25 オリンピック
1912年(皇紀375年)
清朝が滅亡し、中華民国が成立
史実通り中華民国が建国され、清朝最後の皇帝である宣統帝が退位し、袁世凱が臨時大統領に就任した。
「…ようやく終わったか…」
宣統帝の退位と引き換えに、孫文の代わりになった者の臨時大統領辞任の報告書を見て、北郷は一息ついた。
「これで思う存分中国への工作を行えるな」
「はい、今までは中華民国を成立させるためにあまり手出しは出来なかったですからね」
薄笑いを浮かべる北郷に戦略研究会メンバーが応える。
何かしらの工作を行い史実以上に清朝の力を衰えさせると、最悪アメリカが列強のように中国のどこかを租借したり、更に大陸進出を推し進める可能性もあったため、やむを得ず中華民国が成立するまでは中国に手出ししなかった。
しかし中華民国が成立した今、最早手加減する必要は無い。軍閥間の戦争によって勝手に分裂してくれる中華民国は、日本帝国にとって都合の良い国だった。
「早速中国に麻薬をバラ撒き、中国人を弱体化させるのだ」
中華民国成立に備えて、大量の阿片など麻薬を用意していた。
ちなみに、北郷教国家である日本帝国で大量の麻薬栽培は非常に困難なため、医療用に精製された高純度の麻薬を北郷がコピーして用意した。
「代理人や仲介人を何人もはさみ、我々の仕業とは決してバレないようにするのだ」
「畏まりました。至急、工作を開始致します」
「うむ、それと韓国にも麻薬を蔓延させて力を奪うのだ。既に人口は減少傾向で元々低かった国力は更に弱まっているが、減少を加速させるために麻薬を蔓延させるのだ」
史実の韓国は大日本帝国に併合されて着実に人口が増加していったが、この世界の韓国は李氏朝鮮王朝時代に逆行したのと、日本帝国資本の要塞線建設や鉱山採掘によって順調に人口は減少傾向にあった。そんな韓国に更に、麻薬を蔓延させて韓国全体の力を弱体化させるのだ
「値段はいかがされますか? 中国の農民以上に韓国の下級階層は金を持ってないですから、格安の麻薬すら買えない可能性があります」
この世界の韓国人の生活は悲惨そのもので、どれだけ収穫や売上を得られたとしても、そのほとんどが両班によって接収されるので生活が良くなる筈が無く、更には働いても報われないので労働意欲も年々減少傾向だった。
「では初めは無料で配れば良い。さすれば直ぐに中毒になって麻薬無しには生きれなくなる。そして次にタダ同然だが値段を付けて売り出せば薬欲しさに全財産を払うだろうし、金が無くなれば薬欲しさに強盗でも何でもするようになり、必然的に治安は悪化する。
更にはタダ同然の値段なら両班や高官など金を持っている奴等も買い求め、韓国政府内でも麻薬が横行するようになれば最早国として終わりだ」
「成る程……しかし、あまりにも弱体化させ過ぎると韓国自体が崩壊するのではありませんか?」
「それについては何とでもなる。例え軍民による革命が起きようとも、駐留している日本帝国軍が政権の支援に乗り出せば容易く鎮圧出来る。むしろ、革命後の混乱によって更に麻薬が横行するようになるかも知れんからな」
例え韓国の人口の半分、500万人以上が一斉蜂起したとしても武器はせいぜい剣や弓矢、小銃などは自衛隊ぐらいしか持ってない。それに正規軍ならまだしも、民間人では機銃掃射でもすれば蜘蛛の子散らすように逃げる。後は逃亡を防ぐために中国との国境を封鎖すれば終わる。
韓国人に逃げ場など無かった。
こうして、日本帝国による工作が始まった。
中国や韓国の各地で、混ぜ物を入れて純度が下げられた麻薬が行き交う事になった(純度が高いとショック死する可能性が高い)。値段がタダ同然だったのと、従来の麻薬より強烈な快感が味わえるとして大人気を博した。
特に、韓国では無料で大量に配られていたので階級に関係無く多くの韓国人は使用した。両班による横暴と厳しい食料事情によって韓国人の大半は厳しい生活を強いられ、希望が無いのだから麻薬に逃げるしかなかった。
タイタニック号沈没
当時世界最大の大きさを誇る豪華客船タイタニック号が氷山と衝突して浸水し、間もなく沈没。
乗員乗客合わせて1513人が犠牲になった当時世界最悪の海難事故であった。
