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政治
【正論】日本財団会長・笹川陽平 ミャンマーで外交の立て直しを
民主化が進むミャンマーに対し、政府は「官民連携タスクフォース」を立ち上げて、本格的な支援態勢を整えた。外交の弱さが指摘される日本政府としては異例の積極策で、テイン・セイン大統領も最大都市ヤンゴン近郊の経済特区「ティラワ」の開発を、両国の共同企業体で進める意向を示すなど歓迎の姿勢を示している。
時あたかも李明博・韓国大統領による島根県・竹島への強行上陸や、天皇陛下への謝罪要求発言、さらに香港の活動家らによる沖縄・尖閣諸島への不正上陸で、「外交力」の強化を求める声がこれまでになく高まっている。ミャンマー外交が日本外交立て直しの出発点となるよう強く期待する。
≪民主化のカギは民族統一≫
タスクフォースは外務、財務、国土交通など関係省庁のほか国際協力機構(JICA)や日本貿易振興機構(JETRO)、非政府組織(NGO)などで構成され、日本財団も一翼を担う。これとは別に、ティラワ開発でも同様のタスクフォースが立ち上げられ、2つのタスクフォースを両輪に官民一体の支援が展開される。
ミャンマーは中国、インド、タイなどに隣接し人口6200万。その7割を占めるビルマ族のほかに130余の少数民族が辺境の山岳地帯に住み、今も一部地域で政府軍との抗戦が続く。少数民族との和解なくして統一・民主化はあり得ず、セイン大統領、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏とも少数民族対策を最重要課題の一つに挙げる。和解実現には、「平和の果実」を実感してもらうのが最も近道だ。山岳の少数民族地域を中心に軍政時代からハンセン病制圧や学校建設などに取り組んできた日本財団も協力することになり、筆者も、日本の外務省から「ミャンマー少数民族福祉向上大使」の委嘱を受けた。
セイン大統領から強い要請があった東部タイ国境沿いのカイン州(旧カレン州)を中心にプロジェクトを進め、日本政府が行うインフラの整備など本格事業の先遣隊の役割を果たしたいと思う。
≪ASEANの中核的存在に≫
国際通貨基金(IMF)によると、ミャンマーの国内総生産(GDP)は現在、世界で74位。豊富な鉱物、食料、人的資源に、インド洋への出口に位置する地政学的な重要性も加わり、アジア開発銀行(ADB)は今後10年間、最大8%の経済成長を続け、2030年にはGDPが3倍になると予測している。遠からず、躍進する東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核的存在になると確信する。
日本との関係も良好。戦時賠償をいち早くまとめ、旧日本軍が進攻した多くの国のように、反日教育を取り入れることもなく、戦後の食糧難の時代には日本に優先的にコメを輸出した。今年7月には、セイン大統領が各国の働き掛けを押し切る形でティラワ開発のパートナーに日本を選んだ。
ティラワ経済特区は全体で2400ヘクタール、東京都千代田、中央両区の合計面積を上回る。ダウェイの港湾建設が難航する中、世界が注目する重要事業で電力や水道、橋などインフラは日本が政府開発援助(ODA)で整備する。先行した中国などに経済開発が偏るのを避ける狙いもあるが、長年、日本の進出を求めてきた大統領の強い熱意が決め手となった。
一連の交渉では、ネックとなっていた5000億円に上る対日債務の処理について日本政府も迅速に対応、3000億円を段階的に免除するほか、25年ぶりの円借款再開も決めた。背景には、セイン大統領と長年の交遊を持つ日本ミャンマー協会・渡辺秀央会長や「民」が培ってきた人脈へのミャンマー政府の信頼があった。
ミャンマーに対する経済制裁以降、日本企業の進出は途絶え、対ミャンマー投資も全体の13位に落ち込んでいる。官民を挙げた一連のミャンマー支援は、中国やタイ、インドなどに1周どころか2周遅れとなっていた日本企業にとっても、またとない巻き返しのチャンスとなる。
現在、日本のGDPは世界3位。今世紀半ばには8位まで落ち込むとの予測もある。その日本が世界の中で存在感を維持していくには、15年にもASEAN共同体の構築を目指すこの地域と、どこまで政治・経済面で未来志向の関係を構築できるかに掛かる。
≪強靱さとしたたかさが必要≫
北方四島、竹島、尖閣諸島をめぐる一連の動きは、もの言わぬ「配慮外交」の限界を示している。イタリア・ルネサンス期の政治理論家マキャベリは、「謙譲の美徳をもってすれば、相手の尊大さに勝てると信ずる者は誤りを犯すハメに陥る」と喝破した。新たな発想に立ち、「嫌日」「反日」より「親日」色が強い友好国との関係こそ、何にも増して優先的に強化されなければならない。
日韓関係の未来を閉ざす李大統領の言動に、どんな計算があったのか知らないが、外交の世界に不測の事態は付きものだ。時代に合った強靱(きょうじん)さ、したたかさこそ求められる。ミャンマー外交は、その試金石となる。(ささかわ ようへい)
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