EVE
-burst error-
C's ware
総評
小説のような緊張感を併せ持つ、ゲーム性の高いサウンドノベル。
2人の主人公、天城小次郎と、法条まりなの視点から見ていく『マルチサイトシステム』は、現在のEVEシリーズでも用いられているように、実に秀逸なシステムです。例えば、小次郎編を進めているだけでは行き詰まる箇所が存在するので、そんな時にまりな編を進めて、キーポイントまで辿り着くことで小次郎編が進められる、というシステムです。
また、コマンド総当り式で物語は進行していくので、最初は面倒に感じますが、1つ1つのコマンドごとで笑える部分もありますし、事件の捜査時や、物語のヤマ場などではそのコマンド1つずつが非常に緊張感のあるものとなります。
そして登場人物が何といっても素晴らしい!主人公2人は言うまでもなく、錯綜する物語の中で次々と登場するキャラクター全てに確実な存在感があり、どのキャラクターも印象はばっちり残るはずです。
物語についても、先の展開は全く読めず、途中でだれる展開もないでしょう。そして何といってもラスト。これはかなりの衝撃を受けるに違いないでしょう。
キャラクタ
天城小次郎
元桂木探偵事務所のすご腕探偵であり、現在ライセンス停止中。
部屋の片づけが苦手で、事件への取り組みは基本的に勘を重視するという、ひらめき型の探偵であり、普段は飄々としているが、事件に関わる時の集中力は桁違い……と、いう感じの主人公です。コマンドで選ぶと(意味も無く)壁を殴ったり、(意味も無く)空気椅子をやったりと思考自体も非常に面白い、良いキャラをしているのですが、何より主人公として格好良いんです、こいつ。さりげない会話から相手の洞察を読みきり、現場からは一部の痕跡も見逃さないような、正に名探偵といった働きぶりもですが、敵との戦闘や銃撃戦など、決めるべくシーンはばっちり決めてくれます。
法条まりな
内閣情報調査室の一級捜査官であり、任務達成率99%を誇るエージェント。
人並みはずれた頭脳と、卓越した格闘術、銃の扱いから、解決できない事件は無い、という感じの主人公です。彼女も小次郎と同様に普段は明るく、面白い言動をしてくれますが、やはりシリアスなシーンではしっかり決めてくれます。また、常に恋をしていたいという想いからか、惚れっぽくかなりオープンな性格をしています。惚れっぽいと言っても男を見る目は厳しいようですが。さばけた性格と、明るい雰囲気もあって、誰からも好かれそうなキャラですね。
桂木弥生
桂木探偵事務所、現所長であり、小次郎の元恋人。
誰にでもクールな態度を取り、小次郎には過去の因縁から一層冷たく、一歩引いている。常に煙草をくわえているヘビースモーカー。まりなの友人でもあり、小次郎編、まりな編それぞれに関わってくる人物である。正に男勝りのクールビューティーというキャラクタですが、実は今でも小次郎を意識しており、内心では寂しくてしょうがない、といった所。
プリン
小次郎が事務所の近くで保護した少女。敬虔なイスラム教徒で、小次郎の事務所に住み着くようになってからは炊事、洗濯、掃除といった家事全般をそつなくこなしている。どことなく愛嬌のある幼い顔立ちをしており、小次郎を様付けで呼んだりもする。
御堂真弥子
エルディア共和国大使、ロス・御堂の娘であり、まりなの護衛任務対象。父が海外大使であり、政治上の理由からまりなが護衛に付けられるが、本人は快く思っていない様子。海外と日本を行き来しており、引っ込み思案な性格からか、友人はいない。そんな彼女にとっては、明るく接してくれるまりなは大事な友人となる。
氷室恭子
真弥子と同じ外国人学校に通う学生だが、実は教育監査機構から派遣された捜査員。まりなとは別件を捜査しているが、途中で外され、独自で捜査を開始。途中から小次郎と手を組み、事件の解決に乗り出す。人を寄せ付けないような態度も可愛さの1つ。
鈴木源三郎
保険会社の調査員であり、まりなとは何故か良く出くわす。落ち着いた態度と人を分析する能力に長け、まりなとの会話でも好意を示すような態度を匂わすが本心は明かさず。中々にできるおっさんですね。
他の登場人物
