安倍政権が日銀の正副総裁3人の後任人事案を決め、近く国会に提示する。「金融政策の転換を実現できる人」と首相がこだわった総裁候補には、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東[記事全文]
イタリア政治が袋小路に入り込んでしまったかのようだ。下手をすれば、欧州発の金融危機が再燃しかねない。5年ぶりの総選挙で、民主党中心の政党連合が下院で勝利した。モンティ首[記事全文]
安倍政権が日銀の正副総裁3人の後任人事案を決め、近く国会に提示する。
「金融政策の転換を実現できる人」と首相がこだわった総裁候補には、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏が選ばれた。インフレ目標の設定が持論で、従来の日銀の政策を批判してきた。
副総裁には、強硬な緩和論者で首相ブレーンでもある学習院大教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏をあてる。
中央銀行の首脳はあくまで実務家だ。専門的な知見のほか、危機対応や組織運営の能力、市場や国際金融界との対話力も問われる。
与野党は国会で3人の考え方を問いただし、資質を見極めて可否を判断してほしい。
黒田氏に白羽の矢が立った背景として、国際金融での豊富な人脈が評価されたのは間違いない。諸外国がアベノミクスに伴う円安に警戒感を抱いているなかでは、なおさらだ。
ただ、いくら歴戦の「通貨マフィア」でも、日銀の独立性が疑われるような金融緩和を続ければ、海外からの批判をかわすことはできない。
そこで、黒田氏には以下のことを約束してもらいたい。まず国債の直接引き受けには断固として応じないこと。さらに、引き受けほど露骨ではなくても、日銀が政府の借金の尻ぬぐいに手を染めていると疑われる政策を避けることである。2人の副総裁候補も同様だ。
岩田氏は「2%のインフレは2年で達成できる」という。だが、金融政策だけで短期間にインフレを進めようとすると、副作用は大きい。国民も2%のインフレで経済が好転すると言われてもピンとこないだろう。
過去には、食料品や燃料などの生活必需品が高騰する一方、不要不急の製品は下落が続き、平均値であるインフレ率は横ばいのまま、生活弱者が圧迫される経験をした。
今回はどう違うのか。賃金の上昇との好循環にどのように結びつくのか。具体的な姿を説明してほしい。
岩田氏は学者として長く自説を貫いてきたが、実務家になる以上、むしろ自説がはらむリスクを幅広く捉え、予想外の事態にも対応できることを示す必要がある。
中曽氏は危機対応の経験が豊富で、国際金融界からの信頼も厚い。日銀の組織と業務を知り尽くす人材を首脳陣の一角に置くことは妥当である。過去の日銀の政策を批判する人たちも、現実的に判断すべきだ。
イタリア政治が袋小路に入り込んでしまったかのようだ。下手をすれば、欧州発の金融危機が再燃しかねない。
5年ぶりの総選挙で、民主党中心の政党連合が下院で勝利した。モンティ首相が進める財政緊縮と改革を引き継ぐという。
しかし改革に反対する反緊縮派の諸政党が、上院で大きく議席を伸ばした。それにより、上院ではどの勢力も過半数を得ることができなかった。
この国の問題は借金まみれの財政だ。市場は政治が再び混迷するとの見方から、動揺している。ここで財政再建が滞れば、不安は世界に広がりかねない。各政党は、最大限の努力で打開しなくてはならない。
一昨年、ベルルスコーニ前首相と交代したモンティ氏は、政治家を含まない実務型内閣で立て直しを進め、国際金融市場から評価を受けた。だが国民に改革の意義を十分に示すことができず、批判にさらされた。
今回、下院で勝利した民主党のベルサーニ書記長は新政権への意欲を見せている。しかし、この国では首相選びに上下両院の承認が必要だ。
その上院では、反緊縮を訴えたベルルスコーニ氏の「自由の国民」と第1党を争っている。
新首相を選ぶ見通しは立っていない。政党は根気よく話しあい、政権作りへの必要な妥協をまとめなければならない。
第三の勢力として出現したのは、元コメディアンのグリッロ氏が率いる市民政党「五つ星運動」だ。国内を広く遊説して、左右の既成政党の特権と堕落ぶりを痛烈に批判した。
ベルルスコーニ氏が減税による金のばらまきで国民の歓心を買おうとするのとは違い、五つ星運動は、インターネットを利用した政治参加やユーロの是非をめぐる国民投票を訴え、市民の共感を集めた。
既成政党への市民の不信と怒りが、この新しい政党を後押ししたのだろう。しかし、新党が勢力を伸ばせば、政治が安定を取り戻すわけではない。
市場の要求と選挙で示される民意が食い違いを見せることは少なくない。ギリシャやフランス、スペインでも緊縮を求める政党が批判にさらされた。
国民に負担増を求めなければならない時代には、民主主義のあり方も常に刷新されなければならない。
そのために政治家に求められるのは、政界の腐敗を正すことはむろん、失業や年金削減への国民の怒りの声から逃げず、財政の緊縮がなぜ必要なのかを誠実に説明することだ。