保証人社会を問う:担保提供残る抜け道 自宅競売の危機心労に
2013年02月27日
父の知人の借金で自宅を担保に差し出した50代の男性が、自殺に追い込まれた。法制審議会は民法を改正し、第三者を保証人とする融資をなくす案を示したが、担保を提供するケースは対象外のため、今後も「抜け道」となって被害が繰り返される恐れがある。【伊藤一郎、井上英介】
弁護士などによると、東京都内の男性は06年、父から「一緒に知り合いを助けてくれないか」と頼まれた。知人に「会社の事業資金4500万円を信用金庫から借りるので、連帯保証人になってほしい」と懇願され、協力したいという。「おやじの頼みなら」。父は知人の連帯保証人になり、自宅を担保に。男性も妻子と暮らす自宅を担保提供した。
ところが融資から半年後、知人は姿を消した。調べると、会社は登記だけで実体がなかった。警察に相談し、詐欺容疑で信金と一緒に被害届を出すよう助言された。しかし、信金は届け出を拒否。連帯保証人の父に4500万円の一括返済を迫り、担保とする男性と父の自宅の競売を申し立てた。
両親の年金と自分の給与で4500万円を用立てるのは無理だった。男性は信金に競売申し立ての取り下げを懇願し、担当者と交渉を重ねた。それでも状況は変わらず精神的に不安定になり、08年12月、自ら命を絶った。
父はその後、債務を減らし分納することで信金と和解。自宅の競売は免れたものの、息子は帰らない。心身共に疲れ果て、約1年半後、胃がんを悪化させ他界した。
残された母(82)は夫が連帯保証で背負った債務を相続した。相続を放棄すれば自宅を失ってしまうため、苦渋の選択だった。今の債務は1800万円。年金から毎月5万円を返し続ける。「親思いの優しい息子だったのに、親のために無理をさせてしまって……」。自分と夫を責めては、言葉を詰まらせる。
融資に詳しい「HKコンサルティング」(東京都中央区)の吉川智仁社長は「信金の融資は100万円単位の小口が中心。男性や父の不動産担保があったから高額な融資をしたのだろうが、第三者の担保があったことで安心し、融資する会社の審査がおざなりだった可能性もある」と指摘する。この信金は毎日新聞の取材に「法廷で和解した案件なのでコメントできない」としている。