンが何もありませんでした。要するに『サルまん』のコンセプトを守る限り、マンガの範囲で自分ができることは、15年前に完結した段階でほとんどやり尽くしてしまっていると思ったのです。

そのことは、実は相原君もよくわかっていて、にもかかわらず今回やろうと思ったのは、相原君はマンガの範囲のネタでも、まだ単行本一冊くらいはやれることがあると考えていたのだろうと思います。

というか、彼はあくまでもマンガ家ですから、俺が「今度のサルまんはメディアミックスだ。一緒にアニメを作ろう、グッズを作ろう」と言い出しても、自分はどうすればいいの、という反応になってもしかたがないでしょう。それはマンガ家の仕事ではないわけですから。俺はもともとマンガ家ではないので、こういう発想になってしまったのだと思います。もう少し、彼の立場というものを考えるべきでした。

旧サルまんでも、とんち番長のアニメ化などメディアミックスについてはすでにネタにしていました。ただそれはコンセプトの呈示にとどまっていましたので、今回俺は、コンセプトとしてではなく、本当にアニメやグッズを作って販売しようと思っていたのです。

マンガ界の現状は、マンガ雑誌本体はもう崩壊寸前で青息吐息なのですが、一部に「売れる作品」があって、あとはアニメ化・商品化・携帯配信などをやることで、かろうじて維持しているのだと思います。そうしたことを片っ端から「本当にやろう」というのが俺の考えでした。もちろん、あくまでシャレになる範囲でのつもりでしたが、シャレだとしても、ある程度本当にやらなければサルまんのギャグにはならないと思いました。

メディアミックスで行く、ということは俺が最初から(入院前から)言っていたことで、その方向で始めることに合意ができていたと(俺個人は)思っていたわけなんですけど、いざ作業を始めてみたらそっちに動いていたのは俺一人で、相原君も編集部も、しぶしぶそれに合わせている、という感じがずっと続いていました。最初からそれがわかっていたら、たぶんパート2は断念していたでしょう。

それで連載が8回目になり、いよいよこれからメディアミックス展開を始める、という段になって、周囲の反応を見て、このまま進めたらメチャクチャなことになる、と正気に帰ったのであります。もちろんある程度メチャクチャになることは想定済で、そこまでギャグの一環にしようと考えてはいたのですが、ちょっと本格的にシャレにはならない感じになっていました。

今回俺が勝手に暴走してしまったことには、理由があります。これは相原くんも最終回で述べていることなんですが、一昨年にこの「たけくまメモ」で展開して「IKKI」に発表し、新装復刻版にも収録した『サルまん21(通称・萌えサルまん)」が、作品として成功していたことです。

あれは、もともと『旧サルまん』を復刊する話が持ち上がったときに、せっかくだから新作描きおろしをやろうと言うことで、まずこのブログで「萌え」についてのネタを募集し、読者の皆様のご協力を仰いで執筆した作品です。あの仕事は俺にも相原君にも手応えがあり、久しぶりにサルまんらしい仕事ができたという実感がありました。

しかも、ブログでインタラクティブにネタ固めをしたことが強力な宣伝となって、『サルまん愛蔵版』は、内容が15年前の旧作で、A5サイズ箱入り・定価1600円という出版常識からして絶対売れるわけがない本だったにも関わらず、このブログからのアマゾン・アフィリエイト・データだけで2000冊以上が売れ、これには小学館が驚いて、増刷が決まったという経緯があります。

あれを出版した3ヶ月後に俺は脳梗塞で倒れましたが、12月に、入院していた病院にアマゾンさんから俺宛にお見舞い兼お歳暮が届きました。アマゾンから大きな段ボールが届いたので、注文もしてないのになんだろうと思い、俺はベッドで動けないので父親に開けてもらったら、ミネラルウォーターの詰め合わせでした。アマゾンさん、あの節はありがとうございました。

ちょっと余計な話をしてしまいましたが、とにかく愛蔵版の売れ行きがよかったので、15年目にして小学館から続編連載の依頼があり、『サルまん2.0』の開始に至ったものであります。

