アベノミクスで中国冷や汗 高まる変動相場制への圧力

2013.02.27


モスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議(ロイター)【拡大】

 アベノミクスは久しぶりの本格的な経済政策であり、その金融政策の方向は世界標準であり正しいが、各国にも波紋を呼んでいる。台頭著しい中国経済もその例外ではない。

 中国経済のGDP(国内総生産)は日本を抜いて世界第2位であるが、その経済体制はまだ先進国になっていない。その代表例が為替である。

 どのような国も免れない国際金融の命題として、「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」がある。「為替の安定(固定相場制)」「独立した金融政策」「自由な資本移動」の3つを同時に行うことはできず、2つしか実現できないというものだ。

 先進国は2つのタイプに集約されている。一つは日本や米国のような変動相場制である。自由な資本移動は必須なので、固定相場制を取るか独立した金融政策を取るかの選択になるが、国内により影響のあるインフレ率をコントロールするために独立した金融政策を選択し、固定相場制を放棄して変動相場制になるというパターンだ。

 もう一つはユーロ圏のように、域内は固定相場制で、域外に対しては変動相場制というものだ。やはり自由な資本移動は必要だ。その上で、域内では固定相場制のメリットを生かし独立した金融政策を放棄している。もっとも域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえる。

 今のところ中国は、自由な資本移動を採用せずに、固定相場制と独立した金融政策を採用することを基本としている。しかし、ユーロ圏のようなシステムをアジアで作ることができるとは思えないので、変動相場制に移行せざるを得ない。ところが、中国国内の事情で輸出権益を持っている人が今の中国政治の中枢にいるので、輸出主導に便利な変動相場制へは容易に移行できない。

 16日のG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)で中国は冷や汗だった。アベノミクスを意識して為替が話し合われた結果、「より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行し、為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離(かいり)を避ける」と共同声明で書かれている。

 日本や米国のような変動相場制の国には何の問題もないが、中国にとっては死活問題になる。そこで「より市場で決定される為替レートシステム」の文言の中で『より』という奇妙な表現が盛り込まれた。これは中国への配慮だ。「競争力のために為替レートを目的とはしない」という表現もあるが、これは、事実上固定相場制で競争力を高めている中国にとって厳しいものだ。

 アベノミクスで円安になっても、対中貿易構造は変わらないという強弁もあるが、価格メカニズムは長期的には強力なので、長い目で見れば必ず変化がある。貿易構造のみならず、対中直接投資にも変化があるだろう。それ以上に、G20共同声明に見られるように、変動相場制移行へ国際社会からの圧力が高まることが、中国にとっては痛いところだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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