タイタニック号は世界最大の大きさとその豪華さが最大の売りだったが、その中には不沈船という謳い文句もあった。
タイタニック号は当時としては安全対策に非常に力が入れられていて、船底は二重底で船体も喫水線上までの高さがある防水隔壁で16の区画に区分されていた。そのうちの2区画(船首部では4区画)に浸水しても沈没しない構造になっており、上層デッキこそ手動であったが、下層デッキの隔壁は船橋からの遠隔操作で即時閉鎖も出来た。更に各区画にも万が一の手動スイッチが設置されていた他、15以上の浸水時には自動的に閉鎖される機能も備わっていた。
そのため、タイタニック号は豪華客船と共に、不沈船としても大いに喧伝された。
しかし現実では氷山との激突後、僅か2時間40分で船体が2つに大きく千切れて沈没した。
更には当時のイギリス商務省の規定では定員分の救命ボートを備える必要がなく、なによりも短時間で沈没するような事態は想定されていなかったために、乗員乗客合わせて2223人が乗っていたにも関わらず、1178人分のボートしか用意されていなかった。
しかしこれは当時の規定が1万トン級船舶が主流だった頃に作成されたものだったためで、規定では978人分とあったのでタイタニック号は規定上は何ら問題無かった。
最新の科学技術の粋を集めた新鋭船の大事故は、文明の進歩に楽観的な希望を持っていた欧米社会に大きな衝撃を与え、この事故をきっかけに船舶・航海の安全性確保についての条約の形で国際的に取り決めようという動きが起こった。更に、アメリカでは船舶への無線装置配備の義務付けが強化され、皮肉にもこの事故によって無線通信が普及するきっかけになったのだった。
ちなみに、史実ではタイタニック号に日本人乗客が1人いたが、史実を知っている日本政府はタイタニック号に乗らないよう手を回していた。何故なら長い間、その日本人乗客は「他人を押しのけて乗船した卑怯な日本人」と捏造されていたからだ。
そんな不名誉なレッテルを張られたくない日本帝国政府は、史実世界と違って裕福な日本人が多かったために、世界最大の豪華客船であるタイタニック号に乗りだかる日本人達を必死に押し留めた。初めはタイタニック号への乗船を妨害された日本人達は政府に不満を思ったが、タイタニック号が沈んで多大な犠牲者が出たニュースが知らされれば、一転して政府に感謝して熱烈に支持をするようになったのだった。
第一次バルカン戦争勃発
前年に起きたイタリア・トルコ戦争においてイタリア王国軍の圧勝を見せつけられ、長きに渡ってオスマン帝国に虐げられてきたバルカン諸国は「オスマン帝国に勝てるかもしれない」と考え、セルビア、モンテネグロ、ギリシャ、ブルガリアの4ヵ国でバルカン同盟を結び、対オスマン連合軍を形成した。
フランスやオーストリア=ハンガリーが自重を呼び掛けようとしたものの失敗し、同盟とオスマン帝国の双方が軍を動員。1番始めにモンテネグロが宣戦布告し、他の3国も実現が不可能な最後通牒を突き突き付けた後に宣戦布告した。
連合軍は兵員数や戦略的でも劣勢なオスマン軍に勝利し、ロンドン条約の締結によって第一次バルカン戦争は終結した。
この講和の結果、停戦時点での前線が新国境線となり、エネズとミディエを結ぶ線より西側のオスマン帝国領はすべてバルカン同盟に割譲された。また、アルバニアの独立も承認され、アルバニアの国土の大半を占領下においていたギリシャとセルビアの両国は不承不承ながら撤兵に同意した。
一方、マケドニアの処分を巡ってはブルガリアとセルビア、ギリシャが対立し、ブルガリアは軍事的手段による解決をも辞さず、軍隊の動員解除に応じなかった。ブルガリアの脅しにギリシャとセルビアは妥協し、軍事同盟を結ぶ。そして相互友好防衛条約が締結された。
こうして、第二次バルカン戦争への舞台は整ったのだった。
日本帝国がストックホルムオリンピックに参加
今まではスポーツ技術の未熟さから出場を自粛してきたが、ようやくある程度のレベルに達したと判断した日本帝国政府は第5回オリンピック競技大会への参加を表明。
芸術を除いて全ての競技に選手を送り込んだ。