今回、俺と相原くん・編集部との認識のズレがあったのは、この「ブログとの連動」の部分ではなかったかと思います。「萌えサルまん」の成功は、俺は「たけくまメモ」がなかったら絶対に不可能だったと確信しているのですが、相原くんも編集部も、そこまで認識していなかったということなのだと思います。

従いまして、俺としては『サルまん2.0』を成功させるためには、ブログとの連動を積極的に図ることが不可欠でした。そのために小学館のサーバーで専用ブログまで開設させていただいたのですが、思うように更新できなかったことは皆さんもご存じの通りです。なぜなのか、いろいろ原因はあると思うんですが、俺としてもこの「たけくまメモ」のように気軽に書けなかったことは事実です。

たぶんこの連載は、1年くらいの準備期間を置いて、半年前から特設ブログを開始し、それ専用のスタッフを雇って、ブログでしか読めないネタを多数用意し、できれば毎日更新するくらいの周到さが必要だったと思います。しかし、月刊誌の一連載にそこまでの予算を割くことは現実問題として不可能でした。俺の考えが甘すぎたのだと思います。

今後の展開としてやりたかったことは、すでに雑誌の最終回で書いたのですが、あらためて説明したいと思います。個人的に、世に出せなかったことが残念なので。

まず鳳ヘボンという若くて売れっ子のライバルを登場させます。ヘボンは『デスパッチン』という超絶メガ・ヒットを飛ばしていて、マンガ界の帝王として君臨しています。ヘボンは竹熊・相原のかつての弟子だったのですが、野望コンビには仕事がなくネットカフェ難民にまで落ちぶれており、かつての弟子を妬んでなんとか仕事に復帰して大ヒットを飛ばし、ヘボンの鼻をあかせてやろうと画策します。

そこで竹熊が「メディアミックスだ」と叫び、「デスパッチン」のやおい同人誌を作ったり、ブログを開設したりして、マンガを描くこと以外の方面から、成功の糸口を掴もうとするわけです。ここまでは、すでに発表した連載の中で描いたと思います。

Toramimanga Niikomanga←「デスの音」マンガ用キャラ設定「魔心トラ美と蟇目似似子」(画・相原コージ)

続いて、野望の二人はデスパッチンより強力な『デスの音』という新作マンガを考え、これをネットで連載しつつパソコンでアニメを自作してDVDを秋葉原の路上で販売しようとします。『デスの音』については、相原くんにマンガのキャラ原案をすでに頼んであって、アニメ用のデザインは小宮政志くんに頼んでありました。ここに掲げたのが、相原くんのマンガ版キャラと、小宮くんが描いたアニメ用キャラであります。

ToramianimeNiikoanime001←「デスの音」アニメ用キャラ設定「魔心トラ美と蟇目似似子」(画・小宮政志)

そもそも野望の二人がアニメを作るのに都合がよいように、パソコンがいくらでも使えるネットカフェを舞台に設定したわけです。『デスの音』は恥も外聞もない徹底した萌えアニメとして作ろうと思いました。超能力者のゴスロリ美少女(巨乳)がいて、これがトライアングルをチーンと鳴らすと人が死ぬのですが、これを阻止するべくメガネ美少女の捜査官がゴスロリ美少女の巨乳を揉みしだくと、ゴスロリのトラウマが発動し「き、教頭先生、やめてください…」とつぶやいて、力が出せなくなってしまうのです。

Titimomianime ←トラ美の乳を揉みしだく似似子(アニメ画・小宮政志)

連載に合わせて、公式ブログで本当にこのアニメを作ってアップしていこうと考えていました。声優はブログで公募し、応募してくださった声優志望の女性の方に宮崎駿が「娼婦の声だ!」と忌み嫌っている声優萌えボイスで「教頭先生……!」と叫んでいただき、声をデータとして送っていただいて、ブログの人気投票で選ぶイベントも考えていました。俺個人は、面白いと思っていたのですが、実現できなかったことは力不足以外のなにものでもありません。残念です。

ともあれ、すべては企画倒れに終わってしまったことは事実です。愛読してくださった皆様には深くお詫び申しあげます。『サルまん』の野望は頓挫しましたが、俺がここで考えていたことは、一部なりとも俺の人生の中で実現させていきたいと考えています。

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