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学習院大学岩田規久男教授直撃インタビュー

インフレ率2%は来年半ばに達成可能=学習院大学岩田規久男教授

2013.01.30

学習院大学教授・岩田規久男

次期日本銀行総裁候補の一人と目される学習院大学の岩田規久男教授に、今後の日銀のあるべき姿、日銀の取りうる政策、デフレ脱却への道筋、円相場への影響などを聞いた。


市場発のデフレ脱却の道程

――デフレから脱却するにはどんな方法がありますか?

金融政策の新しい枠組み、中央銀行がどういう立場に立って、どういうことをやろうとしているかを市場に信用させることだ。これには実績を積む必要があるが、まずは当座預金を積み上げ、マネタリーベース、ベースマネーを増やすこと。これ以上金利は下げられないので、市場が注目しているのはマネーの量。市場は新しい枠組みやマネーの量をみながら、これから中期的にどれくらいインフレになるかを判断する。

一般の人々のインフレ期待はにわかには起らない。まず、市場参加者がこれからデフレは終わってインフレになると思えば株を買う。すると一般の個人投資家も、資産を現金で眠らせおくよりは、株を買おうと動き出す。インフレになれば目減りするだけの円預金をもっていた人が円安をみて外貨を買う。こういう行動がマーケットで出てくる。

次に企業にインフレ期待が生まれる。設備投資に動き出し、輸出を増やすための生産を増強する。企業収益が改善する。企業経営者はデフレに慣れているので時間はかかるが、徐々に雇用が改善し、所得が上がり、消費が回復することで、需要と供給のギャップが縮小する。

大事なのはインフレ期待を起こすことであって、貸し出しを増やすことではない。日本企業はカネ余りで215兆円の現預金をもっているので、これだけで昨年の1.7倍の設備投資ができる。銀行の貸し出しを増やす必要はない。

足元でインフレ期待は起こっていないが、市場のプロがインフレを期待することで、徐々に実体経済に波及していく。資産市場が変化することによって、モノの世界の需要が増えるという経路だ。

一般の人々はデフレギャップがだんだんなくなってきて、物価の下がり方が徐々に緩やかになり、一部は若干上がり始めた時点で、物価上昇を意識し始める。ここで初めて一般の人々にもインフレ期待が出てくる。これは最後に起きる動きだ。資産市場が最初に動けばそれでよい。一般の人々のインフレ期待醸成が遅れるのは仕方がない。

日銀当座預金を80兆円に増やすべき

――日銀は具体的にどんな政策をとるべきですか?

前回の日銀の政策決定をみると、実際にはほとんどベースマネーは増えない。インフレ率を2%にするためには、日銀当座預金を昨年末の約40兆円の倍、70~80兆円にすべきだ。

今の日銀の当座預金の増やし方のペースをみると、インフレ率が2%になるには早くても3年程度かかる。予想インフレ率と当座預金との関係には時期によって違いがあるので推測には幅があるが、今のペースでは遅ければ5年程度かかるだろう。

安倍総理が目指す「できるだけ早期」のインフレ率2%達成は、今のペースでは無理。逆に言えば今の日銀にはやる気がないということだ。日銀の姿勢が変わらなければ、今の株高も円安もしぼんでしまうだろう。

――国債買い入れオペでは札割れが起きています。当座預金を2倍にできますか?

それは今、日銀が1年物など短期の国債しか買っていないからだ。日銀はもっと長期の国債を買うべきだ。金融政策というのは、流動性が違う資産を交換するほど効果を発揮する。民間ではリスクのある長期国債は持ちにくい。したがって当座預金の流動性と同じ短期の資産を買ってもあまり意味がない。長期国債を買えば札割れは起こらない。

インフレ期待が生じたときには、民間は長期国債をもっていると価格リスクが大きくなるので持ちたくなくなる。そういう時にこそ、民間が持てなくなる長期国債を買ってあげるのが流動性を供給する中央銀行の役割だ。

大手メガバンクはすでに長期国債を減らしているが、地銀はまだかなり長期国債をもっている。インフレになると経営的な問題やシステム不安が起きてくる可能性があるので、その意味でも日銀はもっと長期国債を買うことが必要だ。

さらに、インフレヘッジになる物価連動債をもっと発行すべきだ。長期国債を日銀が買う代わりに、物価連動債を機関投資家や個人などに買ってもらえばいい。こういう時にリスクをとれるのは中央銀行しかいない。

――日銀は国債の直接引き受けをすべきですか?

