東日本大震災:孤立防止「今年が勝負」 陸前高田のNPO
毎日新聞 2013年02月26日 14時16分(最終更新 02月26日 14時22分)
岩手県陸前高田市のカキ養殖業、佐々木眞さん(37)は「今年が正念場だな」と感じている。市内最大の仮設住宅団地に孤立防止のNPO法人を設けて約1年たち、被災者間には心の「復興格差」も見えてきた。本業は東日本大震災後で初の収穫を迎えるが、荒れる海に気を抜けない。「でも負けねえ」。そう引き締める表情に粉雪が吹きつける。【根本太一】
消防団活動後逃げた高台で、避難所運営を手伝った。仮設住宅が建ち、自分の役目は終わったと思ったが、支援に来ていた新潟県長岡市の一般社団法人スタッフから「今後のサポートが重要」と言われ、そのままボランティアとして残った。そして、昨年2月にNPO法人を設立した。
NPO事務所の周りでは168世帯の約380人が暮らす。「集落単位でのミニ仮設への入居を希望しながら抽選に漏れた人たちが市内の各地区から寄せ集められたんです」
主な活動は、自治会の運営補助と孤立防止、心のケアに役立つようなイベントの開催だ。絵本の読み聞かせ、編み物、健康体操−−。「仮設に入って初めてこんなに笑った」との一声が励みになる。支援者が減り始めた昨秋からは、住民同士で集まる「お茶っこ会」の機会も増えてきた。
だが、年が明けてから微妙な空気の変化を感じている。「心の傷が少しだけ癒えると、次は『家』のことを考えるんです」。ところが同じ市内に、高台移転先の造成に着工した地区と、候補地も未定な地区とが混在する。
「住まいの再建、店舗を失った自営業者の生活再建。将来の見える人と見えない人……」。イベント参加も地区ごとに割れるようになってきた。「だから正念場なんですよ」
自宅は幸い、難を逃れた。だが父(64)と兄(39)、弟(34)の3世帯は、仮設暮らしだ。しかも佐々木さんら兄弟の船も施設もすべて流された。復旧費は1億円強という。30組あった地元「小友漁協」の組合員は今、10組に減った。
小友のカキは首都圏の高級料亭などに卸される。他の漁協と違い約25センチ大に育つのを待つので、種付け後3年間は収穫できない。廃業は、震災後の無収入に耐えられない漁業者の苦渋の決断だった。
佐々木さん兄弟も、蓄えと船の損害保険でつなぐ。「小友ブランドを守りたい」という思いが折れそうな心を支えている。若い3人兄弟ならば借金をしてでも再生できるだろうとの志と希望がある。