このEVEにはかなり多くのキャラクタが登場しており、誰もが事件に関わってきます。桂木探偵事務所の二階堂進や、真弥子の父、ロス・御堂、絵画捜索を小次郎に依頼してきたストールマン・孔、情報屋のグレン…と、癖のあるキャラばかりですし、彼らのとの会話は主人公の性格からか中々ユニークです。
蛇足ですが、このゲーム、一部拙いアニメーションがあるのですが、結構可愛いです♪
コンシューマ版やでは他にもアニメーションが追加されており、音声もついているのでだいぶ印象も変わるかもしれません。
ネタバレ↓
EVEのストーリーを語る上ではネタバレは避けられませんし、このゲームを知っている人ならWikipediaでほぼ全てのあらましを把握できているはずです。
ストーリー
小次郎編 序章
小次郎編での始まりは、孔から依頼されたイスラム文様の絵画の捜索。しかし、その捜査を解決していく中で、小次郎は様々な人物と出会い、単なる絵画の捜索だけでは無いと予感する…そんな時に起きる殺人事件。しかも殺されたのは依頼人であったはずのストールマン・孔。しかし、殺されていた人物と、依頼人の孔は全くの別人であった、ならばあの依頼人であるニセ孔は誰だったのか―――
この辺りから物語は事件へと派生していき、小次郎の家に住み着いたプリンや、教育捜査機構の氷室恭子、といった人物が登場してきて、さらに複雑な物へとなっていきます。小次郎にとって探すべきは、ニセ孔と、絵画の存在。そして、ライバル探偵社の二階堂から聞いた『御堂』の名前。他にも小次郎にとっては気になる事ばかりが増えていきます。そして、彼はその背後にある『何か』を突き止めたいという思いから、あらゆる観点から事件を追うことになります。
この事件への導入は、実に自然な流れに感じられます。エルディア共和国の王権派、内閣派という国権の奪い合いという大きな舞台に、小次郎が関係していくことになるのですが、彼にとってのきっかけはあくまで、絵画捜索でした。途中で殺人事件が起きたことも勿論ですが、小次郎にとっては、最初は手がかりは全くといっていいほどありません。プレイヤにも小次郎編のみでは、小次郎と同じ情報しか与えられない為、ニセ孔の意図や、プリンの行動、二階堂の行動、それらすべてが謎に包まれています。
また、小次郎にとっては途中でプリンが失踪することも大きな理由になります。彼にとってはあやしい外国人少女でしかなかったプリンですが、彼女の存在は小次郎曰く、『ラブではなくライク』というように大事なものとなっていました。
まりな編 序章
まりな編での始まりは、外国人大使、御堂真弥子の護衛。しかし、護衛が始まってから増えた誘拐未遂、ひき逃げ未遂などの不可解な点や、ストールマン・孔の殺人事件をきっかけに、彼女は護衛任務の背後になる『何か』をやはり追うことになります。
その中で、友人である桂木弥生と再会したり、教育捜査機構の氷室恭子と出会ったり、命を狙われたり、彼女もまた、小次郎と同様事件への関わりを余儀なくされることになります。
また、まりなにとっては真弥子は単なる護衛相手から、彼女が言うように大事な友人になっていくのですが、小次郎にとってのプリンのように、まりなにとって真弥子が大事な存在になっていきます。友人もおらず、1人で過ごしていた真弥子を護衛しているうちに、親近感から守ってやりたい、友達でいたいという想いが湧いたのでしょう。
これは、おそらくまりなが常に恋をしていたいという自分の中にある『1人でいることの寂しさ』と共通するものがあったと思われます。まりな、真弥子、弥生の3人で真弥子を元気付ける意味でも飲み会を開催したり、常に自然で友人でありたいというまりなの純真な気持ちは真弥子にも伝わっていきます。勿論、まりなはそうして過ごしながらも常に護衛についてはシビアであり、また真弥子を狙う存在にも捜査をしていきますが、それは中々見えてきません。
真弥子の父、御堂は言わば黒幕でもあり、まりなとの会話でも事件の裏側については一切を隠しています。
物語のキーポイント
