社説
微小粒子状物資/測定と対策は国の責任だ
中国の大気汚染は明らかに国際問題のレベルに達している。汚染物質の「濃霧」に包まれた北京などの映像を見れば、日本への影響を心配しないわけにはいかない。 先月末にはもう、西日本各地で基準を超えるPM2.5(微小粒子状物質)が測定されている。これから黄砂のシーズンを迎え、汚染物質が大量に飛来することも十分に考えられる。 環境省は27日、ようやく「注意喚起」の濃度を決めたが、本格的な対策はこれからだ。健康被害をどう防ぐか国民の多くが空恐ろしく思っているのに、動きが鈍すぎる。 対策には観測網が不可欠だが、いまだに足りず、さらに自治体任せにしようとするのは無責任すぎる。 問題になっているPM2.5は、ずっと前から有害性が指摘されていた物質だ。観測網不足は国の対応が後手に回った結果なのだから、早急に予算を捻出して整備すべきだ。 大気汚染の原因物質として、国内では1973年に「浮遊粒子状物質(SPM)」の環境基準が決められ、ディーゼル自動車や廃棄物焼却炉の排ガス規制が行われてきた。 SPMはおおむね直径10マイクロメートル(1センチの千分の一)以下の粒子だが、その後の研究によって、さらに小さい直径2.5マイクロメートル(2.5ミリの千分の一)以下のPM2.5に着目して規制する動きが国際的に強まった。 より小さな粒子の方が呼吸で体内深くに取り込まれ、深刻な影響を与えかねないことが各国の疫学調査などで明らかになったためだった。 米国は97年に環境基準を設け、規制を始めている。世界保健機関(WHO)も2006年に基準を示した。 日本でPM2.5の基準が決まったのは09年。きっかけは東京大気汚染訴訟だった。都内のぜんそく患者らと国、自動車メーカーなどとの間で07年に和解が成立したが、その中で「PM2.5の健康影響評価と環境基準設定」が盛り込まれた。 環境省の検討会は08年、宮城など3府県で10万人の疫学調査を実施し、PM2.5の量が大気1立方メートル当たり25マイクログラム増えると、肺がん死亡のリスクが1.8倍になることを示している。 訴訟で指摘されるまで何もしてこなかったのは、行政の怠慢と言うしかない。世界から立ち遅れるのは当たり前だ。 環境省は臨時交付金を活用して自治体が観測網を増設するよう要請したが、国の責任で整備し、マスクの効果なども具体的に調べるべきだ。 中国の大気汚染は尋常ではない。粒子が小さければ小さいほど空中に漂う時間が長く、遠くに飛びやすいことも自明だ。黄砂の時期に限らず飛来することは避けられないだろう。 長期にわたって日本への影響が心配される危機的状況になっている。国境を越えた汚染物質に対応できるよう、環境行政を早く、より精密なレベルに引き上げなければならない。
2013年02月28日木曜日
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