神戸港の開港120年を記念して、 それまであった須磨水族館を全面的に改築した神戸市立須磨海浜水族園は、 今年7月16日をもって開園10周年を迎えることになりました。 約2.4haの敷地に、キラキラと白銀色に輝くチタン製の三角屋根で覆われた本館をはじめ、 魚ライブ劇場やラッコ館等を周りの海浜公園と調和を図り、 須磨の白砂青松に美しい点描を添えるように建設された当水族園は、 それまでの水族館のイメージを大きく変えるものとなりました。 また、当時としては国内はもとより世界でも初めての造波装置や、 ガラス面の掃除をする水中ロボットを備えた1200tの波の大水槽は、 シンセサイザーの演出する音響効果と相俟って大変な人気を呼び、 またより自然に近い生きざまを再現した水槽として高い評価をうけました。 開園当初は、入園を待つ人々や車の列で国道2号線が大渋滞したことが新聞に掲載されましたが、 渋滞は国道だけではなく園内も同様でした。 特に人気のラッコ館では、長時間待ったにもかかわらず、 ラッコを見れるのはほんの数分しかありませんでした。 このように新しくなった須磨水族園は、 神戸市内はもとより全国的にも注目される水族館となり、 その後の水族館ブームの先駆けとなったことは確かでした。 この10年を振りかえってみますと色々なことが思い出されます。 平成元年にはイルカライブ館が完成しました。 その後タッチプールや貝のギャラリー等もオープンし、 ハード面での整備を図ってきました。またソフト面でも、ラッコ、 ペンギン、アジアアロワナ等の繁殖やサタデースクール等の社会教育事業を充実させ、 さらにこれらの飼育技術や調査研究の成果や情報の発信にも力を入れてきました。 このようななか、そろそろ開園10周年を迎える数年前、 私たちは自然と触れ、自然の営みを知り、 自然のドラマを体感できる新しい施設構想を持ちはじめていました。 そのような時にあの阪神・淡路大震災におそわれました。 希望に燃えた構想と共に水族園は鳴りをひそめ、 魚たちも死んでしまいました。呆然自失。死んだ魚を見続ける毎日でした。 うつろな職員の目、感情は消えていました。職員一人一人はもちろん、 それぞれの肉親や家屋にも被害を受けていました。 それから3か月後水族園を再び開園することができ現在に至っています。 被害の大きさから、当初この日がこんなに早く来ることを誰が想像することができたでしょうか。 思い起せば、全国の幼稚園児からおじいちゃんやおばあちゃんまで、 また(社)日本動物園水族館協会をはじめ、全世界の水族館の仲間や、 あらゆる方々から物心両面の支援があり、 今でもこれらの声限りの声援が心に残っています。 いささか恥ずかしいことですが、このようなたくさんの人達の声援によって、 初めて開園に向かっての意欲が呼び起こされ、具体的な目標をもつことができました。 解決しなければならない問題が山積みでしたが、 しだいに職員の気力と一体感は高まっていきました。 震災で失ったものは莫大なものでしたが、 何よりも全国からの励ましにより職員全員の力で再開できたことは大きな財産になったと思っています。 ところで、1997年は水族館の歴史のうえでも忘れられない年です。 それは、日本初の水族館が神戸に誕生してからちょうど100年目に当たる年でもあるからです。 神戸市兵庫区に和田岬というところがありますが、 1897年(明治30年)に当時としては画期的な海水循環濾過装置を備えた、 「和楽園水族館」がそこに建設されました。 外観がインド風の斬新なデザインで、その模型が当園の本館3階の「おもしろ教室」に展示してありますが、 「水族館」という名称もこの時から初めて使われるようになりました。 一方その頃東京の上野動物園には、主に淡水魚を見せる「観魚室」という施設がありましたが、 循環濾過装置はなく水槽を置いただけの簡単な施設でした。 このため、神戸が水族館発祥の地といわれています。 現在日本には60余りの水族館がありますが、設置の目的は、 水生生物の飼育や展示を通じて自然科学について学び、 人間生活のあり方を見つめ直そうということが第一ですが、 普段私たちが真近に見ることができない生物の姿・形・色に驚き感動し、 楽しむという要素もあります。この10年間の私たち人間生活は、 種々の発明や発見や開発などによって、大変向上しました。 しかし、かつてないほど地球上の資源が大量に消費され、 世界の社会情勢を急速に変化させると共に、生物の依り拠である地球そのものを変え、地球を包んでいる宇宙空間まで変えようとしています。 地球環境の汚染、生態系の破壊、生物の絶滅など近年加速度的に進んでいます。 水族館はこのような時こそ身近な自然から地球の環境保全に関する普及啓蒙を行い、 また野生生物の保存事業などにも積極的に係わり、 自然のもつ機能の素晴らしさを理解してもらうために、 社会の人々に働きかけていかなければなりません。 水族館に課せられた役目はまさにこの点にあるといえるかもしれません。 開園10周年という区切り、日本最初の水族館が誕生してから100年という大きな節目の今、 水族館が果たさなければならない課題を考え、 これからの須磨海浜水族園が何をしていかなければならないのかを、 しっかりとした足どりで歩み続けてゆきたいと考えています。 これからも全国の皆様のご声援をお願い申し上げる次第です。 |
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