日銀総裁に黒田氏起用へ、副総裁には岩田規氏と中曽氏-安倍首相 (1)
2月25日(ブルームバーグ):安倍晋三首相が日本銀行次期総裁に元財務官の黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁を充てる意向を固めたことが、関係者2人への取材で分かった。副総裁には岩田規久男学習院大教授、中曽宏日銀理事を起用する案が有力となっている。
与党幹部と政府関係者が匿名を条件に明らかにした。また麻生太郎財務相は同日、訪問先のソウルで記者団に対し、安倍首相が黒田氏起用の意向を固めたことについて「正しい選択」と述べた。
公明党の山口那津男代表は同日、与党党首会談後に記者団に対し、正副総裁候補の説明があり党に持ち帰って検討すると述べた。菅義偉官房長官は午前の会見で、人事を週内に国会に提示する意向を示した。人事は与党が過半数割れしている参院では野党の協力が必要。時事通信は同日、民主党幹部が黒田氏に同意する可能性を示唆したと報じた。
黒田氏(68)は1944年生まれ。67年東大卒で大蔵省(現財務省)入省、99年財務官、05年ADB総裁。総裁任期はほぼ4年が残っている。日銀総裁に黒田氏との報道を受けて円相場は急落、一時2010年5月以来の安値となる94円77銭まで下げた。
ブルームバーグ・ニュースのインタビューで黒田氏は11日、日本銀行の物価見通しが目標の2%に達していないことから「日銀が年内に追加緩和を行うことは正当化できるだろう」と述べていた。足元で急速な円安が進んでいたことについては「今のところ、行き過ぎた円高からの自然な調整だ」との見解を示した。
金融政策だけでは物価目標の達成は困難という声が日銀内から上がっていることに対しては、可能だという見解を示した上で、「日銀が買うことができる金融資産はいくらでもある」と言明していた。
国際金融のインナーサークル甘利明経済再生担当相は25日朝、経団連との懇談後に日銀総裁人事について「仮に黒田さんであるとすれば、総理自身がもろもろの課題をいろいろと勘案した上でお選びになったんだと思う」と述べ、「黒田氏は国際的な金融インナーサークルの人だ」と評した。米倉弘昌経団連会長は「黒田さんであればいいんじゃないかと思う」と語った。
安倍首相は米東部時間22日夜(日本時間23日午前)、オバマ米大統領との会談後の記者会見で日銀人事について「月曜日ぐらいから日銀総裁と副総裁人事について進めていきたい。その週の間にだいたい、それぞれの各党にお願いしたい」と説明した。
また候補者本人にも「了解を取っていきたい」と語った。各党との調整は「まず自民党、公明党で与党内で了解を取った上において各野党に働き掛けを行っていきたい」と語った
「翁・岩田論争」副総裁候補と報じられた岩田規久男氏(70)は42年生まれ、66年東大卒、98年学習院大教授。90年代前半に翁邦雄元日銀金融研究所長との間で、マネタリーベースなど量的指標の操作可能性について論争を繰り広げた。
「翁・岩田論争」として知られたこの論争では、量的指標は操作可能だという岩田氏と、操作できないという翁氏に対し、植田和男元日銀審議委員が短期では難しいが、長期では可能という「裁定」を下すことで一応の決着をみた。
注目すべき岩田「副総裁」ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは25日付のリポートで、黒田氏について「かねてより日銀によるインフレ目標の導入を唱えており、アベノミクスと整合的な積極緩和派との位置付けだ」と指摘。また今後の日銀の金融政策考える上で「総裁同様に重要なのは岩田氏の副総裁への起用だろう」と付け加えた。
馬場氏は「岩田氏は長年、日銀による通貨供給の欠如がデフレの主因と主張し日銀批判を続けてきた日本を代表するリフレ派経済学者であり、これまでの安倍首相による金融政策関連の発言に最も強い影響を与えてきたと考えられる」と指摘。
さらに「組織運営経験がないこと、さらに日銀内からの抵抗が強いことなどを背景に総裁候補にならなかった可能性はあるが、副総裁として、今後日銀が大胆な金融緩和を実行する上での理論的支柱として機能していくものと思われる」としている。
中曽氏は金融システムに精通もう1人の副総裁候補の中曽氏(59)は53年生まれ。78年に東大経済学部を卒業して日銀に入行した。97、98年の金融危機当時に信用機構課長を務めるなど、金融システム問題に精通しているほか、英語も堪能で、日銀有数の国際派でもある。08年11月に日銀金融市場局長から理事に就任。
98年に新日銀法が施行されてから12年11月に初めて理事に再任された。国際決済銀行(BIS)のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作問題を検証する部会の議長にも就任し、報告書の取りまとめに奔走した。
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更新日時: 2013/02/25 19:37 JST