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ニュースの裏側

[第31回]

海外での経験、日本で生かす NGO、震災の場で力を発揮

平田篤央 Hirata Atsuo(GLOBE副編集長)

 

NGO(非政府組織)とNPO(非営利組織)の線引きは明確でないが、主に海外の紛争地や災害現場で支援活動をする組織をNGOと呼ぶことが多い。


日本では1960年代に生まれはじめ、本格化するのは1970年代後半。インドシナ難民の発生をきっかけに、相次いで設立された。その後、難民支援だけでなく農村開発、保健医療、教育、環境保護や人権擁護など、活動を広げてきた。現在では400以上の団体が世界100カ国以上で活動し、日本の民間外交を支えている。


JANICが大震災翌日につくった「震災タスクフォース」チーフコーディネーターの田島誠は、「震災直後の緊急支援ではNGOの組織力が発揮され、その後は保健衛生や医療、子どもの心のケアなど、各団体がそれぞれの得意分野を生かした活動をしている。日本のNGOが四半世紀以上にわたって培ってきた経験が、国内支援でも役立った」と話す。


もう一つ、大きな役割を果たしたのが「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」という枠組みだ。NGO、経済界、日本政府が共同で2000年に設立した。海外で紛争や大規模な自然災害が発生したとき、政府資金と民間企業の寄付を財源に、日本のNGOが速やかに緊急人道支援を行えるようにする仕組みだ。


2006年には、国内災害にも対応できるよう定款を変更していた。JPFは、震災から3時間後には国内出動を決め、寄付を呼びかけた。企業などから4月までに約50億円が集まり、NGOの活動を資金面で後押しした。JPFの助成による事業を実施しているNGOは9月時点で16団体。NICCOの害虫駆除の事業費2億円の約8割も、JPFからの助成だ。

 

国内での知名度不足、課題に

だが、NGOの活動が当初からスムーズに運んだわけではない。海外では経験豊富なNGOも、国内ではその専門知識や資金力が知られているとは言い難い。


1996年の発足以来、世界20カ国・地域で支援活動を行ってきたピースウィンズ・ジャパン。東北事業の責任者、備中哲人は地震が発生したときはスリランカで洪水被害の支援をしていた。約1週間後に東北に入ったが「海外なら、日本のNGOと言えばウエルカム。だが国内ではそう簡単でなかった」という。


避難所で「怪しい団体ではないか」と言われたり、仮設住宅への入居者に生活用品の配布を申し出ると「あとで請求書がくるのでは」と尋ねられたり。「認識を変えてもらうのが大変だった」


JPF東北事務所長の明城徹也は、「調整」が難題だったと振り返る。
海外の紛争地や被災地では、現地の行政機能が大きく損なわれているため、通常、国連人道問題調整事務所(OCHA)が各国から集まったNGOをとりまとめ、クラスターと呼ばれる分野別の会議をつくる。NGOは衛生、医療、教育など得意分野のクラスターに加わり、どこで何が必要とされているのか情報を得て、活動にダブりがないよう調整する。


日本の場合、行政機能はしっかりしているとして、こうした調整は行われなかった。しかし、被災した現場では仕切り役が見あたらなかった。明城は、「自治体職員の皆さんは、自らも被災する混乱状態の中で大変な苦労をされていた。政府のボランティア連携室は、個人ボランティア対応が中心。NGOも、海外では調整される側としての経験しかなかった」という。


それでも、事態は時間とともに改善されていった。

宮城県では8月、「被災者支援連絡調整会議」が発足した。自衛隊の呼びかけで3月下旬に始まった、避難所での炊き出しの分担を話し合う場が発展した。県を事務局に、国の災害対策本部、社会福祉協議会、NGOなどの民間団体が集まり、情報を共有する。同じような協議の場は、岩手県や市町村にも広がり始めている。


宮城県社会福祉課の課長補佐、横山生次郎は「海外で活動するNGOと地方自治体は、これまで接点がなかった。震災を通じて新しい関係が生まれた。かゆいところに手が届くような支援のためにはNGOの力が必要だ」と話す。


震災発生から半年以上がたったいま、 NGOにとって深刻なのは資金不足だ。JPFへの寄付は、3月の震災から8月末までに総計65億円に達したが、8月に集まったのは約2000万円。がくんとペースが落ちた。NGOの中には、6月ごろから「海外での支援活動が本業なのだから、そちらに戻るべきでは」といった議論も起き始めている。


JPF事業部長の椎名規之は、「NGOは今後、行政と役割分担して被災者の自立を手助けしたい。震災の規模を考えると、3年間は続けたい。多くの人に、被災地への関心を持ち続けて欲しい」と話す。

 

 



(文中敬称略)

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