ここで、どちらのシナリオにもポイントとなる『ストールマン・孔の殺人事件』ですが、この時に現場に残される大型のサバイバルナイフの存在が、単なる殺人事件ではないことを明確に示します。それが、謎の殺人者『テラー』の存在です。小次郎編でもまりな編でも彼らは殺人事件から『テラー』の存在を知り、エルディア共和国国王すら殺害した殺人者の存在を追うことになるのです。まりなにとっては実際に『テラー』と思しき人物に命を狙われたこともあり、なんとしても突き止めてやろうという意地もあるでしょう。
そして、次のポイントがエルディア共和国の国権争い、です。これはストーリーを追っていくと見えてくる、EVEの事件の真相、というより根源です。候補者はプリンと名乗っていた少女、プリシアが次期王女であり、もう1人がロス・御堂の娘である御堂真弥子。そう、つまりは小次郎にとって大事な存在である、プリンと、まりなにとっての大事な存在である真弥子の2人が国の実権を握ることの出来る候補者であった、という事実。
次のポイントが、エルディア共和国のシークレットであるCプロジェクトと、「μ-101」の存在。エルディア共和国の情報についてまりな、小次郎がそれぞれハッキングしている最中で出てくる情報ですが、そのレベルは『テラー』の存在以上のシークレットレベルであり、今回の事件にも必ず関わってくることです。しかし、その全てが明らかになるのはストーリーの最後です。
小次郎編 中盤
孔の殺人を追う中で、さらに起こる殺人。しかも被害者は元探偵事務所の同僚、二階堂進。そして次々に明らかになっていくエルディア共和国の情報、ロス・御堂、そして御堂真弥子の存在、ニセ孔の正体、ついにはプリンの正体である次期女王、プリシア。それらすべてが指し示す先はエルディア共和国戴冠式の場となるトリスタン号という豪華客船。
そこで選ばれるのはエルディアを統べる者。小次郎はプリンを守るために、そして未だ解かれていない『テラー』の存在と、Cプロジェクトを明らかにするために、トリスタン号に乗り込み、そこで同様に事件の終着地に行き着いたまりなと再び出会う。
まりな編 中盤
小次郎と同様、孔の殺人事件を追い、更に起こる殺人事件をも追っていくまりな。護衛任務であった真弥子の護衛から、外されることになっても、真弥子を守るためにあらゆる手段で1人彼女は事件を追う。『テラー』のものと思われる殺人が次々に起きる中、至る所で出くわす鈴木源三郎に助けられながらも惹かれていく。
結果として小次郎を救出したりもする中、まりなもニセ孔に会うが、不意を付かれ、昏倒してしまう。そして、目覚めた場所はトリスタン号。さらに船上ではニセ孔が『テラー』によって殺されていた。息をつく間もなく事件に振り回され、時に命すらも狙われるまりな。しかし、彼女にとっての目的は真弥子を守ること。その為に、彼女は再びトリスタン号に乗り込み、そこで小次郎と出会う。
登場人物の真の姿
ここで、物語の登場人物についてが幾つか明らかになりつつあります。まずはまりな編でことごとく関わってくる鈴木源三郎という自称保健調査員の存在。
彼の名は、桂木探偵事務所元所長の桂木源三郎。弥生の父親であり、小次郎にとっては師とも言うべき存在。当初は死んだと思われていた桂木源三郎。実はまりな編でのみ登場している為、小次郎や弥生と会うことはなく、彼の正体については分からないままでした。この辺りにも、このマルチサイトシステムの上手さ、が見えています。
次にニセの孔、本名はディーブ。小次郎にはデブ、と一笑に付されているが茜に凄惨な拷問をしたり、本物の孔を拷問の末に殺害してしまうなど、穏やかな物言いは変わらずに裏の顔をさらけ出す。
彼の目的は絵画の捜索ではなく、絵画の原版(これこそがエルディア共和国の国璽)こそが本当に探していた物でした。
次にロス・御堂。本性を全く現さない知能派の黒幕であり、彼の真意は中々見えません。シークレットレベル7の情報に隠された部分にはプロジェクトCとの繋がり。御堂真弥子の父でもあるはずの彼は何を目的に動いているのか。
上に挙げた3人は元同僚でもあり、エルディア共和国情報部の裏エージェントでもあります。彼らの思惑、行動が物語の要因でもあるエルディア共和国の実権争いをより凄惨なものへと変化させていくことになります。但し、彼らでさえも、『テラー』の正体ではありません。二階堂、ディーブの護衛、ディーブ、そしてエルディア共和国首相、ロイドすらも殺害しえた『テラー』の正体は誰なのか。