しかし、当時のオリンピックは「オリンピックの出場者はスポーツによる金銭的な報酬を受けるべきではない」というアマチュア主義が主流だったために、せっかくスポーツ科学などで育成したプロ選手達を使う事は出来ない。そのため、高校生や大学生、他にもオリンピックのためにプロにはならなかったアマチュア選手のみを送り込んだ。
アマチュア選手とは言えど、国を上げてスポーツ振興のために多額の予算をかけて学校毎に最新の競技場や設備を整備し、更には近代的なスポーツ科学を取り入れた事によってこの時代ではあり得ない程効率的な練習が行えるのでレベルは高い。
その結果、ほとんどの競技において金銀銅いずれかのメダルを獲得。
あまりにも強すぎるのでプロの選手なのではと疑われたが、全員が学生かアマチュア選手だと判明すると世界中が驚愕した。ほとんどの競技の表彰台には必ずと言って良い程に日本帝国の選手が並び、一部の競技では表彰台を日本人が独占する事すらあったのだ。
そのあまりの強さから「異世界人だから身体能力が高い」という認識を白人諸国に与える事となったのだった。
日本帝国で国民皆保険制度制定
今までも保険制度はあったが、保険に加入するかは個人の自由で中には保険に入っていない者もいた。しかし、史実と違い日本人の大半は裕福なのでほとんどの者達は保険に加入していて、更には三等国民は無料で保険に加入出来たのでほぼ全ての日本人が保険に入っていた(二等国民は一等国民の半額)。
そのため、「ならばいっそのこと保険加入を義務化させた方が良い」として国民皆保険制度を制定。
国民皆保険制度と同時に、年一回の人間ドックを義務化。
大抵どこの企業でも健康診断を社員に受けさせてはいるのだが、余程健康に気遣う者でないと面倒なので、必ずサボる者が出ていた。
そのため、全身を検査する人間ドックを義務化させたのだ。
国民健康証制度を制定。
健康証明書としてカードを発行し、病院を受診する際には保険証と共に健康証明書を提示しなければ医療費を全額負担となる。更新の際には免許証のように国から定期検診を知らせる手紙が届く。
現在は公開している技術レベルの観点から不可能だが、何れは健康証明書をスキャンすればその人の病歴や薬の処方記録など医療記録が一目で分かるようにする予定だ。そうすれば無駄な診察で時間のロスを最小限に抑えられ、早期に適切な治療を施せるようになる。
年1回の人間ドックの費用は国が全額負担する。
更に、3ヶ月に1回簡易的な検診(問診、視力聴力検査、血液検査、尿検査、胸部腹部レントゲン撮影)を欠かさなかったなら医療費が5%安くなる(検診料は無料)。
ちなみに日本帝国も現代日本同様に医療費は保険を使えば3割負担になる(65歳以上は1割負担)。
国の負担は大きいが、きちんと人間ドックや定期検診を行えば早期に発見して治療を行えるので生存率は高く、伝染病や高額医療費の支払いも防げるので国から見ても悪くは無い。
定期検診を受けに患者が病院に殺到するようになり、本当の患者の治療に支障を来す可能性が高いので大学病院など大病院には検診専門の科を設立し、地方には検診専門の診療所を建設する。
人間ドックのような高度な技術レベルや施設を必要とする検診は大学病院など大病院で行わなければならないが、簡易的な定期検診ならさほど高度な技術や設備が無い診療所レベルでも支障は無い。勿論、診療所とは言ってもレントゲンなど必要な設備は国から支給されるので問題は無い。
もしも病気を発見すれば大学病院や大病院に紹介状を書き、紹介状を提示すれば更に5%医療費が安くなる。
流石に社会主義国のように医療費が無料になる事は無いが、各種制度が充実しているので高額医療も手軽に受けられる。
ちなみに、人間ドック義務化や国民健康証制度、簡易検診などは一等国のみで、二等、三等国にはない。
表向きの理由としては予算の都合上などが言われているが、実際はまだまだ矯正が必要な二等国民や三等国民の人口や平均寿命を延ばしたくないからだ。
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