―30代40代の人に目立つ症状は?
社会不安性障害、摂食障害、パニック障害の患者さんは多いですね。もちろんうつ病の患者さんも多いです。一言でうつといっても、じつにさまざまなタイプがあり、一筋縄で行かないのがうつの厄介なところなんです。そもそもうつとは昔からある不変的な症状でもあります。職をなくして落ち込んだり、恋人に振られて落ち込んだりという感情は、正常な感情なんです。一方、当院のホームページでは、代表的な精神障害をご紹介しているのですが、それをご覧になると「これは私のことかもしれない」「僕もこのような症状がある」と思う方も多いでしょう。ここに来られる患者さんも、皆さん、よく勉強してこられるというか、精神障害をインターネットなどで調べて来られる方がいます。摂食障害、そしてDVも精神障害のひとつですが、治療していない人がたくさんいます。おそらく軽い症状も含めると、日本人の約20%、つまり5人に1人は何らかのトラブルを抱えていると言えます。
―こちらはデイケアも導入されてますね。
デイケアはとても効果のある治療のひとつですが、十分なスペースとスタッフの両方が必要になるので、提供しているクリニックはあまり多くはありません。とりわけここのように都心でデイケアを取り入れているクリニックは少ないかもしれませんね。デイケアは精神科医療機関に通院中の方で、社会参加を望みながらも困難を感じている人を対象としています。そして適切なプログラムと専門スタッフが社会復帰をサポートします。他院に通院中の方でも、デイケアだけ参加することも可能です。生活のリズムを取り戻したい、人とのつきあい方を上手にしたいと願う方には、効果が期待できます。ここは代々木公園も近くて、デイケアの一環として出かけることもあるんですよ。デイケアの中で人間的に成長していくこともあって、パワーのある社会療法です。
―「生活のリズムを取り戻す」、とても切実な願いですね。
まさに我々が行おうとしているのは、「生活の質(QOL)を上げること」です。パニック障害で電車に乗れない患者さんは多いのですが、しかしパニック障害はどんなに重症でも死ぬ病気ではないと、患者さんには伝えています。ですから心配はありませんよと。以前、どこのクリニックに行っても症状が改善しない患者さんが来られました。今までその患者さんが飲んでいた薬を聞いたところ、その処方にはまったく問題ありませんでした。そして私も同じように、その方に同じ薬をお出ししました。するとその患者さんは見事に治ったんです。その患者さんが言うには「きっと専門医に診てもらったからです」と。旅行にいけなかった方が飛行機に乗れるようになること。会社に行けなかった方が電車に乗れるようになること。それが生活の質を上げることなんですね。そしてこの患者さんのエピソードからわかることは、「薬だけじゃだめなんだ」という大事な真実です。