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ニュースの裏側

[第31回]

海外での経験、日本で生かす NGO、震災の場で力を発揮

平田篤央 Hirata Atsuo(GLOBE副編集長)

 


 

3月に起きた東日本大震災では、海外の紛争地や自然災害の現場で活動してきた日本のNGOが東北に駆けつけた。その数60団体。これほど多くのNGOが国内で人道支援にあたるのは初めてだ。海外で培った機動力や専門性を生かす一方で、海外とは異なり仕切り役が不在という問題に戸惑う面もあった。

 


 

大震災の生んだ様々な想定外の事態の一つが、ハエの大発生だ。被害に遭った東北地方の太平洋沿岸部は、水産加工業が盛んな地域。津波は、保冷倉庫に保管されていた大量の魚介類を、がれきとともに市街地にばらまいた。それが腐敗し、ハエの培地となった。


放っておけば、病原性大腸菌やコレラなどを媒介しかねない。衛生状態の悪い第三世界や、高温の続く熱帯地方でならともかく、日本でこれほど長く、ハエの発生源が放置されることは予想されていなかった。

 

ハエの防除にあたっているのが、京都に本部を置くNGO、日本国際民間協力会(NICCO)だ。最盛期の7月には、宮城県気仙沼市、岩手県大船渡市などで、61回の駆除作業を実施した。 9月上旬、岩手県陸前高田市の長部地区での作業に同行した。


ハエ対策のため、積み上げられたがれきに殺虫剤をまく害虫駆除会社の社員。1トンの薬剤が1時間ほどでなくなった=岩手県陸前高田市で
photo:Hirata Atsuo

街の中心部は大半が整地されたが、あちこちにがれきの山が残る。ひしゃげたガードレールのように見えるのは、保冷倉庫の天井板だ。

 

盛夏は過ぎたが、最高気温は30度近い。がれきには魚の身や脂がへばりついており、大量のハエがたかっていた。


そこに殺虫剤1トン入りのタンクを積んだトラックで乗りつけ、大型の電動噴霧器で殺虫剤を吹き付ける。防護服にマスク姿で作業にあたるのは、ボランティアとして参加した害虫駆除会社の社員。この日は、福岡、滋賀、山梨、新潟の各県から2人ずつ集まった。トラック4台や必要な機材、薬剤と日当はNICCOが提供するが、現地までの交通費はそれぞれ自腹だ。

 

自治体との連絡や、全体の指揮をとるのは菅野格朗。大学院まで昆虫学を専攻し、害虫駆除会社に勤めるかたわら、ボランティアとしてNICCOで活動する。5月中旬に現地調査に入り、「このままでは確実にハエが大発生すると分かった」という。以来、月の半分は東北で過ごしている。


「害虫駆除」の専門家も

NICCOは、1979年にカンボジア難民救援会として発足。その後、活動の場をアフリカや中東、南アジアに広げた。いま、アフリカのマラウイでは蚊が媒介するマラリアなど感染症対策を手がける。パレスチナ自治区ではパレスチナ人の自立を助けるためオリーブオイルの品質向上に取り組み、その活動の柱の一つは、害虫ミバエの駆除だ。


こうした活動の関係で、NICCOの副理事長には害虫の専門家がいる。事務局長の折居徳正は「彼の人脈や、団体の活動内容が今回、東北で生きた」と話す。


海外で活動するNGOを支援する国際協力NGOセンター(JANIC)によると、東日本大震災の被災地で活動している団体は40以上。すでに事業を終えたところを含めれば60団体にのぼる。1995年の阪神大震災や2007年の新潟県中越沖地震などでも複数のNGOが活動したが、日本国内の災害現場にこれほどの数のNGOが入ったのは初めてだという。


 

(文中敬称略)

(次ページへ続く)

 


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