「中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス」

謎多き解放軍サイバー部隊

エリートハッカー集団か、民間の愛国的ハッカーか

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2013年2月27日(水)

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 線香パンダ、という中国人が作ったネットウイルスを覚えておられるだろうか。2007年にかなり流行したFujacksと呼ばれるワームの一種だ。パソコン画面に突如、線香をかかげたパンダのアイコンが現れるのだが、これがウイルスに感染した証し。かわいらしいその姿とは裏腹に脅威度は高く、感染するとパソコンは完全に破壊される。感染力も強く、中国で当時、数百万台のパソコンが被害にあった。

ネットの不良少年がサイバー戦士に

 これを制作したのは湖北省武漢出身の当時25歳の李俊と雷磊という若者だった。彼らは湖北警察当局の懸命の捜査によって逮捕され、それぞれ懲役4年と2年の刑を受けた。2010年に彼らが出所するといくつかの中国メディアが彼らをインタビューしている。

 それによると、彼らは大学も出ておらず、中学校からコンピューターで遊んでいるうちに、ウイルスを作ったり、ハッキングできるようになったとか。1999年の在ユーゴスラビア中国大使館誤爆事件の時に発生した米中黒客(中国語でハッカー、クラッカーの意味)大戦に参加したのが、最初のハクティビズム(ハッキングによる社会運動)だったとか。その時は、紅客連盟(愛国主義ハックティビズム集団)らの呼びかけで行われ、参加者は10代から20代の若者だったこととか。彼らは線香パンダでは14万元の売り上げを得たそうだが、一流のハッカーになると百万元以上の年収があるとか。パソコンセキュリティ会社が実は(独自のワクチンソフトを売るために)ウイルスを制作してばらまくらしいとか。普段は顔を出してメディアの前にでることのない、中国ハッカーが暴露する、ネット裏世界の話は大変興味深かった。

 インタビューで「大学に行った奴らがうらやましい」「自分が給料をもらうなら1万元くらい」といったコンプレックスと自信がないまぜになった中国地方都市出身のいまどきの若者らしさと、あまり悪意のない幼い表情が印象に残った。

 私自身も北京駐在時代にはいろいろなコンピューターウイルスを送りつけられたりして、何度となくパソコンを壊された。たとえばパソコンを立ち上げると、いきなり中国国歌が大音量で鳴り、「南京大虐殺を反省せよ」といったな赤い文字と、残虐なプロパガンダ写真が延々と流れ3分ぐらいたってからやっと通常の画面になるといった手の込んだいたずらをされたりもした。どういう仕組みになっているのか、私ごときではさっぱり分からない。その3分が終わるとパソコンは普通に使用できるのだが、毎回パソコンを立ち上げるたびに3分間義勇行進曲とプロパガンダ写真が流れるのに耐えられず、全部中身を入れ替えるしかなかった。


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福島 香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト

福島 香織 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002〜08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)、『中国「反日デモ」の深層』(同)など。

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