天女が舞い降りたとの伝説が残り、三保の松原を象徴する「羽衣の松」。衰弱が激しかった先代から世代交代し、世界文化遺産の登録に備えている=21日午後、静岡市清水区で
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二月二十三日は富士山の日。世界文化遺産登録に向け機運を盛り上げるイベントが繰り広げられる“記念日”を、三保の松原(静岡市清水区)の関係者たちは複雑な思いで迎える。現地調査を担当し、登録の可否に大きな発言力をもつ国際記念物遺跡会議(イコモス)に、三保の松原は構成資産からの除外を検討するよう求められた。文化庁は今月中に要請を拒否すると回答するが、そうした姿勢が登録の判断にどう影響するのか。
「今になって外せと言われても…。そんなこと言わないでくださいよ、という感じ」。静岡市文化財課の杉山利慶さんは憤りを隠さない。
三保の松原は推薦理由の一つ「芸術の源泉」を説明する上で欠かせない存在。万葉集にうたわれ、歌川広重は富士三十六景に描いた。文化庁や静岡、山梨両県にとって譲れない資産だ。
文化庁によると、除外の検討を求める理由は、イコモスから伝えられていない。富士山から南西に約四十五キロ離れ、唯一飛び地のようになっていることが影響した可能性はある。同庁世界文化遺産室の小林万里子室長は「富士山との一体的な管理を説明していくしかない」と前を向く。
観光客増に期待する地元は切実。登録されても三保の松原だけが除外されれば大きな痛手となる。土産店を営む芹沢央哲(ひろたか)さん(48)は「除外されれば金看板を借りられなくなって見捨てられ、何年か先にはどうでもいい所になってしまう」と不安を募らせる。文化庁には「直球がだめなら変化球。見せ方を工夫してほしい」と訴える。
羽衣ホテルのおかみ、遠藤まゆみさん(54)も「海越しに富士山が見える三保の松原は常に一体のもの」と強調し「文化庁や川勝平太知事を信じる」と祈る。
「拒否による登録への影響はない。登録がひっくり返るほどの価値ではない」というのが川勝知事の見方。「平泉の文化遺産」(岩手県)の場合、勧告で「柳之御所遺跡」の除外が登録の条件とされ、勧告通りに除外して二〇一一年に登録された。だが、イコモスの審査はベールに包まれ、小林室長も「全く先は読めない」と話す。
イコモスは五月上旬、世界遺産委員会に評価結果を勧告する。勧告は、登録を認める「記載」から「情報照会」「記載延期」、認めない「不記載」のいずれか。勧告を受け、登録を判断する運命の委員会は六月に開かれる。
(加藤隆士)
<富士山の日> 2009年10月、川勝平太知事が、富士山の世界文化遺産登録に向けた県民運動を盛り上げるため、2月23日を「富士山の日」と定める条例案の制定を表明。同年12月、県議会が全会一致で可決した。日付は「富士山」の語呂合わせで川勝知事が発案した。条例は「世界に誇るべき国民の財産であり、豊かな恵みをもたらしている富士山について理解と関心を深め、富士山を後世に引き継ぐことを期する日として富士山の日を設ける」と規定。県は昨年から山梨県と連携を深め、4年目となる今年は合同で東京都内でイベントを開催する。
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