2012年7月13日(金)

偽りの青空“疑似好天”の落とし穴

阿部
「夏山シーズンの到来で、明日からの3連休、そして夏休みに、登山に出かける方も多いのではないでしょうか。
登山で、気をつけなければならないのが、急変する山の天気ですよね。」

 

鈴木
「その中でも、今、注目されているのがこちら、『疑似好天』です。
『疑似好天』とは、悪天候と悪天候の狭間で、一時的に晴れ間が広がる、特殊な現象です。
登山客を遭難の危機にさらすいわば“魔の青空”。
その恐ろしさを見せつけた遭難事故が、ことし、北アルプスで起きていました。」

“魔の青空”疑似好天の落とし穴

3千メートル級の山々が連なる北アルプス。
北部に位置するのが、白馬岳です。
貴重な高山植物の数々。
そして、1年中溶けない大雪渓。
その魅力にひかれ、毎年、多くの登山客がこの山を訪れます。
白馬岳で、5月の大型連休中、悲劇がおきました。
北九州から来た中高年の登山客6人が遭難、全員が低体温症で死亡したのです。

彼らの登山計画です。
初日は登山道入り口にある山小屋に一泊。
翌朝5時に出発し、稜線をたどりながら、白馬岳の山頂へ。
その後、山頂近くの山小屋に1泊する2泊3日の計画でした。
6人に何が起きたのか?手がかりとなる映像が地元のホテルに残っていました。
屋上にある観測用のカメラです。
事故が起きた5月4日の映像。
刻々と変わる白馬岳の天候が記録されていました。
6人が山小屋を出発した午前5時。
雲で山はほとんど見えません。
4時間後の午前9時。
山頂付近に青空が広がりました。
しかし、昼頃になると山は再び、黒い厚い雲に覆われていきます。

白馬岳で急変した天候を間近で見ていた人がいます。
高校で山岳部の顧問を務める大西浩さんです。
事故当日、大西さんは白馬岳の山頂付近で友人と山スキーを楽しんでいました。
午前9時20分。

大西さんたちが現地で撮影した写真です。
上空には抜けるような青空が広がっていました。

大西さん
「一気に青空が広がってもう全面、青空になって、かなり気温も上昇してきた。
中にはTシャツ姿になって歩く仲間もいた。」

しかし、その天候は急変。
午前11時過ぎ、強風が吹き始め、30分後には、激しい雨が降り出しました。
さらに雨は雪に変わりました。

当時の気象レーダーです。
事故前日の3日、各地で大雨をもたらした低気圧が長野県を通過。
そして、当日4日。
白馬岳周辺では、晴れ間が広がりました。
しかし、晴天は一時的なもので、午後、再び激しい悪天候に見まわれました。
これが「疑似好天」です。

そのとき、大西さんたちが撮った写真です。
猛烈な吹雪で、5メートル先も見えなかったといいます。



 

大西さん
「青空がだんだんどんよりしたくもりの空に変わってきて、雨もかなり強くなってきた。
りょう線に出るころには横殴りの強い風と雨の天気に変わった。」

 

別の写真には、遭難した6人とみられる人影が写っていました。
大西さんからはわずか数百メートルの距離でした。
吹雪の中、大西さんたちは急いでスキーで下山。
6人は山頂近くの山小屋を目指し、途中で力尽きたとみられています。

疑似好天はなぜ起きたのか、長野県で山岳気象の予報会社を運営している猪熊隆之さんです。
猪熊さんは低気圧と寒気の狭間で、この疑似好天が生まれたと見ています。

事故当日午前9時の天気図です。
東には前日まで各地に大雨をもたらした低気圧、西には高気圧という気圧配置でした。
2つの気圧の境には強い寒気が入り込み、北アルプス一帯は再び天気が崩れる見込みでした。
ところが、低気圧の西側は、等圧線の間隔が広く、気圧の差が小さかったため、一時的に穏やかな天気になったのです。
この疑似好天が遭難事故を引き起こすきっかけになったのではないかと、猪熊さんは見ています。

気象予報士 猪熊隆之さん
「山で怖いのは、それまで晴れていたのが、急に天候が悪化して、猛吹雪になったり、暴風雨になることがいちばん怖い。
昔から『疑似好天には気をつけろ』と登山者の間でよく言われていた。」

夏山でも疑似好天への注意が必要です。
低体温症に加え、新たなリスクが高まると言います。
落雷です。
積乱雲が発生しやすい夏。
特に逃げ場の少ない山では、雷は登山者の命に関わります。

気象予報士 猪熊隆之さん
「やはり突発的な雷雨などが、いちばん怖い。
いま晴れていてもいつ崩れるかわからないという覚悟でいつも(山に)臨むことが大切だと思う。」

阿部
「青空が瞬く間に猛吹雪になってしまう。
まさに“魔の青空”ですね。
非常に怖いですね。」

鈴木
「気象予報士の猪熊さんによりますと、まずはしっかりと天気図を確認することが大切だということです。
悪天候が続くということが天気図で分かっていれば、たとえ目の前で晴れ間が広がっていても、それは本格的な天候の回復ではなく、『疑似好天』だとある程度予測できるといいます。
また、悪天候の兆候に気がついたら、無理をせず、近くの山小屋に避難したり、急いで下山するなどしてほしいということです。」

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