小次郎編&まりな編 最終章
エルディア共和国の実権はプリンの元へ。そして真弥子は戴冠式で小次郎と結婚する、と告白をする。しかし、そのさなか、エルディア共和国首相であるアクア=ロイドが『テラー』と思われるものに殺害され、更にはプリシアが女王となることを阻害しようとロス・御堂はプリシアを人質に逃亡しようとする。彼を追うまりなであったが、ついにはその御堂すらも『テラー』によって殺されていた。それによって船底に仕掛けられていた爆弾が爆発し、トリスタン号は沈んでゆく。御堂を追っていたまりな、そしてその現場にいたプリン、また小次郎と真弥子も行動を共にしており、沈み行くトリスタン号の船倉で4人は閉じ込められることになる。
既に船は海の底まで到達しており、泳いで脱出するか、救助を待つしかない。閉じ込められた4人は脱出を試みるが、救助は30時間が過ぎても来ず、発見された酸素ボンベを使って真弥子が一旦様子を見に行くことに。戻ってきた真弥子からは救助は間もなく来るとのことだったが、崩壊しかかっていた真弥子は自身を船と共に沈むことに決心する。3人が見た最後の真弥子は、プリンと全く同じ髪の色、そして瞳の色、姿をしていた。
そして事件回想と犯人当てへ。
これまでに起きた5つの殺人、ストールマン・孔の殺人、二階堂進の殺人、ディーブの殺人、アクアの殺人、御堂の殺人についてのそれぞれの犯人を当てる、というものです。
しかし、最終章まで見ても良く分からない点は多くあります。そこで、一旦全ての流れをまとめてみましょう。
まず始まりはエルディア王権の争いから。事件から1年前に国王が『テラー』によって暗殺されたことから、王制が敷かれていたエルディアの民主化へ傾くことになります。
ここで、王位の継承候補に、前国王の姪にあたるプリシア、そして前国王の隠し子である御堂真弥子が挙げられることになります。ここで、それぞれが王権派、反王権派として勢力を分かつことになります。
王権派に属する人物
プリシア・レム・クライム (=プリン)
エルディアの次期女王。国民の意思を尊重するとはいうが、彼らの知識水準が低いことを理由に急速な民主化には否定的。ロス・御堂の目をあざむくため、ストールマンに催眠をかけてもらい、日本ではプリンとして行動していた。
ストールマン・孔
王家に仕える名家の出身。プリシアの父親代わりだったという。Cプロジェクトを崩壊させるため、父のドールマンを殺害。
シリア・フラット
源三郎の娘。ストールマンの紹介によりエール外国人学校の教師に就任。プリシアの護衛を任務とする。
反王権派に属する人物
御堂真弥子
前国王の娘。母の命を奪った王権派に復讐するため、即位を決意する。
ロス・御堂
旧エルディア情報部の部長。Cプロジェクト崩壊後、王宮省、科学局、情報部を解体。アクアのもとで改革を断行する。エール外国人学校の名誉理事。
ディーブ
旧エルディア情報部の次長。国璽を手に入れるため、ストールマンを誘拐し、彼に成りすましていた。真性のサディスト。
アクア・スティル・ロイド
エルディアの首相。民主化の指揮を執る。
桂木源三郎
弥生の父。旧エルディア情報部に属し、ロス・御堂およびディーブと共に国を動かす。Cプロジェクトの発案者だが、自分の計画がもたらすであろう事態に恐怖し、日本に帰る。情報部の追跡から逃れるため、自ら刑務所に入る。
このように分けられた2つの勢力。しかし、物語が進む中で明らかになるように、御堂とディーブの立場が異なるものであることから対立していたことや、プリシアの意志が王権派でありながら、緩やかな民主化を望んでいたことから、プリシアとアクアの間では意見が同一であることなど、単純に2つの勢力に分かれているようで、各々の意志が介在し、より複雑な展開をなしえている事になります。
さて、ここまでが物語の核といってもいいでしょう。そして、全ての真実が明らかになるエンディングの真弥子の日記を紐解く前に、管理人の推理を此処に記しておきます。
管理人が最初に書いた犯人当ては以下のようでした。
第1の殺人(ストールマン・孔の殺人) 犯人 真弥子
第2の殺人(二階堂進の殺人) 犯人 真弥子
