「彼らは、社会が怖いと言っている。その怖さをわかってあげて、乗り越えられるよう、サポートしていかないといけない。寄り添うのは、依存する関係を作るのでよくない。自分がなぜそんなに弱くなったのか。弱くないのに、弱いと思い込んでいる心的なメカニズムを目に見えるようにしてあげることが大事なのです」
自分は生きていいんだ。大して仕事ができなくても、きちんと前向いて歩いていれば、十分生きる価値があることをどこかで教えてあげなければいけない。こうして教えてあげたり、わかってあげられたりする人間が、現代社会にはいなくなってしまったと、市橋院長は指摘する。
ネットで文句は言えても
上司には立てつけない若者たち
「8年余り、大学教授をしてきて驚いたのは、今の学生が人生論を闘わせてこなかったことですね。皆、浅い関係の中で、上手な付き合いをしていくことを覚える。他人の中に深入りしない。ムキになって論争もしない。いつも傷つかないよう回避しているのです」
それまで、鍛えられる部分がものすごく少ない。意見対立があって、乗り越えられない意見が、相手にも自分にもあると認識する中で、仲よくしていくものだ。
お互い対立するけど、そこで何とか関係を保つには、どういう点で妥協するかはアイデンティティの問題。そのアイデンティティが育っていないので、侵入されると傷ついてしまう。だから、摩擦を起こさないよう、いつも回避しているのかもしれない。
職場でも、ネット上などに匿名で文句は語れても、上司に正当な立てつき方をする人が減ってきている。会議で自分の意見をきちんと言うとか、上司に自分の考えをわかりやすく伝えるとか、仲間内で意見対立することを敢えてやるとか…。このように立てつくことは、学生運動の終焉の頃から、自分にとって損なことだと思いはじめたのではないかという。
「企業を担う人たちは、今の結果を重視するやり方を貫いていけば、人間と同じように、企業も衰弱していくだろうと思いますね。なぜできなかったのかを徹底討論させるといったように、企業がプロセスに最も大きな評価の比重を与えれば、若者は変わってきます。逆に、結果が良くても、プロセスが悪い場合、評価しないほうが健全です。なぜなら、たまたまヒットを打てても、次にヒットを打てるとは限らないからです」
こうしたプロセスを重視しない思想は、次の世代にも受け継がれていく。
若い世代に共通する特性は、結果しか求めない傾向があること。だから、結果が出ないと、動かなくなってしまう。
彼らに大きな影響力を及ぼすであろう、企業側の対応も今、問われている。