動きだすタカ派政策 自公主張には距離
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当確となった候補者の名前に花を付けていく自民党の安倍総裁(中央右)と石破幹事長(同左)=16日、東京・永田町の自民党本部で |
自民党は三年前の衆院選で民主党に敗れた雪辱を果たし、政権復帰した。連立政権を組む公明党と合わせ、衆院の三分の二を占める議席を得たことで、少数与党の参院で法案を否決されても、衆院の再可決で成立させられる。ただ、安倍晋三総裁のタカ派色の強い安全保障政策には公明党が反発し、政権運営に影を落とす。 (岩田仲弘)
安倍氏は十六日深夜、自民党本部の開票センターでテレビ番組のインタビューに応じ「自民党への信頼が百パーセント戻ってきたわけではない。おごることなく、謙虚に進みたい」と勝利宣言した。十七日から公明党と連立政権に向けた政策協議を始めることを明らかにした。
「謙虚」という言葉とは裏腹に、開票前の十六日午後には、すでに自民党の石破茂幹事長と公明党の井上義久幹事長が都内で会談し、連立政権を発足させる方針を確認。夜になって開票結果が伝えられると、早くも「麻生太郎副総理」「菅義偉官房長官」などの人事情報が飛び交った。
浮足立つほどの「完勝」は、自民党への積極的な期待というよりはむしろ、民主党が三年前の衆院選マニフェストで掲げた重要政策を実行できなかったことに対する不信感の「受け皿」になったという消極的な側面が強い。
それでも政権復帰によって、安倍氏が力説してきた改憲による「国防軍」の保持や憲法解釈で禁じられた集団的自衛権の行使容認のほか、原発維持に傾くエネルギー政策が動きだすことになる。
自民党は公約で原発について「(全原発の)再稼働は三年以内に結論を出す。十年以内に最適な電源構成を確立する」と判断を先送りする方針を示した。だが、安倍氏は選挙中、他党の「脱原発」「卒原発」政策を「無責任だ」と批判。「二〇三〇年代の原発稼働ゼロ」を目指すとした民主党政権の政策が後退するのは間違いない。
再稼働の可否も専門的な判断は原子力規制委員会に委ねる方針だが、経済界の意向を考慮し再稼働が加速する可能性がある。
一方、公明党も小選挙区の候補者全員が当選するなど議席を伸ばし、連立政権に復帰する。ただ、自民党内でも突出した安倍氏のタカ派色の強い安全保障政策には不快感を抱く。山口那津男代表は「自民党が主張する憲法九条改正に、われわれはくみしない」と繰り返し、十六日夜も記者団に「基本的な考え方は変わらない」と強調した。
安倍氏は首相就任後、直ちに緊急経済対策に着手するなど、当面は景気対策を優先させ、公明党とは波風を立てないように配慮する考えだ。改憲や集団的自衛権行使の容認をめぐる本格的な取り組みも来年夏の参院選後となる見通しだが、両党の安保政策の違いは残る。
また、政権の枠組みをどうするかという課題もある。自公両党で衆院の三分の二の議席を得たことで、参院で否決された法案も衆院の再可決で成立できるが、野党の反発を考えると、できれば再可決は避けたい。
安定した政権運営のため、自民党は公明党以外の党と政策課題ごとに協力する「部分連合」を模索する方針だ。石破氏は十六日、改憲に積極的な日本維新の会について「安全保障面で話ができるのではないか」と連携に前向きな考えを示したが、維新は参院で三議席しかなく、連立しても政権の安定にはつながらない。