第3の殺人(ディーブの殺人) 犯人 真弥子
第4の殺人(アクアの殺人) 犯人 プリン
第5の殺人(御堂の殺人) 犯人 プリン
とまあ、明らかに2人を疑っていたのですねw
こう考えるに至った理由としてCプロジェクトの存在、「μ-101」の存在、そして最終章での真弥子とプリンが双子、もしくはどちらかがクローンであることが要因でした。(ここまではプレイヤに与えられていた情報です)
Cプロジェクトはおそらくクローン計画、そして真弥子とプリンはどちらかがクローン技術によって生み出されたものである、と推察するのは至極当然な流れでしょう。
また、全ての事件の犯人が『テラー』によるものと示唆されることから、犯人と思われる人物は1人、と管理人は考えました。しかし、プリンの存在は容姿からしても見分けがつきやすく、反王権派であったディーブや、いち探偵である二階堂が警戒しなかったとは考えられません。物語中の彼らの会話から察するに、殺される前までは安心しきっていることから、ある程度身分が保証されており、二階堂からすれば依頼人である御堂の娘であれば言うまでもないでしょう。しかし、ここで二階堂が握っていた金髪の事実と、最終章での真弥子の本当の姿が繋がります。
また、後半のアクア、御堂の殺人については、真弥子1人で殺害したとしたら、アクアの死体を見つけたときにあれほど驚き、また小次郎が犯人であるとすら勘違いするとは到底思えませんでした。
また、桂木源三郎がまりな編で言うように、プリンが怪しいというのも何かが理由としてあるはずだ、と考えました。御堂の殺人に関しては状況から鑑みるに、真弥子の所在が不明であることと、現場に残っていたのがプリンであったことです。御堂と人質として捕らえられていたプリンが部屋に逃げ込み、その後部屋から銃声が聞こえ、まりなが部屋に入ると中では首を切られた御堂の死体と、プリンの姿。もはやこれで疑うな、というほうが無理でしょう。
しかし、ここでまた分からないことがありました。それは主犯はどちらであったか、ということです。真弥子が(もしくはプリンが)どちらか一方のクローンであるとして、一方が傀儡であるならば、主犯がいたと考えられます。
結局主犯がどちらかであるかについては分からないままでおそらく、2人がやったものだ、という漠然な推理に落ち着きました。
但し、管理人はプリンと真弥子、どちらも疑うのは少々抵抗がありました。ストーリーを読み進めていけば分かりますが、プリンも真弥子も、本当に純粋で可愛い少女たちです。彼女たちが小次郎、まりなを欺いていた、と考えるのだけは非常に心苦しいことでした。推理の上では上記のように2人を疑っていましたが、小次郎を慕い、好いていたプリンの想いは本物であろうと。そして、まりなを心から信用し、大事な友人であると喜んでいた真弥子の想いもまた、本物であろうと、管理人は思っていました。
ここまでが管理人の推理です。クローン技術に関しても、前国王の遺志についても、真弥子の本当の姿にしても、真弥子の日記を読むまでは、推察し切れませんでした。
トゥルーエンド
真弥子の日記
まりな編で時折、見せるように真弥子は日記をつけていました。その日記の内容が、事件回想&犯人当ての後に明かされるのですが、これを読んで、物語はようやく『終わり』を迎えます。
真弥子の日記で明かされる事実
・真弥子は「培養液の中で成長した有機ヒューマノイド」(コードネームμ-101)であり、培養液の中で18歳の少女として創造され、前国王のみならずアクアの記憶までもが植え付けられた。
・プリシアと遺伝的に同一であるため、容貌がプリシアに酷似しているが、前国王の意識が眠っている時に限り、茶色の髪と瞳になる。特殊な薬品を服用することで、前国王の記憶を脳に固定している。服用をやめれば記憶が失われ死に至る。
・普段は、アクアの記憶をベースに作られた人格「真弥子」が活動する。時おり前国王の意識が出現し、御堂に指示を出す。前国王と御堂の陰謀を知らない彼女は、自身を18歳の女子高生と信じている。前国王は真弥子の記憶を自由にのぞけるが、逆は不可能である。
