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宇部興産労災事件労働者勝利和解!(2000年10月13日)
会社側が下請け労働者に二八〇〇万円の和解金を支払う
宇部興産の下請け会社に勤めていた河村豊さん(昭和一七年生まれ)は、一九九四(平成六)年四月二〇日、宇部興産のケミカル第二工場で保温工事に従事している時、同じ現場に働く同僚の「助けてくれ!」という叫び声を聞いて駆けつけたところ、その同僚が着ていたヤッケを回転するモーターシャフトに巻き込まれていました。そのままでは、その同僚はモーターシャフトに腹部を巻き込まれて重大な結果になると考えられました。そこで、電源を切る等の処置を考えましたが、何処にスイッチがあるかも判らず、工場内の操業騒音により救助を求める声もかき消されるという状況で、同僚のヤッケを破いて助けようとし、いったんは成功したのですが、その直後に再びヤッケの袖部分が巻き込まれ同僚の右腕が折れて身体が一回転してしまい、その弾みで、今度は河村さんの右手がシャフトに巻き込まれてしまいました。河村さんは、必死の思いでヤッケを破って自力で脱出しました。その後、救出を求め、救急車で病院に運ばれました。その時、同僚は開放骨折をしており重体でしたが、河村さんは、見た目にはそれほどの傷がないようだったので、同僚が大学病院に運ばれたのに、河村さんは民間病院に運ばれました。その病院では,若い医師が「圧挫創」という傷病名で、大した怪我ではないという診断であったため、病院から事故現場に引き返して、警察の実況検分に立ち会った程でした。ところが、通院しているうちに段々右手の腫れがひどく痛みも強くなって来たため病院でそのことを訴えると、大学病院から派遣された医師が見て骨折があると診断し、急遽入院して手術を受けました。
その後、治療を受けて一年半程経った一九九五(平成七)年九月一七日には症状が固定したとして治療が終わり、労災の身体障害等級の七級に該当すると判断されました。ところが、勤務先の宇部興産の下請け会社である三好保温株式会社は、最初事故に遭った同僚の労働者は雑用として雇用を継続しているのに、これを助けた河村さんに対しては一九九六(平成八)年一〇月三一日付で解雇するという非情な態度を強行してきました。
こんな不当なことが許されてはならないと河村さんは、橋本自民党総裁や不破日本共産党委員長らに手紙で訴えました。橋本総裁からは何の返答もなかったそうですが、不破委員長は、宇部の市会議員を通じて相談に応じてくれました。そのような経過で、日本共産党宇部市議会議員団の法律相談を通じて弁護士に依頼し、この裁判を起こしました。
裁判は、宇部興産ら会社側が河村さんの過失や、治療態度が悪かった等と主張してあらそったために事故現場の検証を含めて二八回の裁判期日がありましたが、二六回目の期日で裁判所から和解勧告があり、二七回目に和解案の提示があり、最後の期日に和解が成立しました。
この事件の争点は、労働者側河村さんに過失があったか否か、河村さんが解雇されていたことと事故前の収入が試用期間中のため賃金が余りにも安過ぎるので、逸失利益の基礎となる収入を労働者の平均賃金によるか否かでした。裁判所の和解案は、河村さんに過失がないことと三好保温の保温工の平均賃金を採用していましたが、それに、年五割の遅延損害金と弁護士費用分を加算させ、今後の労災保険と厚生年金障害補償の各年金とは別に解決金を二八〇〇万円支払うということになったので、河村さんも和解に応ずることになったものです。
宇部興産の城下町、宇部市において裁判を闘うことは陰に陽にさまざまな圧力がありましたが、河村さんが、粘り強く周囲の励ましで頑張った結果得た勝利でした。なお、河村さんは裁判所の印紙代(訴訟をして貰うために裁判所に治める手数料)二四万円余の支払いについて訴訟救助を受けていました。このように、裁判をする当たっての費用も、労働者に負担がかからないような方法がありますので、自由法曹団の弁護士にご相談をして下さい。
参考のため、訴状と和解調書を添付しておきます。興味ある方は、ごらん下さい。
(755)宇部市北小羽山町二丁目二番一二ー二〇一号
原告 川村 豊
