社説
いじめ防止対策/「道徳教育」の効果は疑問だ
いじめや体罰によって、子どもの命が失われることがあってはならない。小さな命を守るために、幾重もの安全弁を設けることが急務だ。 国の「教育再生実行会議」が、いじめや体罰から子どもを守るための提言をまとめた。いじめた子どもの出席停止や第三者組織設置などが盛り込まれた。 その中に「命の尊さを学ぶ道徳教育の充実」も含まれたが、違和感を覚える。道徳教育の重要性は第1次安倍政権の時から強調されていたが、いじめ対策とは懸け離れているのではないか。 最後の局面に至るまで、大人側が救いの手を差し伸べられなかったことこそ、まず問題にされなければならない。学校や教育委員会の責任逃れや隠蔽(いんぺい)体質も、正す必要がある。子どもの矯正より、子どもを取り巻く環境改善の方に軸足を置くべきだ。 生命の尊さに気付かせ、共感力を養うことは教育の目的の一つではある。だが、それは道徳に限らず、さまざまな機会を利用して多面的に学ぶ方がより理解が深まるだろう。 大津市の中学校ではいじめによって、大阪市の高校ではバスケットボール部顧問の体罰によって、いずれも男子生徒が自ら命を絶った。暴力のひどさや学校側の無責任ぶりは、放置できるものではない。 教育再生実行会議の提言内容に特に目新しさはないが、その中でも第三者組織は早く実現させたい。 学校や教師が助けてくれないと感じたら、子どもは深い絶望感を味わう。心配かけまいと、親にも相談しないことが多い。 学校から独立した外部組織にすぐ相談できる環境を整え、心の支えを得られるようにすべきだ。第三者組織は状況を調べ解決策を探ることになるが、決定事項には学校側も従わなければならない。 解決の方法は個々のケースによって異なるだろう。いじめ問題の解決につながった教育現場の実例が土台になるのではないか。机上でいくら考えたところで、限界がある。 いたずらに強制的な手段に頼るのも戒めなくてはならない。一時しのぎに終わったのでは元も子もない。 いじめをなくすには加害者側への働き掛けが大事になる。悪いことだとは、多くの子どもも分かっているだろう。それでもやまない点に根深さがある。 大人社会の「道徳」も、決して褒められたものではない。柔道女子日本代表チームでも暴力がはびこっていた。 大人が「勝ち組」とか「負け組」とか、競争原理に凝り固まっているようでは根本的な解決からは程遠い。 言い古されたことだが、多様性を互いに認め合い、寛容さを培う教育を目指すべきだ。 人の内面や良心の問題にまで立ち入りかねない教育は、望ましくない。それこそ、多様性を受け入れることの妨げにもなろう。少なくても、道徳の教科化は慎重であるべきだ。
2013年03月01日金曜日
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