真弥子の存在について、プリシアが「悪しき亡霊」と呼ぶように、真弥子は前国王が再び復活をするためだけに造られた仮の人間である、という事実。そして、『テラー』の正体は前国王の人格。現実には真弥子が犯人であると決着を付けられるわけで、犯人当ての正解は以下のようになります。
第1の殺人(ストールマン・孔の殺人) 犯人 ディーブ
第2の殺人(二階堂進の殺人) 犯人 真弥子
第3の殺人(ディーブの殺人) 犯人 真弥子
第4の殺人(アクアの殺人) 犯人 真弥子
第5の殺人(御堂の殺人) 犯人 真弥子
孔の殺人については真弥子の日記で、御堂が『ディーブが拷問の末に殺した』と述べています。他の殺人についても、真弥子の日記を読めば大体は推察できるでしょう。
悲しい存在である真弥子。しかし、彼女が最後に望んだものは、平穏な日常と、友人たちと楽しい時を過ごしたい、という当たり前に存在しているはずのもの。視覚と聴覚が失われていく中で、ただ、自分が存在したこと、それだけを覚えていてくれればいいと3人にお願いをして、自らを船と共に沈む決意をします。
真弥子が自ら死(正確には眠り)を選ぶに至った理由として、考えられるのは以下のようになります。
・自分の存在=有機ヒューマノイドであり、前国王の遺志を植えつけられた、という『いてはならない存在』であると、自分を理解した。
・『テラー』が自分の中にいる前国王であることを知り、多くの人間を殺してきたという罪を悔いて。
・これまでの事件全てに決着を着けるため。すなわち前国王の存在を殺すため。
どれが彼女にとっての理由になったかは分かりませんが、自分が悲しい存在であることを理解しつつも、ただ当たり前のものを望み、海に沈んでいく『真弥子』は、幸せだったのでしょうか。
彼女は、3人に、覚えていてくれさえすれば、それで幸せと言います。そして、たった数日間であっても、まりなや小次郎、弥生が普通に接してくれたことが、彼女にとって最も大事な時間だったのでしょう。
けれど、そう、それはプリシアも言っているように『平凡な生活を望んでいたに過ぎない彼女が、なぜ、かくも残酷な運命の餌食になってしまったのか』、それでは、悲しすぎます。生まれは運命に飲まれていたとしても、真弥子、という人格が確かにそこに存在し、幸せを願っていたのなら、それに手を差し伸べることは当然と言えるでしょう。
エピローグ
真弥子の日記を読み終え、女王となったプリシアは彼女の存在、その背後にあったもの全てを告白する決心をします。そして、もう1つ、真弥子を保護し、眠りから覚ますことを。そしてその場にはプリシア、小次郎、まりなの姿が。
エンディングのスタッフロールを終え、最後に映るのは、幸せそうにひと時を過ごす4人が。
静かに眠る真弥子の姿のCGは神々しいほどに美しく、そして最後の写真のCGは暖かく、幸せな瞬間を感じました。
それが、トゥルーエンドであり、ハッピーエンドでもある、この「EVE -burst error-」の終わり。
様々な推察
・前国王の存在
真弥子の『身体』が作られた際に主人格として前国王の人格を埋め込み、表面人格としてアクアの記憶をベースにした『真弥子』の人格をカバーする。そうしてまさに造られた人間である真弥子は、あくまで表面上の人格であり、『テラー』として暗躍する前国王は自由な意志で人格変換を行うことができます。
そうして前国王は次々と自分にとって不都合な存在を消す『謎の殺人者』として動き回り、何食わぬ顔で『真弥子』として実権を握り、再び国王として世に復活する、というシナリオを描いていたのでしょう。
そのために開発されたかどうかは定かではありませんが、Cプロジェクトはボディのみならず、人格にまで手をつけた科学技術でした。人間の脳については現在でも解明されていない部分が存在しますし、倫理観によってはクローン技術自体が『人間が手を出してはならない技術』であるとさえされています。どのような高度な技術であれ、『人間』という究極のパンドラボックスを弄んだ計画の下に発動されたCプロジェクトは、結局、前国王の存在そのものの消失という結果になったのでしょう。
船が沈みゆく中で、真弥子は確かに自分の意識を持ちえながら、プリシアの姿そのものに変態していきます。前国王の人格が発現する時のみ、そのようなプリシアの姿(金髪、ヘテロクロミア)になるはずであったのに、何故、真弥子の人格を保てているのか。