(751)下関市貴船町三丁目一番一号 下関中央ビル四階
下関中央法律事務所
原告訴訟代理人 弁護士 田川章次
同 同 臼井俊紀
(755)宇部市西本町一丁目一二番三二号
被告 宇部興産株式会社
右代表者代表取締役 中東素男
(755)宇部市大字小串字前堀八番地の一
被告 三好保温株式会社
右代表者代表取締役 光井寛次郎
一九九七年八月二八日
原告訴訟代理人 田川章次
同 臼井俊紀
山口地方裁判所宇部支部 御中
損害賠償請求事件
訴訟物の価額 金五七二一万五七七八円
訴訟費用については、訴訟救助の申立をします。
請求の趣旨
一、被告らは各自原告に対し、金五七二一万五七七八円およびこの金員に対する一九九五(平成七)年九月三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。との判決ならびに仮執行宣言を求める。
請求の原因
第一、当事者
一、原告は、一九四二(昭和一七)年一〇月二二日生まれの男子であり、一九五八(昭和三三)年三月吉城郡秋穂町立秋穂中学校を卒業した後就職し、大阪方面で稼動していたが、一九九四(平成六)年三月二一日に被告三好保温株式会社(以下、たんに被告三好保温会社という。)に同月一七日就職し、保温関係の業務に従事していた。
二、被告宇部興産株式会社(以下、たんに被告宇部興産という。)は、石油製品の製造販売を初めとしてさまざまの分野での事業を営む山口県を代表する大会社である。
三、被告三好保温は、保温、保冷工事及び耐酸、耐触工事の設計、施行の請負を業とする会社である。
第二、本件事故の経緯
一、原告は、本件事故のあった一九九四(平成六)年四月二〇日午前七時五〇分ころ、被告宇部興産ケミカル第二工場内にある被告三好保温の事務所に出社した。その後、原告は、午前八時ころ、原告ら八名の被告三好保温従業員がライトバン二台に分乗して第二重合塔の作業現場に向かった。当日の現場は、第二重合塔の漆喰塗りを五階に配置された六名が行い、残りの二名は、四階の第二重合塔の網張りの作業に従事した。原告は、最初漆喰塗りの作業に従事していたが、午前九時ころ、女子従業員を通じてなされた業務指示で四階で作業していた古屋美次の応援に行った。原告は、そこで網張り作業に従事し、一〇時からの三〇分の休憩の後作業を再開していたところ、午前一一時二〇分ころ、古屋の「助けてくれー」という大きな叫び声がしたため、急いで古谷の所へ駆けつけると、古屋が着用していたヤッケの腹部辺りがユニバーサルジョイント(モーターのシャフト部分)に巻き込まれ、さらに深くまきこまれるような状態であった。
二、そこで、原告は、古屋を放置するならヤッケが巻き込まれて死亡してしまうと思い、大声で救援を求めるとともに、自ら古屋のヤッケ腹部部分を破って古谷を救出した。ところが、その後、古谷のヤッケの袖口が巻き込まれてしまったため原告が古屋のヤッケの肩口の縫い目を破っていたところ、古屋の左腕が骨折しその身体は床面に落下してしまい、その衝撃で、原告の右手が、モーターのシャフトに巻き込まれてしまった。しかしながら、原告は、自ら左手でヤッケを破って右手を開放し、五階にいた被告三好保温の現場責任者藤本に連絡をとりに行き、被告宇部興産の責任者に連絡を取らせて、救急車の手配をして貰った。
三、救急車の到来は、約一〇分程度経ってからのことであり、古屋は担架に乗せられ、原告も同じ救急車に乗って出発し、古屋は山大医学部付属病院で、原告は宇部記念病院で降り、それぞれが別の病院で治療を受けることになった。右病院における原告の当初の診断名は、右手首打撲というものであったためか、宇部警察署の担当者から、事故現場の実況検分への立ち会いを求められ、原告は疼痛に耐えながら昼食も摂らず、昼過ぎから午後6時半ころまで供述調書作成に応じた。この実況検分の過程で、普段は事故のあった「モーター」(ユニバーサルジョイント)部にカバーが常時かけてあるのに、本件事故の際には、被告宇部興産の担当者が、そのカバーを掛け忘れていたことが判明した。カバーさえかけてあれば、古屋のヤッケの紐が巻きつくことはなく、こんな大事故にはならなかったのにとは、実況検分に立ち会った関係者の同じ思いであった。
