社説

日銀総裁人事/市場の期待に沿っているが

 日銀の次期総裁にアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏(68)、副総裁に学習院大の岩田規久男教授(70)と日銀理事の中曽宏氏(59)の起用が固まったと報道された直後、金融市場は明確に「大歓迎」の意を示した。
 東京株式市場の日経平均株価は終値で1万1662円52銭と2008年リーマン・ショック後の高値を更新。為替も大幅な円安に振れた。
 安倍晋三首相のいわゆるアベノミクスが本格的に始動すること、日銀と政府が一体となって大幅な金融緩和を遂行することに対する市場の期待の表れだ。
 元財務官の黒田氏は「通貨マフィア」として各国当局と渡り合った。岩田氏は通貨供給を増やし成長を促す「リフレ派」の中心であり、中曽氏はリーマン・ショックの際、各国と連携して資金供給策を取りまとめた。
 首相が白川方明総裁の後任に求める資質としていた「同じ考えを持つ人」という条件に合致することは間違いない。
 だが、アベノミクスに伴う懸念を完全に拭い去ることは難しい。日銀の独立性は担保されるのか。次期幹部の考え方が、金融のバランスに軸足を置いた従来の政策手法と懸け離れていないか。評価は分かれよう。
 安倍政権の金融緩和政策を好感し、国内株は12週続伸という上昇カーブを描いてみせた。今回の人事は、市場の希望に合致するものではあるだろう。
 しかし、インフレ目標をデフレ脱却の政策指標に転用し、発行済み国債の無期限買い入れを行うなどの超緩和策は、1千兆円に及ぶ借金を抱え、財政再建を課題とする日本が採用するには異例に過ぎるし、リスクも大き過ぎる。
 中央銀行は「最後の貸し手」である。財政のセーフティーネットを異例かつ極端な政策にさらすことは、危険な賭けと言わざるを得ない。
 政治は一般に財政緩和を望む傾向がある。「だから中央銀行の独立が必要だ」というのが、従来の日銀の立場だ。
 アベノミクスは、日銀の独立を後退させるところから始まった。変則的な財政金融政策が延々と続くことのないよう、何をもってデフレ脱却の成功とするのか、終了のタイミングを事前に定めておくべきだ。
 人事が東京で「大歓迎」された同じ日の欧州市場では、イタリア総選挙で緊縮路線への支持が伸び悩み、通貨危機の不安が再燃。翌日には円買いが加速し、歓迎相場は帳消しとなった。
 イタリアやギリシャのような失敗に陥った時、責任と対応はより深刻なものとなる。
 国民生活に生じる混乱を担保する「セーフティーネットのセーフティーネット」は用意できるか。一国が信認を失う不安と屈辱に、日本国民の将来をさらすことは許されない。
 イタリアやギリシャ国民は時に「公的支出への依存度が高い」との批判を浴びる。だが、国民のモラルだけの問題ではあるまい。事態は政治の迎合の産物でもある。

2013年02月27日水曜日

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