答えは1つ、前国王の人格そのものが消失した、ということです。
多重人格、すなわち精神分裂症であれば、人格の『統合』ということは起こりえますが、その場合は前国王の人格もどこかに残ることになります。しかし、それはありえない、と考えます。何故なら、元は主人格として埋め込まれた前国王の人格が統合された場合、表面の人格であった真弥子の方が表には出ないものになるはずだからです。しかし、どういうわけか、表面人格であったはずの真弥子が支配し、前国王の人格の消失=死という結末を迎え、またボディまで崩壊しそうになります。
さて、ここでまた気になる点として、何故、前国王の人格が消失したのか、があります。推察になりますが、『テラー』としてのみ暗躍していた前国王と、日々を大事にして、人との触れ合いをしてきた真弥子では、自我の強さが違ったのかもしれません。『われ考える、ゆえに我あり』というように、真弥子の意志の方が強かったからでしょう。もしくは、不安定な技術で生まれた『人間ではない存在』にエラーが生じたのかもしれません。
・タイトルの意味
EVEが指しているのは真弥子に他ありません。旧約聖書にあるアダムの妻であるイブを象徴しており、最初の人間であるアダムとイブ(正確にはイブはアダムの肋骨から作られた)と、プリシアのボディをベースとした、人間ではなく『作られた人間』である真弥子をかけての意味だと思います。
次にburst errorの意味。日本語に訳すると、
burst : 破裂する、爆発する、充満する、突発、破裂、連射などなど。
error : 誤り、間違い、過失、思い違い、罪などなど
Wikipediaによると、『連続的な誤り』であろう、と結論付けられており、開発者のコメントがないため、推測の域を出ないという。
また、私もプレイしていて、最後に閃いたのですが、burst error→birth terrorの韻の意味もあると思われる、とWikiにはあります。
開発者の真意は定かではないが、このゲームのタイトルが開発段階では『悦楽の学園2』であったことから考えて、さほど深い意味はないと考えられます。
敢えてあるとするならば、上にある『連続的な誤り』か、もしくは『連続的な罪』や『誤りの破裂』など、幾つもの意味を込めてのタイトルかもしれません。
『人間を作り出すこと』が今でも倫理的に罪であるとされているならば、このerrorの意味は、『罪』がもっともらしいでしょう。
OP・ED 音楽
OPムービーやEDムービーなどの類は最初のPC-98版には存在せず、エンディングのスタッフロールがあるぐらいです。音楽に関しても特に印象に残るようなものはありませんでしたが、物語が進むにつれて色んな箇所でそれまでにないBGMがあったり、クライマックスでのみ流れるBGMがあるなど、基本的ですが、十分な使いかたはしています。
おまけとして、CG観賞と、音楽鑑賞ができますが、個々には観賞できないので少々不便でした。(PC-98版)
最後に
マルチサイトシステムという、サウンドノベル、ヴィジュアルノベルにはない、新しいゲームシステムを加えることで、単に『読むだけ』ではなく、臨場感のあるノベルゲームになりました。小次郎&氷室と、まりなのハッキングシーンはまさにその見せ場と言えますね。
また、キャラクタの個性が非常に良く、それぞれが存在感があり、密接に関わってくるところが見事ですね。全くストーリーに関わってこないキャラなんてほとんどいないですし、人物関係が非常に複雑です。このような作り込みは並の小説を超えていると言えるでしょう。
システムとシナリオ、両方が高いクオリティで作られており、どちらもその良さを活かしきったゲームでした。繰り返しプレイはほとんどする必要がないので、プレイするのは一度きりで十分なのが残念ですが、見事に練り上げられたストーリーはラストも含めて最高でした。
これほど衝撃を受けるような威力のあるシナリオはEVEだけでしょう!
2007/3/31
参考:Wikipedia 「EVE -burst error-」より