四、原告の右手首の痛みが一週間たってもとれないため、再度X線撮影をして精査をしたところ、原告の右手首、指と手の甲の三ヵ所が複雑骨折していることが判った。そこで、原告は、四月二八日宇部記念病院に入院し、三〇日に手術を受け治療が継続された。一九九四(平成六)年七月一一日に退院して以後通院したが、一九九五(平成七)年七月一六日から二二日までの一週間入院しリハビリに努めた。その後、同年九月一七日には、これ以上の改善は認められないとして症状固定となり、治療が打ち切られた。その後、労働基準監督署より、一九九五(平成七)年一二月一五日付で、原告の後遺症が障害等級の七級に該当する旨の通知を受けた。
五、いずれにしても、原告の傷害は、被告三好保温の業務遂行中に業務に起因して発生した労働災害である。
第三、傷害と後遺症
一、原告は、右労災事故によって、右手圧挫創、右手手根骨骨折、右尺骨基状突起骨折の傷害を負った。
二、右傷害は、その後一九九五(平成七)年七月一六日には症状固定し、現在原告に残存している後遺症は次のとおりである。
1、右手の五本の指が、全然曲がらないために、字が書けず、また、箸を持つことが出来ない。(労災身体障害等級七級七号に該当)
2、右腕が上がらないので、着替え、入浴時には、妻の手を借りなければ鳴らず、重いものが持てない。(この点は、未だ考慮されていない。)
第四、責任
一、被告三好保温は、原告を雇用するものであり、その労働契約上の義務として、原告ら労働者が業務に従事中、その生命身体の安全を配慮すべき義務がある。(債務不履行責任)
また、被告宇部興産は、被告三好保温等多数の下請け業者が雇用する労働者多数を同被告会社構内において混在させて各種の作業に従事させるのであるから、同工場内の機械等工作物による危害が発生しないよう万全の措置を講ずる義務がある(不法行為責任 民法七〇九条)。
二、具体的内容
1、被告宇部興産は、工場内の機械によって稼動する労働者に危害を与えることのないよう努める義務があり、危険防止のために通常被せてあるユニバーサルジョイントカバーが外れているのに気づかないまま、下請け労働者に作業をさせていたため、下請けである被告三好保温の労働者訴外古屋が着用していたヤッケの紐を機械に巻き込ませるという事故を発生させるに至った。
2、また、被告宇部興産は、このような事故が発生した場合に、危険防止のために機械が自動停止するか、安全要員をして直ちに機械を停止させるといった事故回避の措置をとるべきであったのに、自動停止措置や安全要員を配置していなかったために、原告が身を挺して古屋の救出をせざるを得ない状況にした。
3、被告三好保温は、訴外古屋が着用すべきでないヤッケを着て作業をしているのを見逃し、また、ユニバーサルジョイントカバーが外れているのを早期に発見して被告宇部興産に対策を講ずるよう求めるべきであったのにこれを怠っていた。
三、被告らが、右のような義務を怠っていた結果発生した訴外古屋の機械への巻き込みという事故から訴外古屋を救出しようとした原告の所為は、人間として当然とるべきものであったところ、訴外古屋が骨折によって身体が床下に落下し、その弾みで原告の右腕が機械に巻き込まれるという結果とそれによる原告の受傷は、被告らの前記責任と相当因果関係にあるものである。
第五、損害
一、治療期間中の損害 明細は、別紙損害算定書の第1項記載のとおりである。
二、後遺症による損害 明細は、別紙損害算定書の第2項記載のとおりである。
三、損害としての弁護士費用 金五〇〇万円
原告は、被告が誠意をみせないためやむをえず本訴を提起するに至ったものである。本訴提起に先立って原告は、原告訴訟代理人等に訴訟委任し山口県弁護士会の報酬規程により弁護士費用を支払うことを約した。よって、原告が負担する弁護士費用のうち、金一一〇万円宛が本件事故による損害として認められるべきである。
四、損害合計 金六一九三万〇〇七五円
五、損害の填補 金四七一万四二九七円
六、損害残額 金五七二一万五七七八円
第七、結論
以上の理由により、原告は被告に対し、請求の趣旨記載の裁判を求めて本訴におよぶ次第である。
証拠方法
口頭弁論において、必要に応じ提出する。
添付書類
一、訴訟委任状 一通
二、戸籍謄本 一通
三、資格証明書 二通