―患者さんとの記憶の残るエピソードは?
1万人近い患者さんを診てきましたから、その中から数例を選び出すのはとても難しいです。ただしこういう質問をされると、やはりうまくいった患者さんよりも、うまく治療が進まなかった患者さんを思い出します。数としてはごく僅かですが、自殺という手段を選んだ方もいました。皆さんもご存知でしょうが、日本は非常に自殺者が多い国です。自殺者数の多さと、私が診療してきた患者さんの数を比較して考えたら、最悪の手段を選んだ方の数は非常に少ないと言えます。なので私の治療によって、自殺者を大幅に防げたという自負は持っているんですよ。例えば会社が倒産したときに、また出発すればいいと思える方は生きていけます。しかしもう駄目だ、周りにも申し訳が立たないと思う方がいたら、それは明らかにうつ状態です。ですからそんなうつ状態の方がここに来て、「絶望しなくていいんだ」「しあわせとは掴めるものなんだ」とわかっていただけると、助かるのです。だから気軽に相談に来ていただきたいですね。
―ところで先生のリフレッシュ方法は?
昔からオーディオマニアで、大好きな音楽を聴いてますよ。クラシックが中心ですが、ときにはジャズ、そしてごくたまにサザンオールスターズを聴くこともあります。ときどき「毎日、多くの患者さんと接して、先生自身は疲れないのですか?」と聞かれますが、先ほどお話したように私はプロとして仕事しています。災難救助に例えると、プロのレスキューは自分の身の安全も確保した上で、おぼれている方を助け救助艇に乗せます。一緒におぼれるわけには行きません。患者さんが求めているのは一緒におぼれる家族ではなくて、助けてくれる専門家なんですからね。どうしたらプロとして役に立てるのか。そのためには工夫をしなければなりません。その中で何かを発見し、それが面白みに繋がります。
―今後の先生の夢は?
夢は何かと聞かれても、そう単純な話じゃないなあ(笑)。多くの方は手にはいらないものを夢と呼ぶでしょう。夢は達成できないことだってあります。なので患者さんにもよく言うのですが、必ず道は2本用意しましょうと話します。そして苦しいときには、足元だけを見なさいともよく言います。後ろを見ないで足元を見る。すると見晴らしのよい場所に出られるでしょう。人生は計画通りに送れません。私の人生もそう。いろんな偶然の積み重ねで教授になり、そしてクリニックも開院しました。私は患者さんが苦しいときにあう立場の人間です。苦しいけれど、一緒に今歩いている瞬間を大事にしていきましょう。心にトラブルを感じつらい時間を過ごしているのなら、ぜひ相談していただきたいです。