それはありえない。それは日銀があまりにもかたくなに何もしないから出た議論。むしろ、日銀が財政ファイナンスをするのを避けるためにあるのがインフレターゲットだ。

そもそもインフレターゲットというのがどうしてできたかというと、中央銀行がまだ独立していなかったときに、政府に無理やり国債を買わされていたため。これでは中央銀行が財政ファイナンスをしていることになり、どんどんおカネが出て行って、80年代の欧米では二桁台のインフレになった。これでは困るので中央銀行は政府と目標は設定するが、達成するための手段は中央銀行が政府の介入を避けて自分で決定することにした。

日銀は2%のインフレターゲットを設定したが、達成するための政策手段は日銀が選ぶ。2%を達成するような当座預金の増額や、ベースマネーを増やすために長期国債を買うという判断は日銀自身がする。政府がそれ以上要求しても、2%を達成すればそれ以上は長期国債を買わないというのがインフレターゲットの役割。インフレターゲットは財政ファイナンスを避けるための一つの仕組みだ。

対ドルで105円まで円安になる可能性

――市場で海外のファンドが売りを仕掛けて長期金利が急騰するような心配はありませんか?

実際にインフレが起きていないのに、市場の動きだけで長期金利が急騰するようなことはない。実体の裏付けのない投資戦略は失敗に終わる。投資ファンドだってバカじゃない。ソロス・ファンドがイギリス中銀を敵に回して英ポンドを売り仕掛けて勝ったときは、英ポンドが無理に高い水準に維持されているという実態があった。いずれにしろいつかは英ポンド安にせざるを得ないということを見越して売ったからこそソロス・ファンドは勝ったのだ。それは必ずもうかる投資だった。

アジア危機のときも同様で、アジア通貨が実態より高い水準で米ドルに連動していたので、外資系ファンドがアジア通貨を売り浴びせた。外貨準備もないのでアジア諸国は負けるにきまっていた。タイバーツは変動相場制にせざるを得ないということが分かっていたから、外資系ファンドが空売りを仕掛けて結果としてそうなっただけだ。

ヘッジファンドは勝てる要素があるから勝負をするが、実際にインフレが起きているわけでもない日本国債の場合はこれらにあてはまらない。そういう危機を煽るのは無知な人か、それをネタに自分の本を売ろうとする人だ。世の中にそういう人はたくさんいる。そんなことを本当にするヘッジファンドは消えていくだろう。

――円相場の適正水準は?

いくらが適正かはっきりとは言えないが、日本が完全雇用で、物価がインフレ率2%で安定したとき、そのときに海外の金利要因が今の状況で変わっていないと仮定すれば、1%で7円円安になる効果があるので、今より14円程度円安になる余地がある。足元の1ドル=91円で換算すれば、105円程度まで円安になる可能性があるだろう。ただし、外為市場は相対的な価値なので、そのときに米国がまだ緩和局面にあるか、引締め局面に転じているか次第ではわからない。

――日銀当座預金を今の倍の80兆円にすればいつ2%のインフレターゲットを実現できますか?

もちろんいっぺんに倍にするのは無理なので、徐々にやっていくことになる。今の日銀が当座預金を増やしているペースよりも毎月毎月5割増しのスピードでやれば、2014年の中ごろまでには2%のインフレターゲットを達成できるだろう。重要なのはあくまでもネットの国債買い取り額。国債は償還があるので単に残高だけをみても意味がない。市場はそこを注視している。
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